340話 もっと怒ってと、ギルゴールはラティルに要求しましたが・・・
暗く沈んだギルゴールの瞳に
ラティルは
心臓がドキドキしましたが、
彼女は彼に
自分をからかっているのか、
自分がふざけているように
見えるのかと尋ねました。
ギルゴールは、
ラティルが怒っているようだと
平然と答えました。
彼女は、
それならば、なぜ、
もっと怒ってみろというのか。
自分が怒っているのは面白いのかと
問い詰めました。
数千年、数万年を生きてきた彼には
覚醒前のロードが怒ることなど
何ともないのかもしれないと考えると
ラティルは、
ますます腹が立ってきました。
ギルゴールは
その表情をじっと見下ろし、
ラティルの顔から手を離すと、
一緒に怒るわけにはいかないと
答えました。
ラティルは、
彼の選択肢に謝ることはないのかと
尋ねると、ギルゴールは、
自分が何か悪いことをしたのかと
答えたので、
ラティルは呆れて彼を見ました。
彼は、自分が悪いことをしたとは
本当に思っていなかったようなので
ラティルは当惑しました。
その表情を見ていると、怒りより
虚しい気持ちが押し寄せて来たので
自分が怒っている理由は分かるかと
真剣に尋ねました。
ギルゴールは返事をする代わりに
ラティルの表情を見て、
少し困惑した様子で
ラティルがそのような顔をしている
理由を説明して欲しいと頼みました。
ラティルは混乱しました。
自分が悪い事をしたと
思っていない相手に
どう接していていいか分からず、
途方に暮れました。
そして、彼と目が合った瞬間。
ギルゴールは両腕を広げて
ラティルをしっかりと抱きしめ、
「分かった」と言いました。
しかし、ラティルは
彼が何をしたのか
全く分かっていないと確信しました。
彼は、ラティルが困っているので
謝っただけでした。
ラティルは彼の肩に
額をうずめたまま、
夢の中で見た光景を思い出しました。
ギルゴールが養母を拉致して来て
プレゼントすると言った時、
ドミスが養父の命を奪った共犯だと
養母が誤解して怒り、
ドミスを罵倒した時の、
ギルゴールに対するドミスの気持ちを
少し体感できました。
ドミスが養母の愛情を
求めていたことを
ラティルは頭では分かっていたけれど
彼女は、その養母を
あまり好きではなく、
養父よりましだと思っただけなので
ドミスの感情を
理解できませんでしたが、
ようやく少し体感できました。
しかも、その時のギルゴールは
復讐のためではなく、単に、
ドミスに自分をよく見せたくて
そんなことをしたのだから、
ドミスは、もっと呆れたと
思いました。
ラティルは暗い目で
ギルゴールを見上げました。
彼もラティルを
じっと見つめました。
弱いのか強いのか、
曲がりくねった迷路のような
精神とは違い、
彼の瞳はあまりにも深く美しく
神秘的でした。
ラティルは、ギルゴールの中に
迷路があるみたいだと言うと、
彼は、その中にラティルが
閉じ込められているのかと
聞きました。
彼女は、それを否定しましたが
入れば、閉じ込められそうだと
答えて、彼の目元を撫でました。
ラティルは、その中に、
入らないといけないのではないかと
考えました。
ギルゴールは、
そんなラティルの本音を知らず、
明るく微笑むと。
中に入ればいいものがあると
言いました。
ラティルは、
どんなものがあるのかと尋ねると
ギルゴールは、
心臓ではないか。
自分の息の根を止めることが
できるかもしれないと答えました。
ラティルはギルゴールの瞼を
親指で触りながら
彼の瞼にキスをしました。
ふと、彼が
完全に正気を取り戻す直前に
アリタルという名前を口にしたことが
思い浮かびました。
彼女がギルゴールの中にある
迷路を作ったのか、
それとも歳月のせいなのか、
生まれつきなのか。
そしてギルゴールはその中に
留まるのだろうか。
それとも、その迷路に
自分も閉じ込められているのか。
ぼんやり考えている
ラティルの耳を掴み、ギルゴールは
ラティルが、そんな表情をしたら
どうすればいいか分からないと
呟きました。
自分がどのような表情をしているのか。
ラティルは聞こうかどうか迷って
彼の肩に額を置きました。
なぜ、ロードたちは
ギルゴールを捕まえておくことができず
対抗者たちはギルゴールを
師匠にしたのか。
一体ギルゴールは何を望んで
対抗者の師匠の役割をしていたのか。
考えごとをしているラティルに
ギルゴールは、
自分を見たくないのか。
自分がそばにいなかったらいいのかと
尋ねました。
◇本当の罰◇
夕方頃、
ラティルはラナムンを訪ねました。
彼はお風呂に入ったばかりなのか
バスローブ姿でした。
ラティルが入ってくると、
微かに笑みを浮かべて近づいて来て、
ラティルの上着を受け取りました。
ラナムンは、
最近、頻繁にラティルに会えて
嬉しいと言いました。
ラティルは、首の調子について
尋ねると、ラナムンは
ぶつかる前にラティルが
防いでくれたから問題ない。
ラティルが自分を
守ってくれたおかげだと答えました。
ラティルは、
自分がラナムンを助けることがあれば
日記帳に書いておいてほしい。
後で、ラナムンが
自分に腹を立てることがあれば、
それを探してみるように。
早く探し出せるように
栞を挟んでおくようにと
言いました。
それを聞いて、
ラナムンは軽く笑いました。
それでもラティルは
ラナムンの首が傷ついていないか
確認し、大丈夫だとわかると、
照れくさそうに笑い、
ギルゴールのしたことを謝りました。
ラナムンは、
ギルゴールのことで謝るラティルを
訝しみましたが、
彼は、今回のことで、
ギルゴールが自分を嫌っていることが
分かったと言いました。
対抗者が
師匠と対立するようになったので、
ラティルは、うまくいったと思いつつ、
これでいいのだろうかと
戸惑っているうちに、ラティルは
ラナムンの無事を確認することの他に
彼の部屋を訪れた
もう1つの目的を思い出しました。
それは、カルドンを怒ることでした。
ラティルは、
カルドンの居場所を訪ねると
ラナムンは眉をひそめ、彼は、
わざと自分を攻撃したのではないと
カルドンを庇いました。
ラティルは、
それは分かっていると答えながら
部屋の中を見回し、
使用人を呼ぶ鐘を発見して振りました。
ラナムンはラティルに
カルドンを探している理由を尋ねると
逆に彼女は、
ギルゴールがカルドンを
怒っている理由を知らないのかと
尋ねました。
ラナムンは訳が分かりませんでした。
間もなく扉が開き、
カルドンが入って来ました。
ゴシップ誌のことで
やましい気持ちがあるのか、
それとも、ラナムンを
傷つけそうになったからなのかは
分からないけれど、
カルドンは
ラティルから3歩ほど離れた所で
跪きました。
ラティルはカルドンを
立ち上がらせると
彼はラティルの顔色をうかがいました。
ラナムンは依然として
戸惑っているように見えました。
ラティルはカルドンを
別の場所へ連れて行って怒るか、
ここで怒るかを考えていましたが、
ラナムンの侍従なので
彼も事情を知っていた方がいいと
思いました。
ラティルは、カルドンに
彼の行動が間違っていることを
彼自身も知っているだろうと
告げました。
ラナムンは眉をひそめ、
カルドンは唾を飲み込みました。
続けて、ラティルは
カルドンの行動が、
ラナムンに大怪我を
負わせようとした罪に
問われるほどではないと思うけれど
少しは責任があると話しました。
それはどういうことなのかと
ラナムンは尋ねましたが、
ラティルは「後で」という合図を送り
ギルゴールが怒り過ぎたのは別として
カルドンも過ちを犯したし、
先に始めたのはカルドンなので、
それに対して、カルドンは謝罪し
罰を受けるようにと告げました。
ギルゴールと聞いて
ラナムンが驚いていると
カルドンは消入りそうな声で
ギルゴールとメラディムの
変な肖像画を描いて送ったのは自分だと
打ち明けました。
ラナムンは全く知らなかったようで
口をポカンと開けて
カルドンを眺めると、
彼は頭を下げて謝り、
誓約式の日に、ギルゴールが
指輪を見せびらかしながら
嘲弄するのがとても憎らしかったと
言いました。
ラナムンの表情が
氷のように冷たくなったのを
見たラティルは
忙しいと言い訳をして、
素早くその場を抜け出しました。
ラティルが下す罰は、
一時的な減給程度だけれど、
カルドンへの本当の罰は
ラナムンの失望のようでした。
◇愛される人◇
ザイオールは、
様々な荷物をスーツケース3つに
詰め込んだ後、外に出てみると、
頬を赤く染めたギルゴールが
花に水をやっていました。
ザイオールはその姿を眺めながら、
ギルゴールが何日か出かけるので
着替えると言っていたのに、
なぜ着替えもせず、
出かける前に水をやっているのか。
そんなことは自分がするのにと
呟きました。
そして、何をしてきたせいで
ギルゴールの頬が、
あれほどまでに赤くなったのか。
その前は、
とても怒った顔をしていたのに。
今は、雲の上で
露を数滴しか食べられなくても
満足しながら生きていけるような
顔をしている。
お酒でも飲んだのだろうかと
不思議に思いました。
するとギルゴールは、
ザイオールを見ながらにっこり笑い
両腕を広げながらザイオールを呼び
彼を抱き締めてあげると言いました。
驚いたザイオールは
慌てて後ろに下がり、
どうしたのか、
本当にお酒を飲んだのかと尋ねると
彼は、
気が変わった。 ずっといるので
荷物も元に戻してと指示しました。
ザイオールが驚いていると
ギルゴールは、
「私は愛される人・・・」
と鼻歌を歌い始めたので
ザイオールは顔をしかめました。
愛されてもいないし、
人でもないのに一体どうしたのか。
何を見て来たのかと、
ザイオールは疑問に思いましたが
やがて彼は、
自分の主人は頭がおかしくなったので
理解しようとするのは
やめることにしました。
◇集まる聖騎士団◇
タンベクは塔の窓から頭を突き出し、
空を見上げながら眉をひそめました。
今にも雨が降りそうでした。
その後ろで、
タンベクの部下のミルギは
12の聖騎士団の団長が集まる日なのに
何だか天気がとても憂鬱で
まるで悪党が集まる日みたいだと
ブツブツ文句を言いました。
するとタンベクは、わざと、
このような暗い雨の日を選んだ。
むしろ雨がもっと早く降ると
思っていたと返事をしたので
ミルギは驚きました。
タンベクは、
ロードが勢力を築いてるなら、
自分たちに注目するだろうし、
自分たちが集まれば、
敵も警戒するだろうから
気をつけなければいけないと
話しました。
ミルギは納得すると、
タンベクのそばに行って
窓の外を見下ろしました。
聖騎士団の団長らが随行者数人と共に
彼らの象徴が描かれた旗を持って
塔の中に入って来ていました。
最後の旗が中に入ってくると、
タンベクは下へ降りて行きました。
◇ロードの特徴◇
タンベクが会議室の中に入ると、
すでに全ての聖騎士団長が
集まっていました。
彼らは長いテーブルを囲む12の椅子に
それぞれ一定の距離を置いて
座っていました。
対抗者の座るべき上座は空いていて
タンベクは、その横を通り過ぎる時、
この席に座ることになるのは
アイニ皇后なのか、
ラトラシル皇帝なのか、
それとも側室ラナムンなのかと
考えました。
タンベクが座ると、
一番年長の聖騎士団長が
一度、周囲を見回し、
会議の開始を宣言しました。
そして、ラティルとアイニに関する
タンベクの相談事について尋ねました。
彼女は、自ら経験した
ラティルとアイニとラナムンとの
出来事を話し、
3人に対する評価を伝えた後、
対抗者の剣を抜いたのが
3人というのは今回が初めてで、
しかも、そのうち2人が、
お互いを悪の枢軸として
攻撃し合うという状況なので、
非情に困惑している。
先輩たちの意見を聞きたいと
話しました。
すると、会議開始を宣言した
聖騎士団長が、ラトラシル皇帝は
ロードのようだったかと
真っ先に尋ねました。
タンベクは、
大神官と、
全ての聖騎士団の原型といえる
百花繚乱の百花まで
ラトラシル皇帝をかばっていたと
答えました。
すると、別の騎士団長が、
それは、大神官と百花の意見であり、
タンベクの意見ではないと
非難しました。
タンベクは顔を赤くしながら
その意見に納得したものの、
一番近くにいる2人の意見なので
重要だと思うし、
ラトラシル皇帝自身も
聖水を扱ったり、
食屍鬼を始末することを、
あまり気にしないように見えた。
ロードであれば、
そんなことはないのではないかと
話しました。
それを聞いた別の聖騎士団長は、
タンベクに、
ロードを見たことあるかと尋ねました。
タンベクは、
見たことがないと返事をすると、
その聖騎士団長は彼女に、
そのように判断する理由を尋ねました。
タンベクは言葉に詰まり、
再び顔を赤くすると、
一番年長の聖騎士団長は咳ばらいをし
彼らに警告するような視線を
送りました。
しかし、タンベクに文句を言った
聖騎士団長は委縮するどころか
自信満々に笑い、
ロードかどうかを確認するのは
難しいけれど、自分たちは皆、
ロードの周りに
吸血鬼の部下が多いという
ロードの最大の特徴を知っているので
周りの人たちを確認してみればいいと
告げました。
ギルゴールは
ラナムンとカルドンに
復讐しようと思ったけれど
ラティルに止められて腹を立てた。
それで、アイニの所か、
別の場所かは分からないけれど、
どこかへ行こうとして
ザイオールに荷造りを命じた。
そして、
一応ラティルの言うことを聞き、
自分が手を下す代わりに
ラナムンとカルドンを戦わせることで
復讐しようとした。
けれども、ラティルが
ギルゴールの心情を理解し、
彼を何とかしたいという
下心を抱くことなく
ギルゴールに優しくした。
これが、彼の心変わりをした
原因ではないかと思いました。
ラティルがギルゴールを
自分の元に留めておきたいなら、
常に彼を気にかけ、彼と遊び、
彼に優しくし、
愛情を注いであげれば
いいのではないかと思います。
側室がたくさんいるので
難しそうですが・・・