364話 月楼の王子は、ギルゴールの侍従は夜しか歩き回らないと、３人の聖騎士団長に告げ口しました。
◇指名手配犯◇
３人の聖騎士団長は、
休もうとした計画を変え、
武器を素早く取り出せるように
装備を点検すると、
吸血鬼が本当に
侍従に偽装しているかを調べるため
ギルゴールが暮らしている温室へ
行ってみました。
侍従が吸血鬼なら、その主人も、
普通の人間ではない可能性が
高いからでした。
彼らが温室のドアを叩くと、
青白い顔の男が姿を現しました。
温室の中を出入りできるのは、
ギルゴールと侍従だけだと
聞いていたので、この男が
おそらく侍従だと思いました。
彼の肌は青白く、
生気がありませんでしたが、
このような肌の色の人もいるので、
聖騎士たちは見かけだけで
相手を判断しませんでした。
その代わり、タンベクはザイオールに
ミロの姫の行方不明について
調査中だけれど、
そのことで聞きたいことがあるので、
翌日の午後2時頃に会いたいと
要請しました。
昼間、会うことができれば
彼は吸血鬼ではない。
もし、彼が断るなら、
かなり怪しいと思いました。
しかし、ザイオールは
それはできないと難色を示したので、
ヨンファルとチョンウォルは
素早く視線を交わしました。
タンベクは
何も知らないふりをしながら、
会えない理由を尋ねました。
ザイオールは、
ギルゴールの侍従は自分一人だけなので
昼間はとても忙しいと答えました。
そして、タンベクが
ここへ来ると言っても、
ギルゴールは、部外者が
温室に入るのを嫌がるし、
時間がないので扉の前で話すのも嫌だと
頑強に拒否しました。
タンベクは、
ここまで来ると本当に怪しいと
思いました。
タンベクが、
あれこれと話しかけている間、
ヨンファルは後ろに下がり、
聖水の入った小さな瓶を取り出し、
聖水を手のひらに数滴つけました。
そして、前に進むと、
後でまた来ると言って
ザイオールに握手を求めました。
タンベクは、
ヨンファルが急に別れを告げたので
眉をひそめましたが、
彼が手を差し出すのを見て、
何をしようとしているのかに気づき
口をつぐみました。
しかし、ザイオールは、
知らない人たちとは握手をしないと
拒否したので、
侍従が怪しいと確信したチョンウォルは
自分が持っていた聖水を取り出して
侍従に注ごうとしました。
しかし、彼が腕を傾ける前に、
彼の手が宙に浮いたかと思うと
チョンウォルが温室の中に
飛んで行きました。
タンベクとヨンファルは驚いて
横を見ると、
いつの間に現れたのか、
背がとても高くて秀麗な
白髪の男性が立っていました。
男の手にはチョンウォルの持っていた
聖水瓶がありました。
タンベクは、彼の名を聞きましたが、
男は答える前に、聖水の瓶を
手の中で壊してしまいました。
それからニヤリと笑い
タンベクとヨンファルを交互に見ながら
ザイオールに、
彼らは誰なのかと尋ねました。
ずっと膨れっ面をしていた
ザイオールは
どこかの姫の失踪について
調査しに来たという者たちだけれど
来るなり、時間を作れだの
手を出せだの、
あらゆる要求をしたと訴えました。
タンベクは固唾を飲みました。
気配もなく現れ、
片手でチョンウォルを
投げ飛ばした彼は、
手を聖水でたっぷり濡らした時に
無事でなかったら、彼こそ吸血鬼だと
タンベクは疑ったはずでした。
しかし白髪の男性はとても元気でした。
その時、ヨンファルは
突然、白髪の男を指差し、
タンベクの肩をバシバシ叩きながら
彼は、ショードポリで暴れた男だ。
懸賞手配書で見たではないかと
叫びました。
タンベクは、ここ数年間
ショードポリに行っていないので
知るわけがありませんでしたが、
ヨンファルが
嘘をついているとは思えませんでした。
ということは、彼は犯罪者なのかと
考えていると、
ギルゴールはヨンファルを指差し、
彼を赤ちゃん呼ばわりすると、
自分も彼を見たことがある。
死んだ人を慰めるために
描き入れる絵があるけれど
そこにヨンファルの顔が
描かれていたと
笑いながら言いました。
ヨンファルは、
それはどういうことかと聞く前に
彼もギルゴールに片手で投げ飛ばされ
チョンウォルのそばに転がりました。
やがてギルゴールの視線は
タンベクに注がれ、
彼女は慌てて
武器を取り出しましたが、
あっという間にヨンファルの横に
投げ飛ばされました。
ザイオールは
拍手喝采しましたが、
ギルゴールが3人共埋めるよう
命令すると、ザイオールは
それ以上拍手することが
できませんでした。
並んで埋めれば、花が3本咲くと言って
にっこり笑うと、ギルゴールは、
自分の寝室に歩いていきました。
ザイオールは、
地面に転がっている
三人の聖騎士団長をちらりと見て
本気なのか、
頭まで埋めるのかと尋ねました。
その会話を聞いても、
聖騎士団長たちは体に力が入らず、
うごめくことしかできませんでした。
ギルゴールは「頭まで」と
答えましたが、ザイオールは、
そんなことをすれば、皇帝が、
その隣にギルゴールを
葬ろうとするだろうと言うと、
ギルゴールは立ち止まって眉をひそめ
それは困るので、
首まで埋めるよう指示しました。
そして、誰に何を言われて
自分たちを追及しに来たのか
突き止めるよう指示し、
自分たちの所へ来た理由が
あるはずだと付け加えました。
◇疑問◇
翌日、聖騎士団長たちが
どこを捜索しているのか
気になったラティルは、
彼らを探させましたが、
聖騎士団長たちは
どこにもいませんでした。
彼らが乗ってきた馬が
馬小屋で休んでいたので、
帰ったわけでもなさそうでした。
ラティルは不思議に思っていましたが
訪ねて来たギルゴールに、
きれいな花が咲いたので見に来ないかと
誘われ、
それが3人の聖騎士団長たちだと知ると
驚いて飛び上がり、
温室に走って行きました。
温室には聖騎士団長3人が一列に
肩くらいまで埋まっていました。
首まで埋めろと言ったのに、
侍従が言うことを聞かなかったと
ぼやくギルゴールの後頭部を
ラティルは殴りたくなりました。
ギルゴールは
本当に頭がおかしいと思いながら
ラティルは、
今すぐ土の中から出すよう
指示しましたが、彼は
面倒臭いと反発しました。
ラティルは、それでも
土の中から出すように。
自分の許可を得て
調査していた人たちに、
こんなことをしてはいけないと
注意すると、ギルゴールは
聖騎士団長たちの頭をつかんで
大根を抜くように
土から引き抜きました。
一晩中埋もれているだけで
大変苦しかったのか、
3人の聖騎士団長は
喘ぎながら地面に転がりました。
ラティルは、
自分の側室の性格が少し良くなくて
本当に申し訳なかったと、
彼らに謝りました。
3人の団長たちは、
ショートポリで最も懸賞金の高い
犯罪者をなぜ側室にしたのか。
性格が悪いどころのレベルではないと
言いたいことがいっぱいありましたが
ギルゴールが笑いながら
自分たちを見下ろしているので
何も抗議できませんでした。
その態度にラティルが困っていると、
ずっとじっとしていたギルゴールは
にっこり笑いながら、
あの3人の団長たちは、
自分の侍従が吸血鬼ではないかと
疑っているようだった。
だから、今日一日、
あの3人に付いて行って誤解を解けと
侍従に指示したと言いました。
前日、ザイオールは頑として
昼間に会わないと言っていたので、
３人の聖騎士たちは、とても驚いて
ザイオールを見ました。
遠くにいたザイオールは怒った顔で頷き
3人を案内すると言いました。
ラティルはザイオールが
聖騎士団長3人を連れて行った後に
吸血鬼が昼間に日光を浴びても
大丈夫にしてくれる薬を
ゲスターに作ってもらったことを
ギルゴールから聞きました。
ラティルは、余分に作って
塗り続ければいいのではないかと
尋ねましたが、ギルゴールは、
作るのが難しいし、
材料も天文学的な値段がすると
答えました。
ラティルは納得し頷きましたが、
ギルゴールの突発的な行動に
未だに頭がくらくらしていました。
今回は、どうにかうまく
解決できたけれど、
これからも、こんなことが起きれば
困ると思いましたが、
なぜ、ギルゴールの手に
聖水がこぼれても無事だったのかと
尋ねました。
◇再会◇
その時刻、 アニャは
雪りんごというものを手に入れるために
洞窟を出ました。
それがどんなものか分からないけれど
ドミスが食べたがっているので
食べさせてあげたいと思いました。
彼女が500年ぶりに食べる料理でした。
雪りんごを探していたアニャは
村人から、
それはカリセンの特産品で
そこで流行っている食べ物だと
商人が話していたのを
聞いたことがあると
教えてもらいました。
そして、カリセンに行ったアニャは、
雪りんごは3年前から流行し始めた
食べ物だと聞き、さらに驚きました。
500年間、棺桶の中にいたドミスが
どうして、この食べ物を知っているのか。
アニャは戸惑いました。
ドミスが彼女の目を盗んで飛び起きて、
カリセンに行ってくるはずも
ありませんでした。
アニャは不思議に思いながらも、
ドミスが食べたいと言っていたので
とりあえず買って行こうと思いましたが
手元にお金が一円もないことに
気づきました。
それに「雪」という文字が
入っているので、
溶ける食べ物かもしれない。
そうだとすると、
吸血鬼の速度で走っても、
移動中に溶けてしまうかもしれないと
心配しました。
アニャは、
そのような食べ物ではないことを
願いつつ、人に聞いて、
雪りんごを
手に入れることができるという
食堂を見つけました。
そして、雪りんごを盗んで
逃げましたが、その彼女を
誰かが後ろから呼びました
彼女は走りながら後ろを振り向くと
500年前に一緒に行動した
吸血鬼のホリンが、
明るい声でアニャの名前を叫びながら
駆け寄って来ました。
嬉しそうにやって来たホリンは、
ここでアニャに会えるとは
思っていなかった。
元気だったか、
何をして過ごしていたのかと
尋ねました。
アニャは躊躇いました。
本来なら絶対に
自分の居場所を教えてはいけないけれど
封印が破られ、ドミスが目覚めたことで
急に状況が変わり始め、
どこからどこまでを秘密にすべきか、
話しても問題ないのか
わかりませんでした。
そうしているうちにアニャは
ドミスからカルレインの居場所を
しきりに聞かれていたことを思い出し
ホリンに、それについて尋ねました。
ホリンは、
とても面白い話を思い出したかのように
お腹を抱えてくすくす笑ったので
アニャは驚きました。
なぜ、そんな反応をするのか。
前に会った時は、
怪我をしているようには
見えなかったし、
吸血鬼の部下たちも連れていたのにと
訝しく思っていると、
ホリンは笑いを堪えながら
団長は、側室になったと答えました。
どうして、側室なのか。
驚いたアニャは、やっと手に入れた
雪りんごを落としてしまいました。
吸血鬼が昼間日光を浴びても
問題ない薬を作るのに必要な材料は
天文学的な値段がすると
ギルゴールは言っていますが、
彼は、おそらくゲスターを脅して
薬を作らせたと思うので
ギルゴールの懐は
全く痛んでいないのではないかと
思います。
けれども、
作るのが難しいと言っているのは
ゲスターで、
材料の値段のことも
ゲスターの主張だとしたら、
他の人には到底できない
本当に大変なことを
ギルゴールのために、
自分はやってあげるのだと、
恩着せがましく
振舞っているだけなのかもしれません。
月楼の王子は、
アペラにギルゴールを誘惑させる策が
うまくいかないので、
ギルゴールの侍従が吸血鬼であることを
聖騎士たちに証明させることで
ギルゴールを追い出そうと
思ったのかもしれませんが、
何千年も生きている吸血鬼が
たかだか20数歳の
プライドだけが高い青二才に
負けるわけがないと思います。
もしも月楼の王子が
ギルゴールの恐ろしさを知っていたら、
そんなバカな真似は
しなかったでしょう。
一体、ギルゴールは
どんな復讐をするのか。
恐ろしくもあり楽しみでもあります。
