外伝26話 ダルタを見張っていたクロウが帰って来ました。
◇クロウが見たこと◇
一体、何があったのか。
クロウは鳥の姿をしているのに
明らかに当惑しているようでした。
ナビエは、
ダルタに何かあったのかと尋ねると、
クロウはソファーの後ろから
ダルタは常時泉の仲間だったこと。
その事実を知ったマスタスを
常時泉の盗賊たちが殺そうとした。
もしかしたらと思い
自分は盗賊たちについて
回っていたので
マスタスを危険から
救うことができた。
エベリーが近くにいたので
マスタスを彼女の所へ送り
治療をしてもらったので
今は大丈夫。
とナビエに報告しました。
なぜそこにエベリーがいたのか
ナビエが尋ねると
ダルタに会いに行ったけれど
先にマスタスに会ったので
ダルタが常時泉であることを
知ってしまった。
とクロウは答えました。
続いて、クロウは
エベリーが知った真実、
その後の行動
エベリーの誤解と
ダルタの育ての親の死について
報告しました。
エベリーの誤解は
真実と入り混じっているので
2つのことを区別するのが困難でした。
ダルタは常時泉の
群れの中にいるけれど
彼女は盗賊ではない。
マスタスを襲ってはいないけれど
彼女がきっかけで
マスタスは襲われた。
状況が複雑なので
クロウも、どうしたらいいか
混乱しているようでした。
エベリーが
本当のことを知らなければ
ダルタが自分を騙したという怒りに
苦しむだろう。
けれでも、本当のことを知れば
姉のように慕っていた
ダルタの養母を
殺したことになり辛いだろう。
そして、
ダルタのことは
どうしたらよいだろうか。
盗賊が育てた子で
盗賊ではないけれど
盗賊たちと親しい子
マスタスを殺そうとはしなかったが
盗賊のために死体を隠そうとした子
けれども、素晴らしい才能を持った子
ナビエは、その子を抱くことが
できるだろうかと考えました。
ナビエは少し考えてみることにし
クロウには労いの言葉をかけ
休むように伝えました。
◇謎◇
ダルタは墓の前で
何も考えていませんでした。
自分が魔法使いだと知らない時は
母親を助けることができたのに
1か月以上訓練を
受けてきたにもかかわらず
今度は何もできませんでした。
母親が自分の心臓に刺さった
剣を抜いて綱を切り
ダルタを救うために
自分の命を投げ出しながら
這ってくる間
ダルタは悲鳴を上げていました。
雨が降り始めましたが
ダルタは墓の前から
動けませんでした。
自分を助けてくれた傭兵がくれた
メモを握ったまま
ダルタは墓だけを見つめていました。
どうしてエベリーは
マスタスが死んだと言ったのか。
彼女がそんなことを言わなければ
ビンセルは死ななかったのに。
いや、マスタスは
ずっと死んだふりをしていたので
エベリーもマスタスが死んだと
思ったのかもしれない。
ダルタは何とか
良い方に考えてみましたが
突然、悪い考えが浮かんでくるので
ダルタは唇を噛み続けました。
すると、突然後ろから
めちゃくちゃだな。
と声をかけられました。
エンジェルでした。
ダルタの唇からは血が出ていたので
唇に罪はないと言って
エンジェルはダルタが唇を噛むのを
止めさせました。
彼の服はびしょぬれだったので
彼も雨の中、
ずっと立っていたようでした。
ずっと自分を見ていたことに
ダルタはエンジェルに抗議すると
唇の次は
自分に八つ当たりをするのか。
と言われたので
ダルタはエンジェルを
押しのけました。
エンジェルは
私にも責任があると言って
悲しそうな顔をしました。
エンジェルは
エベリーがマスタスと
話をするのを見たこと。
エベリーはダルタと仲が良いので
彼女がマスタスとダルタの
仲裁をすると思った。
こんなことになるなら
自分が表に出れば良かった。
と言いました。
なぜエベリーが
マスタスの死体を見たと
言ったのか
ダルタは疑っていましたが
エベリーも騙されたと
思っていました。
けれども、エンジェルから
真実を聞かされたダルタは
苦しくなり
彼女はそんな人ではない。
と言いました。
すると、
それでは、どんな人ですか?
とエンジェルに聞かれました。
ダルタはエベリーが
東大帝国人であること以外
彼女のことを
何も知りませんでした。
ダルタは
自分を助けてくれた傭兵から
渡されたメモを広げました。
彼は、メモを渡すように
依頼した人を
明かしませんでしたが
ダルタはエベリーだと
思っていました。
ダルタはメモの中に
エベリーの住所が
書かれているかと思いましたが
イスクア子爵夫妻が君の親。
としか書かれていませんでした。
ダルタは立ち上がりました。
そして、東大帝国へ行って
エベリーと会うと
エンジェルに告げました。
ダルタはエベリーが
嘘をついたことを
信じたくありませんでした。
ダルタがエベリーの言葉を
ビンセルに伝えなければ
彼女はマスタスに
殺されることは
ありませんでした。
その姿を見ていたエンジェルは
ダルタが東大帝国に入るのを
助けると言いました。
ダルタは、また自分を
スパイにさせるつもりなのかと
エンジェルに尋ねると
スパイは多いので
でたらめな目と耳はいらない。
でも、治癒系の魔法使いは欲しい。
と答えました。
◇生みの親の情報◇
エンジェルと一緒だったので
ダルタは東大帝国へ
簡単に入れました。
庁舎の前で馬車から降りたダルタは
中へ入り
イスクア家について知りたいと
窓口に座っていた官吏に
告げました。
ナビエ皇后は
ブレスレットの紋章が
東大帝国の貴族のものではないと
言っていたけれど
東大帝国のエベリーが
ダルタの親のことを
教えてくれたのなら
東大帝国で
情報を集めることが
可能だと思いました。
イスクア家と聞いた官吏は
意味深な笑みを浮かべました。
隣の人も同様で
ダルタを横目で見ました。
どうして、そんな顔をするのか
ダルタは不思議に思いました。
官吏はクスクス笑いながら
ダルタにしばらく待つように言うと
書類の入った封筒を持ってきて
彼女に渡しました。
ダルタは近くの食堂に入ると
料理を待つ間に
封筒の中に入っていた
古い新聞を読みました。
そこには、
イスクア子爵夫妻が
前皇后の身分詐称の罪で
亡くなったことが
書かれていました。
別の書類には
イスクア家の紋章と
財産を使い果たすまで
行方不明になった2人の娘を
探していたこと、
多くの詐欺師同様
社交界では
彼らの評判は良かったこと、
魔法使いのエベリーを
ひどくいじめたこと、
が書かれていました。
◇墓場にて◇
ダルタは
首都の郊外にある
最近処刑された人が
埋葬されているという
昼間でも
日の当たらない墓地にある
粗末な墓を訪れました。
けれども、似たような墓が
たくさんあるので
どれがイスクア子爵夫妻の墓か
わかりませんでした。
ダルタは、その中の一つの
最近作られた墓の前で
すすり泣きました。
ビンセルがいるのに
実の親が現れたら嫌だと
ダルタは思っていましたが
彼らが処刑されて
埋葬されていると思うと
虚しさを感じ、
心が痛みました。
生みの親が幸せに暮らしていたら
こんな風に感じなかったのかなと
思いました。
馬車の車輪が
砂利を踏む音が聞こえてきました。
エンジェルの言っていた
監視者だと思い
ダルタは大きな蔓の後ろに
身を隠しました。
その人たちがいなくなるまで
ダルタは隠れているつもりでした。
どのくらいの時間
そうしていたのか
そろそろ帰りましょう。
エベリー様。
という声が聞こえてきました。
エベリーという名前を聞いて
ダルタは
妹のように仲良くなったけれど
嘘と真実を残していった
エベリーと
癒しの魔法使いのエベリーを
思い浮かべました。
東大帝国で
エベリー様と呼ばれているのなら
今来ているのは
魔法使いのエベリーだと
ダルタは思いました。
ダルタは蔓越しに顔を上げました。
5人の近衛兵と立っている
女性を見て
ダルタの心臓が凍り付きました。
◇クイーンクイーン◇
ナビエの寝室から一番遠い
廊下の突き当りの部屋の中には
人が使う家具はほとんどなく
草花と鳥かごだけしか
ありませんでした。
鳥かごの主である
鷲のクイーンクイーンを
ハインリがひどく嫌って
その部屋へ追いやったので
廃部屋と呼ばれていましたが
ナビエはそれが恥ずかしくて
仕方がありませんでした。
けれども、ハインリは
クイーンクイーンが本当に嫌で
自分と似た外見と
自分と似た名前と
クイーンクイーンを
プレゼントした人も嫌でした。
そのクイーンクイーンがいる部屋を
ハインリは一人で訪れました。
ここ数日、
2人の魔法使いのために
憂鬱になっているナビエのために
ハインリは仕方なく
自分の偽物に機会を
与えることにしました。
ハインリはクイーンクイーンに
偽物、
うまくやらなければならない。
この仕事に君の自由が
かかっているから。
ハインリは鋭く言った後
こっそり部屋を出ました。
ダルタのことを本気で
気にかけているのか
それとも、何か魂胆があり
計算ずくで
優しい言葉をかけているのか
相変わらず
何を考えているかわからない
エンジェルです。
クイーンクイーンのことは
すっかり忘れていましたが
健在でした。
ダルタとエベリーの
重苦しい話が展開される中で
ハインリのシーンに癒されます。