200話 ナビエとカフメン大公が早く目を覚ましますように。
◇激しい後悔◇
ベルディ子爵夫人が
グローリエムを連れて
逃げたと連絡が来たので
ソビエシュは
彼女の後を
こっそり付いて行って
エルギ公爵側の人間と会う頃に
その人のふりをして
南王国へ行き
南王国の辺境地帯へ行ったら
エリアード伯爵を探すように
ソビエシュは騎士に命じました。
ソビエシュは西宮へ行ってみました。
ラスタが使っていたものは
全て片付けられ
部屋の中は空っぽでした。
その部屋は彼の母親が使用し
ナビエも使用していました。
ナビエが初めて
この部屋へ来た時、
彼女は
息を大きく吸い込むふりをして
権力の香りがすると
言っていたことを
ソビエシュは思い出しました。
そして、彼が北王国で
手に入れた木で
1年かけて作った
ナビエの机があった場所を訪れ、
その机に座っている
ソビエシュの頭を
ナビエが抱きしめたことを
思い出しました。
ソビエシュは
なぜナビエを冷たいと
思うようになったのか、
こうなることがわかっていたら
愚かなシャルルを
後継者にすれば良かった
何のために幼い頃からの
友人である妻を捨ててしまったのかと
ソビエシュは後悔しました。
シャルルはリルテアン大公の息子です。
ソビエシュは夜中に
ナビエの部屋の窓の外にいたことと
現実が混同してしまい
1回だけ自分を見て欲しいと
ナビエに懇願しました。
そして、隣の窓から
自分を見下ろしていたハインリは
隣にいるのは私の妻で
彼の妻ではないと訴えていました。
ソビエシュは
ナビエの名前を呼び続けました。
ソビエシュは
自分が謝りながら死んだら
ナビエは自分を見てくれるだろうかと
思いました。
1回だけでいいから
がんばれと言って欲しい、
目を合わせて欲しいと思いました。
ソビエシュは、あの日
狩りに行くべきではなかった、
ラスタを連れてきても
同情しなければ良かった。
ラスタに同情しても
西宮の下女にしてはどうかと
ナビエに聞くべきだったと
ソビエシュは思いました。
彼は、
ローラを閉じ込めたことや
ラスタと比較されると
ナビエに言ったことや
ラスタを側室にしたことや
ナビエの名前で
ラスタにプレゼントを
贈ったことを後悔しました。
ソビエシュがナビエとの
離婚を望まなければ
ナビエに謝り
これらの過ちを
償うことができたと思いました。
ソビエシュは廊下に出て
護衛に酒を持ってくるように
命じました。
ソビエシュはお酒を入れた
グラスの向こう側に
机に座っているナビエの
幻影を見ました。
自分の手で全てを台無しにした
ソビエシュは
咽び泣きました。
外から、ロテシュ子爵とアレン
イスクア子爵夫妻の処刑を
歓呼する声が聞こえていました。
◇廃位◇
南宮にしばらく監禁された後
ラスタは廃位され、
皇后の冠と服を奪われ
黒い服に着替えました。
ソビエシュは、
その場にいませんでした。
そして、ラスタに誰も
礼を尽くしませんでした。
法廷で、ラスタの父親は
2度ならず3度も捨てたので
ラスタの精神は
完全に壊れてしまいました。
ラスタは2人の騎士に
腕を捕まれ
塔の階段を上っていく時
1人の騎士が暗い声で
自分の仕えていた方を
自分の手で離婚法廷へ
連れて行った時から
この日を待っていたと言いました。
その騎士は
アルティナ卿でした。
ラスタはアルティナ卿に
なぜ、誰もナビエを
裏切らないのか、
上に上がれば
裏切られないと思っていたのに
さらに裏切られたと尋ねると、
アルティナ卿は
ナビエは裏切られたから
ラスタが少しの間
皇后でいられたと答えました。
塔に幽閉された人は
1人寂しく
誰とも話さずに過ごしながら
死ぬ術もなく
毎日、自分が犯した罪について
考えることになります。
何の変化もない毎日を
長年過ごしていると
罪のない人でも
頭がおかしくなりました。
その状況に
ラスタは長い間耐えられないと
アルティナ卿は思いました。
塔の一番上に到着すると
1人の騎士が扉を開け
アルティナ卿が
ラスタを中へ押し込んで
鍵をかけました。
◇塔の中◇
塔の中にあるのは
錆びたベッドと小さな浴室。
そして、
ろうそくが1つもないので
塔の中は暗く、
高い所にある小さな窓から
入ってくる日光が
唯一の光でした。
ラスタは、まだ若いのに
そこで一生暮らすことを考えると
彼女は恐怖に襲われました。
ラスタは扉を開けて欲しいと
何度も叫び
扉を叩いたり
蹴ったりしましたが
誰も返事はしませんでした。
彼女は何度も悲鳴を上げ
泣きながら
ソビエシュに助けを求めました。
デリスやアリアンや
自分を逃がしてくれた男の
切られた首や
羽を抜いた時の青い鳥の鳴き声が
幻影となり
ラスタを襲いました。
ラスタは大声で泣きわめいても
幻影は消えませんでした。
ラスタは、泣きながら
再びドアを叩いていると
食べ物を差し入れる
ドアの下の方にある
小さな扉から白い手が入り
床の上に薬の入った瓶を
置いていきました。
毒薬でした。
ラスタは、
絶対に毒薬を飲まないと
思っていました。
けれども、
ラスタは何もしないでいると
彼女が傷つけた人や
離婚をした時のナビエの目を
思い出しました。
ロテシュ子爵と
イスクア子爵夫妻が
自分を呼ぶ悪夢を見ました。
この毎日が何十年も
続くことが耐えられないと
思ったラスタは
毒を飲む決心をしました。
◇ラスタの最期◇
泣きながら毒を飲みながら
ラスタは、
なぜ、ソビエシュが
助けに来てくれないのかと
訴えました。
すぐに毒の効き目が現れ
ラスタの身体は痙攣しましたが
心は落ち着いていました。
ラスタは、ソビエシュが
自分を嫌いでも
彼女は、彼のことを
本当に愛していたと
呟きました。
ラスタは何度か咳をすると
口から血が流れました。
薄れていく精神の中で
ラスタは
ソビエシュが
自分を許してくれて
デリスやアリアンが
大丈夫だと言ってくれて
大きくなった
アンとグローリーエムが
一緒に遊んでいる幻影を
見ました。
子供たちを追いかけて
花が咲き乱れている庭へ行くと
侍女に囲まれて
ナビエが立っていました。
ナビエは
ルベティが大事にしていた
絵の中の人だったので
ラスタにとって
ナビエは実在の人ではなく
童話の中の人でした。
ラスタはナビエを呼ぶと
彼女は冷たい目で振り返りました。
「ラスタです。」
と泣きながら言うラスタに
ナビエは軽く微笑み
ルベティにしたように
ラスタを包みこんでくれました。
その日から1週間後に
ラスタの遺体が発見されました。
ラスタに毒薬を持ってきたのは
誰だったのでしょうか。
何となく、
想像はつきますが・・・
ラスタは奴隷だった時から
ナビエ様に憧れていたのだと
思いました。
童話の中の人が目の前に現れて
きっと自分に優しくしてくれると
思っていたのに
冷たくされてしまった。
ナビエ様の側から考えれば
当然なのですが
ラスタは、
ひどく裏切られたように思い
その後の彼女の行動に
影響を与えてしまったのかなと
思いました。
死ぬ直前に
ナビエ様がラスタを包み込む
幻影を見たのは、本当はナビエ様に
そのようにして欲しかったのだと
思いました。