351話 タッシールがロードの味方をするのを不思議に思うカルレインでしたが・・・
◇気分の悪い話◇
タッシールは笑い出し、
不思議なことは何もない。
自分は皇帝と結婚したので、
抜き差しならずに
彼女の味方になったと
返事をしました。
カルレインは、
タッシールがとても積極的だと
指摘すると、彼は目を細めて
自分が怪しいと思うかと尋ねました。
カルレインは、
怪しいところは一つもないと
答えました。
すると、タッシールは
積極的になる理由があると言いました。
カルレインは、それを話すよう
促しましたが、タッシールは、
それを聞いたら気分が悪くなると
指摘しました。
カルレインは、
聞いて気分が悪くなる方が、
それが何か気になるよりは
マシだと返事をしました。
すると、タッシールの目つきが
さらに細くなったので、
カルレインは、理由を聞く前に
気分が悪くなりました。
タッシールは、調べてみたところ
ロードたちは、数千年、数万年間
敗北ばかりしていた。
だから、吸血鬼たちだけを信じて
じっとしていると不安なので、
手を貸すことにしたと説明しました。
タッシールの予告どおり
カルレインは気分が悪くなりましたが
彼の意見はもっともだと思いました。
誰だって、
自分の居場所が危うくなると思えば
手を貸したくなるだろうし、
タッシールのように有能な人なら
なおさらだと思いました。
カルレインは、
タッシールの言葉に納得し、
彼が指摘したその場所に、
人を送って確認すると言いました。
タッシールは、
送るのは人なのかと尋ねると、
カルレインは、
それを確認したければ、
彼も呼ぶと告げました。
タッシールは遠慮しました。
確認するまでもなく
送るのは吸血鬼だからでした。
タッシールは、
ゆっくり後ずさりすると、
手を振り、その場を去りました。
彼の遠ざかる後ろ姿を、
カルレインは複雑そうな目で
眺めました。
◇心配◇
ポリス皇子が到着したのは夕方でした。
ちょうど執務室から
出ようとしていたラティルは、
ポリス皇子が、
ラティルの妊娠祝いのプレゼントを
持って来たことを、
侍従長から聞かされました。
ラティルは、
プレゼントだけ受け取るか、
それとも、彼に会うかを
しばらく考えた後、
一緒に食事でもして行くよう
彼に伝えて欲しいと
侍従長に指示しました。
そして、ラナムンも連れて行くと
話すと、侍従長は、
大丈夫なのかと心配しました。
ラティルは、
ラナムンは赤ちゃんのお父さんなので
このような時間を過ごすのも
いいのではないかと話しましたが
侍従長は素早く首を横に振り、
ポリスが胃もたれするのではないかと
心配そうに言いました。
◇逆効果◇
ポリスは、
やって来た侍従長から、
皇帝が夕食を食べろと言ったことを
伝えられると、
気絶しそうになりました。
目が合っただけでも怖いのに、
一緒に食事をするなんて
胃もたれしそうでした。
しかし、ラナムンも一緒に
食事をすると聞いた時は、
姉と二人きりにならずに済むと思い
ほっとしました。
ところが、姉も姉だけれど、
ラナムンは本当に冷淡で、つれなくて
無口で不愉快な人でした。
外見は、自然にため息が出るほど
美しかったけれど、
そのような姿で冷たく見つめられると
恐怖が増しました。
ラナムンの同席は、
ポリスにとってプラスになるどころか
かえってマイナスになりました。
ポリスは、早々に
お腹の調子が悪くなりました。
そんなポリスにラティルは、
離宮の住み心地と
足りないものについて尋ねました。
ポリスは、
快適に暮らしているし、
足りないものもないと
慌てて答えました。
ラティルは、
自分がプレゼントした馬車に
ポリスが乗って来なかったことを
指摘すると、彼は、
死ぬほどの罪を犯したと言って
謝りました。
そのせいで、ポリスは
いつもより倍に緊張して、
ラティルが何か言う度に
怯えて答えました。
ラティルは、
その馬車が気に入らなければ
別の馬車を送った方がいいかと
聞こうとしましたが、
ポリスの顔が、
死んだ人のような顔色になり、
しょげているので、
怒っているから、
そう言ったのではないと弁解し、
彼に食事をするよう勧めました。
ポリスは「はい、はい」と
返事をしました。
◇謎◇
胃もたれしたまま家に戻ったポリスは
胸を叩きながら馬車から降り、
薬を持って来るよう
侍従に指示しました。
侍従は、ポリスが皇帝に会う度に
胃もたれすると、
心配そうに呟きました。
ポリスが
ゆっくり家の中に入ると、
昼に会った、
足を怪我した姫が近づいて来て、
彼に大丈夫かと尋ねました。
ポリスは慌てて胸から手を離し、
素早く頷きました。
ザリポルシ姫は、
ポリスにお礼を言おうと思ったけれど
彼がいなかったと指摘すると、
ポリスは、視線を床に落とし
消入りそうな声で、
皇帝が妊娠したので
会いに行って来た。
そして、赤ちゃんの父親のラナムンと
一緒に食事をして来たと話しましたが
見知らぬ人と話すことに慣れていない
ポリスは、途中で侍従に
助けを求める視線を送りました。
このような状況に慣れている侍従は
皇子と姫の間に割り込み、
彼は、今、気分が悪いのでと
謝りました。
ザリポルシ姫は納得し、
お礼は後ですると伝えました。
そして、侍従が皇子を支えて
階段を上る姿を、
目を輝かせながら見つめ、
ロードが、
対抗者であるラナムンとの間に
子供を持つことが可能なのかと
首を傾げました。
◇私も知りたい◇
一方、クラインは、
ラティルがラナムンは抱くのに、
自分は抱かない理由について
自ら突き止めろと言った
彼女の言葉について
深刻に悩んでいました。
クラインはバニルに、
ラナムンにはあって
自分にはないものは何かと尋ねると
分からないバニルの代わりに
アクシアンが「異性的魅力だ」と
答えたので、
クラインは彼に黙れと命令しました。
しかし、アクシアンは、
「もう一つ知っている、
赤ちゃんだ」と答えたので、
クラインは、再びアクシアンに
黙れと命令しました。
クラインは、
バニルはあまりにも偏った見方をし
クラインだけを好意的に見るので
役に立たず、アクシアンは、
ただただ、役に立ちませんでした。
クラインは悩んだ末に
最も適切な答えをしてくれる
大神官を訪ねました。
無礼にも、
大神官のことを「筋肉」と呼ぶ
クラインは、
神を恐れていないようだと、
大神官と一緒にいた百花が
不機嫌そうに呟きましたが、
クラインには、百花が
目に入りませんでした。
一方の大神官は
気分を害していないのか、
優しく微笑みながら、
どうしたのかと尋ねました。
バニルは大神官が怒って
呪いでもかけるのではないかと
心配しましたが、肩から力が抜け
ようやくリラックスできました。
クラインは、ぶっきらぼうに
自分に異性的な魅力が感じられるかと
尋ねました。
その言葉に、
大神官は目を大きく見開いて
バニルを見ました。
彼は、返事は欲しいけれど、
大神官が考えているような
意味ではないと、
慌てて付け加えました。
大神官は気乗りはしなかったものの
「いいえ」と率直に答えました。
クラインは、
先ほどよりも、もっと険しい声で
ラナムンについても尋ねました。
大神官は、彼も今一つだと、
今回も率直に答えると、
クラインは、再び、
自分とラナムンの中から
選ぶとしたら、どちらを選ぶかと
尋ねました。
隣で話を聞いていた百花は
顔を歪ませ、
大神官は、必ずその質問に
答えなければならないのかと
尋ねました。
クラインは、
そうしなければならないと答えると
百花は、その理由を尋ねました。
クラインは、今の自分は
第三者の厳しい視線が必要だと
答え、ため息をつくと、
ラナムンは、
赤ちゃんの父親になったけれど、
自分がなれない理由について
皇帝に聞いたら、
自分で考えろと言われたので、
それを調べていると打ち明けました。
その言葉に百花は眉をひそめ、
ラナムンとの間に生まれる赤ちゃんが
クラインとの間に生まれる
赤ちゃんより、
強くて賢いと思ったからだと
きっぱりと答えました。
ストレートな答えに、
クラインと大神官、バニル、
アクシアンまで
顔が赤くなりましたが、
百花は堂々として、
平然としていました。
クラインは唇を噛み締めました。
彼がラティルに尋ねたのは、
「なぜラナムンだけ抱いて
自分を抱かないのか」でしたが、
人前で、この話はできないので
遠回しに表現しましたが、
百花が、
あんなに断固とした態度に出ると、
自分が不甲斐ない人のように感じられ
腹が立ちました。
クラインは質問を変え、
皇帝がラナムンをよく抱く理由が
気になると言うと、
百花が、再び世俗的な
返事をしようとしたので、
クーベルは慌てて、
彼の口を塞ぎました。
クラインは、今回も人々が
自分の言葉を誤解したことに気づき
顔を赤らめました。
こんな風に言えば、
自分が夜はめちゃくちゃなので、
皇帝は、ラナムンだけを
求めていると、
聞こえるように思いました。
しかし、
それは決してありえませんでした。
自分は皇帝と
一緒に寝たことがないので、
ラナムンと自分は、
比較対象になりえませんでした。
しかし、問題は
これを他の人に知らせることが
できないことでした。
結局、クラインはうなり声を上げ
ラナムンのどういう点が、
自分より皇帝に
異性的にアピールできるのか
より、魅力的なのか、
それが知りたいと叫びました。
その言葉に、
大神官はため息をつきながら
自分もそれが知りたいと言いました。
その率直な答えに
「え?」とクラインが問い返す瞬間
百花は手を叩き、笑って
一緒に、その答えを探してみようと
提案しました。
クラインは、聖騎士団長が
口出しすることに文句を言いましたが
百花は、それに答える代わりに
社交界に、女性たちに好かれ
浮気者として有名な
イーリス伯爵がいるので
彼に話を聞いてみたらどうかと
提案しました。
クラインは、
しきりに聖騎士団長が割り込むことに
イライラしていましたが、
その提案には感心しました。
浮気者なら、
人気もあるに違いないので、
彼なら、ラナムンと自分の違いが
分かるかもしれないと思いました。
クラインは、短い時間、悩んだ末、
その提案を受け入れました。
しかし、彼がどこにいるか
知らないと言う百花に、
再び、その場の雰囲気が
険悪になりそうでしたが、
大神官はためらいながら片手を上げ
イーリス伯爵は、
自分が前にいたカジノの常連だったと
打ち明けました。
◇断れない◇
翌日、大神官と百花、
クライン、クーベル、バニル、
アクシアンの6人は、
風に当たるついでに
遠足に行ってくるという書置きを残し
外に出て変装すると、
大神官が以前勤めていた
カジノを訪ねました。
一時、VIPディーラーだった
大神官兼側室が
初心者を連れてやって来て、
一日だけ、
ディーラーの仕事をしたいという
突然の頼みに、
カジノの社長は慌てて
途方に暮れました。
しかし、大神官は、
悪い目的で来たわけではなく、
ただ一人の人に正体を隠して会って
話を聞きたいだけだと言いました。
社長は、
いい目的ではないと思いましたが、
大神官は、
社長は、ただ見ていないふりを
してくれればいい。
自分たちも正体を隠して
ディーラーの仕事をすると
説得しました。
唸っている社長の前に、
アクシアンは、
カリセン皇族の文様が
刻まれている、
きらめく紋章を出しました。
そんな人が、ここに
大神官と一緒に来たということは
一人はカリセンの皇子であると
社長は理解しました。
彼は、この申し出を
断れないことに気づきました。
◇必ず突き止める◇
クラインがザイシンを
「大神官」と呼ぶと、
彼は、それを禁止し、
先輩と呼ぶよう指示しました。
クラインは、
その浮気者の顧客が来たら
すぐに知らせろと念を押しました。
初心者ディーラーを
5人も入れることはできないという
社長の願いに従い、
バニルとアクシアン、クーベルは
一般社員に偽装し、
大神官とクライン、百花の3人だけが
ディーラーになりすましました。
大神官が慣れた様子でチップを
整理しているのを見て
クラインは、イライラしながら
客を見ました。
どうしてこんなことになったのか
分からないけれど、
とにかくここまで来たからには
ラナムンと自分との違いを
突き止めるつもりでした。
すると、クラインは、
どこを見ているのか。
カードを早くシャッフルして
回してと、客に注意されました。
神に仕える大神官が、
身分を隠すためとはいえ、
カジノのディーラーを
やっていた経験が、
まさか、浮気者の伯爵に
話を聞きに行くために、
生かされるとは
思ってもみませんでした。
今回のお話がマンガ化されるのは
まだまだ先ですが、
大神官以外の人たちが
どのような顔で、
カジノをウロウロする姿が
描かれるのかが楽しみです。
真面目なタンベクや
ザリポルシ姫に比べて、
百花は世俗的だと思いますが、
他の聖騎士団を差し置いて
大神官が百花を
そばに置いているということは
大神官は、そのような彼を
気に入っているのではないかと
思います。