469話 ラティルとカルレインとの初めての夜です。2人は洞窟にいるようです。
ラティルの口の中が
水浸しになっていました。
ラティルは唾を飲み込み、
カルレインの緑色の瞳の中に広がる
赤い部分をちらりと見ました。
500年前の吸血鬼が、
一度キスをしただけで
とても興奮していることが
信じられませんでした。
ラティルは感極まり、
彼の頬を両手で包み込み、
カルレインを見つめました。
そして、
躊躇いながらも、彼から目をそらし
彼の唇に軽く口を合わせました。
そして顔を上げると、
カルレインの目が
もっと赤くなっていました。
ギルゴルほど真っ赤ではありませんが
赤と緑が混ざった瞳は
人を吸い込む魔力を持っていました。
ラティルが、
先ほどより赤くなっていると囁くと
カルレインは、
ラティルの首の後ろに顔を埋め、
頭を振りました。
彼は、ラティルの首の後ろを
噛み続けたので、
ラティルはくすぐったくて
たまらなくなり、
体をよじらせました。
しかし、ラティルは
カルレインにしがみついているため
落ちてしまいそうで
あまり体を
動かすことができませんでした。
ラティルは耐え切れずに
下ろして欲しいと
小声で言いました。
カルレインは洞窟の隅で
寝袋に入り、じっとしました。
ラティルは彼の後ろに座り込み
自分も寝袋を持ってくれば良かったと
呟きました。
カルレインは、
自分に寝袋は必要ない。
石の地面の上で寝ても
気分悪くならないので、
ラティルは自分の上に乗れば
大丈夫だと言いました。
カルレインがラティルの腰に
手を回したので、
彼女は、再び彼の上に乗りました。
カルレインは、
ラティルの首の後ろを噛みました。
彼女は、
どうして、そんなに
自分の首にこだわるのかと尋ねました。
カルレインは本能だと答えました。
ラティルが、
くすぐったいと文句を言うと、
カルレインは、
痛くなる程、噛めないけれど、
そういうのが好きなら・・と
ほのめかしました。
ラティルは、
そういうことではないと言って
笑いました。
そして、彼の首にしがみつくことで
彼の歯を避け、その後、
彼のお腹の上に座りました。
カルレインは自然に手を動かして
再びラティルに触れました。
彼女は、悪い手だと言って、
彼の腕を掴んで床に置き、
カルレインは、
人間の血を飲むのかと
厳しく問い詰めました。
カルレインは、
床に置かれた自分の腕を見ながら
少し緊張した面持ちで、
飲むけれど、安全のため
少ししか飲まないと答えました。
ラティルは、
それはわかっていると答えました。
黒死神団は有名なので、
もし血を飲むために
人を殺したとしたら、
すぐに噂が広まるはずでした。
しかし、ラティルは
そのような噂を
聞いたことがありませんでした。
首都に滞在している間も
そうだったので、
彼らのルートで
食事をしているということだと
思いました。
カルレインはラティルに
何を気にしているのかと尋ねました。
彼女は、
他人の血を飲む時、
唇を相手の首に付けて、
キスするように飲むのかと
尋ねました。
カルレインは、
馬鹿げたことを聞いたかのように
「まさか」と言って笑い出しました。
ラティルは、
それならば、どうやって飲むのかと
尋ねました。
カルレインは答えたくないかのように
視線を避けました。
ラティルは彼の顎を掴んで
目を合わせ、
「どうか答えて」と頼むと、
カルレインは、気乗りしない声で
注射器で取り出すと答えました。
突然、注射器の話が出たので
ラティルが目を見開くと、
カルレインは彼女の腰を
くすぐりました。
彼女は、カルレインが
そんなことばかり言っていると
笑いましたが、
彼は、
本当はこんなこと言いたくないと
少し恥ずかしそうにしました。
その表情は誠実そうでした。
ラティルは、
カルレインの服のボタンを外しながら
注射器を使う理由を尋ねました。
カルレインは答えたくないのか、
首を傾げました。
ラティルは、
カルレインに答えを迫り、
彼の鎖骨を爪でくすぐりました。
ようやく、カルレインは、
面白いからだと答えました。
ラティルは、
何が面白いのかと尋ねましたが
カルレインは、
ラティルのネックレスの先に
指で触れました。
続いて、ゆっくりと
ラティルの唇に触れると、
カルレインは答える代わりに
キスをしました。
ラティルは笑いながら、
答えたくないようだとからかうと、
カルレインは、突然、
ラティルの背中に手を触れたので
彼女は、寒くて震えました。
ラティルは、
冷たいと呟きました。
外に触れただけで、こんなに寒いのに
大丈夫なのか。
風邪を引かないかと心配になりました。
ギルゴールより冷たいと思うと言えば
カルレインが嫌がるかもしれないと
思いました。
カルレインは、
自分が冷たいから嫌なのかと
尋ねました。
ラティルは、
そんなはずはないと答えました。
しかし、カルレインは
ラティルの背中に触れる程度にして、
しばらく考えた後、服を脱いで、
ラティルを寝袋に寝かせました。
カルレインは何をするのかと
思っていると、
彼はあらかじめ用意しておいた
焚き火に火を点けました。
それと同時に、
彼女の周りに、煙が立ち始めました。
そして、カルレインは
ラティルを再び抱き上げ、
自分は横になると、
その上に彼女を乗せました。
ラティルは、
自分が上にいるのが好きなのかと
尋ねました。
カルレインは、
地面に寝転んでいると、
気分が悪くなるけれど、
自分は人間ではないので気にならないと
答えました。
まだ、洞窟の地面や
冬の気候が気になるのか、
カルレインは、
ラティルの服を脱がせましたが、
顔をしかめて、
再び服を彼女の肩に乗せました。
このままするのかと、
ラティルは不機嫌そうに呟きましたが
冷え切った肌には
それが必要なことに気がつきました。
カルレインは、
不快かと尋ねました。
以前、ラティルは、
服を脱ぐことと脱がないことの間に
境界線を引いていましたが、
今後、カルレインが
しっかり服を着ていても、
彼を見る度に、
顔が熱くなってしまうかもしれないと
思いました。
カルレインは、
部屋へ行くことを提案しましたが
ラティルは、寒いと言って
彼にしがみつき、
寒い時は、動くと温かくなると
彼の耳元で囁きました。
カルレインの瞳が
完全に赤くなりました。
彼は、お望みのままにと
囁きました。
ラティルはカルレインの上着を着て
寝袋の中で
ウトウトしていましたが、
彼の背中が
真っ赤になっているのを見て
驚きの声を上げました。
肉の串刺しを作っていた彼は、
背中を見ようとして
首を傾けましたが
吸血鬼とはいえ、
自分の背中が見えるわけは
ありませんでした。
カルレインは、
怪我をしていないので
大丈夫だと言いましたが、
ラティルは、
それでも、調子が良くなさそうだと
言いました。
カルレインは、
完成した肉の串刺しを
焚き火の上に置き、笑いました。
ラティルは、
なぜ笑うのか尋ねると、
カルレインは、
自分の服を着たラティルが好きだと
答えました。
ラティルは、
自分の服を破ったのは
カルレインだと文句を言うと、
彼は、死ぬ程の罪を
犯したかのような顔をしました。
それを見たラティルは、
笑いながら横に倒れました。
カルレインは、ラティルに近づき
服の首元を露わにすると
鎖骨に乱暴なキスをしました。
カルレインは、
破くつもりはなかったと謝りました。
ラティルは、
分かっていると答えた後、
再びカルレインの体に手足を伸ばし
彼の上に屈み込みました。
カルレインは、
いつからナマケモノが
ご主人様になったのかと
尋ねました。
ラティルは、
安心感があると答えました。
カルレインは、彼女を抱き抱え、
踊るように回転しましたが、
ラティルが肉が燃えていると叫ぶと
再び、寝袋に寝かせました。
ラティルは寝袋の中に座り
カルレインが肉を
フーフー吹いているのを見て
口を開きましたが
入って来たのは彼でした。
ラティルは、
これを噛んでもいいのかと
真剣に尋ねると、
カルレインは唇を離し、
微笑みながら肉を口の中に入れました。
ラティルは、
カルレインにも食べさせると言うと
彼は、
ラティルが手を洗っていないと
指摘しました。
ラティルは、
カルレインも洗っていないと
言い返しましたが、
彼は、料理をする前に洗い、
その都度、洗っていると
言いました。
ラティルが肉を食べている間、
カルレインは、
2人が愛し合っていた痕跡を消すために
掃除をしていました。
ラティルの姿は、
時折、チラッと見る程度でした。
ラティルは、カルレインに
食事をしないのかと尋ねました。
彼は、人間の食べ物は
あまり美味しくないと答えました。
身だしなみを整えたラティルは
ようやく隣に座ったカルレインに
寄りかかりました。
彼の素肌は、
ラナムン程、温かくないけれど
冷たく硬い肌が柔らかく思えました。
ギルゴールも同じでした。
ラティルは、カルレインに
誕生日おめでとう。
2度も自分のそばにいてくれて
本当に嬉しいと言いました。
カルレインは満足げに口角を上げ、
待った甲斐があったと言いました。
ラティルは、
自分を待っていたのかと尋ねました。
彼は、またいつか会えると
思っていたと答えました。
ラティルは、
自分が男に生まれる可能性を
考えたことはなかったのかと
尋ねました。
カルレインは、眉を顰めて
ギルゴールが対抗者の師匠だと
知らなかった時に、
同じ質問をしたことがあると
答えました。
カルレインはラティルと、
ギルゴールの話をするのは
嫌なようでしたが、
彼女は無粋なふりをして、
ギルゴールは何と言ったのかと
聞きました。
カルレインは、
何が生まれようと
結果は同じだと答えただけで、
詳しい説明はしませんでした。
ラティルがギルゴールを怖がった時、
彼は、特に激しく反応しました。
ラティルは、
それがドミスのせいだと思いましたが
それ以前からのことなのなのか。
何か、別の理由があるのかと
考えました。
カルレインの誕生日が
無事に終わったので、
すぐにタッシールの誕生日の
準備をする必要がありました。
タッシールは何が好きなのか。
数日間、
ラティルはそのことで頭が一杯でした。
新年祭の間に起こった問題が
ほぼ全て解決したので、
タッシールの誕生日について
気にかけても問題ありませんでしたが
それからほぼ1ヶ月後、
サーナット卿の誕生日が来て、
その数日後は、
ヒュアツィンテの誕生日なので、
カリセンにプレゼントを
送る必要がありました。
ザイシンの誕生日は、その1ヶ月後。
ゲスターの誕生日はその1ヶ月後。
クラインの誕生日はその15日後。
その後、ラナムンの番が来るまで
3ヶ月近く、ほとんど誕生日は
ないけれど、ラティルは、
20人以上の側室を持った皇帝たちは
どうやって、
側室の誕生日を祝っていたのだろうと
考えました。
そこへ、侍従の1人が、
ミロへ送った使節団が戻って来たと
報告しに来ました。
具合が悪くなった1人を除いて
皆帰って来たと聞いたラティルは、
その1人はトゥーラだと思いました。
彼は、任務の帰りに
出かけると言っていました。
ラティルは外へ出ると、
広い場所に使節団の馬車が止まり、
使用人たちが
馬車から運び出された荷物を
運んでいました。
ラティルは、
その中に黒い棺を見つけました。
驚いたラティルは、そちらに近づき
その棺を見つけて、
持って帰って来たのかと尋ねました。
温室の後は洞窟・・・
こんな所で寝るのはどうなのかと
思いつつ、
ギルゴールとカルレインなら
ベッドの上よりも、
温室や洞窟の方が
ロマンティックな雰囲気を
醸し出せるようにも感じました。
いきなり、ラティルと
仲良さそうな雰囲気で
トゥーラの名前が出て来ましたが、
ラティルと彼は和解したようです。
その過程が分からないので、
じれったいですが、
気長に待ちたいと思います。