外伝53話 レールが兄とシーシーの会話を盗み聞きしました。
◇企み◇
レールが兄の所へやって来たのは
兄のシャルルが自分を出し抜き
皇女とより親しくなろうと
しているのではと
疑ったからでした。
ところが、シーシーが
お姫様ではない、誤解だと
言うのを聞いて
レールは父親の所へ行きました。
そして、彼は自分を言い訳にして
ケガをさせて連れて来た女が
お姫様でないと言いました。
リルテアン大公は
廃位になったから、
お姫様ではないという意味で
言ったのではないかと
話しました。
けれども、レールは
シーシーが
外見が似ていて誤解を受けた。
本当のお姫様は
自分の友達だと話していたと
伝えました。
リルテアン大公は怒りました。
自分が勝手に誤解したくせに
彼の頭の中では
シーシーは、
皇女を詐称したも同然でした。
彼は
すぐに皇女の詐称犯を
自分の所へ連れてくるように
護衛に命じましたが
すぐに考えを変えました。
シーシーはお姫様の友達だから
ここでいきなり怒鳴りつけて
姫は誰かと聞いても
何か変だと思い、
義理立てして口を開かない。
自分からお姫様でないと
明らかにしたので
皇女の位に欲がないと
リルテアン大公は考えました。
それならば逆にすれば良い。
リルテアン大公の口元に
卑劣な笑みが浮かびました。
◇シーシーの行方◇
エベリーを呼んで
足を治療してもらったソビエシュは
宮殿に戻るや否や
部屋に閉じこもりました。
彼が出かけるのは
モテと一緒にいたあの庭だけ。
ソビエシュは、そこでモテを
自分の娘と見抜けなかった瞬間を
何百回も思い出しながら
心を痛めていました。
その日も、遅い時間に庭へ出て、
大きな岩に座っていると
近衛兵がやって来て、
ベルディ子爵夫人が
ソビエシュに会いたがっていると
伝えました。
ソビエシュは、忙しいと言いました。
目の前で娘と別れたばかりなので
誰かと話をする
余裕がありませでした。
しかし近衛兵は、すぐに下がらず
ベルディ子爵夫人が
急用のようだと伝えました。
ソビエシュは、ベルディ子爵夫人と
会うことにしました。
彼女は、
シーシーがいなくなった。
ソビエシュが連れて行ったのかと
尋ねました。
ソビエシュが否定したので
ベルディ子爵夫人の顔が
悲しい表情に変わりました。
シーシーがソビエシュと一緒なら
安心だと思っていたからでした。
ベルディ子爵夫人は
シーシーが
自分は本当の娘ではない。
状況が自分と全く同じだから
自分だと思っていた。
陛下の反応を見て
自分は違うとわかった。
と手紙を残して出て行ったと
話しました。
ソビエシュは騎士たちに
シーシーを探させると
彼女は
リルテアン大公の馬車にぶつかり
彼の家にいることが
わかりました。
ソビエシュはすぐに
リルテアン大公の家へ騎士を送り
シーシーを探すように指示しました。
リルテアン大公が
シーシーを連れて行くなんて
何か魂胆があるのは明らかでした。
ところが、リルテアン大公は
意外と素直に
シーシーを返してくれました。
ソビエシュに会ったシーシーは
自分が彼の娘でないと
わかっていたので
以前のように愛想が良くなく
ぎこちなくソビエシュに
挨拶しました。
ソビエシュは
子供が傷ついていることが
わかってはいたものの
実父を探していたのに
そうはでなかったと知った子に
どのように接してよいか
見当がつきませんでした。
シーシーは恥かしくて
ソビエシュの顔が見られず
下を向きながら
混乱させたことを謝り
もうすぐお姫様を探すことと
リルテアン大公も
早くお姫様を見つけたいと
言っていると話しました。
ソビエシュは、
リルテアン大公が
誰を探しているか尋ねました。
シーシーは目を丸くして
顔を上げると
リルテアン大公が
モテを探してはいけないのかと
ソビエシュに尋ねました。
彼は、ラリと喧嘩をしていた
リルテアン大公と次男のことを
思い出しました。
彼らが
いくらお世辞を言って近づいても
ラリはびくともしないので
2人はモテに
接近しようとしているに違いないと
思いました。
ソビエシュはシーシーにお礼を言うと
彼女を馬車に乗せて
ベルディ子爵夫人の家へ送らせました。
そして、近衛兵に
リルテアン大公を連れて来るように
命じました。
リルテアン大公の次男が
娘と付き合うような人ではない点も
問題だけれど
最大の問題は
モテが皇女として
暮らしたがっていない点でした。
だから、ソビエシュは
狩場で遠ざかる
モテの後ろ姿だけを見て
苦痛を飲み込み
知らないふりをしました。
とても大事だから、
捕まえなかったのに
どうして、リルテアン大公が
その子を探すのか。
モテとの結婚が目的なら
彼女が皇女であることを
公にするつもりだから
無条件に彼を止める必要が
ありました。
◇ソビエシュの決断◇
宮殿へやって来たリルテアン大公は
一体何が起こったのかと
ソビエシュに尋ねました。
彼は、なぜ宮殿へ呼ばれたか
察しがついているはずなのに
自分は何一つ
憚ることはないといった態度で
ヘラヘラ笑っていました。
その態度は
ソビエシュの神経に障りましたが
平静を保ちながら
皇女を探さないようにと
リルテアン大公に命じました。
リルテアン大公は驚きましたが
しらを切るか素直に認めるか
しばらく悩んだ後で
先にお姫様を探そうとして
とんでもない女の子を
娘扱いしたのは陛下だ。
陛下はお姫様を
探そうとしているのに
私には探すなとおっしゃるなんて。
あの子は
私とは違う血筋だけれど
一時期は姪だったから。
と言いました。
ソビエシュは、
子供を探したのは
その子が元気に暮らしているか
知りたかっただけで
皇女として世間に知らせて
関心を集めるためではなかったと
反論しました。
リルテアン大公は
人々はお姫様を恋しがるので
お姫様を探すなら
国民に知らせて
安心させなければならないと
言いました。
ソビエシュは
人々は、姿が見えない時は
同情するけれど、実際に現れれば
皇女ではなく囚人にしようとする。
どこへ行っても
あの子は見世物になってしまうと
言いました。
ソビエシュは
あの子を姪だと思うなら探すなと
もう一度命じました。
リルテアン大公は
そうすると答えましたが
ソビエシュは嘘だと思いました。
シーシーを馬車で轢いて
連れて行くほど貪欲な人間が
素直にあきらめるはずが
ありませんでした。
ソビエシュは大公に
しばらく宮殿で過ごすように
指示した後、
大公邸に人を送り
モテを探すのを止めるように
命じました。
このようにしておけば大丈夫だと
ソビエシュは考えましたが
その話を聞いた
リルテアン大公の
他の部下たちのことが
気になりました。
その2日後、カルル侯爵が
お姫様が生きていて
どんな名前で
どんな特徴があり
どこで過ごしているかという話が
人々に広まっている。
噂の元を追跡したところ
リルテアン大公家から出ている。
と慌ててソビエシュに報告しました。
ソビエシュは、
リルテアン大公を宮殿に
引き止めながらも
誰かが口を開くのではないかと
不安でしたが
2日しか経っていないのに
皇女の噂が広まっていることに
苦笑いしました。
今、姫を探し出せば
見世物になる確率は高い。
姫に同情する人は
彼女の境遇を
可哀そうに思うかもしれないけれど
同情と尊敬は
明らかに異なる枠組みの中にあると
ソビエシュは考えました。
カルル侯爵は
1、2か所から出ている話ではないので
人々の口をふさぐのは大変だと
言いました。
ソビエシュは
大公妃が
リルテアン大公を解放させたくて
ソビエシュに圧力をかけたことを
確信していました。
宝石を取り換えたのは
リルテアン大公側の
人ではないかという疑い。
カイを殺そうとしたくせに
図々しくラリに求愛した。
そして、
元気に、よく暮らしている子を
暴風の中へ
連れて行こうとしている。
次男のレールが成人すれば
もっとひどくなる。
ソビエシュは
もう目を瞑っているわけには
いかない。
決断をしなければと思いました。
◇ラリの悩み◇
その頃、西大帝国へ戻ったモテは
ケルドレックの助けを借りて
ラリに会うことができました。
しかし、この時のラリは
ヨンヨンの嫉妬心を
刺激したにもかかわらず
彼に、
好きなようにしろと言われたので
かなり心が落ち着かない状態でした。
そんな中、モテが
自分は東大帝国の
前皇后の娘のようだけれど
それでもラリが受け入れてくれるかと
尋ねたので
ラリは頭が混乱してしまいました。
ラリは眉をしかめただけなので
モテは注意深く
彼女の顔をうかがいました。
真実を話すことで
ラリに嫌われる覚悟は
していましたが
ラリが何の反応もしないので
モテは怖くなりました。
とても強いラリを
自分の従いたい主君だと
考えていたモテは
ラリの淡々とした対応に
むっつりしましたが
仕方がないと思いました。
するとラリは
今、他に頭の痛いことがあるので
すぐに答えられない。
少し考えさせて。
急にあなたを
憎んだりしないけれど
現実的な問題がある。
言いづらいことを言ってくれて
ありがとう。
と言いました。
モテと別れた後
ラリは全身に重苦しい悩みを
抱えながら
自分の部屋へ歩いて行きました。
ラリはモテの実力を
欲していました。
初めて闇市場で会った時
最後の詰めが甘くて
少しいじめたけれど
自分よりも背が高く
図体の大きい人たちを
一気に制圧した姿と
わざわざ駆けつけて来て
知らない人を助けてくれた
正義の心と大らかな性格が
気に入っていました。
光の夜市で会った時
ここから出して欲しいと
モテが泣いていた姿が
脳裏に焼き付いていました。
けれども、
母親のことを考えると
ラリは悩みました。
モテを引き取る時は
母親に内緒にしても
彼女がモテに会うことがあるので
心配でした。
モテの正体を隠して
母に会わせるのも
正体を明かして母に会わせるのも
申し訳ないと
ラリは思いました。
母の性格なら
子供にまで昔の感情を
ぶつけることはないだろうけれど
ラリ自身が気まずさを
感じていました
ラリは
どうしようかと考えました。
◇ヨンヨンの後悔◇
同じ時刻、ラリと同じくらい
気まずい思いをしている人がいました。
もう少し穏やかに話した方が
良かったでしょうか?
とヨンヨンはイライラしながら
マッケナに尋ねました。
マッケナは
笑うべきか泣くべきか
分かりませんでした。
マッケナはヨンヨンに
ラリのことが気になるのか
尋ねました。
普段大人っぽいヨンヨンは
失言することはないし
自分の言ったことを
後悔することはありませんでした。
そもそも、龍は
自分たちが龍だという
プライドがとても高く
自分たちが一番偉いと
主張しているので
火龍も水龍も
自分の言葉を後悔することは
ほとんどありませんでした。
ヨンヨンが自分の言葉を後悔して
落ち込んでいる姿は
本当に可愛いけれど
ミニハインリを嫁にすることを
心から望んでいませんでした。
父親の心を知らないヨンヨンは
ラリに文句を言ったという人間の所へ
行かなければならないと言いました。
ミニハインリを奥さんにするのは
マッケナではないのに
いつもハインリに
振り回されているマッケナは
息子もそうなるのではと
心配しているのでしょうね。
確かにラリは
ハインリによく似ていますが
思慮深いところなど
ナビエの良いところも似ていますし
母親やモテのことを思いやれる
優しい子だと思います。
大人になるまでに
もっと心も成長すると思います。
ヨンヨンがラリと結婚しても
問題ないと思います。
以前のソビエシュは
自分のことしか考えていませんでしたが
高い代償を払ったおかげで
人の心を思いやれるようになったと
思います。