156話 ラナムンに乱して欲しいと言われたラティルでしたが・・・
◇変わらず無表情の顔◇
ラティルは、
この言葉の意味を
どのように解釈すべきか
混乱しました。
色々な解釈が
できるかもしれないけれど
その言葉を聞くや否や、
彼女は
ベッドの上で乱れたいという
意味ではないかと考えました。
ラティルは、
冷淡なラナムンの顔を
じっと見ました。
彼の表情に、少しでも
タッシールのようなところがあれば
ラティルは、自分の解釈が
正しいと思いました。
しかし、このような時でも
ラナムンの表情に変化はないので、
ラティルは自分の解釈が正しいと
確信することはできませんでした。
彼女は、テーブルの上の
ナプキンに触りながら
その言葉の意味が曖昧に聞こえると
言いました。
ラナムンは
ラティルの指を見つめながら
どのように聞こえるかと尋ねました。
彼女はナプキンを剥がしながら
ベッドの上での話を
しているように聞こえると思い
訳もなく焦りました。
彼女は考えているふりをしながら
ナプキンを取り続けました。
すると、突然ラナムンが
一番上のボタンを外し、
暑いと言って手で扇ぎました。
その声を聞いてラティルは
視線を上に上げましたが
外したボタンの間から
ラナムンの鎖骨が目に入ったので、
彼女は視線をそらしました。
ラティルはラナムンに
なぜボタンを外すのかと尋ねると
彼は、暑いからだと
淡々と答えました。
しかし、ラティルは
微妙に恥ずかしい、この雰囲気に
当惑しました。
ただ笑って済ますには
ラナムンは美しすぎました。
ラティルは口元に無理矢理力を入れて
笑顔のようなものを作り出しましたが
彼女を混乱させたラナムンは
平気な顔をしているので
憎たらしいと思いました。
もしも彼の耳元が赤くなかったら
皮肉を言うほどでした。
彼と目が合うと、
彼の灰色の瞳が輝き
宝石のように見えました。
ラティルは、
自分の意志とは関係なく反射的に
自分の頬が
上に上がるのを感じました。
しかし、
恥ずかしくないわけではないので
彼女は扇で顔の半分を隠すと
自分たちが
互いにプレゼントになれるかどうか
誕生日になればわかるだろうと
呟きました。
彼女は扇で口元を隠したまま、
ラナムンの反応を
隅々まで観察しましたが、
彼は普段通りの顔に
見えるようで見えないような
微かな微笑を
浮かべているだけでした。
時計を見て、
そろそろ帰る時間だと思ったラティルは
唇の動きを制御できるようになったので
真顔で扇を降ろすと、席を立ち
その日を楽しみにしていると
告げました。
◇相談する人◇
皇帝が出て行くや否や
カルドンは部屋の中に入り
ラナムンの顔色を窺いました。
彼はカルドンの前でも
顔に感情を出すことは
ありませんでしたが、
カルドンは幼い頃から
ラナムンと一緒に暮らしてきたので
他の人より、
ラナムンの表情を読むのに
長けていました。
カルドンはラナムンの気分が良いことに
気がつきました。
陛下が坊っちゃんに
良いことを言ってくださったんですね!
とカルドンが叫ぶと、
ラナムンは、テーブルを片付けろと
目で合図をしました。
使用人がテーブルの上を片付けて
出て行くと、
カルドンは急いで扉を閉めて
ラナムンに近づきました。
彼から早く良い知らせを聞きたくて
我慢ができませんでした。
ラナムンは傲慢に後ずさりしましたが
その姿は威風堂々としていて、
カルドンは目頭が熱くなるのを
感じました。
不能薬を飲んだり、
顔にトラブルが起こったり
人間枕にされて意気消沈している
ラナムンの姿を見て来たので、
彼が肩を伸ばしている姿を見て
カルドンは感激しました。
ラナムンは、ラティルが自分の顔を
気に入っているようだと言いました。
カルドンは、ラナムンの顔は
誰でも気に入っていると
返事をしました。
ラナムンは、
誕生日まで何もあってはならない。
食べ物に変な物が入っていても、
肌に異常が生じてもいけないと
言いました。
カルドンは、ラティルとラナムンが
誕生日に何か約束をしたのかと思い
心臓が小躍りました。
口の重いラナムンは
それ以上、情報を与えませんでしたが
カルドンは、それだけでも
十分満足をして素早く頷きました。
カルドンは、
いつもの倍、注意を払うので
心配しないようにと言いました。
ラナムンは、この話が
外に漏れるのも防ぐようにと
カルドンに指示しました。
どうして噂を防ぐように
ラナムンが指示するのか
分かりませんでしたが
カルドンは素直に
そうすると答えました。
ラナムンは時計を見て、立ち上がり
ラティルはもう来ないので
タッシールの所へ行くと
告げました。
カルドンは、ラナムンが
手紙を書いていた机を見ました。
ラティルが来たので
便箋は裏返しになっていましたが
どんな内容かは分かっていました。
カルドンは、ラナムンに
本当にタッシールに
対抗者の手紙について
相談するのかと尋ねました。
ラナムンは、
自分の家とゲスターの家は
仲が悪いので、相談すれば
自分の弱点を渡すことになる。
カルレインは、
その後の調査結果は
問題なかったけれど、
クラインの御札事件の時の姿が
気になると言いました。
ラナムンはカルドンと話し合った末
彼を対抗者と呼ぶ手紙が来ていることを
タッシールに相談することにしました。
しかし、その手紙を書いている途中で
ラティルが急にやって来たので、
中断してしまいましたが、
一度、書くのを止めてしまうと
手紙よりは直接彼に相談した方が
良いと思っているようでした。
カルドンは、
タッシールは商人なので、
お金をたくさんくれるという人が
現われれば
自分たちの情報を
売ってしまうのではないかと
心配していました。
しかし、ラナムンは
タッシールの商団は信頼度が高いし
彼自身も口が重い。
商人は情報力が命だから、
貴族の間で広まる情報とは
異なる情報を
持っているかもしれない。
それくらいの商人なら、
目先の利益より
長期的な展望を持って行動すると
言いました。
それでも、カルドンは心配そうでしたが
ラナムンは部屋の外へ出ました。
◇タッシールに相談◇
幸い、タッシールは部屋の中にいて、
彼はラナムンの要求通り、
人払いをすると、
彼を楽な椅子に座らせ
自分もその隣に座りました。
そして、ラナムンが自分と
2人きりで話したがっていることに
感動している。
話したいことは何なのか、
心の準備をして聞いた方がいいかと
尋ねました。
ラナムン:
君は頭がいい。
タッシール:
心の準備は必要なさそうですね。
ラナムン:
私が対抗者だという手紙が
ずっと届いている。
タッシール:
ちょっと待ってください。
やはり準備をします。
タッシールは、
片手を伸ばしながら
話を止めろという合図をすると
ラナムンはおとなしく
話すのを止めました。
タッシールは心臓の上に手を置き、
ラナムンの言っている対抗者が
自分の知っている対抗者と同じなのか
比べているように、
妙な笑みを浮かべました。
タッシールは、
ラナムンの言う対抗者が
500年に1度、
吸血鬼のロードと共に現れる
対抗者のことかと尋ねました。
それを聞いたラナムンは
タッシールの知識に感心しました。
彼はゾンビが現われているので
調べられることは全て調べたと
答えました。
それだけでなく、タッシールは
ラティルの命令で
アナッチャを追跡し
ゾンビと戦ったこともありました。
死んだトゥーラが
ゾンビを操っている姿も見ました。
当然、調査をせざるを得ませんでした。
タッシールは3分程、沈黙した後、
ラナムンが対抗者なのかと尋ねました。
彼は否定しました。
けれども、タッシールが
そのような手紙が来ていることを
指摘すると、ラナムンは、
自分は対抗者ではないと思うけれど
なぜ、自分の所に
手紙が来ているのだろうかと
疑問視しました。
タッシールはラナムンに
手紙を見てもいいか尋ねました。
ラナムンは、
先に受け取った手紙は
全て燃やしてしまったと言って、
最新の手紙を差し出しました。
タッシールは、
それが何だか分かっているラナムンを
賢いと言いました。
タッシールが手紙を読んでいる間、
ラナムンは大きなイーゼルに乗っている
スケッチブックを見ました。
そこには、にっこり笑っている
ラティルの肖像画が描かれていました。
宮廷画家の絵のように
精巧ではないけれど
普通の人とは比較にならないほど、
上手に描かれていました。
ラナムンがどこを見ているか
気づいたタッシールは、
笑いながら
ラナムンにも一枚
絵を描いてあげようかと
提案しました。
しかし、彼は、
いつでもラティルに会えるので
肖像画で想像したりしないと
断りました。
タッシールは、自分が描くのは
ラナムンの絵だと言うと、
彼は、自分の肖像画は
タッシールのような
生半可な小僧ではなく、
専門的な画家に任せると
答えました。
すると、タッシールは、
その若造に相談しに来ているのに
あまりにもひどいと
寂しそうな声で言って、
手紙をラナムンに返しました。
ラナムンは封筒を受け取り
しばらく躊躇った後、
素人の中では、
タッシールが一番うまいと
冷たい声で誉めました。
けれども、彼は
その程度では傷は癒えないと
言いました。
ラナムンは、
タッシールは
最も優れた画家ではないけれど
一番優秀な商人だと褒めました。
タッシールは、
プライドの高いお坊ちゃまが
あんなに頑張っているのを見ると
困って自分の所へ来たことが分かり
目尻が下がりました。
タッシールは、ラナムンに
手紙は冗談ぽくないし、
なかなかもっともらしい内容だと
告げました。
そして、タッシールの調べでは
数年前に、神殿が
対抗者候補を呼んだことがあるけれど
ラナムンもそこへ行ったのかと
尋ねました。
彼は、行ったけれども
すぐに神殿を出たと答えました。
タッシールは、
神殿に呼ばれた人が皆、
この手紙をもらっているかと
尋ねました。
ラナムンは首を振って
分からないと答えました。
タッシールは、
全員がこのような
手紙をもらっていたら
おそらく話が出ただろうけれど
自分の考えでは、
全員がもらったわけではないと思うので
まずは、そこから調べると告げました。
ラナムンは、
それで大丈夫なのかと尋ねましたが、
タッシールは、
手紙をもらう人が多ければ多いほど、
ラナムンが対抗者である確率が
低くなる。
それと手紙の送り主も
調べる必要があると話しました。
頭の回転が速く、感情に流されず、
冷静に物事を見つめ
適切な判断をして
行動すべきことを決定する
タッシール。
それでいてお茶目な面もある
タッシール。
一癖も二癖もある側室だらけの中、
タッシールが出て来る場面に
ほっとさせられます。