349話 ラナムンは、自分のベッドの上にカルレインが寝ている理由を尋ねました。
◇沈黙◇
ただでさえ冷たいラナムンの声が
さらに沈んでいました。
カルレインは返事をせず、
まず立ち上がりました。
ラナムンと同じベッドで
向き合いたくありませんでした。
ラナムンも
ゆっくりと上半身を起こして座り、
カルレインを睨みつけると、
ここへはどうやって来たのかと
尋ねました。
カルレインは、
この状況で何を言えば、
最も自然なのか考えてみましたが
頭を働かせても、
何も思い浮かびませんでした。
彼に危害を加えに来た、あるいは
ハンサムだから会いに来たと言えば
危険だし、
通りすがりに安否が気になって
立ち寄ったと言えば、
もっと変に聞こえる。
何か音が聞こえたので、
来てみたと言っても、
並んで横になっていたのは奇怪。
結局、カルレインは
沈黙することにし、
訳もなく、服だけ叩きました。
腹を立てたラナムンは、
どうやってここに来たのかと
尋ねましたが、
カルレインは、彼の想像力に
答えを任せ、
窓と扉を交互に見た後、
窓から出て行くと、
泥棒みたいなので、
扉を開けて出て行きました。
ラナムンの部屋から
急にカルレインが現れると、
カルドンは、とても驚き、
彼に声をかけましたが、
カルレインは無表情で出て行きました。
しかし、彼の胸は怒りで燃え、
いつにも増して、
ゲスターの命を奪いたいと思いました。
◇皇帝に話すべき◇
カルレインが去ってから30分後、
ラナムンから事情を聞いた
カルドンは驚き、
ラティルに話すべきだと勧めました。
傭兵王が、
いつの間にか隣で横になっていたのは
危険すぎると思ったからでした。
カルドンは、ラナムンが
最初の皇帝の父になると聞いて、
怒って、彼の息の根を止めに来たと
主張しました。
ラナムンは、カルレインが
それほど愚か者には見えなかったと
反論しましたが、カルドンは、
そうでなければ、
ラナムンのベッドにいた理由が
説明できない。
息を止めに来たのではなくても、
少なくとも殴りに来たのは
間違いないと主張しました。
ラナムンは、
驚いた気持ちをを抑えるために
ワインを一口飲みながら、
このことをラティルに
話した方がいいかどうか悩みましたが
結局、知らせることにしました。
◇後ろめたい◇
翌朝。
ラナムンがラティルの部屋を
訪ねるや否や、
赤ちゃんのお父さんと呼ばれ
ラナムンがびくっとすると、
近くに立っていた侍女たちが
唇をかみしめ、笑いを堪えました。
ラティルは笑いながらラナムンを見上げ
ソファーから立ち上がると
寝室について来いと頭で合図しました。
ラナムンは応接室を通り過ぎる時に
彼女が先程まで座っていた所を見ると
テーブルの上に
ベビー用品のカタログが
置いてありました。
ラナムンがそれを見ていることに
気づいた侍女たちは
くすくす笑いながら
ラナムンにも、
それを渡すことを提案しましたが
彼は断りました。
ラナムンは寝室に入ると
扉を閉めました。
ラティルは袖をまくり、
ベッドにゆったりと座っていました。
ラナムンと目が合うと、彼女は
彼に聞かれてもいないのに、
カタログは、
自分が持ってきたのではなく、
オーダーメイドするためには、
事前に選ばないといけないと言われて
見ていただけだと話しました。
ラナムンは、
自分は何も言っていないと
反論しましたが、
ラティルは、ラナムンが
自分を詐欺師のように
見ていたと言い訳しました。
ラナムンは、
何も考えていなかったと言いながら
「だから後ろ暗ければ尻餅つく」
と言うのだと思いました。
ラティルは恥ずかしそうに
頬を掻きながら、
できるだけ楽な姿勢で
横になりましたが、
ラナムンと目が合うと、
妊娠したら、
姿勢を正さなければいけないと、
何度も小言を言われていると話すと
ラナムンは、今回も自分は
何も考えていなかったと言いました。
ラティルは咳払いをして
枕を抱きしめ、
本当にそうなのかと確認しました。
ラナムンが同意すると、
ラティルは、
言葉がしどろもどろになり、
照れくさそうに
枕の上にあごを置きました。
ラナムンは、
その表情が少し可愛いと思いながらも
眉をひそめました。
彼は皇帝に愛されるべきで人であり
皇帝を好きになる人では
ありませんでした。
側室になった初日の夜、
皇帝との雰囲気に酔い、
少し心が揺らいだことで、
どれだけプライドが傷ついたことか。
ファーストキスをしながら
泣いていた皇帝の姿は
どうだっただろうか。
ラナムンは
そのプライドを回復するために
とても苦労し、
それは、まだ回復していませんでした。
そんな中、
また、自分だけ皇帝に好意を持ち
心苦しい思いをするのは自分なので、
彼は皇帝を誘惑しても、
彼女に溺れて、
弱音を吐いてはいけませんでした。
ラティルが思い出したように、
ラナムンが来た理由を尋ねたので
彼は考えるのをやめて
近くの椅子に座ると、
カルレインのことで来たと答えました。
それを聞いてラティルは、
不安になりました。
彼は、自分の正体がばれないように
大神官を階段から突き落としたり
クラインのお守りを盗んだことが
ありました。
ラナムンも対抗者なので、
カルレインにとって危険な相手でした。
それなので、
ラナムンが訪ねてきて
カルレインの話を持ち出したのは
彼がラナムンに
危害を加えようとしているのかと思い
心配になりました。
ラティルは、ラナムンに
カルレインが彼に
何か悪いことを言ったり
攻撃したりしたのかと尋ねると
ラナムンは、
夜中に気配がして目を覚したら、
自分の隣に彼がいたと答えました。
ラティルは、カルレインが
武器を持っていたのかと尋ねると
ラナムンは、
ただ、横になっていただけだと
答えました。
ラティルは、
カルレインは横になって
何をしていたのかと尋ねると、
ラナムンは、
自分の顔を見ていたと答えました。
ラティルが目を丸くしていると
ラナムンは少ししかめっ面をし、
言葉で言うと
危険そうに思えないけれど、
彼は窓からも扉からも
入って来なかったので、
変な雰囲気だったと話しました。
ラティルは、ぼんやりと頷き、
それは変だと返事をしました。
◇悪戯してはいけないこと◇
昼食時、
ラティルはカルレインを呼ぶと、
彼は、
ゲスターの狐の穴に入ったところ
自分の望んでいた目的地と
少し違っていたと率直に話しました。
しかし、ラティルに話したことを
ゲスターが知れば、
また何をするか分からないと思い、
気は進まなかったものの、
ゲスターは、
到着地を間違って設定したようだと
言い訳をしました。
ラティルは、
ミスすることもあるのかと
疑いましたが、カルレインは、
だから、変な所に落ちたのだと
返事をしました。
ラティルは、ゲスターの能力を
直接経験したこともあるので、
納得しました。
ラナムンは、
カルレインがベッドに横たわって
自分の顔を見ていたと言いましたが
狐の穴の中に入ったのに、
目の前にラナムンの顔があれば、
これは何だろう?と思って
眺めるしかないし、大神官も
ヒュアツィンテの上に落ちたので
ベッドの上にいたというのも
納得しました。
幸い、
ラティルが変に思わずに済んだので
カルレインは内心ほっとしました。
しかし、ゲスターには非常に腹を立て
彼の怒りはすべてゲスターに
注がれていました。
悪戯をするにしても、
していい事と悪い事がありました。
しかしゲスターに復讐するためには
本当に慎重にアプローチしないと、
彼の部屋に行く度に
狐の穴に落とされることになるので
彼に気づかれないように
復讐しなければならないと思いました。
◇疑い◇
カルレインがゲスターに
復讐する方法について悩み、
カルドンは、
現在ハーレムの管理を担当している
タッシールに、ラナムンの護衛数を
さらに増やしてもらうよう頼む一方で
アトラクシー家の人々が送ってきた
育児書を積み上げて困っている時、
レアンとの縁談を断られた
ミロの使節団がラティルを訪れ、
必ずしも、
レアン皇子でなくてもいいので、
タリウムの皇族の中の良い方と
縁談を進めたいと申し出ました。
本当にやむを得ない特別な事情のため
縁談が断られたわけではない以上、
プライドがあるので、
同じような時期に、同じ家門に
相次いで縁談を入れることは
ありませんでした。
しかも貴族ではなく、
王族の直系の姫の縁談を
相次いで申し込んできたので、
ラティルは、
何かあるのではないか、
本当に怪しいと思いました。
その表情に気づいた使節代表は
3人の王子と大公の争いで
内部事情が少し混乱しているので
大公は、姫を外国人と
結婚させたがっていると
言い訳をしました。
大公と3人の王子が同時にラティルに
助けを求めて来たことがあったので
ラティルも、ミロの内部状況が
良くないことは知っていましたが
タリウムだけが外国では
ありませんでした。
本当に姫の安全のために
タリウムに送りたいのか、
それとも姫が
聖騎士団団長であることと
関連があるのかと思い、
ラティルは迷ったものの、
すでに、宮殿に1つの聖騎士団が
丸ごと過ごしているので、
他の聖騎士団長を
皇族として受け入れたくないと言って
今回も断りました。
使節代表は、
それが何の関係があるのかと聞きたくて
ラティルを見ましたが、
彼女の断固たる表情を見て、
渋々、頭を下げ、了承しました。
◇国婚がダメなら◇
宮殿の中には入っていないものの
ザリポルシ姫は変装して、
首都近くの村にいました。
彼女は使節団代表から、
2度目の縁談も断られたと聞くと、
タリウムの皇帝は、自分のことが
本当に気に入らないようだと
ぼやきました。
使節代表は、
いくら強大国の皇帝だとしても
あまりにも傲慢だ。
先代皇帝なら、
絶対にこのようなやり方で
姫とミロを無視しなかったと
不平を漏らしました。
気分が悪くなった他の使節たちも
あえてタリウム皇族と
結婚する必要はないし、
こんな風に結婚すれば、
皇族や貴族たちに無視される。
他にも、
姫を歓迎する所はたくさんあると
彼女を説得しようとしましたが、
ザリポルシ姫は、
絶対にタリウムに
行かなければならないと
主張しました。
最も自然に、
皇帝の周囲を探るためには、
その親戚になる必要があるので
結婚するつもりはなかったけれど
婚約まではするつもりでした。
使節や留学生として
行くこともできるけれど、
それでは、
皇帝の最も私的な領域を調べることは
困難でした。
皇帝の他に、
ハーレム内部に入って
見物を口実に中を探索できるのは、
成人女性なら側室たちの家族か
皇帝の乳母程度。
使いで来た下女も少しは入れるけれど
中を自由に
歩き回ることはできないので
必ずタリウムの皇族と
結婚しなければならないと
思いました。
考えを整理したザリポルシ姫は
侍女の方を向きながら、
未婚の男性皇族はどこにいるか
尋ねました。
戸惑っている侍女に、ザリポルシ姫は
国婚がだめなら
恋愛をしてでも入らなければならない。
それでも皇帝が断るなら、
それは本当にミロを無視する行動だ。
カリセンとタリウムは
今、仲が良くないので、
いくら皇帝だとしても、
ミロとまで敵対したくないだろうと
言いました。
遊んで暮らしている皇子は
嫌だと言いながらも
目的達成のためには、
婚約までしようとする
ザリポルシ姫は、
一度、こうと決めたら
諦めることなく、
何としてでもやりとげる
バイタリティー溢れる女性だと
思います。
それに愛国心や正義感が強く
とても真面目そうなので、
案外、大公と争っている
3人の王子よりも、
ザリポルシ姫の方が
王に向いているかもしれません。
もっとも、
政権争いに巻き込まれるのが嫌で
崇高な聖騎士という職を
選んだのかもしれません。
ラティルには
女性の友達がいませんが、
彼女がロードでなければ、
男勝りのザリポルシ姫と
友達になる可能性もあったかも
しれません。
嘘の妊娠でも、
周りは本当だと思っているので
出産に向けて
着々と準備を進めている中、
ラティルは、
困っているだけかもしれませんが
ラナムンは、
これが本当だったらと思う気持ちが
強くなっていっているような
気がします。