591話、596話 ヒュアツィンテがアイニと離婚をした後の話です。
ヒュアツィンテは
アイニと離婚をし、
ラティルにプロポーズをするため、
彼は、タリウムから遠く離れた
カリセンの大神殿で、
両手を合わせて空に祈りました。
どうか、
生涯大切にしてきたこの愛が、
彼女に伝わるように。
◇ヒュアツィンテからの手紙
初めて君を見た時、
恋に落ちるのは、
一瞬のことだと思いました。
君と目が合い、笑顔を交わした瞬間
私は君を永遠に愛すると悟りました。
別れても、
ずっと好きだったラティル。
これからもきっとそうだろう。
部屋には、君に送れなかった
手紙やプレゼントがいっぱい。
愛してるよ、ラティル。
この機会を逃がすまいとする
私を許してください。
君のそばにいられる
最後のチャンスだと思うから、
この機会を逃したくありません。
君は、いつも私の
一番幸せな夢に出て来ます。
悲しい夢でも、
そこに君がいることに感謝しています。
君との約束を守りたい。
世界で一番華やかな
プロポーズをしたい。
許してくれ、ラティル。
朝、目覚めた時に、
君に会いたい。
遠く離れていても
誓いの言葉と指輪を信じ、
一生あなたと同じ道を
歩ませてください。
◇ラティルの返事
ヒュアツィンテ。
代表団からの報告を聞いて
あなたは驚くことと思います。
あなたのことを疑っているという私に
あなたが傷つけられないように、
別に手紙を送ります。
私が代表団に話した話は、
国婚を拒否するための口実として
私が作り出した話です。
実際、そんなことは恐れていないし
私はあなたより長生きすると
確信しています。
私があなたとの結婚を拒否した理由は、
すでに他に多くの側室がいるからで、
私は彼らが好きなのです。
そして、あなたに対する誤解も解け、
私は、あなたのことを
良い友人だと思っていますが、
あなたと結婚して
側室たちを傷つけたくはありません。
特にクラインは、
私があなたと結婚したら、
とても傷つくでしょう。
だって、クラインもあなたのことが
大好きだから。
私たちは、長い間離れていたから、
私があなたを拒絶しても、
あなたはあまり傷つかないと
思います。
元気でいてね、ヒュアツィンテ。
手紙を書いた後、
ラティルは複雑な思いで
その手紙を見ていました。
彼が傷つくことはないと思うと
言いながら、
そうとは言い切れませんでした。
結婚を断る側であるラティルも、
気持ちが揺れているので、
ヒュアツィンテは、
ラティルが断ったことを、
冷静に受け止めることが
できるだろうかと
不安になりました。
最初の別れは、
自分たちとは関係ない事情で
余儀なくされたものであり、
ラティルにどうこうできる
余地はありませんでした。
しかし、今回の別れは
ラティル自身が、
ヒュアツィンテに与えたものでした。
ラティルは首を横に振ると、
伝書鳩を
直接ヒュアツィンテ皇帝の元へ
送るように
サーナット卿に指示しました。
彼が鳥を連れてくると、
ラティルはその脚に手紙を結びつけ、
窓際に立ちました。
庭から、皇女時代に
ヒュアツィンテからもらった
草の指輪の匂いがしてきました。
ラティルは鳥を窓から飛ばしました。
鳥は放物線を描いて飛んでいき、
一瞬で遠ざかっていきました。
ラティルはそれを長い間見ていました。
ヒュアツィンテが
アイニと離婚をした理由は
分かりませんが、
アイニが廃位してすぐに、
ヒュアツィンテは、
ラティルとの約束を守るために
タリウムへ
使節団を送ったようです。
そして、ラティルが使節団に託した
手紙の内容についても
分かりません。
ヒュアツィンテは、
アイニと結婚をしていても
ずっと、
ラティルのことを想っていました。
ラティルも、昔のことを思い出すと
心が痛むし、
彼に対する想いも
少し残っているかも
しれないけれど、
何人もの側室を持ち、
彼らとともに夜を過ごし、
サーナット卿のことを
好きだと自覚し、
自分がロードであることを知り、
自分が、たった一人の男性だけを
愛することができないのではないかと
疑問に思っている今、
ヒュアツィンテと共に
過ごす人生について
考えられなくなったのではないかと
思います。
最初にヒュアツィンテが
ラティルを迎えに行くと
言った日から
5-6年経っているように思いますが
ヒュアツィンテにとっては
その時から、時間が
止まったままかもしれませんが、
彼女にとっては、
ヒュアツィンテのいない人生を
始めるのに十分な時間だったのだと
思います。