外伝28話 再びエルギ公爵の話に戻ります。
◇母と遊ぶ◇
エルギ公爵は
車いすをあちこち押して
歩き回りました。
母親が手を上げ、車いすが停まると
彼女は、花や珍しい形の石など
手に届くもの全てを集めました。
どれくらい遊んでいたのか
鐘がジャラジャラ鳴る音がしたので
エルギ公爵は
アーチ門の方を見ると
執事が立っていました。
◇エンジェルの提案◇
エルギ公爵は
母親を家の中へ入れた後
執事に何の用か尋ねると
彼は、父親が呼んでいると
答えました。
その理由を尋ねると
客が来ているとのこと。
客は誰なのか
エルギ公爵が尋ねると
執事は返事をする代わりに
違う方向を見ました。
そこにはエンジェルが
立っていました。
エンジェルはエルギ公爵と
遊歩道を歩きながら
別邸にいる本物の母親が
ブルーボヘアンを出るのを
手伝います。
それには、
治癒系の魔法使いが必要ですよね。
そのために、
人為的に魔法使いを作る方法か
魔力消失現象について
教えて欲しいです。
ハインリ皇帝と親友であることは
よく知っていますが
私たちは同じ船に乗れます。
よく考えてみてください。
と言いました。
◇アレイシアの思惑◇
エルギ公爵とエンジェルが
姿を消すと
床に這いつくばんばかりに
身をすくめていた侍女が
深刻な用事でしょうか?
騎士団長は
何か知っているようですが
大丈夫でしょうか?
とアレイシアに尋ねました。
彼女は気にすることはないと
返事をしました。
アレイシアは
近くの長椅子に座って
2人の会話を思い出していました。
彼女は
エルギ公爵が、まだ
母親を国外へ
連れ出そうとしていることを
苦々しく思いました。
そして、本物の大公妃を
外へ連れ出させた方が
良いのだろうか
ここに居続けさせる方が
良いのだろうか
と呟きました。
侍女は、
居続けさせた方が良いと答えました。
もしも、大公妃様が国外へ出て
秘密が漏れたら・・・
と言いかけて、侍女は
口を押えました。
アレイシアは、人の口より
自分の口から秘密が漏れると
気付いたことは幸いだと
侍女に言いました。
息子は口が重く
恩を知る善良な子供だから
私の顔色を見ないわけには
いかないけれど
騎士団長は、
見た目も軽そうだから
対処しないと・・・
とアレイシアは言いました。
◇アレイシアからの手紙◇
ナビエの元へ届いた手紙の中に
普段、付き合いのない
クローディア大公妃からの
手紙がありました。
エルギ公爵の母親が
どんな内容の手紙を送って来たのか・・
その中には
驚くべきことが書かれていました。
エルギが第4騎士団の団長と
接触しました。
団長は
西大帝国の秘密を聞きたいと言って
ある条件を出しました。
エルギは、その条件に
ぐらついております。
ナビエ自身が
ブルーボヘアンに送ったスパイが
このような手紙を送ってくれば
歓迎するけれど
エルギ公爵の母親が
手紙を送ってきたことの
意味がわかりませんでした。
エルギ公爵は
ハインリの親友なので
ナビエは彼に聞くことにしました。
◇話せないこと◇
クローディア大公妃の
名前を聞いた瞬間
ハインリの顔色が変わり
大公妃からの手紙を読んでいる間
ハインリは深刻な顔をしていました。
ナビエは、
エルギ公爵に提案されたことが
何なのか検討がつかないと
言いました。
ハインリは、見当がつくと
答えました。
エルギ公爵の個人的なことで
ナビエに話せないことは
これのことなのかと
彼女が尋ねると
ハインリは肯定しました。
それを提案されれば
私も、その条件に
引かれると思う。
とハインリは言いました。
それほど深刻なことなのかと
ナビエは思いました。
ハインリは、
エルギ公爵と直接話してみると
呟きました、
彼の目は一瞬にして
非常に冷たくなり
不愉快そうになりました。
ハインリはナビエを見て
どうしてそんな風に
自分を見ているのかと尋ねました。
ハインリが
そんな顔をしているからだと
言えないナビエは
素直に返事をする代わりに
首を横に振りました。
ハインリは不機嫌そうに
今、この手紙が
私たちの役に立つのは事実だけれど
エルギの友達として
この手紙を送ってきたのが誰なのか
エンジェルが何を提案したのか
見当がつくので
腹が立っています。
だから、
表情管理がうまくできません。
と打ち明けました。
ナビエは、ハインリに
怒った顔をしても良い、
あなたが笑う時も
怒る時もあるのを知っています。
と告げました。
けれども、彼は
ナビエの前で
そんな顔をしたくない。
ナビエの前では完璧でいたい、
と答えました。
そんなことをしたら
疲れると思うけど・・・
ナビエは、その言葉を
飲み込みました。
エルギには、
私の所へ来てくれと
急いで手紙を送ります。
とハインリは言いました。
◇消えた彫像◇
船着き場に大きな船が到着しました。
エルギ公爵は
自分が持ってきた荷物が
船から降りるのを待っていました。
しばらくすると2人の人夫が
宝石で象った青い鳥の彫像を
運んできました。
通り過ぎる人が見上げるほど
見事な彫像でした。
以前、ナビエに挨拶をしないで
帰ったことと
海ですれ違った時、
知らんぷりをしたことがばれたので
彼女に贈るつもりで
持ってきました。
どこに彫像を置けばいいか
人夫に聞かれたので
エルギ公爵が答えようとした時
海の方から、
とてつもなく大きな波が
押し寄せてきました。
人々が逃げ惑う中
エルギ公爵は
ぼんやり立ったまま
頭の上に降り注ぐ波を
見ていました。
そして、水の流れが
自分に触れた瞬間
波が幻想であることに
気が付きました。
そして、自分の背丈よりも大きな
金色の目に出会いました。
存在感のある恐ろしい目でした。
しかし、あっという間に
波も金色の目も消えていました。
一体何だったのか。
エルギ公爵は周りを
キョロキョロ見渡すと
ギョッとして固まりました。
目の前にあった宝石の彫像が
消えていました。
◇賄賂◇
どうすれば常時泉を
自分の支配下におけるだろうか?
それに対する反発は?
現実的な可能性はあるだろうか?
アメを使うべきか
ムチを使うべきか
クローディア大公妃と
エルギ公爵の関係は?
あの狐は何を考えているのか?
あれこれ考えていると
突然ドカンと
目の前に大きくて華やかな
青い鳥の彫像が現れました。
隣にドルシが立っていました。
ドルシは
変な名前の女、これは賄賂だ。
あなたは、
青い鳥の居場所を知っている。
これをあげるから
1日に3回ずつこれを見ながら
青い鳥の居場所を
思い浮かべるように。
と言いました。
ちょうど鼻歌を歌いながら
やってきたマッケナが
ドルシを見て立ち止まりました。
彼の話も全部聞いてしまいました。
ドルシは
マッケナを振り返りましたが
興味なさそうな顔をして
すっと消えてしまいました。
マッケナは
龍がバカで良かった。
あんなに気が利かないなんて。
と呟きました。
◇お気に入り◇
戸惑いはしたものの
青い鳥の彫像が気に入ったので
ナビエは、それを応接間に
移動させました。
マッケナのおかげで
青い鳥が好きなカイとラリに
彫像を見せると
2人は万歳と叫んで
拍手をしながら喜びました。
ラリは、彫像によじ登り
お腹をギュッと抱きしめました。
どうしましょう。
宝石が好きなところまで
皇帝陛下に似てしまいましたね。
とジュベール伯爵夫人が
笑いました。
翌日も、カイとラリは
彫像で遊んでいました。
その日の夕食前に
エルギ公爵が訪ねてきました。
彼はナビエに挨拶をするや否や
彫像を見つめていました。
エルギ公爵は
少し虚しい顔をしているように
見えたので
ナビエは、どうしたのか
尋ねました。
彼は、
彫像に足が生えたのかと思いました。
来るべき所へちゃんと来たので。
と答えました。
◇同じ提案◇
子供たちを侍女たちに任せて
ナビエとハインリと
エルギ公爵は
一緒に夕食を取りながら
大公妃が送ってきた手紙について
話をしました。
エルギ公爵は
自分には大切な人がいるが
その人は身体が弱すぎて
車いすに乗っても
庭を一周できない時が多い。
その人を、良い水と
きれいな景色のある所へ
連れて行きたいけれど
それには、数日間、
その人に付き添ってくれる
癒し系の魔法使いが必要だ。
エンジェルはそれを
提案してきた。
と話しました。
ナビエは、エンジェルが
ダルタを引き入れたのかと
思いました。
そして、すべての人に、いたずらに接するようなエルギ公爵に大切な人がいると聞いて驚きもしました。
エンジェルの提案を
受けるのか受けないのか
ハインリとエルギ公爵が
言い争っている時
ナビエは、2人の間に
グラスを置きました。
その音を聞いて
2人の口論が止まりました。
ナビエは、
私が同じ提案をしたら
口をつぐんでもらえますか?
とエルギ公爵に尋ねました。
カイとラリは
どのくらいの月齢に
なっているのでしょうか。
彫像によじ登れて
万歳と言えるくらいなので
そろそろ1歳になるのかなと
思います。
アレイシアは
エンジェルのことを
見た目が軽そうと言っていますが
全く違いますし
彼を侮ると
とんでもない目に
会わされることになります。
エンジェルに勝てるのは
ナビエくらいだと思います。