217話 ギルゴールに、今までの対抗者とは違うと、指摘されたラティルでしたが・・・
◇不安◇
ギルゴールの言葉が理解できなくて
眉を顰めるラティルに、彼は
敵対者は、最優先に人間を守る。
決まっているわけではないけれど
皆、そうだった。
対抗者は、人間が少なく
敵が多いと考えているので
食屍鬼が人を攻撃する前であれ
後であれ、
彼らが人間を食べる以上、
対抗者にとって、
なくさなければならない存在だと
説明しました。
ラティルは、以前、
人を攻撃しなかった食屍鬼は
退治しないと言った時の
ギルゴールの反応が
妙だったことを思い出しました。
その言葉は、
彼女の言ったことに似ていると
彼は言っていたので、
少なくとも、その彼女は
対抗者ではなかったと
ラティルは考えました。
とにかく、ラティルは
自分を守らなければならないので
ギルゴールが教えていたのは
対抗者ではなく、
その分身だったのではないか。
こんな対抗者もいれば、
あんな対抗者もいる。
その剣を抜くだけでいいのではないか。
性質も検証しなければならないのかと
反論しました。
ギルゴールはニヤリと笑うと、
そうしなくてもいいと答えました。
とりあえず、何とかなったけれど
自分のことを
対抗者だと言ってくれたのは
ギルゴールだけなのに、
その彼も、自分が
対抗者らしくないと言ったので、
ラティルは心配になりました。
考え込んでいるラティルを
ギルゴールが呼ぶと、
彼女は心配事を脇へ置いて、
あの2人の冒険家を
捕まえてくるように命じました。
◇準備◇
ギルゴールは2人の男女を気絶させて
片腕に1人ずつ抱えて連れて来ました。
彼らが来ている服を、
自分たちが着るために、
ラティルは
余分に持ってきた服を2着取り出し、
そのうちの1着をギルゴールに
投げました。
ギルゴールは
女性をラティルの前に降ろすと
服と男性を抱えて
茂みの奥に入りました。
ラティルは人目につかない所に
リュックサックと女性を連れて行き、
彼女の服を脱がせると、
持ってきた服を彼女に着せました。
そして、帽子で顔を隠すと、
女性の横に小切手を1枚置き、
服と身分を借ります。
ごめんなさい。
と謝りました。
準備が終わると、
ギルゴールも着替え終わり、
木の根元に座っていました。
◇空洞の中へ◇
その後、2人は
空洞の周囲にできた列に並び
少しずつ中へ入って行きました。
空洞の奥が真っ暗なので
深いとは思ったけれど
足元は思ったよりも急勾配で、
少し足を踏み間違えただけで
中に落ちそうでした。
ラティルは注意深く
足を踏み入れました。
ランタンを持った探検家たちが
列をなして入っているので、
一筋の光が、蛇のように
曲がりくねっていました。
一体、何人、中に入っているのか
ラティルは混乱しました。
ショードポリの国王が
ラティルの助けをいらないと
言ったことに、
感謝すべきではないかと思いました。
ところが、しばらく歩いていると
後ろから付いてきたギルゴールが
水の中でどのくらい
息をせずに我慢できるかと
突然、ラティルの耳元で囁きました。
彼の声がとても小さかったので
ラティルも同じくらい小さな声で
30秒か40秒と答えました。
実際に数えたことはないし、
あえて数える必要もなかったので、
当てずっぽうでした。
しかし、
ラティルの言葉を信じたギルゴールは、
幸いだと言って、
ラティルの鼻と口の近くに手を置くと、
大きく息を吸って、我慢してと
指示しました。
彼女が、彼の言う通りにした瞬間、
下の方で、大きな雫がポンと
破裂したような音がすると
逆流する滝の水流のように、
巨大な水が上から降り注ぎました。
ラティルは目をつぶりました。
ギルゴールが自分を引っ張って
懐の中に包んでくれるのを
感じましたが、
その状態で、ものすごい水圧が
身体を突き上げ、
今にも水に流されそうでした。
圧迫感がなくなった時は、
息ができなくて苦しくなりました。
ラティルは、ゆっくりと目を開けると
周囲は水でいっぱいだったので
驚きました。
空洞に水が溜まったのだろうか。
驚く一方で、途方に暮れていると
ギルゴールは、
ラティルの鼻と口を塞いでいた手を離し
今度は腰をつかむと、
急に、ものすごい速さで
泳ぎ始めました。
ラティルは、瞼が震えたので
再び目を閉じました。
まもなく全身を取り囲む水が消えると
涼しい空気を感じました。
ラティルは、
慌てて息を吸い込みました。
30秒以上、経ったと思う。
と力なく呟くと、
ギルゴールが小さく笑う声が
聞こえました。
ラティルは、周りを見渡すと
すでに水流はなく、
空洞は水に満ちてもいませんでした。
そして、他の人たちも消えていました。
彼らはどうしたのかと
ラティルはギルゴールに尋ねると
おそらく水に押し流されて
外へ出たと答えました。
ラティルが残念がると、
ギルゴールは、
中に引き込まれるより
まだ、いい方ではないか。
水は飲んでも、
生きているかもしれないからと
言いました。
水流のせいで、
打撲傷は負ったかもしれないけれど
あながち間違ってはいないと
ラティルは思いました。
それに、自分は
本当の冒険家ではなく、
こっそり入って来たので、
人の間に挟まって移動するより、
静かに行く方がいいと思いました。
それでは、私たちだけで行こう。
ラティルは、そのように言うと
濡れた髪を横に集めてねじり、
水気を絞りました。
何度か同じことを
繰り返したラティルは、
髪の毛がもつれると痛くなるので
髪の間に指を入れて、
少しでも梳かそうとしました。
ところが、その姿をギルゴールが
ぼんやりと見ていました。
彼女は、髪の間から手を抜くと、
彼の目の前で手を振り、
どうしたのかと尋ねました。
ギルゴールは、
何でもないと答えると、
前を向いて歩き始めました。
◇ネックレス◇
どのくらい移動したのか、
時々、魚と虫が合わさったような
恐ろしい怪物が現れましたが、
ギルゴールが先に
片付けてくれました。
ラティルは、
魚のようなゴキブリが
近くに来るのも嫌だったので、
勇気を発揮して、
前へ出る代わりに、
ギルゴールの後ろに
ぴったりとくっ付いて歩きました、
ところが、しばらく移動した後、
ギルゴールは突然立ち止まり、
周囲を見回しました。
ラティルは、
また、あの魚のような虫が
出て来るのではと思い
身をすくめて、
ギルゴールよりも素早く
周りを見回しました。
けれども、怪物が出て来る時の
サササッという音がしなかったので
ラティルは少し安心して
どうしたの?
と尋ねると、ギルゴールは、
お弟子さん、
私たちはどうしてここへ来たの?
と尋ねました。
ラティルは、
サーナット卿と言いかけましたが、
ギルゴールは、
彼のために来たのではないので、
3、4時間訓練に来た。
とごまかしました。
ギルゴールは首を傾げましたが、
すぐに笑いながら頷きました。
そして、訓練しに来たのなら
自分の後ろに隠れているだけでは
訓練にならないのではないかと
尋ねました。
ラティルは、ギルゴールに
虫を殺せと言われそうなので、
見ただけでも経験になると
答えました。
しかし、ギルゴールに
そんなことは通じず、
彼は、自分が先に行くので、
ラティルは
自分が見えないくらい距離を取って
付いて来るように。
自分はラティルの足音が
聞こえる距離の所を
先に歩いていると言いました。
しかし、ラティルは、
彼が先にサーナット卿を見つけて
問題が起きることを心配し、
自分が先に行くと言いました。
ギルゴールは、
しばらく首を傾げていましたが、
ラティルに先に行くようにと
合図をしました。
ラティルは、
魚のような虫が
現われるのではないかと
ビクビクしていましたが、
素知らぬ顔で歩いて行きました。
幸いなことに、その後は
あの虫は現れませんでした。
彼女は、ずっと歩いて行くと、
道が3つに分かれていました。
そして、そのうちの1つの前に
見慣れたネックレスが
落ちていました。
それは、ラティルが子供の頃、
サーナット卿に渡した物で、
彼は領地に帰った時も、
そのネックレスをかけていました。
ネックレスを
落とすことがあるだろうか。
ラティルはネックレスを拾うと
それが落ちていた方向へ
歩いて行きました。
そして、
ラティルの姿が見えなくなると、
洞窟の壁に、
絵のように溶け込んでいた
血人魚の1人が、
こっそり外へ出て来て、
別の方向の分かれ道を
走って行きました。
◇味方か敵か◇
ラティルを見ていた
血人魚のティトゥは、
血人魚の支配者メラディムの部屋へ行き
彼の玉座の前に着くや否や、
うつぶせになり、
足を尾びれに変化させて、
床を3回打つと、
大変なことになった、
支配者様が教えてくれた、
あの狂った吸血鬼が
この中へ入って来たと報告しました。
豊かな髭を生やした
血人魚の支配者メラディムは、
それはギルゴールかと確認しました。
ティトゥは、そうだと答えると
彼は人間も一人連れて来た。
対抗者かもしれないので、
殺そうかと提案しました。
しかし、その言葉が終わるや否や
メラディムの鱗を磨いていた
血人魚のスリンは、
対抗者を殺すことで、
吸血鬼のロードが
自分たちを味方だと勘違いしたら
どうするのか。
ロードはいつも
序盤の勢いは良いけれど、
いつも対抗者に負けている。
自分は対抗者が嫌いだけれど、
ロードの味方もしたくないと
訴えました。
メラディムは、
ロードの味方をしてもしなくても
ギルゴールは
自分たちの種族の敵だと呟きました。
そして、
少し考えたいと思ったメラディムは
ギルゴールは殺して、
対抗者だという人間は
連れて来るように命じました。
◇言葉が分かる?◇
サーナット卿のネックレスを
持ったまま
慎重に歩いていたラティルは、
何かが自分に向かって
素早く飛んでくるのを感知しました。
あの虫かと思ったラティルは、
反射的にネックレスを
振りかざしました。
サーナット卿には悪いけれど、
飛んできたのが、あの巨大な虫なら
素手で戦いたくありませんでした。
ところが、ラティルが殴りつけた
虫と思しきものは、
思っていたよりも大きく、
洞窟の壁にぶつかって地面に落ちると
ドーンという音がするほどでした。
しかも、うめき声まで上げたので
虫ではありませんでした。
人魚?
ラティルはぼんやり見ていると、
うずくまっていた人魚が
首を傾げました。
ラティルは、
ごめん、虫かと思った。
と、すぐに謝ると、
その人魚はひどく怒っているのか、
ラティルに暴言を吐きました。
彼女は呆れて、
なぜ、悪口を言うのかと尋ねると、
人魚は突然驚いて、後ずさりし、
警戒しながら、
自分の言葉が分かるのかと
尋ねました。
魚のようなゴキブリ。
大きさはどれくらいなのか。
たとえ小さくても、
想像するだけで、
とても気持ち悪いです。
マンガでは、
どのように描かれるのか
気になりますが、
マンガは85話でシーズン1が終了。
しばらく休載するようなので、
魚のようなゴキブリが描かれるのは
まだまだ先の話になりそうです。