外伝57話 ラスタはナビエの所へ送られました。
ナビエは夕食を取るため
東宮へ行きました。
ソビエシュは
ケガをした人が
きちんと治療を受けているか
尋ねました。
ナビエは、きちんと治療を
受けていると淡々と答えました。
ソビエシュは、
その女性は自分のせいでケガをしたし
どこからか逃げて来た様子なので
他に行くところがなければ
下女として受け入れて欲しいと
言いました。
彼は、他に話したいことがあるような
顔をしていましたが、
彼が何も言わないので
ナビエも強いて尋ねることは
しませんでした。
その代わりに
新年祭の準備で忙しい中
遠い狩場へ出かけた理由を尋ねました。
彼は、考え事があって出かけたと
答えました。
それについて詳しく聞いたところで
答えてくれないと思ったナビエは
それ以上、何も聞きませんでした。
ナビエが食事を終えて帰ろうとすると
ソビエシュは、
皇后は、今日、
何をして過ごしたのかと
突拍子もない質問をしました。
ナビエは仕事だと答えると
彼は仕事ではないと言いました。
ナビエは、
仕事の話も自分の話だと言いました。
ソビエシュは
ナビエの答えが気に入らないのか
眉をしかめて、
わずかにため息をつきました。
ソビエシュは考えることがあって
遠くの狩場まで行ったのに
自分には、
仕事以外の話を要求するなんて
どういうつもりなのかと
ナビエは思いました。
ナビエはイライザ伯爵夫人に
ラスタが元気になったか
尋ねました。
イライザ伯爵夫人は
ラスタは治療中で
回復のスピードも速いと答えました。
ナビエは、
ラスタが落ち着いたら
帰るところがあるか
行きたいところがあるか尋ねて
行くところがなければ
下女としてここに置いてもいいか
ソビエシュに願い出るよう
イライザ伯爵夫人に頼みました。
ラスタは
帰るところがないと言ったので
下女として働くことになりましたが
それ以降、ナビエは
やることがたくさんあったので
彼女のことは、
すっかり忘れていました。
しばらくして、ナビエは
散歩の途中で、
ラスタが下女長に怒られているのを
発見しました。
ナビエは
そのまま通り過ぎようと思いましたが
ソビエシュに任せられた子なので
何があったのか
下女長に尋ねました。
彼女は、ラスタが騎士に
悪口を言っていたので
注意をしていたと答えました。
ナビエは下女長に、
ラスタがどんな悪口を言ったのかと
尋ねると、下女長は口ごもりながら
ラスタが騎士のことを
下種野郎と言っていたと
小声で答えました。
しかし、ラスタはそれを否定し
こん畜生と言ったと主張しました。
その声は悲しそうで
悔しそうでした。
ナビエは、
なぜラスタが騎士に
そんなことを言ったのか
尋ねましたが
ラスタは下を向いて
答えませんでした。
ナビエは下女長に
しばらく席を外して欲しいと
頼んだ後、ラスタに
彼女が下女たちと衝突し続けるなら
自分はラスタを自分の下へ
置くことはできないと
冷たく話しました。
それを聞いたラスタは目を見開き
唇を震わせました。
そして、ラスタは
騎士が自分のことを
皇帝が一度手を出して
捨てた女なのかと言ったと
答えました。
ナビエは、
下女長にその話をすれば、
彼女が騎士団に正式に抗議するか
自分に頼みに来たと話しました。
ラスタは膨れっ面をして
謝りましたが
自分は下女や下男と仲が良くない、
名前に「ハ」が入る人たちに
恨みがたくさんある。
今、考えたら
名前に「ギ」が入っている人とも
仲が悪いと言いました。
ナビエは、その騎士が誰なのか
アルティナ卿に調べるように
言わなければと思いました。
そして、ナビエはラスタに
次は自分に話すように言いました。
ところが数日も経たないうちに
ラスタは、
ナビエがトイレへ行く行かないで
先輩下女と喧嘩をしていました。
皇后はトイレに行かないと
ラスタが主張しているの聞いた
ナビエは、
顔から火が出てしまいました。
ラスタは自分のことを
一体何だと思っているのかと
考えました。
ナビエが2人の間に入れずにいると
ラスタは、
自分を怒らせると怖いと言いながら
肩で威嚇するクマのように
身体を震わせました。
先輩下女は
ラスタを大変恐いと思ったのか
彼女が無知だと非難した後、
別の所へ行ってしまいました。
ナビエは、
今はラスタと顔を合わせることが
できないと思い
その場を離れました。
天気が良いのでナビエは
庭にティーテーブルを置いて
風に当たりながら
お茶を飲むことにしました。
ラスタが付いて来て、
テーブルの上にカップを置く時の
やり方を色々教えていました。
ラスタの歩き方を見ると
大分ケガも
良くなっているようでした。
ラスタの後ろに
黄金色の翼を持つ
とてもハンサムな鳥が、
葉が人の頭ほどもある
大きな花の上に座り
毛づくろいをしていました。
ナビエが手を差し出すと
鳥は手の甲の上に乗りました。
人に慣れている鳥のようで
おとなしくしているのと
ハンサムな顔が不思議で
ナビエは鳥の頭を撫でていると
鳥の足に手紙が結んであることに
気がつきました。
手紙には
私は新年祭に向かっている
外国人で、酒を飲みながら
この手紙を書いているところと
書かれてありました。
手紙を読んでいると
侍女たちがやって来て
どうしたのかと尋ねました。
ナビエが手紙を見せると
侍女たちは
返事を書くように勧めました。
ナビエは鳥をテーブルの上に乗せて
返事を書いていると
ラスタが金色の鳥を指差しながら
鳥がナビエの書く文字を
じっと見ていると言いました。
元々、鳥はじっと見るものだと
ローラが言いましたが
ラスタは、この鳥は変だと言うと
突然、鳥の首を
後ろからつかんで、
鳥をバサバサ振りました。
鳥は翼を羽ばたかせて
ラスタを振り切ると
急いで空に舞い上がり
そのまま行ってしまいました。
ナビエは
鳥をいじめてはいけないと言って
ラスタを叱りました。
彼女は膨れっ面をして
分かったと言いました。
その横で下女長が睨んでいました。
近くの山へ飛んで行った鳥は
人の姿に変わって舞い降りました。
その人は、
柔らかくて薄い金髪と
がっしりした身体を持ち
非常に美しい容姿でしたが
髪の毛がカササギの巣のように
滅茶苦茶で
美しい顔が滑稽に見えました。
近くの木に止まっていた青い鳥が
人間の姿に変わると
誰に髪の毛を引っ張られたか
尋ねました。
金髪の男は髪を押さえ
顔をしかめながら
有名な氷の皇后を
見たいと思っていたのに
そばにいた狂った女が
首をつかんで振った。
ああ痛いと答えました。
ラスタがソビエシュの所へ
来たばかりの時に
彼には
騎士と喧嘩をした時のような
とても汚い言葉は使わなかったと
思いますが
トイレ云々のような
貴族の常識では
考えられない話をしていたら
ソビエシュが興味を持つのも
ありかなと思いました。
美しい容姿なのに
話すことは奇想天外。
ソビエシュにとって
それがラスタの魅力だったのではと
思います。
だから、
ラスタが宮廷貴族の礼法を
学びたい時に
ソビエシュは
ため息をついたのだと思います。
もしもラスタが
初めから貴族だったら
ソビエシュはラスタに
心を動かされなかったかもしれません。
けれども最初のうちは
ラスタと一緒にいて
面白かったかもしれませんが
すぐに飽きてしまったと思います。
ラスタが妊娠さえしなければ
早いうちに
一生暮らせるだけのお金を与えて
ソビエシュはラスタを
遠ざけていたと思います。