外伝61話 ナビエがベランダに出ると、そこにはハインリが・・・
◇ベランダの二人◇
ハインリは手すりから手を離すと
意外そうな目でナビエを見て
逃げられる所は全て行きましたか?
私をずっと避けていました。
と尋ねました。
ナビエは、
ハインリが自分を中心に考えていると
非難した後、
自分は逃げていないと反論しました。
しかし、ハインリは、
ナビエの足も目もすべて
ずっと逃げていたと主張しました。
ナビエは顔をしかめながら
ハインリを見つめると
彼はかすかに笑いながら
また逃げるのですか?
と尋ねました。
ナビエは、
頭を使っていますね。
とハインリに言いました。
彼は、
ナビエが自分を避けたと言うことで
彼女が他の所へ行ったりしないと
思っているようでした。
彼女は最大限冷たい目で
彼を見つめました。
ハインリが少し後ろに下がったので
ナビエは何をしているのか
尋ねました。
するとハインリは
近くに行くと
また逃げてしまうのではないかと
思っています。
と答えました。
自分がそばに行くことを
ハインリは期待しているのかと
ナビエは思いました。
彼女は、顔をしかめて
元の場所に立ち続けていると
ハインリはナビエの方を見ながら
彼の秘密を守ってくれたことに
心からお礼を言いました。
ハインリは
ナビエが彼の秘密を
誰かに話すことを心配して
自分を見つめていたのだと
少し理解しました。
彼女は、
ハインリを安心させるために
自分は、
やたらと人の秘密を話さないと
約束しました。
ハインリは、
当然、ナビエを信じると
言いました。
彼は、ナビエに
恩返しをしたいと言いましたが
彼女は、
自分のせいでハインリが溺れて
自分のせいで、ばれたのだから
恩を返す必要はないと
断りました。
そのように答えた後
ナビエは、
このまま、ここにいても
まともに風に当たれそうにないので
中へ入ろうかと思いました。
けれども、
ハインリを見かけて驚いたことで
しばらく忘れていましたが
中では、ソビエシュとガリヌエラが
踊っていました。
このまま、ここにいた方が
ましだと思ったナビエは
ため息をつき
ハインリとは反対側の手すりの方へ
行きました。
けれども、同じ場所にいながら
相手を
無視し続けるわけにもいかないので
ナビエは、
ハインリが、ラスタを
訳もなく
いじめていたわけではなかったことが
わかったと言うべきか、
羽の間に挟まっていた
ガラスの破片みたいな物について
大丈夫だったのか聞こうか、
どちらを話そうが悩んだ末
後者にしました。
ハインリは訳もなく
ラスタに
文句を言ったわけではないけれど
喧嘩を売っていたことは
確かなので。
ハインリは大丈夫だと
答えました。
◇嫉妬と誘惑◇
ソビエシュは踊りながら
ベランダをちらっと見ました。
確かにナビエがそちらへ出て行き
すぐに戻ってくると思ったのに
まだ帰って来ていませんでした。
いつ帰って来るのか?
音楽が終わる頃、帰って来るのか?
一人であそこで何をしているのか?
髪の毛の持ち主と一緒にいるのか?
いや、違うだろう。
色々な考えがソビエシュの頭の中を
駆け巡りました。
音楽が終わる頃、
ついにナビエが一人で
中へ入って来たので
ソビエシュは安心して
ダンスに集中しようとしました。
ところが、ガリヌエラと手をつないで
一周している時、
先ほどの場所から
ハインリが入ってくるのが見えました。
ソビエシュは、
ナビエが握っていた髪の毛が
彼の物のではないかと疑いました。
ハインリが、
凄まじいプレーボーイで
女性に人気があって
とても美男子だという噂は
ソビエシュも聞いていました。
そのような軽い男と
ナビエが付き合っているのかと
思ったソビエシュは
ショックを受けて
思わず、ガリヌエラの手を
強く握ってしまいました。
ソビエシュはナビエの方を向くと
彼がガリヌエラとくっついているのが
不快だと言っているように
眉をひそめていました。
それを見たソビエシュは
わざと表情を整えながら
音楽に造詣があるという話は
聞いていたが
ダンスもそうだとは思わなかった。
とガリヌエラに優しく囁きました。
彼女は
私も陛下が
一度に二人の女性を
思い浮かべる方だとは
知りませんでした。
と言ったので
ソビエシュは驚いて
彼女を見下ろしました。
彼女の手を握っていた力が
抜けましたが
逆にガリヌエラが
ソビエシュの手を強く握りながら
今、陛下のダンスの相手は私なので
私だけに集中してください。
と囁きました。
そして、ソビエシュと目が合うと
一生の愛を一日で終えるのも
それなりにロマンティックでは
ないでしょうか?
と小さな声で言いました。
音楽が終わりました。
人々は、
次のダンスの相手を探したり、
休憩するために散らばりましたが
ソビエシュとガリヌエラは
その場に並んで立ち続けていました。
ソビエシュの瞳が
揺れているのを見たガリヌエラは
嘲笑いました。
奥さんが怖いのかと
尋ねるガリヌエラに
ソビエシュはそんなはずはないと
答えました。
ガリヌエラは、
ご心配なく。
私は口が重いですから。
と言いました。
◇復讐◇
南宮で
人手が足りないと聞いたラスタは
すぐに志願しました。
ラスタは
ケガが治ったばかりなので
無理のない範囲で
仕事を覚えさせるようにと
下女長から聞いていた
担当の宮人は気乗りがしませんでした。
けれども、ラスタが南宮見物をしたいと
しつこく言い張るので
結局、宮人は、
貴賓たちの部屋を
片付ける仕事を任せました。
貴賓たちが入る前に
念入りに掃除をしていたし
彼らが部屋を使ってから
数日しか経っていないので
この程度なら、
ラスタが無理をせずに
適当に仕事ができると
宮人は思いました。
ところが、ラスタは
全く仕事をするつもりは
ありませんでした。
ラスタは
ガリヌエラの部屋を見つけ出し
そこへ入るや否や
花瓶を叩き壊し
カーペットを靴で叩きつけ
あらかじめ持ってきた紙くずを
部屋にばら撒きました。
ラスタは
ソビエシュの部屋も
同じようにしたいと思いましたが
そんなことをすれば
宮殿から追い出され
ナビエのそばにいることが
できなくなります。
ラスタは歯ぎしりをしながら
ガリヌエラの部屋を
滅茶苦茶にしました。
部屋の中が完全に汚くなると
ラスタは、ゆっくりと
部屋を片付け始めました。
夜明けになり
部屋へ戻って来たガリヌエラは
滅茶苦茶になった部屋を見て
怒りました。
ラスタは、ガリヌエラが自分を見て
捕まえないように
巧妙なタイミングで
ガリヌエラの部屋から出た後でした。
ガリヌエラはすぐに部屋の外へ出て
ラスタを呼ぶと
はらわたが煮えくり返りそうなのを
押さえながら
ラスタが部屋を汚くしたのかと
尋ねました。
ラスタは、掃除をしていたと
力なく答えました。
ガリヌエラは、
掃除をしたの?
気が触れたのではないの?
私の部屋で大騒ぎをしていたのね。
と声を上げました。
ラスタは、
自分が部屋に入る前から
そうなっていたと答えました。
ラスタの言葉に
カッとなったガリヌエラは
ちょっと!
と叫んだ瞬間、ラスタは
見えない手で
平手打ちでもされたかのように
倒れて、
すすり泣きしながら
ごめんなさい!
と謝りました。
そして、
片付けようとしたけれど
部屋の中がゴミ箱みたいで
どうしようもできなかった。
お嬢様が
部屋を汚く使っているのは
ラスタのせいではありません。
ラスタはケガをしたばかりなので
まともに掃除ができないので
人を呼ぼうと思いました。
あまり怒らないでください。
と言いました。
ただでさえ弱そうに見えるラスタが
床にうつ伏せになり
ひたすら謝っているので
ガリヌエラは慌てました。
通りがかる人たちが
彼女を非難するので
ガリヌエラは苛立ちました。
しかし、ここで声を荒げても
自分だけが悪者になるので
ガリヌエラは怒りを抑えて
できるだけ穏やかに
私が、この下女に
意地悪をしていると思う方は
私の部屋が、どのような有様か
一度見てください。
そうすれば、この下女が
どれだけ利口に振る舞っているか
分かります。
と話しました。
すると、人混みの中で
その様子を見ていた
エミール伯爵が近づいて
白熊ちゃんは
そんな性格ではない。
と言いました。
ガリヌエラは
自分が下女をいじめる性格なのかと
エミール伯爵に抗議しました。
彼は、もっともらしく笑いながら
ラスタが起き上がるのを助けました。
そして、
そうではないけれど誤解される。
と、弁解しました。
ガリヌエラの目が
いっそう冷たくなると、
エミール伯爵は
にっこり笑いながら
倒れていた白熊ちゃんを助けます。
と、ごまかしました。
◇許してくれた理由◇
ガリヌエラのいた所から
少し離れると
ラスタはエミール伯爵に
もたせかけていた身体を
真っすぐにしました。
もっと期待していたのに。
ラスタの断固たる態度を
エミール伯爵は残念がりましたが
ラスタは、大丈夫だと
きっぱり言いました。
南宮を離れようとするラスタを
エミール伯爵が追いかけ
送って行くと言いましたが
ラスタは必要ないと言いました。
エミール伯爵は
ラスタが、先ほどまで
一人で立つこともできなかったと
心配すると
ラスタは、もう一人で歩けると
告げました。
ラスタはエミール伯爵に
ハインリ王子の側の人だと
嘘をついていたので
訳もなく良心が咎め
素早く歩きましたが
エミール伯爵は自分の歩く速度を
ラスタに合わせていました。
彼女は、途中で、
エミール伯爵を撒くことを考えながら
仕方なく、ハインリ王子の部屋の方へ
歩いて行きました。
エミール伯爵はラスタに
騎士の次のターゲットは
ガリヌエラかと尋ねました。
ラスタは、
エミール伯爵の言っている意味が
わからないと答えると
彼は
ガリヌエラは初めて会ったので
性格はわからないけれど
彼女の兄のクランティア侯爵は
性格が悪いので
露骨にガリヌエラと敵対すると
侯爵がどう出てくるかわからないと
忠告しました。
ラスタは、自分を脅迫するのかと
尋ねましたが、エミール伯爵は
忠告です。
私は白熊ちゃんに関心があるので。
と答えました。
ハインリ王子の
部屋の近くに到着すると
ラスタは、エミール伯爵に
自分に関心を持たないで
早く帰るように言うつもりでした。
そして、自分も急いで西宮へ
帰るつもりでしたが
そこへハインリ王子が
少しお酒の匂いを漂わせながら
歩いてきました。
ラスタは、
しまったと思いましたが
事情を知らないエミール伯爵は
仕事中に倒れたラスタを
送って来たと
ハインリ王子に告げた後
帰って行きました。
遠ざかるエミール伯爵の
後頭部に向かって、ラスタは
お節介な奴!
と叫びました。
またハインリ王子が
何か文句を言うのではないかと思い
ラスタは心臓が
ドキドキしていましたが
ハインリ王子は
いつからお手伝いさんだったっけ?
と笑いながら
文句を言っただけでした。
ラスタは何か言おうとしましたが
先にハインリ王子が、
憎たらしいけど
今度は許してやる。
と言いました。
ラスタは警戒しながら
ハインリを見つめると
彼は、
あなたを西宮へ送って行くので
皇后陛下に会ったら、
私が親切にあなたを送って来たと
言うように。
私も、
あなたが私の名前を使ったことを
知らないふりをするから。
と言いました。
◇苦しむナビエ◇
初日のパーティが終わり
部屋に戻って来た後も
皇帝陛下とガリヌエラさんが
踊っていた時に
手をぎゅっと握っていた。
2人共、同じような時間に消えて
戻ってこなかった。
と、人々がひそひそ話していた声が
ナビエの耳に残っていました。
それを聞いていた侍女たちは
ナビエの顔色をうかがいながら
慎重に話をしていたので
応接室の中の雰囲気が暗くなりました。
ナビエは耐えきれなくなって
一人で西宮を出ました。
宮殿内では
あらゆるデマが流れていることは
知っているけれど
ガリヌエラと手を握ったまま
冷ややかに自分を見ていた
ソビエシュの視線を思い出すと
その噂は全て真実のように
思えました。
どのくらいの時間、
壁にもたれていたのか
ぎこちなく会話をする声と
足音が聞こえたので
ナビエは姿勢を正しました。
ハインリ王子と
ラスタがやって来ました。
仲の悪い2人が一緒にいるので
ナビエは不思議に思い
2人を交互に眺めました。
ラスタは南宮で会ったと言い
ハインリ王子は
途中で会ったと言ったので
ナビエが眉をひそめると
2人は睨み合った後で
言葉を変えました。
南宮付近の道です。
考えてみると南宮で会いました。
また答えが食い違っていました。
真実は何なのか、
なぜ2人とも、ああなのか。
ナビエは腕を組んで
首を傾げました。
2人は睨み合っていましたが
また、言葉が食い違うと
いけないと思ったのか
口ごもってばかりいました。
ナビエは、
その姿を可愛いと思いましたが
今は一人でいたかったので
わかりました。
と答えた後、
別の場所へ歩いて行きました。
ナビエは、ゆっくり歩いていると
彼女と距離を開けて
ハインリ王子が後からついてきました。
どうしてついてくるのかと
ナビエが尋ねると
ハインリ王子は
ナビエが
落ち込んでいるように見えたと
答えました。
ナビエは、1人でいたいと
きっぱり言うと
ハインリ王子は
躊躇っていましたが
いきなり彼の姿が消えました。
そこにいるのは金色の鳥一羽。
知っているとはいえ
ナビエは驚きました。
鳥になったハインリ王子は
速足で近付いて
この姿ならどう?
大丈夫?
と聞いているかのように
ナビエをじっと見上げました。
ナビエは、
ふざけているのかと思いました。
色々と書きたいことは
あるのですが
それは、最終回まで待つことにします。
今回のお話を読んで感じたのは
やはり、ラスタは
自分を守るために
自分の儚げな容姿を武器にして
皇后まで上り詰めた女性だったと
いうことです。