684話 ラティルは動物の仮面たちに、世界征服に興味がないと言いました。
◇沈黙を守る狐の仮面◇
動物の仮面たちは、
ラティルをロードではなく
ロードの真似をする何かのように
見始めました。
ラティルは、カルレインが
動物の仮面たちの話をする時、
気乗りがしなかった理由と、
ラティルが半分冗談で、
動物の仮面たちは
世界征服でも望んでいるのかと
尋ねた時の
カルレインが見せた反応が
今になって理解できました。
戯言は言わないことにしたのに。
と、カルレインは注意した後、
鹿の仮面の背中を押しました。
ようやく冷ややかな雰囲気が
少し和らぎました。
鹿の仮面は手を振りながら
分かった、分かった。
と返事をしましたが、
紙吹雪を撒いていた時と違って、
唇の両端が下がっていました。
不満を抱いているのは明らかでした。
おまけに、この渦中に
虎の仮面は、タッシールを指差して、
これは餌かと、
無礼な質問までしました。
餌?
ラティルが冷たく見つめると、
虎の仮面は、
タッシールを指差した指を
素早く下ろして拳を握ると、
自分はただ聞いてみただけだと
言い訳をしました。
タッシールは、
この体は、皇帝でもあるロードの
専用の餌なので、
唾を付けてはいけないということを
皆、心に留めておいて欲しいと
笑いながら受け流しました。
しかし、ラティルは
少し不快になりました。
まずは座ろうと、カルレインが囁くと
ラティルは頷き、最上座に座りました。
ラティルはわざと
傲慢に振舞ったのですが、
むしろ動物の仮面たちは、
このような点を
あまり気にしませんでした。
一方、狐の仮面は、
まだ、お茶だけを飲んでいました
飲み終わったのに、
ずっと飲んでいるふりを
しているのではないかと
ラティルは疑いました。
この混乱の中で、
一人で孤高を守っている
狐の仮面が気になったラティルは
仮面は必ずかぶっていなければ
ならないのかと、
わざと尋ねました。
動物の仮面は
渡そうとしたところで、
また立ち止まりました。
鼠の仮面が、絶対に仮面を
脱ぐことができないように
両手で自分の顔を押さえながら
誰も仮面を脱がないと答えました。
ラティルは、
脱がなくても大丈夫。
無理に脱げと言っているのではないと
仕方なく言いました。
どうやら、最も基本的な目的からして
彼らとは違うようなので、
これ以上、トラブル要素を
作る必要はありませんでした。
その後、さらに話をして、
少し雰囲気が落ち着くと、
ラティルは彼らに会おうとした
本題を持ち出しました。
ラティルは、
ミロの王女出身の吸血鬼と
誰なのか分からない黒魔術師が
ダークリーチャーを
たくさん作っていて、
おそらく自分たちを
狙っているようだという
基本的な説明をしました。
それから、
タッシールが作ってくれた地図を
取り出して広げた後、
丸で囲んだ3つの場所を指差しながら、
ここを襲撃するつもりだと話すと
戦うのか! いいね!
と鼠の仮面が
ワクワクした声で叫びました。
鼠の仮面だけではなく
一般的に動物の仮面たちは
戦いの話が出ると
嬉しそうに見えたので、
ラティルは自分の計画について
さらに話を進めました。
外部に危険が漏れないよう、
内部で、すぐに解決する。
ダークリーチャーが
一匹でも抜け出せば
周りの人々が危険になるので
そうならないように、
徹底して速くと言いながら
ラティルは、
こっそりタッシールを見ました。
彼は何を飲んだのか、
顔をしかめて、
コップを遠くに押し出していました。
ラティルは、
動物の仮面たちが、皆とても強いと
カルレインに聞いているので、
できるだろうと言いました。
犬の仮面は
ラティルの褒め言葉が嬉しくて、
頭を振りました。
ラティルは、
3つの場所のうち、
どこに敵がいるかわからないので、
同時に攻め込むつもりだけれど
できるだろうか。
ここのメンバー以外にも、
黒死神団の傭兵たちが参加すると
言いました。
そして、ラティルが
さらに説明しようとすると、
ワニの仮面が手を上げ、
首を90度ほど横に傾げながら
なぜ、そうしなければならないのかと
尋ねました。
ラティルは、
3か所に攻め込むのが
良くないと思うのかと尋ねると、
ワニの仮面は、
なぜ、ダークリーチャーを
外に出させないように
しなければならないのか。
そのまま、そこで放しても
構わないのではないかと
主張しました。
ラティルは口をポカンと開けて
ワニの仮面を見ました。
鹿の仮面も、
その方が簡単だ。人間の数が減れば、
ロードがしようとしていることに
役立つはずだと、
すぐにワニの仮面に味方しました。
ロードは皇帝だと聞いたけれど、
タリウムに被害が出るのが怖いなら、
ダークリーチャーたちを
タリウムに行かせないようにすると
鼠の仮面が明るい声で提案しました。
ラティルは口を開いたまま、
動物の仮面たちを見つめました。
先ほど、彼らが
タッシールを食べさせろと
言った時に感じた、その不快感が
一層強く、こみ上げて来ました。
ラティルは、
タッシールとミロの人々のうち、
どちらかが
犠牲になる必要があるなら、
ミロの人々が犠牲になる方を
望みました。
利己的だということは
分かっているけれど
自分の側の人を守るために
敵を犠牲にしなければならないなら、
そうしてでも
守らなければならない人々を
守るつもりでした。
しかし彼らは、
そういうレベルではなく、
彼らは黒魔術師たちとも
違っていました。
乱暴な黒魔術師たちは、
人々に認められたいという欲求と、
これまで無視されて
生きてきたことへの
復讐心を抱いていました。
しかし、動物の仮面は
そんなものもないように見えました。
彼らの話をよく聞いてみると、
人々を彼らの足下に見ているのが
感じられました。
そういえば、
以前、レッサーパンダも
彼の種族は、
絶対にロードの下に入らないと、
言っていました。
でも、そのレッサーパンダも
ここの一員でした。
もしかすると、
ここに集まった動物の仮面たちは、
ロードと同じ側にいるけれど、
カルレインのように、
絶対的な忠誠心を持った人では
ないかも知れません でした。
命令はご主人様が下します。
カルレインが、
つっつけんどんに話すと、
動物の仮面たちは、
一気に彼を非難しました。
ラティルは狐の仮面を見ました。
彼はラティルと最も遠い席に座り、
未だに、一人で
お茶をすすっていました。
ラティルを助けるつもりなど、
爪の垢ほどもないように見えました。
ラティルは、
被害を少なくして、
簡単に仕事を終えた方がいいと
思わないのか。
どうして仕事を面倒くさがるのかと
言ってみましたが、
これではダメだと思い、
人々の負傷を
最小限に抑えるべきだという
人間の常識を除き、
効率性の問題を提起して、
動物の仮面の観点から
彼らを説得してみました。
動物の仮面たちは
同時に首を傾げました。
そして、このロードは少し変だと
鼠の仮面が呟きました。
続けて、ライオンの仮面は、
対抗者たちも全員生かしている。
一人はきれいだから
生かしているそうだけれど、
もう一人は、命を奪っても
いいのではないかと主張しました。
その時、ずっと飲み物と
格闘していたタッシールが、
そのダークリーチャーを
作った人たちが、
皇帝が大切にしている側室を
襲撃したと、
突然、話に割り込みました。
群れに混じっていない人間が
口を開いたので、
動物の仮面たちは
同時に彼を見つめました。
タッシールは、
隣に座っているクマの仮面に
飲み物を押し付けると、
皇帝の愛妾に手を出した人たちが
作ったおもちゃなので、
使われる前に、
全部壊さなければならない。
そうすれば、彼らが苦しむことになる。
動物の仮面たちは、
純粋過ぎると言って笑いました、
黒魔術師や半覚醒者ではない唯一の人が
長く生きてきた怪物たちのことを
純粋だと叱ると、
動物の仮面たちの口が
半分ほど開いたままになりました。
それから、タッシールは、
悔悟した麻薬密売人のような表情で
彼らを見回しながら、
皇帝の気持ちは、
自分が一番よく知っている。
動物の仮面たちは、
奮起しなければならないと付け加えると
誰が!
と、その挑発に興奮した虎の仮面が
立ち上がりました。
続けて、鼠の仮面も、
ロードを煩わせた罪は大きい。
せっかく作ったおもちゃを
使わせるものかと息巻きました。
その後、タッシールは
再び飲み物と格闘し始めました。
ラティルはため息をつきながら
狐の仮面を見ました。
狐の仮面は頬杖をついて、
ラティルをじっと見つめていました。
ラティルが眉をひそめると、
彼は片方の口角を上げました。
彼は、わざと、ああしているのかと
ラティルは考えました。
◇ゲスターを頼れない◇
約1時間ほどの会議を終えた後、
宮殿に戻る途中で、カルレインは
ゲスターと喧嘩をしたのかと
ラティルに尋ねました。
ラティルは「少し」と誤魔化すと、
自分が、あまりにも
ゲスターを無視していたから
バレたのかと聞き返しました。
カルレインは、
ご主人様がゲスターを
無視していたというよりも・・・
と途中まで言いかけて、
チラッと後ろを振り返りました。
それから、カルレインは、
動物の仮面たちが
一番、顔色を窺っているのは
狐の仮面だと打ち明けました。
ラティルは、
その理由を尋ねましたが
カルレインは、
色々な理由のせいでと
言葉を濁しました。
ラティルは、
もしかして彼の性格のせいではないかと
考えました。
続けて、カルレインは、
今日は狐の仮面が黙っていたので、
皆、いつもより
暴れているようだった。
狐の仮面が、
時々、何かを考えるために
静かにしていると、
皆、普段より暴れると説明しました。
サーナット卿は、
まだかぶっていた仮面を
今になって脱いで
紙袋に再び入れました。
カルレインは、
ご主人様とゲスターが
仲違いしていたら、
ゲスターは狐の穴を使って、
移動させてくれないので
ミロに潜入する時に
少し面倒なことになると言いました。
ラティルは、
それでも行くことはできるよねと
尋ねると、カルレインは
もちろんだと答えました。
ラティルはゲスターの必要性について
ギルゴールがサーナット卿に伝えた
言葉を思い出して頭を抱えました。
◇言うことを聞かない◇
いよいよ、ミロに侵入する日が
やって来ました。
ラティルは、
3つの候補地のうち、
どこにダークリーチャーがいるか
分からないので、
3つに分かれて襲撃するよう
動物の仮面と吸血鬼に指示しました
カルレインは3チームのうちの
1つに所属することになり、
グリフィンは彼らに付いて行って、
上から様子を見て、結果が出たら
ラティルに知らせることにしました。
ラティルは仕事中、
ずっと時計を確認しました。
イライラしているせいで
お腹が少し痛くなり、
手のひらが痒くなりました。
今回の戦いは、
アニャドミスの時のように、
命がけの戦いのような感じは
しませんでしたが、
皆で力を合わせた、あの時とは違い、
今回は主要戦力である2人が
抜けていました。
策士の役割を果たしたタッシールは
この作戦に反対し、
ロードの仲間たち全員の
役に立っていたゲスターは、
この件から手を引いてしまいました。
ラティルは、今回の作戦を
必ず成功させなければ
なりませんでした。
そうすることで、
自分がタッシールの頭と
ゲスターの手に頼らなくても
事を処理できるということを
示すことができました。
ラティルは、
大丈夫、計画は完璧で、
動物の仮面も、カルレインも
吸血鬼の傭兵もミロへ行った。
そこにいる黒魔術師が
ダークリーチャーを
千匹ずつ作ったのでなければ、
十分に対応可能だと
自分に言い聞かせましたが、
その程度の数ではないだろうと
ゲスターが言っていたことを
思い出しました。
ラティルは机を拳で叩き、
額に手を立てました。
考えてみると、
タッシールとゲスターが
抜けたものの、
地図を作ったのはタッシールだし、
ダークリーチャーの成分を
分析したのはゲスターでした。
大丈夫ですか?
サーナット卿は、そっと腰を屈めて
ラティルに尋ねました。
愛を失った後、
彼がこんなに心配してくれたのは
初めてでした。
ラティルは、
もちろん大丈夫。
きちんと計画を立てたからと
明るく答えると、
自信満々の振りをし、
微笑みながら立ち上がりました。
すると、窓の向こうに
グリフィンが飛んで来ました。
サーナット卿が窓を開けると、
グリフィンは、さっと飛んで来て
机の上に着地しました。
ラティルは、
状況はどうなっているかと
急いで尋ねました。
グリフィンは大変なことになったと
騒ぎました、
ラティルは、
大変なこと?
と聞き返すと、グリフィンは、
あのバカたちが
3ヶ所を同時に攻撃せずに
1ヶ所に集まって攻撃したと
答えました。
ラティルは、
どういうことかと尋ねると、
グリフィンは、
カルレインが行った方へ
残りの2チームが
一緒に行ってしまった。
ダークリーチャーがいるかいないか
確認するのに
時間があまりかからないから
カルレインと一緒に確認して、
ダークリーチャーがいなかったら
一緒に移動すると言い張ったと
説明しながら、
インクの瓶を蹴飛ばしました。
それから、グリフィンは、
カルレインが行った方に
ダークリーチャー部隊がいたので、
戦いになった。
それを見ていて、
もしやと思って上に上がってみると、
他の2ヶ所からも
ダークリーチャーが溢れ出ていた。
襲撃されたことを知って
すぐにダークリーチャーが
放たれたと説明しました。
黒いインクが床に
ポタポタ垂れました。
ラティルは地図を広げて
カルレインが言った所を
グリフィンに尋ねました。
グリフィンが1ヶ所を足で指し示すと
その上に黒い跡が付きました。
ラティルは、
そこから最も遠く離れた丸を
指しながら、
ここまで連れて行ってと
グリフィンに頼みました。
グリフィンは、
その中間地点はどうするのかと
尋ねました。
ラティルは、
問題が発生したことが分かれば、
皆、そちらへ行くだろうから、
自分たちは一番遠い所へ行くと
答えました。
グリフィンは
窓の外へ飛んで行くと、
あっという間に
体が大きくなりました。
ラティルがその上に乗ると
グリフィンは、
重いです!
と悲鳴を上げました。
振り向くと、サーナット卿が
一緒に乗っていました。
ラティルが降りろと言う前に、
グリフィンが先に飛び立ちました。
ラティルは、
なぜ付いて来たのかと
尋ねると、サーナット卿は、
皇帝を護るのが自分の役目だと
当然のように答えました。
ラティルは口をつぐんで、
グリフィンの羽をつかみました。
グリフィンは、いつもより速く
飛んでいきました。
サーナット卿は
馬の尻尾のように揺れる
ラティルの髪に顔を殴られました。
グリフィンが
高度を少し下げ始めると、
ラティルは腰を屈め、
下を注意深く見下ろしました。
山の頂上を無闇に移動している
奇妙な集団が見えました 。
ラティルは、
すぐに降ろして欲しいと叫ぶと
グリフィンはさらに
下に下がりました。
一番高い木のてっぺん付近まで
下りた時、
ラティルは剣を抜いて
下に飛び降りました。
走っていく巨大な怪物を
あっという間に斬りつけると
ラティルは短刀を取り出して
通り過ぎたダークリーチャーたちに
投げました。
ラティルは人並み以上のスピードで
走り回って、ダークリーチャーを
斬り倒し始めました。
サーナット卿はその姿を
思わずぼんやりと見つめました。
グリフィンは彼に
降りないのかと尋ねました。
アリタルの吸血鬼村へ
やって来た怪物の中に、
虎の姿をした怪物がいたり、
顔の一部を隠せば
普通の人間と変わらない怪物が
いたので
もしかしたら、動物の仮面たちは
仮面をかぶることで、
自分たちの本来の姿を隠し、
人間のように
見せようとしているのかもしれません。
そして、アリタルの吸血鬼村にいた
怪物たちも、動物の仮面たちの中に
混じっているような気がしました。
自分が餌にされそうなのに
さらりと冗談が言えるタッシールは
(実は本気かもしれませんが)
本当にカッコいいと思います。
それに、
ラティルの計画に反対していても、
彼女が困っているのを見れば
さりげなく助けるところも
素敵だと思います。
一方、自分が助けてあげなければ
困るくせにと言っているような
ゲスターは、
ラティルのことは好きでも、
彼女のことを、
あまり心配していないような
気がしました。