104話 愛される夫にいつなれますかと、ハインリに聞かれたナビエでしたが・・・
◇揺れるナビエの心
ナビエの頭の中は
真っ白になりました。
彼のことは
愛おしく思っているけれど
そのような意味の愛ではないと
ナビエは思いました。
ソビエシュとは、
このような
話をしたことがなかったので
ナビエは混乱してしまいました。
ハインリは、
小さくため息をついて
後で返事をくださいと言いました。
ハインリが去った後も
ナビエは、
窓辺に立ったままでした。
頬が火照っていました。
ハインリは、自分より年下だし
浮気者だから
甘い言葉を平気で言う。
嫌な気分ではないけれど・・・
ソビエシュは甘い言葉をかけたことがなかったのでしょうか。
ドアを叩く音がしたので
ハインリかと思い
ドアを開けると
宮殿の果樹園で取ってきた果物が
たくさん入ったバスケットを持って
ローズとジュベール伯爵夫人が
入ってきました。
2人がソファーに座って
果物を切り
皿に盛りつけている時に
ナビエは、
結婚式の日取りが決まったこと
ソビエシュたちの結婚式に
招待されたことを
話しました。
ナビエが結婚式に行くことを話すと
2人は不満そうでしたが、
理解してくれました。
そして、もっと
その話をしようと思っていたところ
豊かなグレーの髭を生やした
きちんとした身なりの男性が
やって来ました。
彼はアマレス家の首席執事でした。
◇マレーニの訪問◇
アマレス家は侯爵家で
その名前は、
ナビエが読んだ会議記録の中に
何回か登場していました。
その首席執事が
なぜ、ここへ来たのか
不思議に思っていると
彼は、
ナビエが会いたいと思っていた
マレーニの使いで、
やって来たのでした。
マレーニは、
ナビエの招待にとても感謝していて
日付と時間を教えてもらえれば
いつでも訪ねるとのことでした。
ナビエは翌日の午後1時に、
彼女の所へ来るように、
首席執事に伝えました。
マレーニはハインリの12番目の王妃候補で、クリスタを追い出そうとした令嬢です。
マレーニは、約束の時間の30分前に
やって来ました。
亜麻色の髪に灰色の瞳
姿勢が良く、しっかりした印象。
表情は堂々としていて
口元が優雅な令嬢でした。
堂々としているのは
表情だけでなく
おおらかで、
率直な物の言い方をする
マレーニに
ナビエは、雰囲気は違うけれど
若い頃のニアンを見ているような
気分でした。
マレーニは、
ナビエが自分を呼んだのは
彼女が社交界に適応するために
自分の助けが
必要だと思ったからではないかと
率直に尋ねました。
マレーニの賢さが気に入った
ナビエは
喜びながら同意しました。
マレーニは、
ナビエを助けることができる。
その見返りに、
クリスタを追い出して欲しいと
ナビエに頼みました。
予想外の頼み事に
ナビエは驚きました。
マレーニは話を続けました。
私はクリスタ様と大喧嘩をし
ハインリ王から苦言を受けた。
その日以降、
クリスタ様に従う貴族が
私と友達をいじめるようになった。
クリスタ様が指示したか、
仲間が勝手にやっているのかは
わからないけれど
クリスタ様が宮殿からいなくなれば
彼女の仲間もバラバラになる。
先代の王が亡くなった時に
クリスタ様はコンプシャの大邸宅に
行かなければならなかった。
そこへ行かなくても
宮殿を開けなければならなかった。
クリスタ様を追い出すのは当然だ。
ナビエはマレーニの話を聞き
考えてみると答えました。
マレーニが帰った後
ナビエは、ローズとマスタスに
マレーニとクリスタが、
どのくらい仲が悪いのか尋ねました。
クリスタとマレーニの口論は
大事ではなかったけれども
その噂が流れてから、
社交界で勢力が分かれたのは
事実であると
ローズは答えました。
しかし、ローズは
別の理由もあると思うと
言いました。
マレーニはアマレス侯爵家の
一人娘だけれど
アマレス侯爵は跡継ぎとして
彼の母方の甥を養子にした。
その甥は、
クリスタの最側近である
リバティ公爵の三男。
マレーニは、
自分が侯爵家を継ぎたいと
思っているので
クリスタを追い出して、
義理の兄も
追い出したいと考えている。
跡継ぎ争いが絡んでいるわけですね。
マレーニと手を組めば
社交界の勢力の半分と
近づくことができるけれど
そうすればクリスタと
敵対することになります。
ナビエは、
先にクリスタと
仲違いをしなくては
いけないのか?
と考えました。
数日間、彼女は
そのことを考えていましたが
答えは簡単に出ませんでした。
そして、いつのまにか
ソビエシュの結婚式に
出席するため
東大帝国へ出発する日となりました。
◇東大帝国へ◇
他国の王妃になって母国へ行くのは
妙な感じがしました。
馬車の周りには
超国籍騎士団の騎士たちが
立ち並んでいて
彼らに挨拶をされて、
ナビエは馬車に乗り込むと
マスタスの姿が
見えませんでした。
心配になり、
ローラとローズ、
ジュベール伯爵婦人に
マスタスを見なかったか
尋ねましたが
3人共、見ていないと答えました。
仕方なく、
馬車から降りようとすると
マスタスが走って、
駆け付けました。
マスタスは、
彼女の兄であるエイフリン卿から
連絡が来たこと
彼も騎士の歴訪に行っていること
エイフリン卿は、
コシャールと同じ班であること
を話しました。
そしてマスタスが荷物をまとめて
馬車に乗り込んだ後、
コシャールは騎士の歴訪を
よくこなしている。
普通は取り調べの後、
法的処分を行うが
コシャールの場合は、
その前に拳が飛ぶ。
皆、初めてのことなので
歓喜している。
と話してくれました。
ナビエは兄の話を聞いて
心配しましたが
西王国の人たちが、
彼のことを好いてくれるなら
それで良いと思いました。
兄の心配がなくなると
ナビエは複雑な気分で、
東大帝国のことを考えました。
両親に幸せな姿を見せたい。
ハインリのことを
ありがたく思っている。
ラスタを気遣うソビエシュを見て、
心が痛まないだろうか。
人には言えないけれど、
私を見て驚く
ソビエシュの顔が見たい。
彼がいなくても、
私は元気でやっているという姿を
見せたい。
これは子供っぽい考えだろうか。
色々考えていると、
馬車が止まりました。
ドアの外にハインリが立っていて
ナビエと2人だけで、
馬車に乗りたいと言うと
侍女たちは別の馬車に移りました。
彼女たちを
引き止めようとする代わりに
ナビエは窓を閉めました。
ハインリは、
ナビエの向かい側に座り
ナビエと一緒にいたくて、
彼女の乗っている馬車に来たと
言いました。
ナビエは、
窓の外を見ようとしましたが
窓は閉まっていました。
どうして窓を閉めてしまったのか?
ナビエはハインリの顔色を
チラッとうかがうと
彼はナビエを見ていなかったので
彼女は窓を開けて
外を注意深く見るふりをしました。
後ろから
クッと低く笑いをこらえる声が
聞こえてきましたが
ナビエは、
わざと知らんぷりをしました。
幸いにも、
笑い声はすぐに消えました。
しばらくそうしているうちに
ナビエは、
不意にクイーンに
会いたくなりました。
鳥のクイーン。
私の愛しい鷲。
ハインリがクイーンの姿でいる時は
裸であることを知り
ナビエはショックを受け
クイーンを見ているだけで
恥ずかしかったのですが
時間が経つと、
次第に衝撃が弱くなってきたのか
またクイーンに会いたくなりました。
クイーンの姿をしている時
ハインリは裸だけれど
鳥の羽は服ではないかと
思いました。
そのように考えると
ナビエはますます
クイーンに会いたくなりました。
クイーンの小さな体を抱くことで
気持ちが落ち着くような
気がしました。
ちらっと振り向くと、
ハインリがナビエを見つめて
笑っていました。
彼女はためらいがちに
クイーンに変身してもらえますか?
抱いていたいので。
とハインリにお願いすると
彼は、すぐにクイーンになって
ナビエのそばに飛んできました。
ナビエは自分で
お願いしたにもかかわらず
ハインリがクイーンになると
ドキドキしました。
目の前に落ちている
ハインリの
服のせいかもしれないけれど
クイーンはクイーンなので
ハインリの裸を感じることは
ありませんでした。
ナビエは安心して、手を伸ばし
クイーンを持ち上げ、
膝の上に乗せて
抱きしめました。
クイーンの匂いを
懐かしく感じました。
ラスタが現れてから
ナビエは何度も辛い目に
会いましたが
そんなナビエを慰めてくれたのは
クイーンでした。
不安な気持ちで東大帝国へ向かう
ナビエにとって、
クイーンの癒しが
必要だったのでしょうね。
クイーンはナビエにとって
なくてはならない存在なのですね。