31話 魔法がかけられている指輪と知らずに、ロテシュ子爵に指輪を渡してしまったラスタでしたが・・・
◇悪だくみ◇
翌日、ロテシュ子爵が
やってくるとすぐに
ラスタは指輪について尋ねました。
ロテシュ子爵は
指輪はすでに売ったと答えました。
ロテシュ子爵が
まだ指輪を持っていたら
ラスタは、
他の物と変えるつもりだったので
怒りが頭のてっぺんまで
こみ上げてきました。
思ったより高く売れた。
わざと安物の指輪だけ
くれたと思ったのにと
ロテシュ子爵が笑いながら
話すので
ラスタの血圧は
ますます上がりました。
ラスタは心を落ち着かせた後、
ロテシュ子爵に
座るように指示したので、
彼は生意気だと文句を言いましたが
彼女は、自分とロテシュ子爵が
同じ船に乗るのであれば
彼が優位に立つわけではないので
生意気だと言わないようにと
命じました。
ロテシュ子爵は
ラスタの言葉を不快に感じましたが
彼女が取り出した扇子に
宝石がぶら下がっているのを見て
自分もああいうものを
持つことになるんだと思い、
気分を良くしました。
ラスタはロテシュ子爵が
本当に自分の役に立つのか
彼の能力を示すために、
トゥアニア公爵夫人の
弱点や悪い噂を調べるように
指示しました。
◇人の物は奪わない◇
前日、
ソビエシュと
不愉快な会話をしたので
彼と一緒に夕食を取るのが
心苦しく思ったものの
行かなければならないと
ナビエは思いました。
東宮へ向かいながら、ナビエは
ぎこちなく食事を取らないために
どのような話をすべきか
心配していました。
ところが、途中で
ラスタと出くわしてしまいました。
別宮の件に
まだこだわっているようで
ラスタは一礼すると
脇へ避けました。
ところが、
彼女の前を通り過ぎた時、
ラスタが後ろから声をかけました。
ナビエは立ち止まり振り返ると
ラスタは遠慮がちに
皇后には、
ハインリ王子がいるのにと
言いました。
なぜ急にラスタが
ハインリ王子の話をするのか。
自分と彼が
手紙を交わしていることに
目をつぶっているという話を
またするのかと
ナビエは思いました。
すると、ラスタは
エルギ公爵に手を出さないで
とナビエに頼みました。
ラスタがどうして
そんな誤解をしたのか
わからないけれども
彼女のとんでもない話にナビエは、
心配しなくてもいい。
エルギ公爵は自分の友達ではない。
ラスタは自分の物を欲しがるけれど
自分はラスタの物を欲しがらない。
自分は人の物を
奪わなければならないほど
貧しくないからと言いました。
ラスタは
傷ついたような顔をしていましたが
ナビエは
あまり気になりませんでした。
ナビエは、いつものように
ソビエシュに
冷たいと言われる表情で
ラスタの横を通り過ぎました。
◇砂漠の花◇
ソビエシュの部屋に入ると
秘書のピルヌ伯爵が来ていて
ソビエシュは彼に
治癒魔法のかかっている
指輪か腕輪を探しに行き
見つかったら
すぐに買ってくるように
命じていました。
彼が出かけると
侍従たちがすぐに夕食を
運んできました。
ソビエシュと何を話そうか
悩んでいたナビエは
先ほど、
問題になっていた
治癒魔法のかかった指輪について、
すでにソビエシュが
1つ持っているのではないかと
尋ねました。
ソビエシュは
持っているけれど、
今はないと答えました。
なぜなくなったのか
言わないところを見ると
詳しい理由は教えたくないのだと
ナビエは思いました。
一度、言葉を交わしたものの
その後の会話は途絶えました。
ソビエシュはポタージュスープを
ほとんど飲み終えた後で
必ず返すので
新しい指輪が見つかるまで
ナビエの持っている
砂漠の花を貸して欲しいと
ナビエに頼みました。
砂漠の花には
強力な治癒魔法が
かけられていました。
あまり使わないので
貸すのは構わないと思いながら
ソビエシュの手を見ると
傷や傷跡一つなく、きれいでした。
どうしても必要かと
ナビエが尋ねると
ソビエシュは
手を怪我した人に貸してあげたいと
ぶっきらぼうに答えました。
ナビエは、ラスタの手が
荒れていることを指摘すると
ソビエシュは驚きました。
そして、ナビエが
なぜラスタに貸すと思ったか
その理由を説明すると
彼は、額に手をつき
きまりの悪い様子でした。
しばらくして
ソビエシュはため息をつくと
貸してくれないよね?
とナビエに尋ねました。
ナビエは貸してもいいけれど
その代わりに、
ソビエシュの持っている
魔法物品のうち一つを
担保として貸して欲しいと
言いました。
そして、ナビエは、
自分が外国人と付き合うのを
ソビエシュが嫌がるので、
国内の青年と付き合うことにする。
その人に、
それを貸すかもしれないと
ほのめかしました。
ソビエシュは
不満そうにナビエを眺めて
立ち上がると
貸したくなければ
嫌だといえばいい。
この話はなかったことにすると
言いました。
◇青い鳥◇
結局、
ポタージュスープ以外
何も食べられませんでしたが
ソビエシュの拗ねた顔を見たせいか
わざと新年祭に
ロテシュ子爵を招待したとか
ラスタが
逃亡奴隷だという噂を広めたと
誤解された時ほど
心が苦しくありませんでした。
西宮へ入って遊歩道を歩いていると
ハインリ王子がクイーンを抱いて
立っていました。
嬉しくて近づくと
ハインリ王子が抱いているのは
クイーンではなく
身体がクイーンより少し小さく
青色の鳥で
顔立ちも全く違っていました。
ハインリ王子は、
その鳥はクイーンの部下だと言って
青い鳥の頭を叩くと
鳥は、ひどくけしからんといった
表情をしたので
ナビエは噴き出してしまいました。
ナビエは青い鳥を撫でながら
抱きしめていいか
ハインリ王子に尋ねました。
当然、「いいです。」
と言われると思ったのに
ハインリ王子にきっぱり断られました。
彼は
その理由を言わないけれども
気が向かない顔をしたので
ナビエは頷きました。
やっぱり自分も鳥を飼おうかなと
ナビエは思いました。
それでも、諦めきれなくて
青い鳥の首筋に触れると
ハインリ王子は後ろへ下がりました。
そして、
鳥は自分の部屋へ
帰りたがっているようだ。
この鳥は勇敢なクイーンと違って
臆病なので
人見知りが激しいと言いました。
弱虫かどうか
わかりませんでしたが
鳥がハインリ王子を睨んでいることは
ナビエにわかりました。
鳥は面倒くさそうに立ち上がって
力なく、飛んで行きました。
もしもナビエに抱かれ損ねたことで
青い鳥が拗ねたのなら
お尻を10発叩くと
ハインリ王子は言いました。
ナビエは、その話を聞いて
自分もクイーンのお尻を叩く。
愛らしいお尻をしていると
ハインリ王子に話すと
彼は耳まで顔が赤くなり
変な所ばかり見ていました。
鳥のお尻の話で
あんなに顔が赤くなるなんて
やはり本人の言う通り
浮気者ではない、意外と純情だと
ナビエは思いました。
ナビエは、話題を変え、
前日、エルギ公爵に会った時に
彼を呼んだのはハインリ王子で
ハインリ王子が数年前から
何かを立てていたという話を
エルギ公爵から聞いたと
ハインリ王子に伝えました。
あくまでも私の考えですが・・・
ナビエ様は
ソビエシュよりも頭が良くて
洞察力が鋭く、人を見る目もあり
人の使い方にも長けている。
政治的手腕は
同じくらいかもしれないけれど
ナビエ様は公私混同をしないし
人物的にもソビエシュより優れている。
そのことを
ソビエシュも彼女自身も
暗黙のうちに
わかっているのでしょうけれど
あくまで
皇帝はソビエシュなので
ナビエ様は彼を立てなければならない。
理不尽なことでも
彼の命令には従わなければならない。
けれども、
逆らっても大丈夫そうな時は
理路整然と説明する。
その結果、
いつも偉そうにしている
ソビエシュを
やり込めることができたら
ナビエ様が喜ぶのも
当然かなと思います。
豚に真珠、猫に小判・・・
31話を読んで、
真っ先に思い浮かんだのが
豚に真珠ということわざでした。
ソビエシュがラスタに貸した
紅炎の星は、
見る人が見れば
その価値が分かります。
けれども、ラスタとロテシュ子爵は
それが分からなかった。
だから、ラスタは
安物だと思って、
指輪をロテシュ子爵にあげてしまい、
彼も、指輪が高く売れたことに
驚いたのです。
ロテシュ子爵は
お金を手に入れたからいいけれど
ラスタは、
指輪の価値を知って、
ようやく指輪を手放したことを
後悔しました。
ソビエシュは、
幼い頃から、
ナビエ様とずっと一緒だったので
彼女がどれだけ自分にとって
価値のある存在か
気づいていなかったと思います。
それを知っていたら、
決してナビエ様を
手放すことはなかったと思います。
それなのに、
ラスタと出会ってから
ナビエ様をぞんざいに扱い、
自分の子供を跡継ぎにするために
手放してしまいました。
紅炎の星が
自分の手に戻ってきたように
ナビエ様も、
戻って来ると固く信じていました。
ところが、ナビエ様を
手放した途端、
彼女を深く愛して、
どうしても欲しいと思っていた
ハインリのものに
なってしまいました。
もしも紅炎の星に
価値があることを知っている人が
先に、指輪を買っていたら、
ソビエシュの元に
戻ることはありませんでした。
もっとも、
魔法がかけられた物品が
他にあれば、
紅炎の星でなくても
問題はありませんが
ナビエ様は物ではありませんし、
彼女と似た人がいても、
彼女と同じ人はいません。
皇帝にとって、
跡継ぎを持つことは必要ですし、
ソビエシュの
我が子に対する思い入れは
とりわけ強かったため、
彼はナビエ様より
子供を選んでしまいました。
向田邦子さんの短編小説の中に
妻と子供が
同時に死にそうになった時に、
どちらを先に助けるかという
くだりがあります。
その話をした人は、
妻は替えが利くから
子供を選ぶと言います。
そして、その話を聞いた人は、
実際に、そのような目に遭った時に
子供を助けた結果、
妻を失ってしまい後悔し続けます。
ソビエシュはナビエ様を失う前に
彼女の価値を知っていたら、
ナビエ様を
大切に扱っていたと思います。
けれども、ナビエ様を失うまで
ソビエシュは彼女の価値に
気づかなかった。
ナビエ様は、ソビエシュにとって
豚に真珠、
猫に小判だったのだと思います。