333話 タンベクはロードの位置を教える羅針盤があると言いましたが・・・
◇傲慢な対抗者◇
ラティルは、すぐに
そんな物はないと思いました。
そんなものがあれば、
ギルゴールが
持っていたはずだけれど、
彼は、それを持っていなかったし、
探しにも行かなかったので
彼は、ロードを見つけるのに
かなり苦労しました。
ラティルは、
笑いが出そうになるのを我慢し、
わざと驚き、
好奇心を抱くふりをして
それは本当なのかと尋ねました。
タンベクは、
ロードのいる方向を教えるだけで、
そこまでの距離は教えないけれど、
その方向へ行けば、
望む相手を見つけることができる。
とても役に立つ物だと思うと
言いました。
しかし、ラティルは、
そんなものがあるなら、
なぜ、タンベクたちは、
ロードの位置を確認していたのに、
対抗者が現れるまで
おとなしくしていたのか。
ただ、持っていただけで、
それをアイニに渡したのかと尋ねると
タンベクは返答に詰まりました。
すると、すかさずラティルは、
もしかして、使い捨てなのかと
声を殺しながら、ニッコリ笑うと
タンベクの顔が赤くなりました。
彼女は、
自分が嘘を言っていると思うのかと
尋ねると、ラティルは、
そんなことはない。
ただ、その品物を信用できないと
言っているだけだと答えました。
タンベクは、それは自分が
嘘をついているという意味だと
思いましたが、
不満を表すことはできませんでした。
彼女は、対抗者の剣を選んだ3人の
性格は皆違っていて、
1人は怠惰で、1人は焦っていて、
もう1人は傲慢だと思いました。
ラティルは、タンベクの本音を
まだ読んでいませんでしたが、
自分に対して不満を抱いているのは
分かりました。
そして、その後、
彼女の言葉が続かないことから、
その品物がないことを確信しました。
ラティルは、タンベクを
あまりからかわないように
努力しながら、
そんなものがあるなら、
対抗者の剣を持っている
アイニが持っていた方がいいと思う。
自分は羅針盤だけもらっても、
剣がなければ、
ロードの位置だけ調べて、
そこへ行って
死ねということなのではないかと
笑いながら言いました。
その言葉にタンベクは、
背筋が痒くなりました。
ラティルは笑いながらも、
言葉の中に露骨なとげが目立つし、
本人も、隠そうとしていないように
見えました。
タンベクがためらっている間、
ラティルは、
カリセンの皇子であるクラインを
亡き者にしようとした者たちが、
自分の側室である大神官に
何をするか分からないので、
彼を遣わすことはできない。
少なくとも、
ヒュアツィンテが目覚めるまでは
カリセンを信じられない。
でも、本当に大神官が必要なら、
中間地点で会うのはどうかと
提案しました。
ヒュアツィンテ皇帝は
身動きさえできない患者なのに、
その彼を
中間地点に連れて来いと言うなんて、
ヒュアツィンテ自身も周りの人も
危ないと思ったタンベクは、
タリウムの皇帝は、
カリセンを敵対視していると
呟きました。
ラティルは、
タンベクが神殿にしかいないせいで
知らなかったようだけれど、
タリウムとカリセンの雰囲気が
険悪なのは
全世界の人々が知っているし、
先にタリウムを攻撃したのは
カリセンだと言いました。
◇意味深なサーナット卿◇
タンベクは帰る前に、
大神官に会って挨拶をしたいと
言いました。
ラティルは、タンベクが
直接、彼に、
ヒュアツィンテを助けてくれと、
頼もうとしていると思いました。
大神官も、
ヒュアツィンテが正常であることを
すでに知っているので、
ラティルは快く承諾し、
タンベクからも大神官に頼むようにと
言いました。
タンベクが出て行って、
5分ほど待った後、
ラティルは執務室に戻ると、
サーナット卿に、
タンベクの部屋に行って
荷物を調べるよう指示しました。
羅針盤の話は嘘だと思うけれど、
確かめて悪いことはないと
思ったからでした。
15分ほど経って、
戻って来たサーナット卿は、
羅針盤も、特に怪しい物も
なかったと報告しました。
そして、気になるなら、
ダガ公爵を利用して
アイニ皇后の方も確認したらどうかと
提案しましたが、
ラティルは、その必要はないし、
羅針盤は確かにない。
もし、偽物があるとしても
羅針盤の話を自分たちが知るや否や
それが壊れたら
自分たちが犯人だと思われると
話すと、サーナット卿は同意しました。
続けて、ラティルは
ダガ公爵が
自分たちの操り人形だということを
アイニは知っているし、
そこで公爵が羅針盤を・・・
と言いかけましたが、
途中で話すのを止め、
妙な表情をしました。
サーナット卿は、
どうしたのかと思い、彼女を呼ぶと、
ラティルは、
茶目っ気たっぷりの笑みを浮かべ、
タンベクは、
ダガ公爵が食餌鬼であることを
知らないはず。
彼女が自分たちに
羅針盤の話をしながら
探りを入れたということは、
明らかにアイニは自分たちに対して
悪いことをした。
ロードの話をしたかもしれないし、
しなかったかもしれないけれど、
お返しをしようと思うと言って、
陰気に口元を上げました。
思わず躊躇ったサーナット卿に、
ラティルは、どうしたのかと尋ねると
彼は、謝った後、
なるほどロードだと思った、
悪い意味ではなかったと
弁解しましたが、
サーナット卿が目をそらしたので
ラティルは彼を睨み、
悪い意味でなかったら、
最初に謝ったりしないと抗議しました。
◇大神官との話◇
タンベクは生まれて初めて見る、
ハーレムの華麗な風景に圧倒されたまま、
大臣館に会うために歩いていました。
カリセンは雄大で威厳があるけれど、
宮殿内部で相次いで起きた事件のせいで
雰囲気が重く薄暗い反面、
タリウムは、
すべてが華やかで巨大で、
世界をひそかに包み込む
脅威から逃れたかのように
平和でした。
しかし、タンベクは、
ラトラシル皇帝あるいは
その周囲の人が
ロードである可能性があるという
アイニの言葉を先に聞いたせいか
この平和は、
他の人々の恐怖の中から
湧き出て来たように思いました。
その気持ちは、
湖畔で、狐に似ている美しい男と
話をしているラナムンを見ると、
さらに強まりました。
ラナムンは対抗者でありながらも、
神が与えた運命を
自分の安らぎのために
捨ててしまった者ではないかと考えると
少し気分が悪くなり、
タンベクは、
あえてラナムンに声をかけずに
素早く歩きました。
大神官は部屋の中にいたので、
すぐに会うことができました。
最初、大神官は
「この人は誰だ?」という目で
タンベクを見ましたが、
彼女が事情を説明すると、
百花から他の聖騎士団もいると
聞いたことがあるので、
嬉しそうに頷きました。
そして、袖の間から見えている
タンベクの筋肉を見て、
よく運動をしていると思い、
微笑みました。
大神官は、
何の用事で来たのかと尋ねました。
百花は、
大神官のソファの後ろに立ったまま、
タンベクをじっと見つめていました。
彼女は、百花のその態度が
自分の領域に入ってきた侵入者を
警戒するサインのように思われ、
少し戸惑いましたが、
ヒュアツィンテ皇帝の治療のために
大神官をカリセンに招聘したいと
ラトラシル皇帝に話したけれど
断られた。
けれども、大神官は
タリウムの側室であると同時に
すべての神殿の大神官なので、
カリセンにしばらく来て欲しいと
慎重に話すと、
笑いながら話を聞いていた大神官は
真顔になり、きっぱりと断りました。
大臣官が慈しみ深い笑みを
浮かべていたので、
安心していたタンベクは驚き
ラトラシル皇帝のせいで
断るのかと尋ねると、大神官は、
自分の側室仲間が
カリセンに残って死ぬところだったし
皇帝がだめだと言うのには
すべて理由があると言いました。
タンベクは眉をひそめました。
大神官は遠回しに言っているけれど
結局、ラトラシル皇帝のせいで
駄目ということではないかと
思いました。
アイニは、
おそらく、大神官は
ラトラシル皇帝に対する疑惑を
知らない。
彼が知っているなら、
ハーレムにいるはずがない。
だから、大神官がカリセンに来たら
密かに知らせると言っていました。
しかし、大神官が
ラトラシル皇帝のそばから
離れなかったら、
そんな機会もないので、
自分が先に話すしかないと思い
タンベクは、大神官に、
アイニ皇后と
会ったことがあるかと尋ねました。
大神官はお茶を飲みながら
明るく笑い、
ラナムンとはよく話をする。
冷たいけれど、いい人だと言いました。
タンベクは、
もう一度、同じ質問をすると、
大神官は、アイニ皇后とは
会ったことはないし、
その必要もないと答えました。
大神官の澄んだ目を見て
タンベクは、
話をすべきかやめるべきか
躊躇しました。
けれども、大神官もラナムンも
ここでの生活に
すっかりはまっているようだし、
ラトラシル皇帝は
カリセンを敵対視しているので、
このままでは、大神官は、
ロードに関する話を全く聞くことが
できないし、
ラトラシル皇帝がロードではなく
別にロードがいて、
利用されることになったら、
大神官とラナムンに
ロードが誰なのか探し出してもらい
ラトラシル皇帝と共に
倒さなければならないと
思いました。
いきなりやって来たタンベクが
話をしているうちに、
だんだん悲しそうな表情に
なっていくので、
大神官は百花と顔を見合わせ
不思議に思いました。
百花は、
何か話したいことがあるのかと
初めて口を開きました。
タンベクは、大神官に
カリセンに来て、
アイニ皇后と話をして欲しい。
彼女は、ロードが
タリウム皇帝の近くにいると
疑っているし、
皇帝本人の可能性もあると言っていると
話しました。
大神官が、
すでにヒュアツィンテを治療したと
言ってしまうのではないかと思い
ドキドキしていましたが、
本当のことを言わなくて
ホッとしました。
公的にではなく、
ゲスターの狐の穴を通って、
こっそりカリセンに行ったので、
これは話してはいけないことだと
分かっていたのかもしれません。
ラティルも、
大神官は話したりしないと
信頼していたから、
安心してタンベクと
会わせることができたのだと思います。
ラナムンは対抗者として
意欲的ではないし、
アイニの言葉により、
先入観を植え付けられたせいで
タンベクはタリウムの繁栄を快く
思っていませんが、
カリセンが
重苦しい雰囲気になっているのは
ラティルがサディとして
カリセンに滞在していた時の
ゾンビ事件以外、
ダガ公爵が引き起こしたことです。
タンベクは何も知らないので、
仕方がありませんが、
タリウムが繁栄しているのは、
その陰で
努力している人がいるということに
気付いて欲しいです。