235話 ラティルは、ショードポリでギルゴールが暴れていると聞きました。
◇不安◇
ギルゴールは、
タリウムの首都に帰って来てから
サディが死んだという噂を聞き、
彼と別れたショードポリで
サディが死んだと考え、
そこで暴れていると、
ラティルは考えました。
ラティルは、
昼食時になっても、
そのことについて考え続けたので、
シェフたちの料理を説明する声が
耳に入りませんでした。
ギルゴールとショードポリとサディ。
そして、
アイニが対抗者だと主張している噂も
いずれ、ギルゴールの耳に
入るかもしれない。
もしかしたら、
もう入っているかもしれない。
サディが死んだなら、
ほかの対抗者を探すために、
ギルゴールは、アイニに会いに行く。
彼女が本当に対抗者なら、
今度こそ、ギルゴールは
細心の注意を払いながら
彼女を育て上げて、
ロードである自分を殺しに来る。
なぜ、彼が
今まで現れなかったのかは
分からないけれど、
彼は、ラトラシル皇帝が
ロードかもしれないと
考えていたのではないか。
自分はロードだという事実を知っても、
人生は急に変わらない。
ロードとしての強い力はないので、
今、ギルゴールが対抗者と共に
攻め入ったら、防げるだろうか。
食欲のなくなったラティルは、
サーナット卿とカルレインを呼ぶように
指示しました。
◇対策◇
ちょうどサーナット卿とカルレインは
一緒にいたので、
ラティルが送って来た使用人に付いて
一緒にハーレムの外へ出ました。
彼女が2人共呼び出したということは
ロードと騎士、
吸血鬼たちについて聞くためだと
彼らは考えました。
サーナット卿は、
最初、
動物の仮面たちと言いかけましたが、
友達と言い直して、
彼らとラティルを
会わせなくていいのかと尋ねました。
カルレインは、
彼らは身勝手だし、
ラティルは、まだ人間の皇帝として
過ごしたがっている。
ここには、
大神官と聖騎士たちがいるので、
彼らが来たら、
聖騎士たちも、
変なことに気付くかもしれないと
答えました。
サーナット卿は、
聖騎士たちを
追い出すことはできないかと
尋ねましたが、カルレインは、
ラティルが、
自分がロードであると
明らかにしない限り、
彼らが隠れ蓑になるので、
追い出す必要はないと答えました。
確かに、
アイニ皇后が本当に対抗者で、
ラティルと戦おうとすれば、
カリセンの人々は、
彼女の言葉を信じるけれど、
タリウム側では、
大神官を側室に置いているロードが
どこにいるのか、
アイニ皇后が嘘をついていると
主張できる。
他の国々も、それぞれの利害関係により
決定を下すので、
ラティルがロードだと信じて、
行動することはないだろう。
大神官と聖騎士たちは
良い盾になると
サーナット卿は、考えました。
サーナット卿とカルレインが
ラティルのいる部屋に到着し
中へ入ると、ラティルは、
彼女の向かい側の椅子を
指差しましたが、
カルレインは、
自然にラティルの横に座りました。
彼女は、
予想外のカルレインの行動に、
眉をピクピクさせていましたが
席を移れとは言いませんでした。
3人並んでソファーに座るのも変なので
仕方なくサーナット卿は、
1人で離れた椅子に座りました。
サーナット卿が席に着くと、
ラティルは、
アイニ皇后は本当に対抗者なのかと
尋ねました。
サーナット卿は、
よく分からないと答え、
カルレインも頷きました。
ラティルは、
ギルゴールは、
サディが対抗者だと勘違いしたけれど
彼女は死んだし、
アイニが対抗者だという噂を聞けば、
彼は、彼女に会いに行く。
ギルゴールが
アイニと会えないようにする
方法はないかと尋ねました。
サーナット卿は
アイニを殺せばいいと考え、
カルレインをちらっと見ました。
彼も同じ考えなのか、
一瞬、視線が冷たくなりました。
けれども、そんなことを話せば、
ラティルに
情けないと思われそうなので
2人は黙っていました。
ラティルは、
2人が黙っているのは、
何か知っているからだと問い詰めると
ようやく、カルレインは
アイニを殺せばいい。
対抗者なら、
どうせ、殺さなければならない。
事前に片付けておけば、
悩む必要はないと答えました。
サーナット卿は、
驚いたふりをしながら、
残酷な方法だと呟きましたが、
カルレインに同意しました。
ラティルは、
まだ、アイニが対抗者かどうか
確実ではない。
今は、彼女にイライラしているけれど
彼女の記憶を消せば、元に戻るので
対抗者でなければ、
あえて殺す必要はないと言いました。
ラティルは、暗に
アイニが対抗者なら殺すと言ったので
サーナット卿は、安堵しました。
自分のために他人を害すると言う人に
失望する人もいるけれど、
彼は、ラティルに
自分のことを最優先に
考えて欲しかったので、
失望することはありませんでした。
その上、ロードたちは
この数千年間、
対抗者に一方的に敗北していたので
今さら、見逃してやる立場でも
ありませんでした。
その時、
静かに状況を見守っていたカルレインが
こうしたらどうかと、提案しました。
◇大神官への提案◇
午後の業務を執り行いながら、
ラティルは、
カルレインの提案について
よく考えましたが、
他に良い方法が浮かばなかったので、
今は、それがましだという結論を
下しました。
カルレインの提案を実行するために、
ラティルは、
大神官と一緒に夕食を取ると
知らせるために、人を送った後、
彼を訪ねました。
行く途中で、
ラナムンと会いましたが、
2人とも、
短く挨拶を交わしただけでした。
ラティルが
さっさと歩いて行く後ろ姿を見ながら
ラナムンの表情が固まりましたが、
彼女はそれを知りながらも、
後ろを振り向きませんでした。
ラティルが大神官の部屋へ行くのを
最後まで見届けたラナムンは、
ひどく不快になり、背を向けました。
一方の大神官は、
ラティルがやって来ると、
嬉しくて部屋の中から飛び出しました。
彼は、彼女の好きな食べ物を用意して
待っていました。
頼みがあってやって来たラティルは、
彼の態度に、少し引け目を感じて、
わざと明るく振舞いました。
食事をしながら、ラティルは
大神官の部屋にある
新しい運動器具について尋ね、
彼は、その効能を説明しながら、
ラティルに一緒に運動することを
勧めました。
彼が楽しそうに話しているので、
ラティルは、なかなか本論を
話すことができませんでしたが、
デザートのアイスクリームを
食べる時になり、
ようやく大神官が口をつぐんだので、
彼に、
アイニが傭兵団に拉致されたことと
彼女が、
対抗者だと主張していることを、
知っているかどうか確認した後、
大神官の顔色を窺いながら、
アイニは対抗者ではないと、
発表してもらえないかと尋ねました。
しかし、アイニの話に関心なさそうに
アイスクリームを食べることに
熱中していた大神官は、
きっぱり、ダメだと答えました。
彼は考える間もなく返事をしたので
ラティルは眉を顰めました。
その理由を尋ねると、大神官は
自分は、
アイニが対抗者ではないということが
分からないのに、知らないことを、
公式に発表することはできないと
答えました。
腹が立ったラティルは、
彼のアイスクリームの器を
取り上げました。
大神官は
空にスプーンを泳がせながら、
ラティルを見たので、
自分が幼稚だったと反省したラティルは
器を返すと、
自分よりもアイニの方が大事なのかと
尋ねました。
大神官は、
当然、自分は皇帝の味方なのに、
なぜ、そのように考えるのか
分からないと答えました。
大神官は、
ラティルがロードであることも、
ギルゴールという恐ろしい吸血鬼が
対抗者を探していることも
知らないので、
この状況を怪しみました、
ラティルも、理性的には
大神官の返答を理解できるけれど、
むやみに、できないと言われて
寂しく感じました。
ラティルが大神官を冷たく眺めると、
彼は、アイニが対抗者でないことが
確実になれば発表する。
そんなことを知らずに、
神の名前で嘘をつけないと言いました。
ラティルは寂しかったし
腹も立ちましたが
彼にその気持ちを見せたくなかったので
口元を拭くと、
そのまま立ち上がって出て行きました。
ずっと一緒に笑っていたラティルが
怒りのオーラを飛ばして
行ってしまったので、
大神官は、
慌てて追いかけようとしましたが、
話す言葉が見つかりませんでした。
躊躇している間に
扉が大きな音を立てて閉まると
大神官は力なく椅子に座りました。
大神官はとても純粋で
穢れを知らない
子供のような存在だと思います。
そんな彼を、
自分の思い通りにならないからといって
悲しませるラティルは、
ひどいと思います。
これまでも、ラティルは、
サーナット卿や側室たちを
何度か傷つけてきましたが、
そんな彼女を、
彼らが嫌いにならないのが
本当に不思議です。
彼女の欠点が気にならないくらい、
魅力があるのでしょうか。
動物の仮面たちは、
カルレインの友達だったのですね。
ということは、
トゥーラが
ロードのふりをしていたことを
知っていたのでしょうか。
そして、
キツネの仮面はゲスターで、
トゥーラの地下城に行った後、
庭で倒れていたラティルを
カルレインとゲスターが
見つけたのは、
偶然ではないのでしょうか。
話が長くなってくると、
前の方の回の話を
忘れてしまっているので
後で、謎が解き明かされても、
「そんなことあったっけ?」と
思ってしまいそうです。