外伝49話 モテがラスタにそっくりなことにソビエシュは衝撃を受けました。
◇ナビエに似ているカイ◇
カイはリルテアン大公について
話をするため
ソビエシュのいる
東宮庭園の奥深くに入りました。
庭に到着すると
銀髪の女の子がブランコに乗って
何か楽しそうに話していて
ソビエシュは
少し離れた木の根元に座って
頷いていました。
カイは、あの子が誰なのか、
なぜ、あんな風にしているのか
考えていると
近衛騎士団長が
カイを発見し、声をかけました。
それを聞いたソビエシュも
ゆっくり立ち上がりました。
カイは、ソビエシュが
その子を紹介してくれると
思いましたが
ソビエシュは1人でやって来ました。
そして銀髪の女の子は騎士と共に
後方の小道へ消えました。
あの子は誰なのか
怪訝に思いながらも
カイはすぐにそちらから関心をそらし
ソビエシュに話があると言いました。
カイはソビエシュのことを
陛下と呼んだので
ソビエシュは、
もっと気楽に呼んでいいと
言いましたが
カイは
ソビエシュが東大帝国の陛下だから
そのように言うと
淡々と答えました。
ソビエシュは顎を噛みしめました。
どうして、こんなに
ナビエに似ているのか。
顔と性格を見ると
ハインリが産んで
ナビエが1人で
育てたのではないかと思うくらい、
不思議でした。
ソビエシュは、
カイを応接室へ連れて行き
イチゴとチョコのどちらを飲むか
尋ねると
カイはイチゴと答えました。
ソビエシュは使用人に
合図を送ると
彼はさっと出て行きました。
ソビエシュとカイの2人だけになると
カイはリルテアン大公に関して
話をしました。
ソビエシュは、
夜市でカイとラリが護衛をまいて
襲撃されたことには
眉をひそめましたが
カイの話を最後まで
聞いてくれました。
話が終わるころ
使用人がクリームを乗せた
イチゴミルクを持ってきました。
◇牽制◇
カイが飲み物を飲んでいる間
ソビエシュは椅子の肘掛に
腕をついて
深刻な表情で足を
ビクビク動かしていました。
そして、カイが帰ると
リルテアン大公を呼びました。
リルテアン大公は
良心が咎めることがあるのか
呼ばれるとすぐに
丁寧にあいさつをして
いつものように
ソビエシュの前で笑っていました。
14年前、西大帝国に閉じ込められて
健康を害したリルテアン大公は
完全に回復せず
病床に伏してばかりいるので
問題は起こさないと
ソビエシュは考えていました。
ソビエシュは
シャルルを見て
今は見逃すけれど
少しでも怪しいところがあれば
シャルル、次男、大公、大公妃を
それぞれ違う国へバラバラに
送ることができることを
覚えておくように。
と言いました。
簡潔なソビエシュの言葉に
リルテアン大公は
笑顔の仮面の下で顔をしかめました。
一体どういうことなのかと
リルテアン大公は尋ねましたが
ソビエシュは彼に
帰るように言いました。
呆れたリルテアン大公は
ソビエシュを睨みましたが
彼は精神を病んではいるものの
演武場で剣を振り回しているので
身体は頑丈で
普通の騎士でも
ソビエシュと戦うのは難しいので
身体の弱ったリルテアン大公は
ソビエシュに勝つことは
できませんでした。
リルテアン大公は
ソビエシュが何を言っているか
わからないけれど
彼のアドバイスは肝に銘じると
言いました。
◇娘が幸せならば◇
リルテアン大公が帰ると
ソビエシュは
舌打ちをしました。
彼はラリかカイを
後継者にしたいと思っていましたが
血統の順番から言えば
2人がリルテアン大公の次男より
下であるのは明白な事実でした。
次男が自ら名声を貶めたおかげで
この部分を指摘する人は
いないけれども
ソビエシュがリルテアン大公一家を
追い出せば
西大帝国の皇子と皇女を
後継者にするために
訳もなく叔父と従弟たちを
追い出したと
陰で言われるかもしれませんでした。
そのために、ソビエシュは
リルテアン大公の次男の行動に
呆れながらも
手をこまねいていました。
ラリかカイが
とやかく言われずに
後継者になるためには
リルテアン大公一家が生きていて
絶えず悪い比較の対象となる必要が
ありました。
リルテアン大公も
自分たちに何かあれば
カイとラリに火の粉が飛ぶことを
知っているので
あのような態度を取る。
そのくらいは頭が働くと
ソビエシュは思いました。
ラリかカイが皇位に付いた後も
しばらくは
リルテアン大公一家を抱えて
世論を掴まなければならない。
それには、やはり
ラリの方が良いのではないかと
ソビエシュは考えました。
ラリはナビエの仮面をかぶった
ハインリなので人前では
牧場の羊のように振る舞うけれど
後ろでは刀を研いでいました。
ソビエシュは苦笑しましたが
アンを思い浮かべると
唇から笑みが消えました。
アンの顔を見て
押さえつけていた感情が
再び出てくるようでした。
グロリーエムが生きていたら
あの子と同じくらい
大きくなっていただろうと
ソビエシュは思いました。
ゆりかごに横になりながら
いつもニコニコ笑っていた
赤ちゃんを思い浮かべると
自然と涙がこぼれました。
ソビエシュは
私の娘がどこにいても
幸せになって欲しい。
娘さえ幸せならば
私は一生娘を恋しがって
死んでもいい。
娘への恋しさが
娘の幸せの養分になるなら
それだけでいい。
と祈りました。
◇ラリの戦略1◇
誕生パーティ当日
人々はラリとカイを見るために
パーティが始まる前から
馬車に乗って
次々と到着しました。
ラリは、時々、窓の外へ出ると
その光景を
嬉しそうに眺めては
イライザ伯爵夫人に捕まり
中断した身支度を整えました。
服を着ている途中で
外へ出て行ってはいけないと
イライザ伯爵夫人は
ラリを注意しましたが
彼女は、時間がかかりすぎると
文句を言いました。
イライザ伯爵夫人は
皇女様がお出ましになる時は
よけいに時間がかかると
説明しました。
ラリが東大帝国へ来た時だけ
侍女の役割をする
イライザ伯爵夫人は
ナビエと同じ顔で
ブツブツ文句を言うラリを
不思議に思い、笑い出しました。
イライザ伯爵夫人が
ナビエは、もっと幼い時でも
服を着ている途中で
逃げなかった。
大人だったと言うと
ラリはようやく
おとなしく服を
着せてもらいました。
イライザ伯爵夫人は
ナビエが皇太子妃時代に
よく着ていたドレスを
ラリに着せ終わると
満足げに笑いました。
ラリがナビエより
少し背が高い以外
ナビエとそっくりだと
イライザ伯爵夫人は言いました。
ラリが、母親も背が高いと言うと
子供の頃は小さかったと
イライザ伯爵夫人は
教えてくれました。
ラリがナビエのように装うのは
傍系血統として国を継ぐ時に
反論が起きないように
東大帝国で取る一種の戦略でした。
ラリは鏡を見ながら
満足げに笑いました。
そして、イライザ伯爵夫人に
いつパーティが始まるか
尋ねました。
◇ラリの戦略2◇
ナビエの子供時代を知っている
年齢の高い貴族たちは
ラリを見て
ナビエの皇太子妃時代を思い出し
ナビエの子供の頃は見ていないものの
皇后時代を知る人は
ラリを見て、あの当時のことを
思い出して喜びました。
ナビエが東大帝国にいた時代を
よく覚えていない貴族たちも
童話に出てきそうな皇女が
双子の皇子と手をつないでいる姿を
素敵だと思いました。
ラリは、このような人々の心理を
正確に知っていたので
カイが手を離したがっても
私たちはセットでいた方が
絵のように見える。
と言って、承知しませんでした。
カイは、
うっとおしいと思いながらも
言われた通り
ラリと手をつないでいました。
しかし、トイレまでは
一緒に行けないので
カイは、
ラリにトイレに行きたいと
訴えましたが
ラリは我慢するように言いました。
けれども、隣で聞いていた
イライザ伯爵夫人が
首を振ったので
ようやくラリは
カイの手を離しました。
◇私は目が高い◇
ラリはカイが戻ってくるのを
待つために
ケーキを一切れ持って
隅へ歩いて行きました。
そしてケーキを食べようとすると
リルテアン大公が
近づいてきたので
ラリは顔を
しかめそうになりました。
周りに人がいなければ
気分を損ねた顔になっていました。
リルテアン大公は
ラリと会う度に
彼女が輝いていると
お世辞を言いました。
人の目を意識しているラリは
形式的ににっこり笑い
ケーキを
隣にいる侍女に渡しました。
リルテアン大公は
2人の息子を呼んで
ラリに挨拶をするように
促しました。
ラリの前に息子たちが立って
順番に挨拶をしているうちに
ラリは笑みを維持するのが
難しくなりました。
兄には暗殺者を送ったくせに
政略結婚の可能性のあるラリには
良い印象を
与えようとしているなんて
ラリは驚くべきことだと
思いました。
そして、大公の次男のレールが
もう少し頻繁に来るように。
私たちが結婚する可能性が
一番高い。
今から、お互いに
慣れた方がいい。
と親しいふりをして言うと、
無理矢理、
表情管理をしていたラリは
とうとう開き直り
残念ながらレール、
私は目が高い。
と言いました。
露骨に侮辱されたレールの表情が
固まりました。
リルテアン大公は
息子の脇腹を突いて
ムカついても
表情管理をするようにと
声を出さずに指示しました。
けれども、傲慢なレールは
自分よりも、もっと傲慢なラリから
侮辱を受けたことが耐えきれず
ブルブル震えていました。
その姿を見てラリは
ようやく笑みを浮かべて
私が目が高いと言って
怒るのを見ると
あなたが
私の目に入っていないことを
あなたも知っているようですね。
あなたは高い所だけ見て、眺めて
噴水のことがよくわかっている。
天体観測学者がお似合いですね。
と皮肉を言いました。
レールが泣きそうになったので
リルテアン大公は
2人の息子を連れて
その場を離れました。
ラリのムカつくところを見ると
ハインリを思い出すと
リルテアン大公は言いました。
ラリが悪口を言ったと
涙ぐむレールに
人前で皇帝は泣くものではないと
リルテアン大公は叱責しました。
ラリは悪口を言っていませんでした。
天体観測の研究は
非常に頭が良くないとできないので
人が聞けば、
絶対に悪口に聞こえませんでした。
その言葉に埋め込まれた
ニュアンスが悪いだけでした。
レールは、自分が賢いと
ラリが褒めてくれたのかと
父親に尋ねました。
リルテアン大公は呆れて
お前の頭は空っぽだ!
と怒りました。
父親にけなされたレールは泣き
父親は恥ずかしいから泣くなと
怒鳴りつける。
その騒ぎを見て
恥ずかしくなったシャルルは
その場から離れました。
◇アンではない◇
ベランダの欄干にもたれかかり
その様子を見ていたソビエシュは
見ていられない。
と呟きました。
ラリが気付いている
リルテアン大公の腹の内を
ソビエシュも見抜いていました。
けれども、
ナビエとハインリが
この政略結婚を
受け入れるはずがないと
思いました。
ソビエシュは
遠くからラリとカイを眺めている
ベルディ子爵夫人を見つけました。
彼女は、
2人に興味を持ちながらも
昔、ナビエを裏切ったため
2人に近づくことが
できないようでした。
それは仕方がないと思った
ソビエシュは
見ない振りをして
顔を背けましたが
彼女がリムウェルの領地に
立ち寄ったことを思い出しました。
ソビエシュは
ベルディ子爵夫人を呼び
アンの様子を尋ねました。
ベルディ子爵夫人は
自分が
リムウェルの領地に行ったことを
どうしてソビエシュが知っているのか
なぜ、アンのことを尋ねるのか
見当がつかなくて戸惑いました。
けれども
全てを知っているソビエシュに
嘘をつくのは難しいので
彼の顔色を窺いながら
正直に答えました。
数か月前に見た時は
アレン卿の顔によく似ていた。
しかも、とても頭が良かった。
リムウェル子爵(ルベティ)が
身分を買ったので
平民になった。
ベルディ子爵夫人は
言葉を止めて
ソビエシュの顔色をうかがいました。
アンにはまだ何も
言えないけれど
賢く控えめに育った。
今は管理人になるために勉強中。
とベルディ子爵夫人は
言うべきかどうか迷っていると
ソビエシュの顔が強張っていました。
ベルディ子爵夫人は
アレンのことを話したので
ソビエシュが気分を害したのかと
思いました。
けれどもソビエシュは
アンがアレンに似ていることを聞いて
驚いていました。
ソビエシュの顔が
真っ青になりました。
数日前に会った
ラスタにそっくりな少年が
グロリーエムではないかと
思いました。
カイの見かけはハインリだけれど
中身はナビエ
ラリの見かけはナビエだけれど
中身はハインリ。
原作239話でソビエシュは
ナビエの子供に
会いたいけれど、会いたくないと
言っていました。
そして、259話で
ナビエが幸せで良かったと
笑える日が来るだろうかと
言っていますが
毎年、双子のために
誕生パーティを開いてあげたり
彼らを冷静に観察できるということは
ソビエシュの気持ちは
大分、落ち着いたのでしょうね。
原作130話に
ラスタがナビエを追い出したことで
不満を持っている保守的な貴族が
たくさんいると書かれています。
彼らは、きっと
その後のラスタを巡る
東大帝国の一連の出来事に対しても
腹を立て、
西大帝国で活躍しているナビエを
恋しがっていたと思います。
そのような人たちに対して
ラリの戦略は
とてもうまくいったのではないかと
思います。
ところで、
ベルディ子爵夫人は
確かに
ナビエを裏切りましたが
ナビエの侍女だった人を
ラスタの侍女にすれば
彼女の評価が上がると思った
ラント男爵が
お金に困っている
ベルディ子爵夫人を選び
彼女もやむを得ず
ラスタの侍女になったのだと
思います。
元はと言えば、
ラスタに侍女を付けたがった
ソビエシュが招いたこと。
ベルディ子爵夫人を責めるのは
可哀そうだと思います。