外伝34話 ダルタが実の姉であることをエベリーは知ってしまいました。
◇エベリーの苦しみ◇
エベリーの絶望的な表情を見て
財産管理人は
伝えてはいけないことを
話してしまったかと思いました。
エベリーは
管理人のせいではないと
言いましたが、
涙があふれ出て
止まりませんでした。
エベリーは、机に顔を埋めました。
財産管理人が帰った後も
エベリーは落ち着きませんでした。
大好きな魔法の勉強も
手に付きませんでした。
外へ出て庭を歩いても
落ち着きませんでした。
エベリーは
しっかり捕まってと言って
ロープを上って行った
ダルタの頼もしい背中を
思い出しました。
冷たい夜に、
激しい夜風に吹かれながら
エベリーをかばって
ロープを上って行ったダルタ。
私たちが姉妹だと知っていて
助けてくれたんだ。
エベリーは両手で顔を覆って
すすり泣きました。
こうなるとわかっていたら
ビンセルを
生かしてあげればよかった。
悪い盗賊だけど
姉の愛する人なら
生かしてあげればよかった。
ダルタの泣き叫ぶ声を後にして
行ってしまわなければ良かった。
そのまま嘘をつかないで
逃げろと言えばよかった。
そして、ダルタが姉と言うことは
イスクア子爵夫妻は・・・
息もできないほど泣いていると
頭の上でソビエシュが
苦しそうな顔で
エベリーの名前を呼びました。
エベリーは、
心臓の下が
刃物で刺されたように痛いけれど
陛下は
どのように耐えましたか?
と尋ねました。
ソビエシュは
エベリーが悲しそうに泣いていたので
来ただけでしたが
彼女に、いきなり質問をされて
意味が分かりませんでした。
けれども、
エベリーが大切な誰かを
亡くしたのではないかと思いました。
彼は
どうやって耐えたっけ?
どうやって耐えているんだろう?
と答えました。
◇大公の怒り◇
こんなことがあり得るのか!
大公は怒って邸宅に戻りました。
名誉と評判を重視する彼にとって
その日の出来事は
耐え難いものでした。
どうしたのかと
大公を心配する執事に、彼は、
アレイシアが裏切った、
私の妻のふりをしたのが
私の独断的な行動だと言った。
と告げました。
そして
アレイシアが偽物とばれた。
彼女の実の両親がやって来た。
彼らとアレイシアの3人で
私を売り飛ばした。
と説明しました。
執事は、大公に
反論したらどうか。
彼女が先に
今のような状況に追い込んだし
彼女が人前で
自分は大公妃だと言ってしまった。
と言いました。
大公は、
自分は体面のために黙っていた。
それに、誰が先にやったかを
重要視するのは当事者だけ。
反論しても無駄だ。
と言いました。
執事が
先王は目をつぶってくれていた。
と話すと、大公は、
今は王は黙っているけれど
そのうち
大騒ぎになると言いました。
そして、大公は、
外国へ行く、
母国を離れたくないけれど
恥をかきながら暮らすよりましだ。
と言いました。
◇親を捨てる◇
パーティ会場の近くの休憩室で
アレイシアは扇子で仰ぎながら
興奮を鎮めている時、
彼女の両親が
一緒に帰ることを提案しました。
アレイシアは、かつて
とても大切に思っていた
両親を見ました。
けれども、今は彼らに
腹を立てていました。
両親は
あなたの記憶に
異常がないのはわかっている。
これ以上、恥をかかずに帰るべき。
立派に成長したけれど
あなたは、
いつも人の物を欲しがる。
私たちに恥をかかせるなんて。
と口々に言いました。
両親が交互に話せば話すほど
アレイシアの怒りが
増して行きました。
アレイシアは
東大帝国で起こったことは
自分の過ちだと言いました。
けれども、両親は
東大帝国のことで
彼女を怒った後
彼女を受け入れるか
立ち去らせるべきでした。
自殺を偽装する以上の
悲劇はないと思いました。
アレイシアは
今度は自分が
親を捨てることにしました。
そのように決心するとすぐに
彼女は手で髪を乱して
また、私を水に流そうとするの?
やめて!
私は息子を守らなければならない。
と恐怖に怯えた声で叫びました。
人々が控室に入って来て
アレイシアと両親を離しました。
彼らはびっくりして
逃げ出したので
彼女は安心しました。
アレイシアは
クロム公国へ帰った途端
また、
彼らに殺されるかもしれない、
絶対について行ってはダメ。
対面を重視する人たちだから
今後、こちらに
目を向けることはないだろうと
思いました。
そして、クローディア大公が
エルギを殺そうとしなければ
こんなことにならなかったのにと
アレイシアは怒りを爆発させました。
◇閉め出し◇
アレイシアは
必死に頭がおかしくなった振りをして
朝、邸宅へ戻りました。
早く自分の部屋へ戻って
ベッドに横になり
アロマの香りの浴槽に浸かって
ストレスを解消したいと思いました。
ところが、いつもは
アレイシアが乗った馬車を見ると
先に門を開ける護衛たちが
門を開けませんでした。
そして、夜もあちこち
明かりを灯している大公の邸宅から
灯りがほとんど消えていました。
アレイシアと
一緒にパーティに言った侍女が
門を開けるように命じました。
すると、護衛は
大公は夜の間に外国へ旅立ったと
アレイシアに伝えました。
彼女は、大公が1人で
逃げたと思いました。
心の中で歯ぎしりをしながらも
アレイシアは落ち着いて
疲れたから門を開けるように
指示しました。
しかし、護衛は
偽物がやって来ても
絶対に開けるなと
命じられていると伝えました。
そして、
下女が持ってきたスーツケースを
護衛がアレイシアに渡しました。
彼女がスーツケースを開けると
お金も服も宝石も
何も入っていませんでした。
呆れ果てたアレイシアから
笑いが洩れました。
貴族だけれど
領地のない子爵の6番目の子で
裕福でもなく世襲権も持っていない
侍女も
アレイシアの最側近と思われて
一緒に追い出されたら
先の見通しが立ちませんでした。
アレイシアは、
どうやって、逃げた奴の
胸倉をつかんで
引きずって来よう。
と言いました。
◇変態◇
エルギ公爵の乗っていた船が
沈没したこと、
鳥一族が
ダルタを救出したこと、
彼女が西大帝国へ向かっていること。
ナビエは、それらを
こっそり抜け出して
1人で飛んで来た鳥一族から
聞いていました。
ナビエは、ダルタが
本当に苦労したと思いながら
彼女を出迎えたところ
ダルタは、ナビエを見るなり
ハインリ陛下の部下は
皆、変態です!
と言いました。
ダルタは
彼らは真っ裸で行き来している。
服を着せても
翌日になると、1人か2人は
裸になっている。
と訴えました。
彼らは、夜になれば、鳥の姿で
偵察をしたり
ナビエの所へ飛んできて
状況を説明する必要がありました。
ダルタが驚くのも当然だと
ナビエは思いました。
ナビエ自身も、最初、
ハインリが
ずっと服を脱いでいるのを
恥ずかしく思っていたからです。
しかし、変態を連呼するダルタに
ナビエが相槌を打てば
ハインリも変態になってしまうし
違うと言えば、
自分も変態になってしまう。
答えに窮したナビエは
何も言わずに
ダルタを抱きしめて
背中をポンポンと叩きながら
元気で戻って来てくれて
嬉しいと言いました。
◇私のもの◇
ダルタと一緒に食事を取りながら
ナビエは、彼女とエベリーが
姉妹だと聞いて
衝撃を受けました。
ダルタは、エベリーの話をする時
不機嫌になりましたが、
それでも生きていて良かったと
言いました。
ダルタの話を全て聞いた後
ナビエは、これからどうしたいか
彼女に尋ねました。
ダルタは
エンジェルの所へは行きたくない。
私が彼のそばにいれば
彼はエベリーを殺そうとするし
彼は怖い。
エベリーについては
まだ心が整理できていないし
エベリーが苦しむ顔を
見たくない。
エベリーは、私の顔を見るのも
嫌だと思う。
本当のことを知らせれば
彼女は傷つく。
エンジェルが
私を見つけられないように
他の人として生きていきたい。
けれども、母親がいないので
盗賊にはなりたくない。
皇后陛下のそばにいたい。
名前を変えて顔を隠せば
エンジェルに見つかりにくいかも。
エベリーが遊びに来る時は
顔を隠すか
別の場所へ行く。
皇后陛下は私を
受け入れてくださいますか?
と尋ねました。
ナビエはダルタの手を握り
笑いながら
あなたが私の所へ来るのを
ずっと待っていました。
ようやく私のものになりましたね。
と言いました。
◇常時泉の村へ◇
ナビエは、
新しい名前と姓を作ってくれれば
身分を作ると
ダルタに言いました。
彼女は悩んだ末
姓は自分のと両親のを合わせ、
名前はダルタという愛称が出るように
ダルターシャ・ビンセル・イスクア
としました。
イスクアをそのまま使うのは
悩みましたが
没落した家柄と聞いていたので
発音は同じで
スペルだけ変えました。
ダルタは常時泉を説得するために
彼らの所へ向かう馬の上で
新しい名前を何度も唱えていました。
そして、どうやって常時泉を
説得しようか考えていました。
ナビエから
常時泉を説得すれば
ダルタが戻ってくると思っていた
と聞かされて
自分が彼らを説得すると
志願したものの
自分の言うことを
聞いてくれるかどうか
ダルタは自信がありませんでした。
彼女は、常時泉を説得するための
資料に触れて
勇気を振り立たせました。
ダルタは
地下騎士団の収入と地位
陰で活動する時の自由度、
常時泉の中に入れば
敵が死ぬことと
仲間が死ぬことが多い。
仲間を殺した人たちと
仲間になりたくないと言えば
常時泉が仲間になれる国が
なくなってしまう。
と話すつもりでした。
もっとも、
ナビエの側の人になったとしても
マスターズとは絶対に
仲良くなることはないと
ダルタは思いました。
ダルタが
常時泉の村に到着すると
ダルタ同様に
常時泉に拾われた青年が
彼女を迎えました。
ダルタを見た青年は
彼女を見て
ビンセルのことを思い出したのか
悲しい表情で
ダルタを抱きしめました。
青年の話では
ケルドレックは出かけていて
2-3時間で戻るとのこと。
青年は
ダルタの乗ってきた馬を
馬小屋へ連れて行きました。
彼女は、誰かが馬を
持って行ってしまうのではと
心配になりました。
遠ざかる青年を眺めながら
彼女はモテを思い出し
富川主の家へ行きました。
彼の妻は
ダルタに会うと
涙を浮かべながら
彼女を抱きしめました。
ダルタを優しく慰めてくれた妻は
彼女の好物を作るために
台所へ行き、
その間、モテを見ていてと
ダルタに頼みました。
開いている窓から外を見ると
ケルドレックは
まだ帰っていないようでした。
そこから、ダルタとビンセルが
住んでいた家も見えました。
どうしても、
そこへ入る勇気が出なくて
ダルタはそっぽを向きました。
ダルタは、モテを見て
前よりも、もっと可愛くなったと
思いました。
ダルタのことを覚えているのか
子供は、彼女を見て
笑いながら手を差し出しました。
ダルタはモテを抱きしめようとした時
突然、一枚の肖像画が思い浮かび
手がこわばりました。
ダルタはモテの顔を見ました。
そういえば、モテは
あの人に似ていないか?
イスクア子爵夫妻の事件を
調べた時、
みんなが不快だと言って
処分してしまったせいで
何枚も残っていない
ラスタ皇后の肖像画を見ました。
彼女の顔とモテの顔は
似ているどころではないと
ダルタは思いました。
財産管理人は
エベリーとダルタが知り合いで
ダルタの両親が
イスクア子爵夫妻であることを
エベリーが教えたことを
知らなかったので
ダルタが訪ねて来たことを
エベリーに話しても
大丈夫だと思ったのでしょうね。
財産管理人がイスクア子爵夫妻と
約束したのは
エベリーの親が彼らだと
明かさないことなので。
天涯孤独だと思っているエベリーに
姉がいるとわかれば喜ぶと思って
話したのでしょうけれど
結果的に、エベリーは
深く傷ついてしまいました。
時が、2人の傷を
癒してくれるのかなと思います。