11話 新年祭にラスタが出席をしているのを見て、なぜナビエは驚いたのでしょうか?
◇異物◇
ソビエシュは、
ラスタを貴族と偽造結婚させて、
新年祭に参加できる地位を
与えないまま、
ラスタを新年祭に呼びました。
ナビエは、新年祭で
ラスタに会うとは思わなかったので
戸惑いました。
けれども、
ソビエシュはラスタに向かって
笑顔を浮かべて頷きました。
そして、ラスタも
可愛らしく微笑むと、
ナビエは心臓が
押しつぶされそうな気がしました。
ソビエシュの妻は自分なのに
ソビエシュとラスタの間に挟まれた
異物になったような気がしました。
最初にソビエシュとナビエを
見ていた人たちも
今は、ソビエシュとラスタを
交互に見ながら、口元を隠して
ひそひそ話をしていました。
その数が増えて行き騒然となると、
ラスタは驚いて周りを見回し
不安そうな顔で
ソビエシュを見上げました。
ソビエシュは、ため息をついて
一人で下りられるかと
ナビエに尋ねました。
2人並んで入場したので
ソビエシュとナビエの
義務は終わりました。
しかし、ここから別々に降りれば
自分たちは、
無理に一緒に来たことを
示すことになると思いました。
ナビエは何とか口を開き
一緒に下りなければならない。
外国の高位貴族が多く集まっている中
自分たちが別々に降りれば
皇帝夫妻が不仲だと思われ、
隣国へ笑い話のネタを与えるし
敵国が狙う隙を与える。
仲が悪いように見せてはいけないと
言いました。
ソビエシュは
少し残念そうに笑いながら
ナビエに腕を差し出しました。
そして、
ナビエをエスコートしたまま
階段を降りたソビエシュは
適当な位置まで行くと
ナビエを眺めので、
彼女はソビエシュから
手を離すと
彼はにっこり笑って腕を下ろし
これくらいでいいかと尋ねました。
ナビエは、「はい」と答えると、
ソビエシュは彼女を振り返ることなく
ラスタに近づきました。
ナビエは
ぼんやりと立ちすくんで
その様子を見つめました。
ソビエシュが来ると、
ラスタは急いで
彼に両手を広げました。
誰が見ても
微笑ましい恋人の姿でした。
ナビエは無理矢理
視線を横に向けました。
彼女は、
いつものように静かに笑いながら
近くにいたトゥアニア公爵夫人に
挨拶をしました。
そして、他の令嬢たちとも
話をしながら席を移すと、
ハインリ王子に関する話題が
出てきました。
ナビエは、それを聞きながら、
シャンパングラスを受取り、
飲もうとすると、
グラス越しに、ハインリ王子が
じっと自分を見ている姿が見えました。
ナビエはグラスを下ろしましたが、
やはり彼は自分を見ていました。
目が合うと、彼は
自分が持っているグラスを持ち上げ
乾杯の素振りをして、
グラスを口元へ持って行きました。
◇嘲笑われる皇后◇
いくら孤高の皇后でも
皇帝に気を遣うためには
仕方がないと、
笑い声の混じった声が
聞こえてきました。
壁に接する椅子に
外国人と東大帝国の貴族が集まり
彼らは、お腹を抱えて
笑っていました。
しかし、くすくす笑っていた
彼らの何人かが
ナビエと目が合うと
慌てて互いに脇腹を突いて
静かにしろと合図を送りました。
明らかに自分のことを話していると
ナビエは確信したので
何を話しているか
聞かなければならないと思いました。
すると、ナビエは一人の貴婦人に、
あの女に贈り物をしたのかと
聞かれました。彼女は、
贈り物をしたとは、
どういう意味なのかと
逆に質問しました。
貴婦人は、
あの女の噂について
知らない外国人客が
皇帝の初めての側室ということで、
ありとあらゆる贈り物を持って
あの女を訪ねた。
ある外国人が、
皇后と三角関係になっているけれど
大丈夫かと尋ねたら、
皇后は自分を歓迎する意味で
贈り物をくれたと話したらしいと
答えました。
そんなことを外国貴族が
自国の貴族に話したと聞いて、
ナビエは足元がふらつき
目の前がクラクラしました。
人々は、ナビエが
ソビエシュの顔色を窺って
夫の恋人に贈り物をしたと言って
彼女のことを嘲笑っていました。
必死で保っていた
ナビエのプライドが
たった一つのデマで
崩れそうになりました。
ソビエシュとラスタに
関わらないようにしていたのに
ナビエの意志と行動に関係なく
彼女は夫の恋人の機嫌を取ろうとする
卑屈な人間となっていました。
ナビエは、
ラスタに贈り物をしたことを
否定しましたが、
噂が広まっていくことは
明らかだと思いました。
全て投げ出して
西宮へ帰りたいと思いましたが
自分の動揺する姿を
見せることはできませんでした。
ラスタは
何か誤解をしているようだと
平然としたふりをして
にっこり笑うと、
貴婦人たちは頷きました。
けれども、自分の言ったことを
信じてもらえるどうか
内心わかりませんでした。
ラスタとは最大限
関わらないつもりでしたが
後でラスタを呼んで
発言に気を付けるように
注意しなければと思いました。
◇ダンス◇
ダンスが始まる時間になりました。
ダンスには同じ相手と2回連続して
踊ってはいけないという
ルールがありました。
そして、最初に踊る相手は
事情がない限り、
一番好感の持てる人と
決まっていました。
結婚して以来
ソビエシュはいつも最初に
ナビエとダンスをしましたが
今回はラスタと踊るだろうと
ナビエは思いました。
ソビエシュがラスタの片手を握って
何か話しているのが見えました。
ラスタと目が合うと、彼女は
すまないというような顔をし
ソビエシュはナビエの方へ
顔を向けたものの
目が合う前に顔を背けました。
皇后である自分に
最初にダンスを申し込めるのは
ソビエシュだけ。
どうせ誰も自分に
ダンスを申し込まないので
初めから席を外そうと思い、
残っているプライドを守るため、
自然に彼らを見なくて済む壁の方へ
向かいました。
ところが、目的地に着く前に
周りでざわめく音がしました。
振り返ってみると
ハインリ王子が
人々の視線を集めながら
ゆっくりと歩いていました。
最初にハインリ王子が誰と踊るか
多くの人が
知りたがっている様子でした。
ナビエは、
ソビエシュとラスタのことが
気になり、
ハインリ王子のことを
気にする暇がありませんでした。
彼が誰と踊ろうと
関係ないと思っていましたが
ナビエの目の前に来た
ハインリ王子が
探すのに半周回ったと言って、
赤いバラを差し出し
騎士のように跪いて
ナビエにダンスを申し込みました。
ハインリ王子とダンスをすれば
さらに変な誤解を受けるのではと
ナビエは思いましたが
初めてのダンスで
申し込んだ人が
ハインリ王子だけという状況で
彼の誘いを断れば
彼を侮辱することになるので
ナビエは彼とのダンスを
承知しました。
ホールの真ん中に
ハインリ王子と現れると
ソビエシュの眉が上がりました。
ナビエはハインリ王子を見つめました。
彼は、
そうやって自分を見ていて欲しい。
昨日は全く相手にされなかったので
今日は、さらに気合を入れて来たと
言いました。
ナビエは呆気にとられましたが、
昨日も十分素敵だったと
言うべきかと思いました。
ハインリ王子と踊っている時に、
ソビエシュとラスタの姿が目に入り、
ナビエはため息をつきましたが、
ハインリ王子は、
根も葉もない噂は広まりやすいことを
自分は良く知っていると
彼女の耳元で囁きました。
ナビエは、自分がラスタに
贈り物をしたという噂のことかと
尋ねると、彼は頷きました。
彼が噂を
信じないと言ってくれたたので
ナビエは、感謝を込めて、
自分も彼が遊び人だという噂を
信じないと言ったら、
ハインリ王子は吹き出したので
ナビエは恥ずかしくなりました。
そして、1曲終わると
ソビエシュはナビエに
ダンスを申し込みました。
同じ相手と続けて踊れないので
ソビエシュはラスタの代わりに
自分にダンスを申し込んだのは
分かるけれど、
人前で不仲な姿を見せられないため、
ソビエシュの申し込みを
受け入れなければならないことを
ナビエは悔しく思いました。
そして、横ではラスタが
ハインリ王子に
ダンスを申し込んでいました。
自分の感情を優先して
ナビエ様を
置き去りにしようとする
ソビエシュを
皇后として説得したナビエ様。
ハインリとのダンスを
引き受けたのも
彼を侮辱しないためでした。
そして、ラスタへ贈り物をしたと
誤解されて、嘲笑われても
逃げ出そうとしなかったナビエ様。
ここまで頑張っているナビエ様が
可哀そうでなりません。
ソビエシュはナビエ様には
感情がないと思っているので、
彼女が、どれだけ傷ついているか
考えも及ばないのでしょう。
1年も経たないうちに、
ソビエシュは自分のしたことを
後悔しますが、
現時点では、
そんなことを露ほども
思っていないソビエシュが
哀れです。