226話 ドミスは覚醒したのでしょうか?
◇アリーの行方◇
自分もロードなら、
いつか覚醒するかもしれないので、
ラティルは
現在のドミスの感覚を感じ取ることに
集中しようとしましたが、
ドミスは自分のしたことに
ブルブル震え、
手すりにもたれかかると、
あまりに驚き過ぎて、
何をどうすれば良いか分からず、
気が抜けてしまったようでした。
そんなドミスの目に、
誰かが走り去る後ろ姿が映りました。
誰かは分からないけれど、
この場面を
見たに違いないと思ったドミスは、
そちらへ行こうとしましたが、
首を絞められたせいか、
あまりに驚き過ぎたせいか
足が動きませんでした。
ドミスは心の中で、
少しでも足が動いて欲しいと
叫びましたが、足は動かず、
倒れるように座り込みと
泣き始めました。
そこへ、バケツとモップを持った
下女のアニャが、
ペアを組んだ相手と現れ
そこで何をしているのかと
ドミスに尋ねました。
彼女はブルブル震えながら
アニャを見つめると、
彼女はドミスの首に
絞められた痕を発見し、
誰がこんなことをしたのかと
尋ねました。
ドミスはお客さんだと呟きましたが、
彼女がその人を蹴って
粉々になったことは話しませんでした。
自分も訳が分からないし、
アニャも、その理由を
知っている訳がないと
思ったからでした。
ところが、
アニャとペアを組んでいる下女は
絶対に2人1組で行動するように
言われていたのに、
ドミスとペアを組んでいたアリーは
どこへ行き、
なぜ、ドミスがここに1人でいるのか
尋ねました。
アニャも、
アリーはどこへ行ったのかと
尋ねましたが、
ドミスは泣きべそをかきながら、
分からないと答えました。
すると、もう1人の下女は
ドミスにつかみかかり、
アリーと一緒にいた彼女が
それを知らないはずがないと
息巻きました。
アニャは、
ドミスの首の痕について指摘し、
手を離して話すようにと
大声で言うと、
下女の手をドミスから離しました。
それでも下女は、
怒った顔でドミスを睨んでいるので、
その下女とアリーは仲が良いのかと、
ラティルは考えました。
ドミスは涙をポロポロ流しながら、
変な仮面をかぶった人が
自分を驚かせたので悲鳴を上げた。
その時、別の客が
自分を連れて逃げてくれた。
アリーのことは分からない。
彼女を探そうと思って
戻って来たけれど、
変な仮面のお客さんが、
自分を殺そうとした・・・
と話しましたが、
話が終わる前に、下女は
ドミスにバケツの水を注ぎ、
彼女が1人で逃げたことを責め立て
アリーはどうなったのかと
騒ぎました。
そして、
バケツでドミスを叩こうとしたので
アニャは力を入れて
下女の手首をつかみ、
彼女を止めました。
下女は短く悲鳴を上げると
バケツを落としました。
アニャはドミスを起こすと、
とりあえず上へ行って
少し休もうと言いました。
ドミスはアリーのことを
気にしていましたが、
アニャは、その客が
ドミスとアリーを殺そうとしたので
ドミスのせいではないと言いました。
◇窮地◇
場面が変わり、
ドミスは、他の下女たちと共に
廊下の壁にぴったりくっついて
2列に並んで立っていました。
下女長は、
客の1人が行方不明になったので、
ランスター伯爵が
ひどく怒っていると話しました。
ラティルは、ドミスの心臓が
狂ったようにドキドキしているのを
感じました。
下女長は、威嚇的に足音を立て、
廊下の端から端まで
行ったり来たりしながら、
自分があれほど頼んだのに、
使用人4人下女が1人
行方不明になったと言いました。
ドミスは、下女長の硬い表情を見て
下女長は何か知っているのか。
アリーが行方不明になったことについて
叱責されるだろうかと
考えていました。
ドミスは、アリーの話はしたけれど、
紫色の仮面の話は
下女長にしなかったようだと
ラティルは考えました。
確かに、
蹴ったら粉々になって消えたとは
言えないだろうと考えました。
その瞬間、正面を向いた下女長が
ドミスを呼びました。
彼女は驚いて返事をすると
下女長は、
ドミスが消えたお客さんと
最後に会っていたと
アニャお嬢さんから聞いたと
言いました。
(無視されたから告げ口したのか。
ギルゴールは、なだめてくれると
言ったのに)
ドミスは、
よく分からないと嘘をつきました。
しかし、下女長は
ジョアンから
ドミスがアリーの話をした時に、
お客さんの話もしたということを
聞いたと言いました。
ドミスは、
あるお客さんが
自分を追いかけてきたのは
本当だけれど、自分は逃げた。
その後のことは分からないと
言いました。
しかし、下女長は
ドミスを嘘つきと言い、
彼女のせいで、
アリーとお客さんがいなくなったので
ランスター伯爵が、
困った立場に陥ったと言いました。
ドミスは拳を握りしめました。
彼女の心の中は
アリーへの罪悪感が半分、
自分を殺そうとした
紫色の仮面への悔しさが半分でした。
しかし、下女長は
とても腹を立てたのか、
ドミスを良い下女だと思ったのは
間違いだった。
今すぐ、荷物をまとめて
出て行くように。
どうせ、
出て行くつもりだったのだからと
冷たく指示しました。
いきなり出て行けと言われた
ドミスは、
まだ準備ができていないと
言いましたが、下女長は、
アリーには何の機会もない。
アニャお嬢さんのおかげで
この程度で済んでいる。
ランスター伯爵は、
もっと怒っていた。
一生、アニャお嬢さんに
感謝して生きろと言いました。
下女長が廊下を歩き始めると、
下女のアニャは眉を顰めて、
彼女を追いかけました。
◇争い◇
再び、場面が変わり、
ドミスは泣きながら、
荷物をまとめていました。
下女長を追いかけて行ったアニャは
まだ、戻ってきていませんでした。
ドミスはため息をつきながら
窓を見たので、
今は夜であることを
ラティルは知りました。
こんな遅い時間に
追い出されるなんて。
しかも、この時代は、怪物たちが
外を歩き回っている。
ラティルは心の中で、
ブツブツ文句を言いましたが、
ドミスを助ける方法は
ありませんでした。
ところが、
一生懸命動かしていた
ドミスの手が急に止まると、
彼女は慌てて、
使っていた引き出しを取り出し、
横に置くと、
必死で中を探しました。
彼女が貯めていたお金と
義母からもらった宝石が
消えていました。
ドミスは、
ありとあらゆる所を探しましたが
小銭すら見つかりませんでした。
その時、後ろから
クスクス笑う声が聞こえました。
後ろを振り返ると、
半開きの扉の隙間から、
何人かの下女がドミスを見つめながら
笑っていました。
ドミスとラティルは、
彼女たちが宝石とお金を
持って行ったことを、
同時に気付きました。
ドミスは立ち上がり、
下女たちに近づきましたが、
彼女たちは笑いながら、
廊下を逃げて行きました。
ドミスは、「返して!」と
怒りながら叫びましたが、
下女たちは、
互いに見つめ合いながら
笑ってばかりいました。
階段の所で、
とうとう、ドミスは
1人の下女の服をつかむと、
彼女は笑いながら悲鳴を上げて
倒れました。
他の下女たちは逃げるのを止めて、
ドミスを睨みつけました。
彼女は怒りで息を切らしながら、
盗んだものを全て返せ、
あなたたちは泥棒だ。
どうしてこんなことをするんだと
訴えました。
すると、
アニャとペアを組んでいた下女が、
ドミスのせいで、アリーが消えた。
死んだかもしれない。
ドミスのせいで、
お客さんも死んだのに、
ドミスは
出て行くだけで終わりなのかと
言いました。
そして、他の下女たちも、
ここで規則を破った子たちは
皆、死んだのに、
ドミスが規則を破ったせいで、
アリーが死んで、
ドミスが無事なのは不公平だ。
規則通りなら、ドミスが
死ななければならなかったので
この程度で済んで、有難いと思えと
口々に言いました。
ラティルは、
下女たちが本当に怒っていることに
気がつきました。
彼女たちは憎しみに満ちた目で
ドミスを睨んでいました。
あの子たちは、
アリーと仲が良かったと
ドミスは呟きました。
ラティルは、彼女たちが
アリーと親しかろうが、なかろうが、
ドミスが彼女たちを殴って
出て行くことを望みましたが、
彼女はアリーの話に、
心が揺れているようでした。
下女たちは、
今すぐ出て行け、
凍えて死んでしまえと
ドミスに悪口を浴びせたので
彼女は後ずさりしました。
けれども、ドミスは、
宝石は返してくれなくてもいいから
自分が働いて貯めたお金は
返して欲しいと訴えました。
しかし、下女たちは
ドミスが図々しいと罵倒し、
生きているだけでも
感謝しろと言って、
お金を返すつもりはなさそうでした。
そして、宝石は、
ドミスのせいで死んだ
アリーの家族に送り、
お金は、
ドミスのような子を大目に見る、
自分たちで分け合う。
ドミスのせいでアリーが死んで
心を痛めたからと言いました。
ドミスは、
そんなことはさせないと言いましたが、
ドミスが捕まえたせいで転んだ下女が
宝石もドミスが盗んだものだ。
泥棒、人殺しと叫んで、
ドミスを階段の方へ引っ張りました。
彼女は、下女を振り払うと、
彼女は階段を転げ落ち、
階段の角に頭をぶつけて
動かなくなりました。
彼女の胸の中から、
宝石がいくつか飛び出しました。
驚いたドミスが、
そちらへ駆け寄ろうとする瞬間、
さらに怒った下女たちが、
彼女に飛びかかり、
髪や服をつかんで引っ張りました。
ドミスは放してと叫びながら
もがきましたが、
下女たちは、
目の前で友人が死んでしまったので
ありったけの力を出して
ドミスを放しませんでした。
彼女は、自分が強く押せば、
まだ、誰かが階段から落ちると思い
まともに力を入れることができず
もがいてばかりいました。
そして、階段の手すり付近まで来た時
彼女たちはその下から、
ドミスを押し出しました。
彼女は下へ落ちながら、本能的に
カルレインの名前を呟きました。
墜落が止まっても、
ドミスからは何の声も
聞こえてきませんでした。
ラティルは、心の中で
ドミスの名前を何度も呼びましたが
彼女の考えは
聞こえてきませんでした。
しばらくして、
開きっぱなしの目の前に、
黒い靴を履いた足が
いくつか現れました。
ラティルは、
薄れていく意識の中で、
息をしていない。
遺体を片付けなければ。
ドミスがジョアンを攻撃するのを
自分たちが防ぐために
こうなったと、
下女長に言えばいい。
とひそひそ話す声が聞こえました。
◇死んではダメ◇
ドミスが意識を失ったのと同時に、
ラティルは目を覚ましました。
ドミスがここで死んだらダメじゃない!
彼女はカルレインと一緒に戦うのに。
彼女は髪の毛をつかんで、
ベッドの上でバタバタしましたが、
怒りが解けないので、
窓際へ行き、窓を開けると、
下からラティルの部屋を見上げている
大神官と目が合いました。
おそらく、
下女たちが使っている引き出しに
鍵はついていなくて、
その気になれば、
いつでも、他の下女たちの物を
盗むことができたと思います。
けれども、そんなことをして、
盗みを働いたことが明るみに出れば、
追い出されるか
監獄へ入れられるかもしれないので
下女たちは理性を働かせて
互いに同僚の物を
盗むことはなかったと思います。
けれども、下女たちは、
ドミスの宝石やお金を
羨ましく思っていたのではないかと
思います。
友人がいなくなったことで
理性のタガが外れた彼女たちは、
友人の死を建前に、
自分たちの盗むという行為を正当化し、
願望をかなえてしまったのだと
思います。