175話 サディに化けている時に、タッシールと会ってしまいました。
◇タッシールの尾行◇
気分は悪いけれど、
ドミスはカルレインの居場所を
知っているかもしれないと思いながら
彼女を探しに来たラティルは、
いきなり出会ったタッシールが
後を付いて来るので
眉をしかめました。
気のせいかもしれないと思いましたが
店の前の大きなガラス越しに
後ろを見ると、
理由は分からないけれど、
確かにタッシールは
後を付いて来ました。
ラティルは大きな柱の後ろを通りながら
後ろをちらっと確認し、
迷路のような路地の中へ入りました。
◇追いかけっこ◇
その時刻、地下城では
ギルゴールが動物の仮面たちを
追いかけていました。
しかし、動物の仮面たちは、
ギルゴールに
隠れ家が見つかった場合に備えて
逃げる練習をしていたため、
彼らが勝機を握っていました。
中でも、キツネの仮面は、
キツネの巣を作っておいたので
最も安全に非難できました。
そして、練習したのに、
まともに脱出できない
動作の鈍い何人かを
自分の避難所に押し込んだ後、
入口に、ウサギの仮面と並んで立つと
まだ新しい居場所がないのに
面倒なことになったと呟きました。
ウサギの仮面は、
面倒なことは問題ではないと
返事をしましたが、キツネの仮面は
この地下城は場所もいいし、
防御も堅固だったので、
このような場所が
また見つかると思うかと尋ねました。
ウサギの仮面は、
これだけ防御が徹底しているところを
作る必要があるのか。
自分たちが連れていたロードが
ギルゴールに偽者だとばれた。
また偽者を作っても無駄。
彼はバカではないから、
二度と騙されないと言いました。
キツネの仮面は、
食餌鬼を吸血鬼のロードに
偽装したのは無理だったのかと
ため息をつきました。
ウサギの仮面は、
食餌鬼は食餌鬼の匂いがする。
だから、自分は
食餌鬼は今一つだと言ったと
返事をしました。
キツネの仮面は、
近くに寄らなければ
匂いは分からない。
嗅覚の鈍い奴らは気づかないと
反論しましたが、
ウサギの仮面は、
ギルゴールは嗅覚が鈍くないし、
トゥーラの近くに来たから、
彼が偽者だと
分かったはずだと舌打ちしました。
キツネの仮面は、
バカな皇子。
私が逃げようと言った時に
一緒に行っていれば、
互いのためにも良かったのに。
と言いました。
◇ドミスではない◇
その頃、ラティルは
タッシールを撒くことに成功し
ついにアイドミスを
目の前にしました。
しかし、彼女は
傭兵たちに囲まれていたので
最初は話すのが大変でしたが、
15分程過ぎると
彼らは、どこかへ行ってしまいました。
ラティルは露店カフェに
1人残ったアイドミスに近づき
声をかけました。
彼女は、こんな所で
サディと会うとは思わなかったという
顔をしていました。
ラティルも、また2人で会いたいとは、
思わなかったものの、
アイドミスに、
時間はあれば、聞きたいことがあると
尋ねました。
彼女は返事の代わりに、
自分をどうやって見つけたのかと
尋ねました。
ラティルは、
以前もこの辺りにいたから。
ずっと、この辺りにだけ
いるようだからと答えました。
ラティルは、ここへ来るまでの間、
アイドミスに
どうやって探りを入れるか
ずっと悩みました。
いきなり言うべきか。
それとも、遠回しに聞くべきか。
最初は、
カルレインとドミスの出会いについて
聞いてみて
彼女が本当にドミスか
確認しようとしました。
しかし、初めて会った時に
アイドミスと微妙に神経戦を繰り広げた
サディが、
カルレインとドミスの出会いについて
聞くのは
突拍子もなく不自然に
感じられました。
結局、ラティルはあれこれ考え
現在まで続いている
過去の因縁について
聞いてみることにしました。
以前、あなたは
私がラトラシル皇帝の命令で
あなたとカルレインを
偵察していると言ったけれど、
偵察は私ではなく、
他の人がやっているみたいですね。
と、わざと気分を悪くする
様子を見せると
アイドミスは眉をひそめました。
他の人が
自分を偵察していることを
訝しがるアイドミスにラティルは
あなたのお友達が。
名前はギル・・
何て言ったっけ?
その人があなたを
ずっと追いかけていたのに、
あなたは何も言わないのですか?
と尋ねました。
アイドミスは、カップを持ったまま
眉をしかめ、
ラティルの言ったことが
理解できないような顔で
ギル?
と答えました。
ラティルはアイドミスが
「ギルゴール」と答えると思ったので
彼女と一緒に
「あれ?」と思いました。
「ギル」まで出てきたら、
すぐに分かるのではないか。
「ギルゴールのこと?」と
聞いてこなければいけないのにと
思いました。
ラティルは、
あなたの友達ではないのですか?
頭が白くて目が赤くて。
と説明すると、
アイドミスの目と口が大きくなり、
今になって、
誰なのか理解できたようで、
彼女は
まさか。
と呟きました。
ラティルはその様子を
じっと眺めていましたが、
ラティルが
何かもっと聞いてくるのではと
アイドミスが自分を見た瞬間、
にっこり笑い、
アイドミスが偽者だと指摘しました。
驚いたアイドミスは、
ラティルの言葉を
聞き返しましたが、
彼女は、アイドミスが
ドミスだと思ったけれど
ドミスではないと言いました。
ラティルはドミスが
転生した人だとは知りませんでした。
自分と同じ時代に生きて、
年の差がない人だと思いました。
当然、相手が転生したので、
記憶が不完全だという考えは
ありませんでした。
ラティルにとって、
目の前にいるドミスの顔をした人が
友達のギルゴールを
全く知らないことが、
ドミスではないという理由として
十分でした。
◇サディは敵対者?◇
アイニはカップをギュっと握りました。
カルレインから、
ずっと「ドミスの転生」であることを
否定され続けていた上に、
自分とは何の関係もない女が、
自分を否定しました。
しかも、この女は、
アイニがドミスの姿に変わる前にも
カルレインについて、
生意気な話をしたので
彼女はさらに腹が立ちました。
しかし、
白い髪の赤い目をした男の話は
気になりました。
アイニを偵察しているという
その男は、
突然現われて、彼女を攻撃したけれど
カルレインが阻んでくれたので、
逃げて行った吸血鬼のことだと
思いました。
今更、
その男を怖がったりしないけれど、
ラトラシル皇帝の特使に過ぎない
この女が、なぜ、
白い髪の吸血鬼の名前を知っていて
自分がドミスかどうかを見分けるのに
その名前を使ったのかが
気になりました。
アイニが返事をしないので、
ラティルは、からかうように
自分の話が間違っていたかと尋ね
コーヒーを口に持って行きました。
その様子を見たアイニは、
遠くない席で自分たちを見ている
吸血鬼の傭兵に目で合図をしました。
実はアイニは、
先ほど、吸血鬼の傭兵たちに
茶色の髪の女が
しきりにこちらを見ていると聞いて
その女性が
サディだと思っていました。
そのため、アイニは
友人の吸血鬼を1人除いて
全員を他の所へ行かせ、
サディが話しかけるのを
待っていました。
そして、
近くに残れと言った吸血鬼には
自分が合図を送ったら、
茶色の髪の女を攻撃するようにと
あらかじめ指示を出していました。
アイニは依然として、
サディが対抗者だと疑っていました。
こうすることで、
彼女が本当に吸血鬼と戦えるのか
確認できると思いました。
しかし、
サディが話したがっていた内容が
白い髪の吸血鬼のことだとは
思いませんでした。
アイニは、
今、攻撃するようにと合図を送ると
指示を受けていた吸血鬼は
かすかに頷きました。
彼女はラティルに、
人のいない所へ行って話そうと
提案しました。
アイニは人通りの少ない路地に
ラティルを連れて行きました。
彼女は、
もう一つ聞きたいことがあると言って
素直にアイニに付いて行きました。
そして、人の誰もいない
広めの路地に到着した瞬間、
アイニが目で合図をすると、
事前にここに来ていた吸血鬼が
すぐにサディを攻撃し始めました。
アイニは後ろに下がり、
サディが目の前に現れた人に驚き、
眺めているのを見物していました。
サディが対抗者でなければ、
適当に相手をして止めるようにと
吸血鬼に頼んでいたので
心配はしていませんでした。
もし、対抗者が誰なのか
知ることができたら、
カルレインの役に立てる。
ずっと自分を否定している彼も
本心を分かってくれる。
自分がロードでなくても
一緒にいてくれると思いました。
考えを終えるや否や、
サディを見ると、
彼女は襲ってきた人の腹部に
拳を振り下ろし、
もう片方の手で顎を殴りました。
普通の力では、
吸血鬼に衝撃すら与えられないのに、
彼が後ろに押し出されるように
退くのが見えました。
アイニは、やはりサディは
対抗者かもしれないと思いました。
本当にそうなら、彼女は
吸血鬼に打撃を与えるだけでなく
彼を消してしまうかもしれないので
吸血鬼に逃げるように合図をしました。
彼は怒った顔でサディを見ましたが、
約束通り、その場を去りました。
アイニとサディは、
しばらく見つめ合っていましたが
サディは、アイニが
あの男に自分を襲わせたのかと
尋ねました。
彼女は返事をする代わりに
背を向けました。
サディが対抗者である確率は
さらに高くなったので、
これ以上、
彼女と絡む必要はないと思いました。
後ろから、サディが
アイニとカルレインは一緒にいるのかと
尋ねましたが、
アイニは無視して歩きました。
サディが付いてこなかったので、
アイニは彼女のいない所で、
先ほど、サディと戦った吸血鬼に、
あの女が対抗者だと思うかと
尋ねました。
吸血鬼は、青い痣ができた
自分のお腹を見せながら、
対抗者かどうかは分からないけれど
力はとても強いと答えました。
アイニは、
対抗者だから強いのではないかと聞くと
吸血鬼は、
そうかもしれないと答えました。
アイニは
傭兵たちに相談するようにと言って
眉を顰めました。
カルレインが
私と一緒にいるかだなんて。
また、何を言っているか分からない。
彼は、
ハーレムにいるんじゃないの?
そう言った瞬間、
吸血鬼は、
シーっという合図をしながら
口をつぐみました。
アイニは、目で
どうしたのかと尋ねると、
吸血鬼は、
何か音がしたと答えました。
愉快だね。
塀の裏側で
タッシールはため息をつくと
直ぐにその場を離れましたが、
口角が上がるのを
抑えることはできませんでした。
貴族のお坊ちゃまは
自分が対抗者かどうかで
悩んでいるのに、
一方では、
他の女性が対抗者だと言っている。
そんな中、傭兵王が消えただなんて
面白いと思いました。
ラティルはタッシールを
撒いたと思っていたけれど、
彼は巧妙にラティルの目から逃れ、
彼女を追跡していたようですね。
さすが黒林の頭だけあります。
アイニがいなくなった時に
ヒュアツィンテは
彼女がダガ公爵の
操り人形だと思っていたと言って、
彼女が自分の意志で消えたことに
驚いていましたが、
人の言いなりになるどころか、
彼女は、無鉄砲だけれど、
自分の感情の赴くまま
カルレインを追いかけるくらい
行動力はあるし、
悪賢いし、頭の回転は速いし、
吸血鬼を操るのも上手。
さすが、ダガ公爵の娘だと
思いました。
その彼女が
ヘウンが殺されるのを
黙って見ていて、
父親の言いなりになって、
ヒュアツィンテと結婚したのが
不思議です。
父親にだけは逆らえないのか、
彼女自身も権力欲が強いのかなと
思いました。
トゥーラは蘇った後に、
何の怪物になったのか
疑問に思っていましたが
ヘウン同様、
食餌鬼だったのですね。
彼は、まだ皇帝になることを
夢見ていますが
実際に皇帝になった時のことを考えると
恐ろしいです。