295話 2人の狐の仮面が、ただならぬ雰囲気で向かい合っていますが・・・
◇狐の仮面との対話◇
なぜ、狐の仮面が二人いるのか。
ラティルは息を殺して
同じ仮面をかぶった2人を
交互に見つめました。
ギルゴールが、
狐の仮面の地下城を
攻撃したことを思い出すと、
あのような精巧な仮面を一つだけ、
持っているはずはないから
ギルゴールが、
予備の仮面のようなものを
一つ持ってきたのではないか。
そうでなければ、
なぜ、狐の仮面が2人いるのか。
いや、狐の仮面と共に
あの城で過ごした人なら
誰でも狐の仮面の真似を
することができる。
けれども、
表情が半分も隠れているのに
あの雰囲気は
誰が見ても敵対的なので、
絶対に仲間ではないと
考えていると、
狐の仮面の1人がにっこり笑って、
もう1人の狐の仮面をさっとつかみ
向きを変えて走り始めました。
ラティルは驚いて腰を屈めましたが
仮面を剥がされた狐の仮面は
あっという間に
姿が見えなくなりました。
ラティルは目をこすりましたが
狐の仮面の1人は、
すでに他の仮面を奪って逃げてしまい
もう1人は完全に消えていました。
一体、彼らは何なのか。
ぼーっとしていたラティルは、
このすべての状況に呆れて
空笑いしました。
そうしているうちに、
後ろから
こんにちは、ロード。
と声が聞こえたので、
ラティルはびっくりして
後ろを振り向きました。
先ほどまで、
階下のバルコニーにいた
本物の狐の仮面が
いつのまにか、
ラティルの後ろに立ち、
彼女を見下ろしていました。
ラティルは慌てて、
先ほど、狐の仮面がいた所と
今いる狐の仮面を交互に見ました。
狐の仮面の下に現れている口元が
面白そうに上がりました。
ラティルは狐の仮面の手も
見つめました。
彼は手ぶらだったので、
ラティルは混乱しました。
彼が仮面を持って逃げた方なら、
狐の仮面を
持っていなければならない。
仮面を取られた方なら、
仮面をかぶっているはずがない。
しかし、目の前にいる人は、
狐の仮面をかぶっていました。
彼は、ため息をつきながら、
先ほどは、
変な場面を見せてしまったと、
呟きました。
ラティルは、言葉より先に
反射的に指2本を広げ
どうして二人なのかという意味の
合図を送りました。
狐の仮面は、
ラチルの合図をすぐに理解して
仮面が2つ消えたと思っていたけれど
誰かが持って行って
あんなことをするとは
思っていなかったと説明しました。
しかし、ラティルは
依然として、この狐の仮面が
本物の狐の仮面なのかどうか
分からず、
何の反応もできませんでした。
ラティルは狐の仮面を
警戒しましたが、
彼は、平然と、
自分に会いたかったと言うので、
ラティルはベランダの下を
横目で見ながら頷き、
聞きたいことがあると尋ねました。
いくらでも聞いていいという
狐の仮面に、ラティルは、
自分たちが
初めて会った時のことを
話すよう指示しました。
先ほど、
狐の仮面をかぶった人が
2人いたので、
目の前にいる狐の仮面が
自分の探している
狐の仮面であることを
証明させるためでした。
彼は「ああ」と頷くと、
自分がラティルを手伝ったと
平然と答えました。
ラティルが、
具体的に説明するよう促すと
狐の仮面は、
ご自分を最も大切にしてください、
ロード。
と囁いたいので、
ラティルはようやく警戒心を
少し解きました。
誰かが偽物の真似をしても、
言葉まで真似することは
できませんでした。
ラティルは、
カーテンをこっそり開けて、
誰かが近くにいないことを
確認しました。
幸い、こちらに来る人は
ほとんどいませんでした。
ラティルは
カーテンを元に戻しましたが、
それでも安心できず、
先ほどより声を低くして、
以前、トゥーラが
偽物のロードをしていた時、
その地下城を準備したのは
狐の仮面で合っているかと
尋ねました。
狐の仮面は、それを認め、
本当にいい所だったので
移したのは、もったいなかった。
しかし、ロードが行くほどの
場所ではなかった。
あそこは暗すぎた。
ロードは明るいところが好きだからと
答えました。
ラティルは、狐の仮面が、
自分のことを、
よく知っているように話しているので
不審そうに彼を眺めました。
狐の仮面は、
仮面に付いている髭を手で弾きながら
それが尋ねたいことなのかと
聞きました。
ラティルは、それを否定し、
アナッチャについて聞こうとしたと
返事をしました。
狐の仮面は、
偽ロードの母親は
賢くて情熱的だと言って
微笑みました。
ラティルは、
彼女が地下城にいた時、
黒魔術を覚えたかと尋ねました。
狐の仮面は、
ラティルがそう思う理由を尋ねると
彼女は、
ダガ公爵が、
すぐに死んでもおかしくない傷を
負ったけれど、
死んだという話を聞いていない。
もしかしたら、
アナッチャとトゥーラと
手を握ったのではないか。
彼らが地下城から脱出した時期と
ダガ公爵がケガをした時期が、
絶妙に合っているので疑わしいと
答えました。
狐の仮面は、
アナッチャが城にいる時、
図書館に、よく寄っていた。
退屈だからなのか、
あれこれ、勉強しようとしていたと
素直に答えました。
ラティルは、
アナッチャとダガ公爵が
手を結んだのでないかという疑いを
さらに強くしました。
ラチルは声を低くして、
アナッチャの黒魔術の実力は
どのくらいかと尋ねました。
狐の仮面は、
ヨチヨチ歩き程度だと答えました。
ラティルは、
彼女の実力は、
今一つということなのか。
もしも、
ダガ公爵が死んでいたら、
アナッチャは
生き返らせることはできないのかと
尋ねました。
狐の仮面は、
当時は、それほど実力がなかったと
答えました。
それでは、アナッチャでは
ないかもしれないと思い
ラティルは眉をしかめましたが
狐の仮面は、
時間が経ったので、
実力が伸びたかもしれない。
その間に、
ダガ公爵を生き返らせるほど、
実力が伸びるには
才能が必要だけれどと
答えました。
敵に勝れた才能があるのは、
あまり良いことではないので、
ラティルは心臓がドキドキしました。
彼女は、
アナッチャであれ、
他の黒魔術師であれ、
ダガ公爵の仲間だと仮定すると、
そこに、他の黒魔術師が、
割り込むことができるのかと
尋ねました。
狐の仮面は、
その言葉の意味が
分かりませんでしたが、
ラティルが、
「邪魔をしたりとか」と、
例を挙げると、
狐の仮面は首を傾げ、
小声で何かを呟きました。
その声がよく聞こえなくて
ラチルが頭を突き出すと、
彼の髭が頬に触れて
くすぐったさを感じました。
ラティルは、
瞬間的に体がビクッとなり、
狐の仮面が自分を見つめると
ぎこちなく笑いました。
彼は、そんなラティルを
しばらく眺めてから、
黒魔術のことは
黒魔術師に聞けばいいと答えました。
そして、
階下で何か音がするや否や、
キツネの仮面は、
別れの挨拶をすることなく
消えました。
驚いたラティルはため息をつき
しばらく、壁にもたれて
じっとしていましたが、
人々がいなくなるや否や、
再び狐の仮面がその場に現れました。
ラティルは、
口をポカンと開けて彼を眺めると
狐の仮面はにっこり笑って、
先ほど、見たので、
よく分かっていると思うけれど、
自分の真似をしようとする者が
いるようなので気をつけて欲しいと
頼みました。
そして、話を終えると、
彼が再び見えなくなりました。
ラティルは彼が立っていた場所に
手を出しましたが、
彼を捕まえることは
できませんでした。
◇リスの仮面の人◇
キツネの仮面は、
恥ずかしがり屋ではなかった。
話も上手だった。
しかし、
人が来る度に隠れるのを見ると、
恥ずかしがり屋な気もする。
ところで、
仮面をかぶっているのに
なぜ、隠れるのか。
ラティルは、
ゲスターを探すために
階段を下りながら首を傾げました。
先ほど、2階から下の階を
隈なく見たので、
ラティルは1階に1人で行くや否や、
リスの仮面をかぶって隅にいた、
ゲスターと推定される人の所へ
行きました。
ラティルが近づくと、
その人は最初は戸惑いながら、
ラティルを眺めました。
その人は、全くラティルに
気づいていない様子でした。
もちろん、そうするために
いつもと違う格好をしていると
ラティルは思いながら、
彼に「こっちへおいで」と
手を差し出しながら指示すると、
その人は周囲をきょろきょろしながら
指で自分を指差しました。
ラティルはゲスターが
臆病なことを知っているので、
わざと柔らかい声を出しました。
手を伸ばすと、
リスの仮面をかぶった人は
戸惑いながらも手を握りました。
ラティルは彼の手を握ったまま、
黒魔術の話をするのに
適当な場所を探すため、
辺りを見回しました。
やはり、誰もいないバルコニーが
一番適当だと考えると、
ラティルは彼を連れて
階段の方へ歩いて行きました。
そのラティルを、カルレインが
じっと見つめていました。
カルレインは仮面をかぶっていても
彼だと分かりました。
ラティルは彼に手を振り、
ゲスターを連れて階段を上り、
空のバルコニーを見つけました。
仮面をかぶっていても
照れくさいのか、ゲスターは、
ラティルに
バルコニーに押し込まれると、
慌てました。
ラティルは彼を内側に入れ、
仮面を持ち上げて顔を見せると、
「私だから慌てないで。」と言って
彼をなだめました。
ラティルの顔を見るや否や、
幸いにも、ゲスターは
動くのを止めました。
しかし、彼の「陛下?」と
呆然とした声を聞き、
カーテンを閉めようとしていた
ラティルが、今度は固まりました。
その声は、ゲスターのものでは
ありませんでした。
ラティルは固まったまま、
カーテンの裾をつかんで、
ゆっくりと振り返りました。
相手は、
まだ仮面をかぶっていました。
ラティルは「まさか?」と思い、
彼の仮面を片手で持ち上げました。
平べったい餅の顔が現れました。
ラティルは「お前か!」と
慌てて口を開くと、
月楼の王子は、
恥ずかしそうに唇を噛み締め、
ラティルを見つめました。
そして、
タリウムの皇帝は勇猛だけれど
男の美しさをよく見ていて、
ハンサムな男なら
誰でも欲しがるとは。
すでに多くの側室を置いているのに
自分にまで手を伸ばすのかと
嘆きました。
ラティルは無意識のうちに
持っていた仮面を放しました。
伸びたゴムが縮んで、
月楼の王子の顔に当たると、
彼は悲鳴を上げました。
ラティルは手を下ろして
ため息をつきました。
隅に座り込んでいたので、
当然ゲスターだと思ったのに、
なぜ、彼がここにいるのかと
思いました。
ラティルは、
勉強はどうしたのか。
なぜ、ここに来たのかと
尋ねると、王子は、
自分が、24時間いつも
勉強ばかりしていると思うのかと
言い返しました。
ラティルは、「やって!」と
命令しましたが、王子は、
招待状が来たと答えました。
ラティルは、
誰が、王子に招待状を
送ったのかと思いましたが、
母親が送ったことに気づき、
うなり声を上げました。
宮殿で過ごしている外国の王子に、
母親は、
当然、招待状を送ったはずでした。
送らない方が、
もっとおかしいと思いつつも、
ラティルはため息をつき、
腕を組んで王子を見ました。
ここで、
「他の人と間違えて連れてきた」
と言えば、すっきりするけれど、
王子の面目が立たないと思いました。
ラティルは、
あの平べったい餅が
とても気に入りませんでしたが、
月楼がまだ、
カリセンとタリウムの
どちらにつくか
意思表示をしていないのに、
先に不利になる気は
ありませんでした。
結局、ラティルは
王子に自分の過ちを知らせる代わりに
険悪な表情で、
王子に手を出そうとしたのではなく
彼が勉強していないので
叱りに来たと小言を言いました。
王子は当惑し、
なぜ、ラティルが
自分の勉強をそんなに気にするのかと
口を大きく開けて抗議しました。
ラティルは、
タリウムに留学に来たのに、
遊んで帰ったら、
タリウムの体面が悪くなるからだと
言い訳をしました。
実際、タリウムは
外国の王族や貴族が
最も多く留学する国なので、
非常に間違った主張でも
ありませんでした。
ラティルは、
抗議するように
自分を見つめている王子に
遊んでいないで、
今すぐ戻って勉強するようにと
きっぱり言って、
バルコニーから中へ入りました。
入ってすぐに見えたのは
大きな柱に寄りかかって
ラティルの方を
じっと見ているタッシールでした。
彼は、完全に仮面を脱いでいました。
片方の口の端が、
ずっと上がっているのを見ると、
ラティルが誤って、
とんでもない人を連れてきて
彼を宥めていることに
気づいたのは明らかでした。
恥ずかしくなったラティルは
仮面はどうしたのかと、
訳もなくタッシールに
小言を言いました。
タッシールは片手で
シンプルな仮面を持ち上げて
ニヤリと笑い、
こうしていれば、
ラティルが探してくれそうだからだと
返事をしました。
彼の軽い話し方に
ラティルは心が安らかになり、
笑いが出ました。
タッシールは、いつも相手を
このようにしてくれました。
ラティルはタッシールに近づき、
自分に探して欲しかったのかと
尋ねると、
周りを歩いていた人たちは皆、
2人をちらりと見ました。
2人とも仮面を脱いでいるので、
彼らが皇帝と側室であることが
分かったからでした。
タッシールは、
誰もがそうすると答えたので、
ラティルは、
どうやって自分を見つけたのかと
尋ねました。
仮面を剥がされた方は、
すぐに姿が見えなくなったことから
姿が消えるマントを着ていた
ゲスター?
仮面を剝ぎ取った方は
普通に走って逃げたようなので
タッシール?
そうだとしたら、タッシールは
ゲスターの顔を
見ているはずですよね。
仮面を剥がされたのが
ゲスターだとしたら、
仮面を剥がした人に復讐しようと
考えたりしなければいいと
思います。
月楼の王子は、
ラティルにいじめられてばかりで
少し可哀そうですが、
お話を面白くするためには
彼のような人が
必要なのでしょうね。