172話 アイニは白い髪の男が誰なのか考えていました。
◇白い髪の男の正体◇
傭兵たちが、食事をしているのか、
瞑想しているのか分からない
雰囲気の中
アイニは、前日に現われた
見知らぬ訪問者のことを
思い出していました。
繊細な天使のような顔と
残酷な雰囲気。
白目が赤くなると、
さらに恐ろしく見えた目。
あれほど強いカルレインを、
笑いながら相手にした強さ。
彼女がドミスだと分かっていながら
意に介さなかった態度。
アイニがぼーっとしていると、
前日、アイニの悲鳴を聞いて
助けに駆け付けた吸血鬼の傭兵が
大丈夫かと気遣ってくれました。
アイニは、前日に会った
吸血鬼のことを考えていたと
返事をすると、
傭兵は、
その吸血鬼が誰なのか、
自分が顔を見ていれば良かったと
言いました。
彼は、部屋の中に入る前に
扉の下敷きになってしまったため
白い髪の吸血鬼を
見ることができませんでした。
アイニは、
自分を殺しに訪れたのに
怒りも恨みも浮かんでいなかった
あの赤い目を思い出すと
両腕に鳥肌が立ち、
身震いしました。
アイニの様子を
じっと見ていた傭兵は、
ロードとして強かった記憶はあっても
今は弱いので、不便だと、
残念そうに言いました。
アイニは、弱いという言葉に
ぎこちなさを感じました。
カルレインは
逃げろと言いましたが
アイニは逃げたくありませんでした。
でも、あの白い髪の男が
戻って来たら、どうしよう。
そして、あの男は、
今、どこにいるのだろうか?
◇リードの先◇
その白い髪の男、ギルゴールは
踊りながら森を歩いていました。
片手には、犬の散歩に使えそうな
リードを持っていて、
その先には、
爆破専門魔法使いザイオールの
首がつながれていました。
ギルゴールは彼に
オルゴールというあだ名をつけました。
その言葉の意味するところは、
ギルゴールがリードを引っ張ったら
彼が上手に踊れるように
口笛を吹くこと。
2回引っ張ったら、曲を変えること。
3回引っ張ったら、
口笛を吹くのを止めることでした。
ザイオールは捕まえられて、
連れて行かれるのも嫌だったし
皇子の側近である自分が
このように扱われることに
本当に腹が立ちました。
オルゴール!
1人でよく遊んでいたと思った
ギルゴールが
3回彼を引っ張りながら
ザイオールを呼んだので、
彼は口笛を吹くのを止めて
不満に満ちた目で
ギルゴールを眺めました。
彼は崖っぷちに立つと
両腕を広げて、
どこかを見ていました。
あれを見て。
ギルゴールの命令を聞いた
ザイオールは
素直に頭を向けると
崖の下の霧がかかっている間に
黒くて大きな城が見えました。
あの下は崖なのに、
こんな所に城があるのか。
驚いたザイオールは目を擦りました。
ギルゴールは
リードを1回引っ張りながら笑うと
行進曲を演奏してと命じました。
◇大神官のイヤリング◇
噴霧器に水を入れたラティルは、
怒りを込めて、
サボテンに水を撒きました。
水をかけすぎて、サボテンが
シャワーを浴びたようになると、
ようやくラティルは水やりをやめて
ハンカチで
サボテンの水気を拭いました。
その後、彼女は
ハンカチを床に投げつけると
壁にもたれて座りました。
気分が悪すぎて耐えらえませんでした。
私が怖がらなかったら帰って来るの?
わざと声を出して
怒った様子を見せましたが、
返事はありませんでした。
私が怖がっているみたいなの?
私が怖がっているような
気がするの?
やはり、返事はありませんでした。
自分は一体どうすれば良かったのか。
自分の側室が吸血鬼だと知った状況で
どれだけ落ち着いていなければ
ならなかったのか。
護衛を1人も付けず、
自分だけで
彼の正体を追及しただけでも
かなり忍耐強くなったと
ラティルは思いました。
もしかして、
私が怖がっているから
しばらく席を外すと言ったのは
全て言い訳で、
側室の席を残したまま、
ドミスを訪ねているのでは
ないだろうか?
サーナット卿とカルレインが
吸血鬼だと知ってから、
ラティルはドミスが本物か偽者か
気にしていませんでしたが、
こうなった以上、
やはり確認した方が良いと思いました。
ラティルは
カルレインの部屋から出ると
部屋の前で待機していた副団長に
確認したいことがあると告げて、
早足で歩いて行きました。
すると、
聖騎士たちに囲まれた大神官に
声をかけられました。
ラティルは足を止めると、
彼は明るい顔でラティルの所へ
駆けつけました。
そして、今日は天気が良いと
笑顔で挨拶をしました。
ラティルは、
否定しようとしましたが、
頭を上げると、
空はとても澄んでいました。
カルレインが消えた後、熱が出て
天気までどんよりしていると
思っていましたが、違いました。
だからと言って、
一緒に笑いながら
「天気がいい!」と言う
余裕はないので
ラティルは無理矢理笑いながら、
大神官の背中を叩いて、
運動して、運動。
と言いました。
しかし、大神官は
持っていたダンベルを聖騎士に渡し、
ラティルの後を付いて来て、
もうすぐ皇帝の誕生日だと
話しかけました。
ラティルは、大神官に、
プレゼントの話を
しようとしているのかと尋ねました。
彼は「はい」と明るく叫びました。
そして、
他の人たちは何を用意しているか
調べようとしたけれど、
皆、教えてくれない。
タッシールには、
ラティルの前で裸で運動しろと
言われたけれど、
とんでもないことだと、
いたずらっぽく告げ口しました。
ラティルは、
タッシールの頭の中にいた
大神官を思い出して、
咳ばらいをすると、
タッシールの言葉は
半分聞き流すように。
もしかしたらと思って
言うことだけれど、
外で運動する時も服を着て。
と忠告しました。
大神官は、
意味が分からないようでしたが
ラティルは彼の肩を叩くと
背を向けました。
しかし、大神官は
ラティルの後を付いて来て、
彼女を呼びました。
彼が隣で明るく話しかけてくると、
ラティルは、
心が複雑に絡み合っているので
後で話すとは言えず、
ラティルは頷いて、
彼の話を聞きました。
そして、大神官が描いたお守りは
本当に効果があるのかと尋ねました。
彼は、
効果がある。
だから、怪物が現れる前に
お守りを全て
掘り出したのではないかと
答えました。
怪物が勝手に入って来たのか、
誰かが入れたのかは分からないけれど
そのタイミングで、
全てのお守りが
掘り起こされたということは
偶然ではなく、
誰かがやったとしか
思えませんでした。
大神官と話しているうちに、
ラティルはハーレムの外へ出る
正門の前に到着しました。
大神官は、そこまで
ラティルを見送るつもりだったのか
正門ギリギリの所で
立ち止まりましたが
ラティルは、彼に、
悪人ではないけれど、
人間ではない存在がそばにいたら、
正体を知ることができるのかと
尋ねました。
大神官は、
いちいち確認したことはないけれど
ピンと来る人はいる。
良く知っている人だと思うと
答えました。
ラティルは、確かなのかと
尋ねました。
大神官は、
サーナット卿とカルレインについて
一言も話したことが
ありませんでした。
ラティルは、大神官の眼目を
疑わしく思うと同時に
期待感を抱きました。
本当に邪悪な存在なら、
大神官が気づくはず。
気づかなかったということは、
サーナット卿とカルレインは
吸血鬼でも、
悪い吸血鬼ではないのではないかと
思いました。
何を基準として、
良い吸血鬼と悪い吸血鬼を
区別するかは分かりませんでしたが。
考えてみれば、
大神官が散歩をしている時に、
たまに変な感じをすると
話していたことがありました。
大神官は、
湖の周りに埋めたお守りは
確かに人が掘り出した。
自分に彼らが見つけられるかどうか
気になるかと尋ねました。
ラティルは、
それを聞こうとしたわけではないけれど
気になっていたのは事実でした。
ラティルは、
黒魔術関連の怪物たちが
歩き回っているけれど、
人間でありながら
彼らと手を組んだ人たちもいる。
大神官と初めて会った時も
彼は襲われたと言いました。
大神官は、深刻な顔で頷きました。
ラティルは、
カルレインはどこへ行ったの?と
騒いでいた自分が
少し恥ずかしくなりました。
もちろん、調査に関する事は
引き続き報告を受けているし
陣頭指揮を執っていたけれど
心の中では、
カルレイン、どこへ行ったの?
と叫んでいました。
もしかしたら、カルレインに
危険でない証拠を見せてと言うより
彼を刑務所に閉じ込めて
追求しなければ
ならなかったのではないだろうか。
いや、カルレインは
自分を救うために身の危険を犯して
宮殿を出てくれた。
カルレインが、
このことに関係する吸血鬼なら
あえて危険を犯さないと思いました。
その時、ラティルの暗い顔を
じっと見ていた大神官が、
少し自信がなさそうに、
邪悪な存在に触れると
色が黒くなって
割れてしまうという石があると
話しました。
ラティルは、今、持っているのかと
尋ねると、大神官は
2つ持っていて、
念のため持ち歩いていると
答えました。
しかし、彼は自信なさそうに、
それは確かではないし、
伝説のようなもので、
あらゆる邪悪な所に持っていったけれど
壊れた姿を見たことがないと
言いました。
話を終えた大神官は、
左耳から小さなイヤリングを外して
これです、と言って
ラティルに差し出しました。
2つ持ち歩いていると言ったので
右耳のイヤリングは、
違う石なのかと考えながら
ラティルがイヤリングを
受け取った瞬間
石が砕けました。
そんなにカルレインのことが
気になるなら、
勝手にしろなんて
言わなければ良かったのに。
ラティルも1人の人間なので、
個人的なことで悩むことも
多々、ありますが、
仕事をしている最中にも
心の中で、
カルレインに戻って来てと
叫んでいるのは、かなりの重傷。
そんな人に、国政を任せるのは、
不安を感じます。
それでも、大神官が
ラティルの気持ちを
軌道修正してくれて良かったです。
カルレインとは真逆の大神官は
ラティルを太陽のように
温かく包んでくれる存在だと
思います。
ギルゴールのことを知らないアイニは
ドミスの転生ではないと思いますが
それなら、どうして、
ドミスの過去を知っているのか。
謎だらけの、このお話の原作は
すでに600話を超えていますが
まだ完結していません。
タイトルだけ見ても、
まだ、終わりそうな気配がありません。
全てマンガ化したら、
単純に計算しても
10年はかかりそうです。