177話 一体、タッシールの両親からのプレゼントは何なのでしょうか?
◇軽いのが良い◇
ラティルは箱の中を見て
驚きました。
中に入っていたのは、
彼女が予想もしていなかった
大きなクマのぬいぐるみでした。
彼女は、
その大きな身体を見下ろしながら
お前が弟なのか。
と言ったので、
タッシールは彼女に、
何を言っているのかと聞いて
笑い出しました。
ラティルは
弟だと言ったのに、
この子が出て来たから。
と答えました。
タッシールは、
中を見るように言いました。
ラティルはクマのぬいぐるみを
持ち上げましたが、
何もありませんでした。
タッシールは、クマの中だと言って
ぬいぐるみの首筋から
お尻まで付いているファスナーを
開きました。
その中には
たくさんの宝石が詰まっていました。
驚いたラティルは、タッシールに
これは弟ではないと言いました。
彼は、本当に
弟を紹介してもらいたかったのかと
尋ねました。
ラティルは、
そうではないけれど、
タッシールだったら、本当に弟を
連れてきたかもしれないと思ったと
答えました。
タッシールは、
この中に何が入っているか、
自分も分からないと
最初に話したと言いました。
ラティルが頷くと、
彼は訳もなく寂しそうなふりをして
ぬいぐるみの耳を引っ張り、
後から弟の話をしたので、
当然、冗談だと分かっていると
思ったと言いました。
ラティルは、
そこまで頭を働かす気がなかったと
返事をしましたが、
タッシールに、
どうしたのかと聞かれるのを恐れて
訳もなく躊躇しました。
しかし、彼は何があったのかと
尋ねる代わりに
クマの中からイヤリングを取り出し
ラティルに見せながら、
それを付けることを提案しました。
ラティルがじっとしていると
タッシールは
イヤリングを持って近づき、
ラティルの耳を擦りました。
急に敏感な部分に触られたので
ラティルは反射的に
身体を動かしました。
そして、手が触れただけなのに、
過度に反応したのが恥ずかしくて、
わざと表情を固くしました。
しかし、タッシールは
ラティルの耳に
神経を集中させていたので
彼女の顔を見ていませんでした。
首筋に密着したタッシールの手は
用心深くラティルの耳に
イヤリングを付けていました。
まだなの?
最近、目が悪くて。
私がやる?
ここには鏡がないですよ。
それなら、
中に入ってやればいいのに。
ほとんど終わりました。
ラティルは、
タッシールが軽い人で、
愛の言葉を
軽く吐くことを知っていました。
彼は側室というよりは、
側室の役割に心酔した
麻薬商のように見えました。
しかし、タッシールは
美しい男だったので、
その彼が、ぴったり横にくっついて
耳をもぞもぞ触っていると、
ラティルの顔に
熱気が上がってきました。
手を伸ばせば届く所に、
美しい男たちを側室に置いて、
指一本触れられないのは
ラティルにとっても辛いことでした。
そうしているうちに、
タッシールの指が
耳の奥をかすめたので、
ラティルは、
驚いて背筋を伸ばしました。
それとほぼ同時に、
タッシールは「終わった」と言って
笑いながら後ろに下がりました。
ラティルは顔を赤くして、
耳元を触りました。
ちょこんと何かが付いていましたが
ラティルはイヤリングの形さえ
確認できなかったことを
今更ながら思い出しました。
彼女は、もう片方は自分で付けると
言いましたが、
タッシールは笑っているだけで
イヤリングを出しませんでした。
そして自分が付けていた
イヤリングを片方外すと、
ラティルに渡すべきイヤリングを
自分の耳に付け、
外した自分のイヤリングを
ラティルの手のひらの上に置いて
彼女の指を折りました。
そして、結婚したら
一対であるべき物を
2人で分け合って持ちたかったと
言いました。
ラティルはタッシールのことを
本当の浮気者みたいだと言いました。
彼は、
豆と麦なら使うじゃないですか。
1つでも付けないと。
と言って、にっこり笑うと、
ラティルの腕をつかみました。
カルレインが帰ってこないと
悩んでいたラティルは、
彼が自分を
手でしっかり支えてくれるように
感じました。
ラティルは彼の手を握ると
頭を肩にもたれかけました、
タッシールは、
今日も軽くて良かったですか?
と冗談のように尋ねると、
ラティルは、
かすかに笑って頷くと、
そばにいると
一緒に軽くなれていい。
今は、少し軽いのがいい。
と言いました。
カルレインは愛も正体も重いので、
このくらいがちょうどいい。
とラティルは言いました。
◇慰め役?◇
ヘイレンは、イライラしながら
全然良くない、
辛いことがある度に、
そばで慰めるハンサムな男は、
どう見ても、
後で愛する女の幸せを祈りながら
去る役割のようだとぼやいたので、
タッシールはなめていた飴を
パキンと割ってしまい、
そのまま食べてしまいました。
それは本当なのか、
誰が言ったのかと
タッシールがヘイレンを問い詰めると
彼は、慌てて両手を振り、
絶対にそんなことはないと
否定しました。
タッシールは飴の棒を噛みながら
笑っているのか怒っているのか
分からない表情をしました。
ヘイレンはため息をつきながら
タッシールの
片方のイヤリングに向かって
陛下が若頭を愛するようにと
願いました。
そのようにしているうちに、
タッシールは
遠くにクラインがいるのを発見し
立ち止まりました。
いつも傲慢で堂々している彼が
うずくまり、
そばで、侍従と護衛が
焦っている様子は奇妙に見えました。
タッシールは興味があるのか
飴の棒を噛み続けながら
そちらを見ました。
ヘイレンは、
今回も若頭は、
クライン皇子を慰めに行くのだろうか。
若頭は、側室たちの中で
一番、対人関係を気にしている。
だからクライン皇子を
慰めるかもしれないと思いましたが
タッシールは、しばらく
落ち込んでいるクラインを眺めた後、
お腹が空いたから、行こうと
ヘイレンに言いました。
皇子様はどうするのかと尋ねる彼に
タッシールは、
機嫌が悪そうなところへ行ったら
喧嘩になると言って歩き出しました。
ヘイレンは、
その態度を怪しみましたが
タッシールの後を追いかけながら
ちらっとクラインを見ました。
◇落ち込むクライン◇
どうして、クラインは機嫌悪そうに
地面だけを見ているのかと
バニルはアクシアンに
ブツブツ文句を言いました。
バニルは、タッシールの侍従が
自分たちの方を見ていたので
気分が悪くなりましたが、
いつもは傲慢なクラインが
しょげかえっている姿を見て
バニルも元気がなくなりました。
彼はクラインに
元気を出すようにと慰めました。
ラティルとヒュアツィンテが
恋人同士だったという話に
驚いたけれど、それについて、
2人が率直に話し合った後は
うまく過ごしていたと
バニルは考えていました。
しかし、そのことが
クラインの心のどこかに
深い傷跡を残したのは明らかでした。
バニルは、
皇帝が皇子の所へ来ないのであれば
彼から会いに行けばいいと
助言しました。
アクシアンもバニルの言葉に同意し、
初めてではないので
急に恥ずかしがる必要はないと
言いました。
しかし、クラインは首を振り、
あの時は、皇帝が
自分を愛しているという
確信があったからだと
返事をしました。
バニルは
落ち込んでいるクラインを見ていると
胸が苦しくなり、
ため息をつきました。
他にすることがあればいいけれど、
ハーレムでは、することもなく
ただ一人の人を待つだけなのに、
その人が、やって来ませんでした。
その時、
ずっと地面だけを見ていたクラインが
頭を上げて、顔が明るくなり、
ぱっと立ち上がりました。
バニルはクラインが見ている方向に
目を向けると、
ラティルが近づいてくるのが
見えました。
彼は安堵しました。
◇上手くやれる◇
ラティルは
タッシールの両親からもらった
宝石が隠してあるクマのぬいぐるみを
背負って帰る途中、
クラインが力なく
ベンチに座っているのを見ました。
ラティルは彼に近づいて
大丈夫?
と声をかけると、
ラティルを見るや否や
巨大な石に
押し潰されていたような様子だった
クラインが、一瞬にして、
日差しのように輝く笑顔を見せました。
クラインは会う度に
嬉しそうにしていると
ラティルは言いましたが、
前には怒っていたこともあると
考え直しました。
けれども、ラティルは
クラインが
あれだけ歓迎してくれると、
訳もなく自分が
大切な人になったような気がして
嬉しくなりました。
カルレインは、
いくら呼んでも帰ってこないけれど
ぬいぐるみに宝石を入れて
贈ってくれるタッシールがいて、
目が合うと、
日差しのように輝くクラインがいる。
カルレインがいなくても
自分は上手くやれると思い、
ラティルはクラインの隣に座りました。
今日は何がそんなに楽しいの?
陛下にお会いできましたから。
そんなに楽しいの?
陛下がクマのぬいぐるみを
おんぶしているのを見るのも
楽しいです。
ラティルはクマのぬいぐるみを
クラインの前に差し出すと、
彼はぬいぐるみの頭を撫でて
にっこり笑いました。
ラティルは、そのぬいぐるみは
タッシールの両親が
くれたものだけれど、
気に入ったのなら、
自分もクラインのために、
ぬいぐるみを一つ
買ってあげると言った瞬間、
彼はぬいぐるみの耳を
引き抜いてしまいました。
ラティルは、
なぜ、人のぬいぐるみの耳を
引き抜くのかと尋ねると、
クラインは、
そのぬいぐるみは、
よく見ると、クマに見えないと
答えました。
ラティルは、
それは、クラインが
耳を引き抜いたせいだと
言いましたが、
彼は、全体的に明るい雰囲気でした。
ラティルは、その姿を見て、
みんなが悩む必要はない。
クラインだけでも
明るければいいと思いました。
彼女は、そんなクラインを
愛しそうに眺め、
そろそろ帰る時間になると、
挨拶をして立ち上がりました。
ところが、そんなラティルを
突然、クラインは手を伸ばして
捕まえました。
ラティルは、
どうしたの?
と尋ねましたが、クラインは、
何度か口をもぐもぐさせましたが
首を横に振ると、手を下ろしました。
彼は、何か言いたいことがあると
思うけれど、何が言いたくて、
あんなに躊躇っているのか
ラティルはわかりませんでした。
彼女は、もう一度、
「どうしたの?」と尋ねるべきか
知らないふりをした方がいいか
悩みましたが、
必ず話さなければならない内容であれば
直ぐにクラインが話しただろうと思い、
背を向けました。
クラインは後ろから手を伸ばしましたが
ラティルを捕まえられずに、
手を降ろしたことを、
後ろを向いていたラティルは
知りませんでした。
クラインの明るい笑顔に癒されたなら
すぐに行ってしまわないで、
クラインが何を話したがっているのか
もう少し聞いてあげればいいのに、
何も聞かないで、
行ってしまったラティルは
残酷だと思います。
すべての側室に
平等に愛を与えるのは無理でも、
自分のいいように利用するだけでなく
少しは気にかけて欲しい。
乱暴者だけれど、裏表がなくて
隠し事がない、
中身は子供のように純粋なクラインを
もう少し大事にして欲しいと思います。