89話 ベッドの上でルーは、じっと短剣を見つめています。
こちらへ来いと言って
ルーを引きずるデルア公爵。
涙を流し謝りながら、
塔は嫌だと抵抗するルー。
悪夢を見たルーは、
これでもあれば安心できるかと思い
短剣を枕の下に入れました。
侍女長が薬と一緒に
クッキーとフルーツを
運んできましたが、ルーは拒否し、
体調が良くなっても
やることなどないと言いました。
侍女長はルーのベッドに座り、
この薬は身体を治す薬ではなく
悪夢を見る回数を減らす薬だと
説明しました。
しかし、ルーは、
自分が情けない。
母親は生きろと言ったけれど
どうすればいいか分からない。
母親が可哀そうだから
言うことを聞いてあげたいけれど
母親が憎い。
だからとても苦しんでいると
嘆きました。
すると侍女長はルーを抱き締め、
涙を浮かべながら、
ルーは全然情けなくない。
勇敢で賢いと言って、
彼女の髪を撫でました。
ルーは涙を浮かべながら
侍女長の胸は広くて
とても温かい。
自分の母親は痩せ細っていたと
思いました。
侍女長は、
毎晩、悪夢を見るのは
とても辛いだろうから、
まずは、少しずつ薬から
飲んでみてはどうか。
全部ではなく、ほんの少しずつだけと
提案しました。
ルーは承知しましたが、
今日はとても疲れたので
明日からにして欲しいと頼みました。
夜、カルロイが
庭園のベンチに座っていると、
ルーが、
「あっちへ行け、
いなくなってしまえ、
ハンス・デルア」と叫びながら
短剣を振り回していました。
驚くカルロイ。
地面に座り込んでいるルーを見て
あの短剣をどうすればいいか
考えていると、
アセルが、そっと
ルーに近づいていました。
カルロイは、
「アセル、止めろ!」と
心の中で命じながら首を振りました。
そして、カルロイが
ルーに近づきました。
彼女は、
なぜ、死なないのかと叫びながら
短剣を振り回すと、
それがカルロイの脇腹を
切りつけました。
カルロイは
ルーから短剣を取り上げ、
地面に放り投げました。
そして、ぼんやりとしているルーに
公爵は死んだから大丈夫だと
告げました。
すると、ルーは意識がはっきりとし、
カルロイの手に付いた血を見て、
自分がそうしたのかと尋ねました。
カルロイはそれを否定し、
自分が誤ってケガをした。
治療をして来るべきだったのに、
ルーを驚かせたと謝りました。
しかし、彼女は
自分がカルロイを傷つけたと
うろたえましたが、
カルロイは否定しました。
ルーは身体を震わせ、
涙を流しながら
カルロイに謝りました。
彼は、右腕でルーを抱きながら
そんなことを言わずに、
いっそのこと悪口を言えと
頼みました。
それでも、ルーは、
自分のナイフのせいだと
言いましたが、カルロイは
本当にルーのせいではない。
自分の代わりに、
アセルが寝室に連れて行く。
ルーもその方がいいはずだと
告げると、アセルは
ルーを抱き上げました。
彼女は、下ろして欲しいと
頼みましたが、
アセルは連れて行きました。
カルロイは、
ルーが自分を苦しめることができず
結局、
あの言葉を言わせてしまったこと、
自分に対して申し訳ないことを
彼女にさせてはならないのに、
とうとう、あの言葉を
言わせてしまったことをルーに謝り、
地面に座り込みました。
自分はルーのそばにいることが
正しいことなのか。
自分が死んでしまった方が
いいのではないかと考えながら
カルロイは咽び泣きました。
ベッドで休んでいるルーに
付き添いながら、侍女長は、
うっかり寝てしまった自分の身体は
年老いて役に立たない。
これをどうしたらいいのかと
自分を責めていました。
それを見ていたアセルは、
真実さえ分かれば、
全て良くなると思ったけれど、
正気の人が1人もいないと思いました。
一方、カルロイは
ベッドの上で、ため息をつき、
全く力のない女性が
刺したとしても、
深く刺すことができない。
大したことがないのに、
どうして、そんな顔をしているのかと
ティニャに尋ねました。
ティニャは、
くだらないことを考えるのは
絶対にダメだと頼みました。
カルロイは、
分かっていると返事をしました。
そこへルーが来たと、
ゴルテンが告げました。
ルーの母親が亡くなっていなければ
真実が明らかになった時、
アセルが考えていたように
全て良くなっていたと思います。
ルーが悪夢を見るのは、自分の手で
デルア公爵の命を奪ったことに
罪悪感を覚えているのではないかと
思います。
もしも、母親が生きていれば、
ルー自ら、デルア公爵の命を
奪うことはなかったかもしれません。
娘に苦労をかけたくなくて
母親は自ら死を選んだけれども
ルーが、そのことで
ずっと苦しむことになるとは
考えていなかったと思います。
カルロイの気持ちも
なかなかルーに伝わりませんが
母親と侍女長の身体を
比較して、
可笑しいと思えるようになったのは
少し、元気を
取り戻してきたからなのではないかと
思います。