224話 ラティルは、自分はロードなのかと、カルレインに尋ねました。
◇ロードのすること◇
ラティルは、
カルレインの瞳を見つめました。
彼の顔は強張り、
微動だにしませんでしたが、
視線をそらさなかったので
幸いだと思いました。
カルレインは、
なぜ、そう思ったのかと尋ねました。
ラティルは、
ショードポリで血人魚にあった。
ギルゴールと一緒にいたので、
最初、彼らは
自分のことを対抗者だと思った。
けれども、自分が
血人魚たちの言葉が分かったので、
対抗者ではないと言ったと
話しました。
その時、ラティルは
ギルゴールの前で
血人魚の支配者と話をしたのに、
なぜ、彼は黙っていたのかと
思いました。
ラティルが、
突然、ぼんやりしたので、
カルレインはベッドから立ち上がり
ラティルに近づきました。
彼女は、
ギルゴールが黙っていたことが
とても気になりましたが、
カルレインに、
グリフィンのこと、
急に強くなった力のこと、
レアンの疑いについて話しました。
カルレインの顔が
どんどん暗くなっていきました。
ラティルは、ソファーのひじ掛けを
壊して見せようかと思いましたが、
カルレインが止めました。
ラティルも、
お気に入りのソファーを
壊さずに済んだので
ほっとしました。
ラティルは、カルレインに
自分がロードなら
当たっていると言って欲しい。
嘘はつかないで欲しいと
頼みました。
彼は、ラティルの前に座ると
膝の上に腕を乗せて、
手で顔を包み込みました。
苦しんでいるようでした。
ラティルは、
自分がロードなら、
あらかじめ、準備をしておきたい。
カルレインに、
正しい選択をして欲しいと頼みました。
すると、カルレインは、
ついに、ラティルがロードであると
認めました。
彼女はソファーから降りて、
カーペットの上に、
カルレインと向かい合って
座りました。
半分は覚悟はしていたけれど、
実際にそうだと言われると、
心臓がシェーカーの中で
揺さぶられているような気がしました。
ラティルは、
必ず、ロードに
ならなければいけないのか。
ならない方法はないのかと尋ねました。
カルレインは、
あるかもしれないけれど、
今まで、
そのようなロードはいなかったので、
方法が分からないと答えました。
ラティルは、
ロードらしいことは何一つ知らない。
ロードになってから、
何をするかさえ分からないと
訴えました。
正確には、
カルレインにロードだと言われても
依然として信じられませんでした。
ロードは、誰もが恐れる存在なのに
自分は何も知らず、
ドミスの記憶を見ていなければ、
今よりもロードの話を
信じられないと思いました。
カルレインは、ロードが
何かをしなければならないという
決まりはないと答えました。
そして、彼女がまだ何もできないのは
覚醒していないからだと思うと
付け加えました。
ラティルは、
覚醒すれば、自然に分かるのかと
尋ねました。
覚醒すれば、
記憶や任務のようなものが
頭の中に注がれるのか。
どうやって覚醒するのかと
考えていると、カルレインは
自分はロードではないので、
覚醒したロードが
どのような悟りを得るかは
分からないと答えました。
カルレインに聞けば、
何もかも分かると思っていたのに、
彼も、全てを
知っているわけではないので、
ラティルはがっかりしました。
ラティルは、
決まっていることはないのかと
尋ねると、カルレインは
「はい」と答えましたが、
ロードはいつも同じことをしたと
答えました。
ラティルは、悪の首長がやりそうな
「世界征服」と呟くと、
カルレインは、それを否定し、
対抗者との戦いだと答えました。
ラティルは、必ず対抗者と
戦わなければならないのか。
自分が対抗者かもしれないと
思っていたから、
対抗者という存在に対して、
実感がないと言いました。
カルレインは、対抗者が、
常にロードを
殺そうとしているからだと
答えました。
ラティルは、その理由を尋ねると、
カルレインは、
500年周期で怪物が増えるのを、
対抗者はロードのせいにしている。
ロードが復活すると、
闇のオーラがさらに強まるらしい。
対抗者はロードを殺して、
怪物たちを一緒に封印すると
答えました。
ラティルは顔をしかめて、
それは本当なのかと尋ねました。
カルレインは、
先代の対抗者ではない
対抗者たちの主張が
本当かどうか分からないけれど、
先代のロードが死んだ時、
実際に怪物たちも
姿を消したと答えました。
ラティルは、
自分が国の害になると言っていた
兄の言葉を思い出し、
唇を噛みました。
しかし、ここで衝撃を受ければ
カルレインが、
話をしてくれないと思い、
何ともないふりをして、
なぜ、最初から自分がロードだと
教えてくれなかったのかと
尋ねました。
カルレインは、
自分の選択だったと答えました。
ラティルは、
どういうことなのかと尋ねました。
カルレインは、
ロードは人間として生まれ、
覚醒する前は、人間と大差がない。
覚醒する前のロードは、
普通、自分がロードであることを
受け入れようとしないと聞いたと
説明しました。
ラティルは、衝撃を受けたのは
自分だけではないと知り、
妙な気分になりました。
カルレインは、
自分が経験したわけではないけれど
自分がロードだと知って自決した人が
2人ぐらいいると聞いたと話しました。
だから、カルレインは
ロードに関する話を
自分にしなかったのだと
気づいたラティルは、
確信を込めて
自分は絶対にそうしないと
囁きました。
カルレインは、
ほとんどのロードは
自決していないけれど、
少しでも可能性があれば、
気をつけなければならなかったと
打ち明けました。
ラティルは、
サーナット卿について尋ねました。
彼は、ラティルが
覚醒しないことを願っていると、
カルレインは答えました。
話が終わると、
ラティルは1人になりたかったので
長旅をして疲れたと言い訳をして、
カルレインを帰しました。
ラティルはベッドの上に上がると
枕を抱き締めました。
結局、ロードが何をすべきなのか、
カルレインも全て知らない。
対抗者が自分を殺しに来るから、
防がなければならないのは確か。
その他のことは、
覚醒する前に分からないものなのか。
対抗者は、
自分の使命みたいなものを
知っているのか。
いや、自分は何も知らなくても、
ギルゴールは変に思わなかった。
けれども、自分がロードなら、
どうして対抗者の剣を
抜くことができたのか。
今までロードがしてきたことが
対抗者と戦うことなら、
対抗者が来なかった場合、
どうなるのか。
覚醒しなければどうなるのか。
平凡に皇帝として生きて死ぬのか。
ラティルは、
あれこれ考えているうちに
ロードの騎士について
聞くのを忘れたことに
気がつきました。
ラティルは、
ひとまず寝ることにして、
ロードの騎士のことは
サーナット卿が帰って来たら、
直接聞くことにしました。
カルレインも口を開いたから、
今度こそ、サーナット卿も
口を開くはず。
それでも開かなったら、
本気で怒ると、
ラティルは考えました。
◇前世はドミス?◇
ぐっすり眠ることで、
頭をすっきりさせ
心を休めたかったラティルでしたが
眠るや否や、
雑巾がけをしている最中の
手が見えました。
腕の筋肉の動きと
気だるい感覚が伝わって来たので
ラティルは、うんうん唸りました。
彼女は、大神官を呼んで
そばにいてくれと頼まなかったことを
後悔しました。
そういえば、大神官にも
気になることがある。
サーナット卿とカルレインは
彼の治療を拒んだけれど、
自分は大神官に
傷を癒してもらっても元気だった。
彼のそばにいると
不都合などころか、むしろ楽。
自分が大神官の影響を受けないのは
覚醒していないからだろうか。
彼がそばにいると、
このような夢も見ないのだろうか。
ドミスの夢を見るのも、
ロードの能力の一部なのだろうか。
でも、ドミスが先代ロードなら、
彼女は自分の前世ではないか。
ラティルは、生まれる前から
自分を待っていたという
カルレインの言葉。
キスの途中で
いきなり「ドミス」と呼んだこと。
ドミスを愛しながらも
自分に捨てられることを
恐れていたカルレインの本音。
偽皇帝事件の時に、
何も考えずについて来てくれたことを
思い出しました。
本当にドミスが自分の前世なら、
なぜ、アイニは
カルレインが前世の恋人だと
言ったのだろうかと、
ラティルは疑問に思いました。
ロードのすることは
世界征服ではなく
対抗者と戦うことであれば、
なぜ、そこまでロードが
忌み嫌われるように
なってしまったのか。
その背景には、
ロードを悪者にするという
画策があったのかも。
ドミスの義妹のアンヤが
ドミスを死に至らしめた
対抗者に似ていると
ラティルは思いました。
アンヤはカルレインに
恋しているようなので、
もしも、アンヤが対抗者だとしたら
彼女がドミスに
個人的な憎しみと恨みを抱いているのを
知ったギルゴールが、
アンヤを焚きつけて
ドミスと戦うように
仕向けたのではないかと思います。
なぜ、ギルゴールが
ロードを目の敵にしているかは
分かりませんが。