770話の要約 ヒュアツィンテの前に現れた古代語の専門家はランスター伯爵でした。
皇帝に手を差し出すランスターは、
孤独で、どこか無作法な男のように
見えました。
ヒュアツィンテはその手を握ると
一瞬、この男の強さを感じました。
ヒュアツィンテはランスターに、
古代語の通訳ができるかと尋ねると、
彼は、ふざけたように微笑み、
まるで、自分が、
その言語の実践者の
一人であるかのように
古代語の読み書きができると
主張しました。
やや傲慢な態度でしたが、
ヒュアツィンテは、彼の実力を
確認する必要がありました。
ヒュアツィンテはランスターの前に座り
紙を一枚差し出すと、
そこに書いてあることを
教えてくれと頼みました。
ランスターは、
顔を紙に近づけましたが、
紙を手に取ることなく眺めてから、
これは読めない。
単語を適当に拾って、
適当に並べたように見えると
言いました。
ヒュアツィンテは、
わざとそうしたのですが、
彼は、ランスターが、
彼のしたことを
間違いなく知っていると思いました。
ヒュアツィンテは、その順番で
読めるかどうか尋ねましたが
ランスターは、
言葉の順番で意味が変わると
答えました。
ヒュアツィンテは、
仕方なく別の紙を取り出して
ランスターに渡しました。
男は今度はそれを受け取り、
読みながら眉をひそめました。
ヒュアツィンテは、
彼をじっと見つめました。
翌日、ラティルは早起きして
運動をした後、
一緒に朝食を取るために、
タッシールの所へ行きましたが、
彼はすでに朝食を済ませていました。
ラティルはお茶を飲みながら、
タッシールに
アイニとのことを話しました。
当初の計画では、レアンを通して
アイニをおびき寄せる予定でしたが
アドマルに行ったことで
すべてが変わってしまいました。
もし黒い靄が取り除かれた後も
アイニが変わらなければ、
未来はどうなるのか?
あるいは、
黒い靄が取り除かれたことで、
アイニがすっかり変わってしまったら
どうすればいいのかと、
ラティルは不安そうに呟き、
タッシールの顔を見ました。
しかし彼は、全く不安そうではなく
むしろラティルを可愛いと
言っているように見ていました。
タッシールの笑顔を見て、
ラティルの心臓は震え始めました。
今日はタッシールだと
ラティルは思いました。
彼女は、
どうしてそんな目で自分を見るのかと
恥ずかしそうに尋ねました。
タッシールは、
他の人をそんな目で見たら
大変なことになると告げました。
ラティルの心臓は、
より早く鼓動しました。
意外なことに、
前日のちょっとした違和感が
すぐに改善されました。
タッシールは、
何も心配することはない。
黒い靄を取り除いても
アイニに変化がないのであれば、
当初の計画に従えば良い。
もし、アイニに変化があるとすれば、
二つの可能性がある。
一つは、
アイニがラティルとの対決に興味を失い
レアンと手を切る可能性。
もう一つは、興味を失いながらも
レアンと一緒に
ラティルとの対決に臨む可能性だと
話しました。
ラティルは、もしそうなれば、
さらに事が
複雑になるのではないかと尋ねると
タッシールは、
アイニがレアンと手を組んでいるなら
計画に沿って行動すればいい。
もし彼女が彼から離れれば、
敵が一人減るので、
より簡単になると答えました。
ラティルは、
空のカップで遊びながら、
計画の変更を心配していましたが
タッシールの言葉を聞いて、
彼女の大きな心配事が
些細なことに思えました。
タッシールはとても賢いと
ラティルは褒めました。
彼は肩をすくめてお茶を飲みました。
ラティルは何か言おうと
口を開きましたが、その瞬間、
ラティルは何かが必要な時にだけ、
自分に会いに来ると思うと
ランスター伯爵が
言っていたことを思い出し、
タッシールも、
そう思っているかもしれないと
考えました。
タッシールは
ラティルの顔を覗き込みながら
どうしたのかと尋ねました。
ラティルは、それについて、
あからさまに聞いてみようかと
思いましたが、
その考えを打ち消し、
心配を振り払いました。
ラティルが答えを避けているようなので
タッシールは眉をひそめました。
彼女は、帰ると言って
扉に向かいましたが、
部屋を離れる直前に、彼を振り返り、
計画を早く進められないのかと
尋ねました。
タッシールは、
ラティルが悔しいのは分かるけれど、
確固とした結果を得られないので
早くはできないと答えました。
ラティルは、
大丈夫、ただ聞いただけだと言って
彼の部屋を出ました。
タッシールの部屋を出た瞬間、
ゲスターが近づいてきて
彼女の腕を取りました。
彼がディジェットへ行っていると
聞いていたので、ラティルは驚き
彼に、大丈夫かと尋ねました。
ゲスターは頷くと、
話したいことがあると言いました。
ラティルは時計を見た後、
ゲスターの腕を取ると、
時間がないので、本宮に行きながら
話をしようと言いましたが、
それを言った途端、後悔しました。
自分は、ゲスターが必要な時にだけ
彼に会いに来ると、
怒ったランスター伯爵に指摘されたことを
先ほど、思い出したばかりなのに、
自分は、何てバカなのだろうと
思いました。
ラティルは、忙しくしている中、
数秒でもゲスターと
会っていたいからだと
苦しい言い訳をしました。
ゲスターは、
クライン王子とアドマルの冒険者たちを
探したけれど、
見つからなかったこと、
しかし、アクシアンが手帳に書かれた
古代語の単語について、
聞いて回っていたことを話しました。
ラティルは驚きました。
彼はクラインの護衛なのに、
クラインは古代語について
何も言っていなかったからでした。
ラティルは、ゲスターに、
アクシアンはアドマルで地下に落ちて
そこには柱がたくさんあったこと、
それは、おそらく
アリタルの時代の神殿だと話しました。
アクシアンは、柱に記録された言葉を
書き写したのだろうか?
どうしてクラインは
知らなかったのだろうか?
アクシアンが、
クラインに伝えていれば、
彼は自分に話したと思うので、
アクシアンはクラインに
話さなかったのだろうと思いました。
ラティルはゲスターに礼を言い、
後でクラインに直接聞いてみると
言いました。
本宮に到着したので、
ラティルはゲスターと
別れようとしましたが、
彼は彼女の手を取り、
一番大事なことを
まだ話していないと告げました。
ゲスターは、
アクシアンがアドマルに行ってから
古代語について調べていたと聞き、
気になって調べに行った。
そこでヒュアツィンテが
古代語の専門家を探していることを知り
自分はランスターと名乗って、
彼に会いに行った。
ヒュアツィンテは、
古代文字が書かれた紙を見せた。
アクシアンは文字が書かれたノートを
ヒュアツィンテに渡したが
彼はとても慎重で、
紙の一部を見せただけだったと
話しました。
ラティルは、
「あの人はそういう人なんだ 」と
笑顔で言いましたが、
ゲスターの表情を見て、
彼女は笑うのを止めました。
そして、髪をいじりながら
何て書いてあったかと尋ねました。
彼は「初めて帰ってきた。 」と
答えました。
ラティルは、
次に何が書かれていたかと
尋ねましたが、
ゲスターは、
他は何もなかったと答えました。
ラティルは
仕事に集中すべきだと思いながらも
物思いに耽っていました。
ゲスターはヒュアツィンテの元へ戻り
ノートに他に何が書いてあるか
調べると言いました。
ランスター伯爵は不愉快で、
ゲスターは内気だけれど、
二人でうまくやるだろうと思い
ラティルは彼らを信じて
仕事をすることにしました。
しかし、それは5秒程度しか続かず、
ラティルは、
アクシアンがカリセンにいるのなら、
クラインも、
そこに行っているのではないかと
思いました。
調査に行ったのか。
それとも、他に理由があるのか。
まさか、カリセンに
戻ったりしないよね?
自分のために、
アドマルのような危険な場所に
行ったくらいなので、
そんなことはないだろう。
ラティルは、
さらに物思いに耽ったので、
少し休養をとることにしました。
翌日、ゲスターは、
再びカリセンの宮殿を訪れました。
約束の30分前に到着したので、
彼は宮殿内を
ブラブラ歩いていたところ、
クライン皇子を見つけたので、
ゲスターは木の陰に隠れました。
クラインは、
苦々しい表情をしていました。
宰相は、
とにかく皇子は
タリウムで好かれていない。
子供もいないし、
最初から一時的な側室だった。
外国人であること、
カッとなる性格なので、
人々から嫌われているのに、
なぜ、タリウムに
留まろうとするのか。
カリセンの人々を見捨てるのかと
話していました。
これはどういうことなのかと、
ゲスターは好奇心を覚えましたが、
時刻を見て、先に進みました。
宰相がクラインについて
言っていることは本当だけれど、
臣下が皇子に対して、
そんなにズケズケと、
ものを言っても大丈夫なのかと
心配になりました。
宰相は、
そこまでしてもクラインを
カリセンに留めておきたいのだと
思います。
以前のクラインは、
やっかいものだったかもしれないけれど
今は、頼りにされるようになったことが
嬉しいです。
それは、クラインが
ラティルや側室たちと
過ごしているうちに、
役に立たない皇子ではなく、
ラティルを助け、
ラティルのためになる男になりたいと
気持ちが
変化していったからではないかと
思います。
今のクラインは、
ラティルと側室たちが、
作り上げたものだと思います。
ゲスターは、何か魂胆があって、
ヒュアツィンテの所へ
行ったのかと思いましたが
そうではなさそうに思えます。
考えてみれば、ゲスターは
ラティルのことを好きでいる限り
側室を蹴落とすために悪事を働いても、
彼女を困らせたり、
彼女が不利益になるようなことは
しないのではないかと思います。
おそらくランスター伯爵も。
ゲスターは、
自主的にラティルの役に立つことで
彼女の気を引き、感謝され、
他の側室たちよりも
自分を好きになって欲しくて、
ヒュアツィンテの所へ
行ったのかもしれません。
それと、ゲスターは
アドマルに行けないので、
純粋に柱に書かれた文字に
興味があったのかもしれません。