732話 ゲスターはランブリーに何をしているのかと尋ねました。
◇罠の上のランブリー◇
グリフィンも
何をしているのか。
無事なのに、なぜ約束を守らず
自分たちを心配させたのかと
抗議すると、ランブリーは
わざと、そうしたわけではないと
反論し、息を切らしながら、
尻尾で床を叩きつけ、
すべて事情があると言いました。
ゲスターが、
事情?
と聞き返すと、ランブリーは
レアンを追いかけてきたところ
彼が死者の宮殿に入ろうとしたので
付いて行こうとしたけれど
入れなかったので、前で待っていたら
レアンが出て来た。
それで、またレアンに
付いて行こうとしたけれど、
また、別の誰かが、
死者の宮殿から出て来たと
説明しました。
ゲスターは、
レアンがここを訪れたのかと
考えながら、眉をつり上げて
死者の宮殿の地下室の扉を
見つめました。
続けてランブリーは、
レアンを追いかけるか、
新たに出て来た人を追いかけるか
悩んだ末、中へ入ってみた。
自分が来た時も、棺の蓋が
あのように開いていたと
説明すると、グリフィンは、
なぜ、自分たちには触るなと
言ったのかと抗議しました。
ランブリーは、
開けようとした瞬間、罠が発動した。
今、自分が全身で塞いでいると
返事をしました。
クリムゾンは、
素早くランブリーの前に近づき、
ランブリーの尻の毛を
かき分けてみると、
ランブリーは何かを敷いて
座っていました。
ランブリーは、
棺をこれ以上開ければ、
発動するかもしれないし、
自分が塞いでいても、
爆発するかもしれない。
そうなったら困るではないかと
ブツブツ言いながら、
あっちへ行けと
クリムゾンに前足を振りました。
クリムゾンはゲスターに近づくと、
彼の優れた実力があれば、
あの罠をなくすことができるよねと
尋ねました。
しかし、ゲスターは答える代わりに
なぜか眉を吊り上げて立っていました。
三匹の毛むくじゃらは、
皆、ゲスターの口を見ました。
ゲスターは、
その状態で腕組みまですると、
ここにかけられているのは
黒魔術ではなく白魔術だと、
ため息をつきながら呟きました。
グリフィンは、
白魔術師が、
ゲスターのようなことをするのかと
言うと、あり得ないといった様子で
翼をむやみに振りました。
しかし、ゲスターが
落ち着いた表情をしているので
グリフィンは、ゲスターが
嘘をついていないことに気づきました。
ランブリーは、
それは本当なのか。ゲスターも、
これを解除できないのかと尋ねました。
ゲスターは、
やったことがないので分からないけれど
一応やってみると答えました。
ランブリーが、そうして欲しいと
答えると、ゲスターは、
誤ってランブリーが
死ぬかもしれないと言いながら
手を上げました。
驚いたランブリーは
慌ててゲスターを止めました。
グリフィンは、
状況がめちゃくちゃだと言って
舌打ちすると、
扉の横へ飛んで行き、
自分がロードに話して来る。
ロードなら
全て解決できるはずだと叫んで、
姿を消しました。
ゲスターは両手を組んで
それでは、自分たちは・・
と言いかけたところで、
再びグリフィンが現われました。
ゲスターは話すのを止めて、
階段を見上げました。
クリムゾンも、
あの鳥は何をしているのかと思い
つま先立ちをしました。
クリムゾンは、
なぜ、戻って来たのかと尋ねると
グリフィンは、
誰かが入って来たと大声で叫び、
隅に駆け寄ると、姿を消しました。
クリムゾンも、すぐ隅に行って
自分の結界を張りました。
ひとまずゲスターは、
狐の巣の中へ身を避けました。
ゲスターが
姿を消したのとほぼ同時に、
ギルゴールが中へ入って来ました。
毛むくじゃら3匹は息を呑みました。
◇運命かも◇
ラティルは、一人で
貝とエビの蒸し料理を食べながら
あれこれ考え込んでいた時、
シピサがやって来ました。
ラティルはフォークを置くと、
シピサに、今回の怪物の侵入で
驚かなかったかと尋ねました。
ところがシピサは
驚いたと返事をする代わりに、
これを言うべきかどうか
ずっと考えていたけれど、
やっぱり言った方がいいと思うと
真剣な話を始めました。
ラティルは、
彼を向かいの椅子に座らせると
何の話かと尋ねました。
シピサは、
人々が皇帝を讃えに
集まってくるのを見て、
父親の表情が、
良くなかったと答えました。
ラティルは、
うるさかったからではないかと
言いましたが、シピサは、
それは違うと思う。
何か不満があるように見えた。
実際に「良くない」とも
言っていたと返事をしました。
ラティルは、
ギルゴールとシピサの仲が
少し良くなったのかと
思っていましたが、
まだまだ先が長そうだと思い
ぎこちなく笑いました。
ラティルはシピサが話してくれたことに
お礼を言った後、
自分はギルゴールを信じているし、
キルゴールは信頼できる人だと
言いました。
シピサは少し驚いた表情をし、
瞳が揺れました。
もしかして、
自分がシピサのことを
悪く思ったと勘違いして
ああしているのかと思い、
すぐにラティルは、
シピサが気を使ってくれたことと
自分のことを心配してくれたことに
お礼を言いました。
しかし、シピサは、
最初の悪縁は
誤解のために起こったけれど、
その後、父親が
ずっとロードの敵だったことを
忘れてはいけないと言いました。
ラティルは姿勢を少し変えました。
シピサが堂々と
ギルゴールを誹謗すると、
聞くのが辛くなりました。
ギルゴールは、
アニャドミスとの戦いの時、
大きな危険を冒して
意識を失っていたこともありました。
それなのに、今になって
信じるなと言うのかと思いました。
ラティルは、
そんなことは言わない方がいいと
言うと、シピサは、
皇帝と敵になるのが、
父の意思ではないかもしれないという
話をしていると言いました。
ラティルは、
意思ではないって?
と聞き返すと、シピサは、
父親の気が狂ったのは
ショックのせいかもしれないけれど
運命に導かれた結果かもしれないと
答えました。
ラティルはシピサの言葉に驚いて、
彼に、お茶を勧めることも
できませんでした。
ラティルは椅子の取っ手を軽く叩くと
姿勢を正しました。
ラティルは、
それは議長がシピサに
話したことなのかと尋ねました。
シピサは、それを肯定し
確かなことではないけれど、
でも、皇帝が称賛されているのを
見た父親が、
「良くない」と言っていたのを見て
その話を思い出したと答えました。
◇爆発◇
ランブリーは、
棺の前に立ったギルゴールを見ながら
本当に良くないと思いました。
なぜ、ギルゴールがここに来たのか。
ギルゴールは皇帝の側室であり、
ロードの仲間だけれど、自分勝手。
あまり指示を受けることもないし、
あまり会議に参加しないし、
頻繁にいなくなる。
今回の件にも、ギルゴールは
特に参加していませんでした。
そのギルゴールが
なぜ、ここにいるのか。
その上、いつもニヤニヤ笑っている
狂った吸血鬼が
真顔で棺桶を見下ろしていると、
さらにぞっとしました。
そのギルゴールが
棺の蓋を容赦なく開けました。
その瞬間、ランブリーはお尻の下で
ガチャっという音を聞いて、
血が抜けそうな恐怖に襲われました。
そして、ドーンという音がした瞬間、
ランブリーは、自分が罠で
飛ばされたと思いました。
しかし、気がつくと、
彼は、誰かに抱かれていました。
横には、ライオンの尻尾を掴まれた
グリフィンが震えていて、
もう一方の横では、
クリムゾンがガタガタ震えていました。
これはどういうことなのかと
把握する前に、
体が地面に放り出されました。
ランブリーは、ゴロゴロ転がった後
ぱっと起き上がりました。
3匹で何をしていたのかと
尋ねたギルゴールは、
グリフィンを脇腹に抱えて
立っていました。
ギルゴールが、彼らを外へ
連れ出してくれたのでした。
クリムゾンは頭がクラクラし、
よろめきながら立ち上がりました
グリフィンは
足をバタバタさせながら、
ギルゴールこそ
何をしていたのかと尋ねました。
クリムゾンとランブリーも
警戒しながら
キルゴールを見つめました。
ギルゴールは、
グリフィンの頭をそっと撫でて
地面に降ろすと、
あそこを通りかかったら、
扉の前に、
あの子の毛が落ちていたので
入ってみたと答えて
ランブリーを指差しました。
ランブリーは
しまったと思って飛び上がりました。
そういえば、
レアンと、死者の宮殿で出会った男も、
扉の前に落ちていた毛を
注意深く見ていました。
どうやら、最近、毛繕いをしている時に
やたらと毛が抜けるようでした。
ところで、先程のあれは何だったのかと
ギルゴールは聞きながら
死者の宮殿を指差すと、
ランブリーは大きく安堵しました。
爆発音に驚いた人間たちが
どっと走って来たけれど、
それはランブリーの関心事では
ありませんでした
◇もっと訓練しろ◇
エビの殻を剥いていたラティルは
驚いて現場に駆けつけると、
すでに警備兵が集まっていました。
ラティルは、死者の宮殿の一つが
完全に吹き飛んだのを見て
呆然としました。
一体、誰の仕業なのかと
ラティルは呟きながら
崩れた家の近くに近づきました。
死者の宮殿の治安を受け持つ
警備団団長が駆け付け、
ラティルに危険だと警告しましたが
彼女は手を伸ばして
大丈夫だと合図すると、
転がっているレンガの間を通り抜け
地下室があると思われる付近へ
行きました。
ラティルは瓦礫を持ち上げて
さっと横に片づけました。
警備兵たちは、皇帝が巨大な瓦礫を
綿の塊のように片付けると、
口をポカンと開けて、
互いに見つめ合いました。
警備兵の一人は、
皇帝が簡単に放り投げた瓦礫を
持ち上げようと努力しましたが、
びくともしませんでした。
騒ぎを聞きつけて
やって来たカルレインは、
警備兵たちが皇帝を変な目で見ると
わざと自分も瓦礫を持ち上げ
下ろしながら、彼らに
もっと訓練しなければならないと
言いました。
警備兵たちは、突然皇帝の側室に
言いがかりをつけられて
呆然としました。
しかし、カルレインは、
彼らを放ってラティルに近づくと
大丈夫かと尋ねました。
ラティルは、
棺が無事かどうか確認していると
答えました。
カルレインは、
自分がやると言うと、
瓦礫を掘り起こすために、
一人で下に降りているラティルに
手を差し出しました。
ラティルはカルレインの手を取り、
再び上に上がると、
地下への入り口が完全に塞がっている。
地下で起きた爆発のようだと呟くと
ザイオールを思い浮かべました。
ギルゴールの侍従は
吸血鬼になる前は、
爆発専門魔術師ではなかったかと
ラティルは思いながら、
よりによってこんな時に
シピサが余計なことを言ったことに
悪態をつきました。
◇なぜギルゴールが?◇
ラティルは唸りながら
部屋に戻ってみると、意外にも
いなくなったというランブリーが
ラティルのテーブルの上に
座っていました。
その隣には
クリムゾンとグリフィンがいて
ギルゴールはラティルの椅子に座り
エビの殻を剥いて
毛むくじゃらたちに分けていました。
そして、顔を上げると手を振り
ラティルに挨拶をしました。
ラティルは、
何も聞いていない。
自分はギルゴールを疑わないと
心の中で呟きながら
テーブルに近づきました。
しかし、なかなかギルゴールから
視線を逸らすことができず、
見ていられなかったレッサーパンダは
自分は無事に帰って来たと
つっけんどんに言いました。
ようやくラティルはランブリーを見て
そうか、生きていたのかと
返事をすると、
レッサーパンダの頭を撫でながら
グリフィンたちが
タヌキを見つけたのかと尋ねました。
ランブリーは、
タヌキと呼ばれて怒りましたが
グリフィンは、
変態・・・ではなく、
ゲスターと一緒に見つけた。
ところが、
ゲスターは怖くなって
一人で逃げてしまい、このように、
三人だけ残ったと答えました。
ラティルは、
ゲスターはどこへ行ったのか。
そして、なぜギルゴールが
ここにいるのかと尋ねました。
グリフィンは興奮して、
自分たちがギルゴールと
どのようにして出会ったのかを
話してくれました。
一方、ギルゴールは
静かにエビの殻を剥いて
ラティルにエビの身を
差し出しました。
ラティルは、それを食べ、
話を聞きながら
両手で頭を抱えました。
よりによって、なぜギルゴールが
そこに現れたのか、
ラティルは悩みました。
ラティルが苦しんでいると、
グリフィンとクリムゾンが
どうしたのか。
エビが口に合わないのか。
それなら自分が食べようかと
心配しました。
ラティルは、
そうではないと言おうとしましたが、
ギルゴールと目が合いました。
彼は目尻を下げたまま
ラティルをじっと見ていました。
機械的にエビの殻を剥きながらも、
目を逸らしませんでした。
ラティルは訳もなく
髪を整えるフリをして視線を逸らし
再び、そっと彼を見ました。
ギルゴールはまだラティルを
じっと見ていました。
真っ赤な瞳が
いつもより執拗に見えました。
ラティルは再び視線を落とし、
我慢できずに
「どうしたの?」と尋ねると、
ギルゴールは毛むくじゃら3匹に
出て行けと手で合図をしました。
毛むくじゃらたちは、戸惑いながらも
おとなしく指示に従いました。
3匹が扉の外へ出ると、
扉の前を守っていた警備兵は
勝手に開いたり閉じたりする
扉を訝しげに見つめました。
ラティルは
ギルゴールと2人だけになると、
しばらく息をすることが
できませんでした。
彼女は、
訳もなく手をこすりながら
どうしたのか。
自分に話したいことが
あるのではないかと尋ねました。
宮殿の屋根の上で、ギルゴールが
「良くない」と言ったのは
シピサの言葉に対してではなく、
鼻の利く彼が、火薬の匂いを
嗅ぎつけて「良くない」と
言ったのではないかと思いました。
そして、ギルゴールは匂いを頼りに
死者の宮殿へ行ったところ、
毛むくじゃら3匹を見つけて
助けてあげたのではないかと
思いました。
ギルゴールは
頭がおかしくなってしまったけれど
毛むくじゃらたちの命を救ったり、
彼らやラティルにエビの殻を剥いて
食べさせてあげたりと、
昔の優しさは失われていないと
思います。
ただ彼は、誰にも何も言わずに
良いことをしているせいで
誤解されてしまうことが
多々あるのではないかと思います。
ラティルは人の意見に左右されないで
自分の見たままの
ギルゴールを信じて欲しいです。