457話 ラナムンの次はギルゴールです。
ギルゴールはラティルの顎を上げて、
目を舐めました。
ラティルの背中が震えました。
反射的にラティルは、
ギルゴールの腕をつかみました。
ギルゴールは、
ラティルに顔をつけたまま、
ゆっくりと呼吸をしました。
ラティルは、
自分は、どうかしてしまったのかと
思いました。
ラティルは、
ギルゴールのことを詐欺師だと言って
彼を見ましたが、
ギルゴールは瞬きもせずに微笑み、
ラティルは、いつも自分のことを
詐欺師だと言っていると
返事をしました。
ラティルは、
初めて会ったときから、
ギルゴールは、ずっと詐欺師だったと
非難しました。
今度は、
ギルゴールの唇が先に来ました。
彼はラティルとは違い、
むやみに唇をぶつけることは
しませんでした。
彼が巧みに口を合わせると
ラティルは
足が浮きそうでした。
ギルゴールは、
お弟子さんは自分を
手なずけたがっているようだと
言いました。
ラティルは何を言おうか
考えましたが、
ギルゴールの唇だけを
見つめていました。
そして、
体が浮いてしまいそうなので
彼の頭を強く抱きしめると、
ギルゴールは、
その状態のまま温室に入りました。
ギルゴールは、ラティルを
花の咲いているところに寝かせ、
首の後ろに口を付けました。
ラティルは、その度に
くすぐったそうに体をくねらせ、
さらに頭を上げて、
逆さまになった世界を眺めました。
温室は、外からも中からも
見えない構造になっていましたが
日光は入るので、
明るすぎるくらいでした。
花が咲き乱れ、草の匂いを嗅ぐと、
室内にいながら
外にいるような気分になりました。
ラティルは、
眩しすぎると言いました。
ギルゴールは、
服を脱がせてもいいかと尋ねました。
その言葉を聞いて、
ラティルは正気に戻り、
ダメだときっぱり断ると、
服の裾を掴みました。
皇帝が側室に会いに行って、
ボタンが全部ちぎれた状態で現れたら
皆、頭を上げられなくなります。
もちろん、その中には
ラティルも含まれていました。
ギルゴールは舌打ちをしながら
それなら、
一つ一つ解決していくしかないと
呟きました。
ラティルはどういう意味かと
聞こうとしましたが、
ギルゴールは上半身のボタンを
一つずつ外し始めました。
大きな手と長い指が、
上半身のきついボタンを外すと、
その姿だけで、
淫らな想像をしたラティルは
頭を押さえました。
そして、
ギルゴールがボタンを外して
素肌に口を付けると
ラティルは驚き、たじろぎました。
ラティルが、
ギルゴールの名前を囁くと
彼は、
お弟子さんの匂いが好きだと
言いました。
ギルゴルが彼女の身体に
息を吹きかけると、
ラティルは恥ずかしさのあまり
体をくねらせました。
これがベッドの上なら
毛布で顔を隠すところだでしたが、
花園なので、
そうはいきませんでした。
ギルゴールがボタンを外すたびに
その場に口を付け、
少しずつ下がっていくので、
ラティルは
どこに手を置けばいいのかわからず
じたばたしました。
ここにある花はとても小さく、
ラティルが力を込めて握れば
すべて引き抜かれることは
明らかでした。
迷った挙句、
ギルゴールにズボンのボタンを外され
下腹部に口を付けられると、
ラティルは、
ギルゴールの髪を掴みました。
以前、別の側室の髪を
抜いたことを思い出したからか、
すぐに手に力が入りませんでしたが、
それでも彼の髪を掴んでいました。
その状態で下を見ると、
ギルゴールは髪を掴まれたまま
ラティルを見上げていました。
ラティルの顔に
一気に熱がこもりました。
ギルゴールは、
ラティルから目を離さず、
もっと下へ行きました。
ラティルは興奮し、
髪を少し強く握り締めました。
髪を抜かないようにしていたが
触れられる度に指に力が入りました。
ラティルは目を閉じると寒気を感じ
再び頭を上げました。
いつの間にか隣にはズボンが置かれ
ギルゴールは素早くシャツを脱ぎ、
ラティルのズボンの横に置きました。
ラティルは口を開けて、
ギルゴールの体を見ました。
こんな明るいところで
横になるのはとても恥ずかしいのに、
この光の下でギルゴールを見るのは
いいものだと思いました。
吸血鬼とはいえ、太陽の下では、
いつになく眩しく感じました。
ギルゴールは、
自分のこと好きかと尋ねました。
彼は、少しも恥ずかしくないのか、
にっこり笑って、
ラティルの体を、
よく見ているように見えました。
ラティルは、ゆっくりと手を伸ばし、
心臓の近くを撫でました。
ギルゴールは、
ラティルが自分の体に触れるのを
瞬きもせずに見ていました。
ラティルは、
手のひらでギルゴールの心臓の
ゆっくりとした鼓動を感じながら
あなたは危険だから......
と呟きました。
実は、まだギルゴールのことを
少し怖いと思っていましたが、
だから、もっと楽しみなんだ。
と呟きました。
ところが、ギルゴールの目が
少しおかしくなっていることに気づき、
戸惑いました。
危険だと言わない方が
良かったかもしれないと思いました。
ラティルは、
言葉を訂正しようと思いましたが
ギルゴールは
ラティルのふくらはぎや足首を
からかうように噛んでいました。
歯を見せて噛む姿は
まるで野獣のようでしたが、
あまりのむずがゆさに
ラティルは横を向きました。
しかし、彼女は笑いながら、
ギルゴールの目に、
自分がどう映るかを考えて、
笑えなくなりました。
ところが、ギルゴールは
ラティルの顎を掴み、
彼女が自分を見るように向きを変えて
自分はきれいかと確認した後、
どうして、別の所ばかり見るのかと
尋ねました。
ラティルは、
恥ずかしいと答えました。
ギルゴールは笑いながら、
足首を舐めました。
ギルゴールは、
何が恥ずかしいのかと尋ねました。
ラティルは両手で顔を覆いました。
しかし、ギルゴールの声は
ラティルの精神を揺さぶり続けました。
彼は、ラティルに
目を隠すのが好きなのか。
どうして顔を隠しているのか。
自分は、見られるのが好き。
でも、目を隠すのが好きなら
そうすればいい。
それとも、自分も目を隠して
やってみたほうがいいのかと
尋ねました。
ラティルは両手を少し下げて、
目だけを出して、
代わりに口を閉じたらどうかと
提案しました。
ギルゴールは、
自分もそれがいいと思うと
返事をすると同時に、
彼はラティルの身体で口を塞ぎました。
ラティルは目を大きく見開き、
再び顔を隠しました。
しかし、他の感覚が
敏感になっているような気がして
手をおろさざるを得ませんでした。
ギルゴールは、
もう、先へ行っていいと思うかと
尋ねました。
ラティルは頷き、横を向きました。
四方八方から草花の香りがして、
めまいがするほどでした。
ギルゴールが近づくと、
ラティルは全身で、
彼にしがみつきました。
背中を強く抱きしめると、
彼の耳から低い笑い声が
聞こえてきました。
ラナムンと寝た時は、
走った後のような感覚になりましたが
今回も、さらに走ったような気がして
腕や足がこわばりました。
あまりの辛さに、
ラティルの羞恥心が消え、
花の上で伸びをしました。
ギルゴールは全く疲れた様子もなく、
ラティルが横になると、
横に並んで彼女を腕に引き寄せました。
彼女の体は彼の腕の中に
包み込まれました。
ラティルが顔を上げると、
待ってましたとばかりに
彼は彼女の額にキスをしました。
ラティルは、
ギルゴールの身体のあちこちを
触りましたが、
彼は、汗もかいていませんでした。
自分は疲労と衰弱で筋肉痛がひどく、
汗も出ているのに、
ラティルのしたキスの跡も
消えて見えなくなりました。
彼に残された痕跡は、
ラティルが引っ張り続けたために
カササギの巣になった
髪の毛だけでした。
ラティルが彼の髪を見ると、
彼は彼女の視線に気づいたかのように
自分の髪を引きちぎった女性は
ラティルだけだと笑顔で囁いた。
ラティルはギルゴールが
まだ疲れていないことを知りましたが、
自分は弱っているので、
知らないふりをしました。
ギルゴールは、
ラティルの耳元に
唇をこすりつけました。
特に何もしていないところを見ると、
こうしているだけで満足なようでした。
ラナムンは初心者だと、
ふと浮かんだ思いに
ラティルは唇を噛みました。
ラナムンは、とても美しいから、
視覚的効果は大きいけれど、
ギルゴールに比べれば、
ラナムンは、
まだ新鮮な香りがしました。
あの時は、急なことだったし、
気が散っていたので、
そんなことに気を配る余裕は
ありませんでした。
おまけにラナムンは、
ラティルの顔を見ただけで
興奮してしまい、不器用でした。
でも、ギルゴールは.
本当によかったと思いました。
ギルゴールから見たら
自分もラナムンみたいな
存在なのだろうと
ラティルは考えました。
自分のしたことが恥ずかしくなり
ラティルはギルゴールの胸に
顔を埋めました。
彼は、また他の側室と自分を
比べていたのではないかと尋ね
今度は誰と比べていたのかと
からかいました。
ラティルは、黙れと言いました。
しかし、ギルゴールは、
誰なのか。
カルレインかサーナットか。
それとも、あの狐かと尋ねました。
ラティルは、
狐は、
タッシールとゲスターのどちらかと
尋ねました。
ギルゴールは、
そんなのはどうでもいい。
教えて欲しいと、愛想良く囁き
ラティルの髪をくすぐりました。
けれども、ラティルは
答えませんでした。
彼は何気なく聞いているけれど、
答えれば、
嫉妬に駆られたような態度を取るのは
目に見えていました。
ギルゴールは、
ラティルの髪のせいで
痒いと言いました。
彼女は、
エビのような体勢に
なっていることに気づき
頭を上げました。
ギルゴールは、
ラティルが返事をしないつもりだと
指摘しました。
彼女は、
この話は止めようと提案しました。
ギルゴールは、
ラティルを笑顔で見つめ、
それ以上、問い詰める代わりに
何か飲むかと尋ねました。
ラティルは、首を横に振り、
ここで休みたいと言いました。
彼女が少し離れた所へ
転がっていくと、
ギルゴールは手を伸ばし、
クシャクシャになっていない
花びらを摘みました。
そして、これが欲しいかと
ラティルに聞きましたが
彼女はいらないと答えました。
ギルゴールは、美味しそうに
花びらを何枚も食べました。
ラティルは、ギルゴールが
温室をベッドとおやつにして
有意義に使っていると
皮肉を言いましたが、
彼の唇に一枚一枚
花びらが入っていく様子は
何とも言えない色気を感じました。
ラティルは、
ギルゴールが食事をするのを
眺めながら、
彼が、結婚するのは初めて。
髪をむしるのもラティルが初めてと
言っていたのを思い出しました。
けれども、最初のロードとの間に
子供がいたのではないか。
結婚式をすっぽかしたのか。
初代のロードに
髪をむしられなかったのか。
髪は掴んでも、
引き抜かなかったのか。
もし、そのことを彼に尋ねたら
答えてくれるだろうか?
彼は、
過去について黙っているけれどと
考えました。
ラティルはギルゴールのことを
迷路のような人だと思いました。
1人で過ごす時間が長かったせいか
彼の全てがベールに包まれていました。
そして、ギルゴールは
そのベールを脱ぎませんでした。
誓いの儀式の日、
被っていたベールを脱いで
ベッドに現れたけれど、
まだベールが残っているようでした。
彼のベールを完全に取り除いたら
本来のギルゴールは
どんな姿をしているのだろうかと
考えていると、
ラティルの視線がしつこかったのか
ギルゴールは、
花びらを食べる手を止め、
微笑みながら、ラティルの耳元で
ラティル、
私をずっと手懐けていいよ。
と囁きました。
この前の話の内容が分からないので
他の側室を差し置いて、
なぜ、ギルゴールと
ロマンチックな雰囲気に
なったのかは分かりません。
288話で温室についての話を
読んだばかりなので、
真昼間の温室で、
こんなことをして大丈夫なのかと
気になってしまいました。
きっと、
人払いをしたということに
しておきます。
他の側室たちやサーナット卿が
ラティルのことを
「陛下」と呼んでいる中、
今まで、
「お弟子さん」か「お嬢さん」
と呼んでいたギルゴールが
「ラティル」と呼んだので
ドキドキしてしまいました。