85話トロビー家の外は、とんでもないことになっていました。
◇監禁◇
パルアン侯爵が様子を見に行くと
正門の前だけでなく
邸宅全体を
近衛兵たちが取り囲んでいました。
ナビエは騎士の1人に
なぜ、ここに来ているのか尋ねると
彼は、皇帝陛下の命令だと
答えました。
ナビエは怒りを抑えながら
ソビエシュと直接話すと言って
扉を開けながら命令しましたが
騎士たちは、身体で扉を
塞いでしまいました。
ハインリが
西王国の王と王妃を監禁したら
国家問題に飛び火すると言うと
騎士たちに隠れて見えなかった
ソビエシュが
他人の妻を奪っておきながら
国家問題を気にするとはと
言いました。
それに対してハインリは、
ナビエ様が離婚した瞬間から、
皇帝陛下とは無関係なのだから
他人の妻を奪ってはいないと
反論しました。
ソビエシュは眠れなかったのか
目の下に隈がありました。
普段のように威厳溢れる姿でしたが
疲れているように見えました。
自分が再婚をしたせいで
祝杯を上げられなかったのかと
ナビエは思いました。
ソビエシュは
浮気者のハインリ一世が
純情なナビエを誘惑したのかと
ハインリを怒鳴りつけました。
ハインリは、
それに答えなかったので
代わりにナビエが、
自分からプロポーズしたと、
ソビエシュに告げました。
ソビエシュは、
自分が殴られたような顔をして
ナビエを呆然と眺めました。
彼は
そこまでして
ハインリの肩を持ちたいのか。
自分がハインリのことを
嫌っているから
自分を怒らせるために
ハインリを選んだのか。
私に復讐するために
我がままで浮気者の小僧を選んで
ナビエの人生を
台無しにする必要はないと言いました。
ナビエはその言葉を否定しました。
ハインリは、
ナビエを利用するだけだと
ソビエシュが言うとナビエは、
お互いに利用すると答えたので、
ソビエシュだけでなく、
ハインリも大きく目を見開きました。
ナビエは、
ここであえて政略結婚だと
知らせる必要はなかったと思い
後でハインリに謝ろうと思いました。
そしてナビエは
陛下は共に歩きたい人と一緒に
自分の進みたい道を歩むようにと
ソビエシュに告げると
自分が一緒にいたいのは
ナビエだと言いました。
しかしナビエは、前の日に
自分を離婚法廷に立たせたのは
ソビエシュだと反論しました。
ソビエシュは、
ナビエのことを知らない小僧に
渡すためではないと言いました。
ハインリは、先ほど、
ナビエが「お互いに利用する」と
言ったのを聞いてから
ずっとぼんやりしていましたが
我に返ると、その小僧は
これからナビエ様のことを
たくさん知る時間があると
言い返しました。
そうこうしているうちに、
正門の前を近衛兵が陣取っているし
おまけに言い争いをしているので、
人々が大勢集まってきてしまい
気まずくなったソビエシュは、
馬車に乗り帰っていきました。
◇脱出方法◇
家の中に入り、
それまでの事情を話すと
ナビエの母親は、
下女に扮して外へ出たらどうかと
提案しました。
試しに下女を出してみたものの、
兵士たちに
徹底的に顔をチェックされるので
ダメでした。
誰を閉じ込めていたいのか
確認するために
家族が一人ずつ、
外へ出ようとしたところ
ソビエシュが
閉じ込めたがっているのは
ハインリとナビエだけであることが
わかりました。
ナビエの両親が
娘を解放してくれるように
ソビエシュに頼もうとしましたが
彼は、
2人に会ってもくれませんでした。
ナビエは、
他国の皇后と結婚するために
勝手に動き回って捕まった
王への評判が
悪くなることを心配しました。
ハインリは、
騒動を起こさずに
静かに立ち去ることが
一番良いけれども
それができなかった時のための
準備はしてあるから
まもなく、
西王国から抗議があると思う。
あなたの前夫は卑怯な男だが、
皇帝としては仕事がよくできる。
抗議されるくらいなら、
騎士たちを退かすだろうと
言いました。
そして、ナビエが
「お互いに利用する」と
言ったことについて
ハインリは、
ナビエを政略結婚の相手だと
思っていないと
彼女に伝えました。
◇ナビエと再婚するのは自分
ナビエとハインリを
一方的に閉じ込めてから
4日経ちました。
ハインリは密かに
西王国を出て来たとはいえ
彼とナビエの再婚の噂が
広まっているので
ハインリが
東大帝国の首都にいることを
西王国側が知るのも
時間の問題でした。
このままでは、
本当に国家問題に発展する
西王国は強大な国だから、
仲違いをしてはいけないと
カルル侯爵はソビエシュに
小言を言いました。
ソビエシュも
それが分かっているので
4日間、頭を抱えていました。
困り果てたカルル侯爵は
ナビエとハインリが
国家間の結婚をすると考え
ソビエシュの寛大さを
示すために
ハインリ一世の結婚式に
ご祝儀を送ったらどうかと
提案しました。
ナビエを離婚した前皇后ではなく
東大帝国の貴族令嬢として扱えば
ご祝儀を渡せないわけでは
ありませんでした。
けれども、その恥ずかしさは
途轍もなく大きいし
元妻へのご祝儀を渡した時
ソビエシュを
大人として見る人も
いるかもしれないけれど
頭がおかしいと思う人が
多いと思いました。
ソビエシュは、
寵愛している首席秘書に
暴言を吐くわけにもいかず
カルル侯爵の妻が
他の男性と再婚する時に
大物らしく、ご祝儀を送るようにと
皮肉を言いました。
ハインリと、彼と結婚したナビエを
西王国に
返さなくてはいけないことは
ソビエシュにもわかっていました。
2人は大神官が認めた夫婦なので
ナビエが名実共に
西王国の王妃になったことも
わかっていました。
その事実が、ソビエシュを
さらに憤らせました。
ナビエの再婚相手は
自分でなければならなかったのに。
2人は幼い頃から
夫婦だったけれど
しばらく別れを経験するだけで
再び一緒にならなければなら
なかったのに、
ハインリのならず者が・・・
ソビエシュはハインリの名前を
連呼しながら
机を力いっぱい叩きました。
ソビエシュはエルギ公爵を呼んで
ハインリ一世を西王国へ
帰さないといけないから、
エルギ公爵が、
ハインリをトロビー公爵家から
連れ出す形にしてほしいと
彼に頼みました。
この状況で、
皇帝が恋敵のハインリを
追い出したとなると聞こえが悪いので
エルギ公爵が
トロビー家から友人を救出する
という形にしたいのだと
エルギ公爵は考えました。
自尊心が強いだけに
頭もよく回る皇帝だと
エルギ公爵は心の中で
感嘆しました。
ソビエシュは
連れ出すのはハインリだけで
ナビエは置いていくように
言いました。
そして、エルギ公爵が帰ると、
ソビエシュは秘書たちを集めて
できるだけ早く、
皇后の再婚を防ぐ法律を見つけるように
命じました。
◇友情か目的か◇
エルギ公爵は悩んでいました。
彼はまだ、
ソビエシュと正面から
対立することはできませんでした。
むしろ、
ソビエシュの寵愛を
受けられるようになれば良いと
考えていました。
ソビエシュの私的な願いをかなえれば
皇帝の信頼を得られると思いました。
けれども
ハインリとの友情があったので
彼だけ連れて行って、
彼の大好きなナビエを置いてきたら
喧嘩になると思いました。
エルギ公爵とハインリは
途中までの目的は一緒でしたが
最終目的は違っていました。
だから、協力しながら
必要に応じて力と情報を
交換していましたが
お互いに細かいことには
干渉しませんでした。
しかし、今回は
自分の利益になることが、
ハインリを傷つけることになります。
ソビエシュの信頼を得られれば
彼の目的に役立つ。
ハインリは怒るだろうけれど
協力関係は崩れない。
けれども、ハインリと一緒に
ナビエを連れ出せば
ソビエシュの不信を買うことになる。
ハインリは感謝するけれど
すでに協力関係にあるので
あまり役に立たない。
エルギ公爵は結論を出しました。
ナビエ様は永遠に自分のもの。
彼女と離婚しても、
また再婚できるという
ソビエシュの思い込みにより
自分勝手な計画を立て、
それが失敗してしまった。
完璧なはずだったソビエシュの
計画が、
音を立ててガラガラ崩れたのが
小気味よいです。
そして、ソビエシュはハインリが
ナビエ様のことを何も知らないと
言って、バカにしましたが、
ナビエ様が人知れず泣いていたことと
人に言えない彼女の気持ちを
ハインリはクイーンの姿で
聞いていたので、
子供の頃から一緒にいた
ソビエシュよりも、
ナビエ様のことを知っていると
思います。
人の感情を無視し、
全ては自分の思い通りに行くと
傲慢になっていたソビエシュが
実際は、そうではないことを
学ぶ良い機会になったのではと
思います。