259話 エルギ公爵のことを心配しているハインリですが・・・
◇馬車の中で◇
ナビエは詳しいことを
聞きたいと思いましたが
その場にいない
ハインリの友人のエルギ公爵について
根掘り葉掘り聞くのは
失礼なので、止めることにしました。
ナビエは、
ランドレ子爵が
東大帝国へ帰った後に
自分の騎士になる人が必要だ、
カイが自分の足を食べようとする。
ラリがカイを殴ろうとする。
大きくなる前に止めた方がいいか。
と相談すると
騎士になってくれそうな人はいるか?
カイはナビエに似ている。
自分も幼いころ、兄を殴った。
とハインリは答えました。
次にハインリは
ナビエの誕生日に何が欲しいかと
尋ねたので
ナビエは、自分の部屋から追い出した
クイーンクイーンを
帰して欲しいと頼みました。
クイーンクイーンは
エンジェルからもらった鳥で
ハインリに似ているのが
可愛くて
その名前を付けましたが
ハインリが焼きもちを焼いて
クイーンクイーンをいじめるので
仕方なく、ナビエは、応接室から
同じ階の端の部屋へ
クイーンクイーンを移しました。
そんな風にナビエとハインリは
騒いでいるうちに
馬車は東大帝国の首都の
城門に入りました。
◇密かに◇
馬車の外へ出ると
多くの大臣や宮廷人たちが
ナビエたちを迎えました。
ソビエシュの姿は見えなくて
代わりに父親がやって来ました。
ナビエを抱きしめたトロビー公爵は
彼女がやつれたと言って
心配しました。
やつれたのは自分ではなく
エンジェルに捕まっていた時に
大変な目にあったハインリなので
彼女は父親の言葉を
否定しましたが
彼は、泣きそうだったので
ナビエはハンカチを取り出し
体裁を守るようにと告げました。
父親はハンカチで目元を
拭っていると
ナビエの肩越しに何かを見て
彼の口が
目よりも大きくなりました。
彼は、侍女たちが
2人の赤ちゃんを抱いて
馬車から降りてくるのを
見ていました。
お父様の孫たちです。
と言ってトロビー公爵に
ラリを渡すと
人々が、ナビエにそっくりだと
話すのが聞こえてきました。
感激に満ちて
ラリを抱いていた父親は
ラリをハインリに渡して
カイを抱くと
彼の目が赤くなりました。
あなたに似ているよ。
と父親に言われて
ナビエは気分が良くなりました。
そうしているうちに
何か妙な感じがして
ナビエは後ろを振り向きました。
大勢の人がいる中
顔を半分帽子で隠した
騎士と目が合った瞬間
彼は背を向けました。
ナビエは、その騎士が
ソビエシュのように
思えました。
どんな格好をしていても、ナビエはソビエシュを見抜いてしまうのですね。
ソビエシュは人込みの中を
通り抜け
誰もいない所まで行きました。
彼は、座り込んで、帽子を脱ぎ
頭を抱えました。
自分に似ている
赤ちゃんを抱いたナビエ
幸せな笑顔
穏やかで温かい空気。
ソビエシュが夢見ていた光景が
あそこにありました。
彼は、ハインリを死ぬほど憎いと
思いました。
ソビエシュは
ナビエの名前を呼びながら
泣きました。
いつか、この傷が
癒える時が来るだろうか。
ナビエは幸せで良かったと
笑える日が来るだろうか。
けれども、今は
涙が止まりませんでした。
時間を戻したいと思いました。
ナビエは部屋へ行き
侍女たちが荷物を片付け終わると
ラリを抱き上げて
鳥になって
飛び回ったらダメよ。
もしも、また飛び回ったら・・・
と言い聞かせていると
ハインリがナビエを
後ろから抱きしめて
飛んだらどうするのですか?
と尋ねました。
父親と母親の両方に抱かれて
ラリは嬉しいのか
不思議な声を出すと
その声を聞いたカイが
自分だけ仲間外れだと言って
泣き出したので
ハインリはカイを抱き上げました。
ハインリが、もう一度
同じ質問をしたので
ナビエは
お父さんのお尻を叩く、
お手本を見せてあげないと。
と答えました。
ハインリは、なぜ自分が
怒られなければならないのかと
尋ねると、ナビエは
ハインリが作った
宝石をベタベタ貼った
高い所にある巣に
こっそりラリを連れて行ったこと、
その回数と時間帯のすべてを
知っている。
と答えました。
ハインリは
ナビエが知っているとは
思わなかったので、
驚いて
口をパクパクさせましたが
お母さんの言うことは
良く聞くようにと
ラリに言いました。
まだ何かハインリが
言おうとしたところで
エベリーがやって来ました。
彼女は元気で幸せそうでした。
エベリーに引き続き
懐かしい人たちが尋ねてきました。
そして、ナビエが大変だった時に
母の代わりに
ナビエを抱きしめ、慰めてくれた
イライザ伯爵夫人が来たことを
一番嬉しいと思いました。
そして、最後にアルティナ卿が
訪ねてきました。
彼女は、ナビエが苦しい時代
強い柱のように
ナビエを支えた人でした。
ナビエはアルティナ卿に
様子を尋ねると
彼女は、
皇后陛下のお供をして
西大帝国へ行くと言ったので
両親と喧嘩をした。
と答えました。
長女で家を継ぐべきアルティナ卿が
ナビエに付いていきたいと
言ってくれたので
彼女は目頭が熱くなりました。
◇窓の向こうから◇
ナビエとハインリがラリとカイの
お腹をいっぱいにさせると
2人は眠りました。
ハインリも鳥に変わって
赤ちゃん鳥たちを抱いていました。
ナビエは窓の外を眺めました。
その風景は前の年と
何も変わっていませんでしたが
自分には、
あまりにもたくさんのことがあり
不思議な気分になりました。
ナビエは、
しばらく空を見ていると
笑いが出ました。
空の向こうから
金色の大きな鳥が
足に手紙を結んで
やって来るような気がしたからです。
そんなはずがない。
その鳥は、後ろで
子供を抱いて寝ているのだから。
とナビエは笑い
寝ているハインリの額に
キスをしました。
その瞬間、彼は目を開きました。
紫色の目が細長くなりました。
ソビエシュが夢見ていた光景を
ハインリが手に入れたことで
彼のことを死ぬほど憎く思っても
それは、ハインリが悪いのではなく
ラスタに溺れたソビエシュが
ナビエをひどい目に合わせ
ナビエを追い出した結果を
自分が招いただけです。
ハインリが、
実現不可能に思われた
隣国の皇后のナビエとの
結婚を実現できたのは
彼が決して諦めなかったから。
ナビエが過去と決別し
愛する夫との
幸せな家庭を持つことができたのは
彼女の努力の結果。
自分の蒔いた種は
自分で刈り取ることに
なるのですよね・・・
窓の外を見ていると
金色の大きな鳥が
足に手紙を結んで
飛んできそうな気がする・・・
ハインリがナビエへの興味本位で
鳥の姿でやって来たことが
2人の人生を大きく変えて
2人は幸せになりました。
何気なくやったことが
後に、大きな意味を
持つことになるかも。
自分の選択が人生を変える・・・
毎日を大切に生きなければと
思います。