777話 レアンはゲスターを調査しろと腹心に指示しましたが・・・
◇意見の相違◇
レアンの指示を聞いた腹心は、
ゲスターを調べ続けれるけれど、
彼は、世間で知られている通り
小心者で臆病だ。
良く言えば優しいけれど、
悪く言えば存在感がないと、
自分が、あまり無能に見えないことを
願いながら言いました。
しかし、本当に、ゲスターは
調べれば調べるほど平凡でした。
レアンは、
それなら、もっと変ではないかと
眉を顰めながら呟きました。
腹心は、レアンの言葉を
すぐに聞き取ることができず
「え?」と聞き返すと、レアンは
そんな臆病な側室を、なぜラティルは
墓へ連れて行ったのか。
いじめるつもりだったのかと呟くと
腹心は目を丸くしました。
そして、レアンは、
皆の予想を裏切るけれど、
自分の妹が連れている黒魔術師は
タッシールではなく、
ゲスターである方が
理にかなっていないかと聞きました。
しかし、レアンが話せば話すほど、
腹心の口は
ますます大きくなって行きました。
そして、
しばらく物思いにふけった彼は、
素早く首を横に振ると、
まさか、そんなことはない。
タッシールは平民出身なので、
以前の行動が相対的に不明だ。
どこかで黒魔術を
習ったかもしれない。
しかし、ゲスターは、
少なくとも数十人、多くて数百人
使用人がいる大邸宅で
公然と育ったと反論しました。
腹心は、ゲスターを調査するために
何度も密かに訪問した
ロルド宰相の大きな邸宅を
思い出しました。
宰相が大切にしている息子は、
そこを一人で
歩き回ったこともなかっただろうし、
実際、皆、そう思っていました。
宰相は、
体の弱い息子のことが心配で、
わざわざ、いつも一緒にいる
護衛兼友人まで雇っていました。
レアンは、
どちらにしても
黒魔術師がいるのは確かなので、
対応する方法が必要だと告げました。
腹心は信じられないと言うと、
レアンは、
ずっとその主張をする代わりに
笑って話を変えました。
腹心は、
もう少し言葉を交わした後、
レアンから頼まれた用事を
済ませるために
ソファーから立ち上がりました。
しかし、部屋の扉を開けて
出て行った腹心は、
ふと不安感に襲われ、
再び部屋に戻って来ると、
あの白魔術師のことで、大賢者は、
まだ何も言って来ないのかと
尋ねました。
レアンは「まだ」と答えると
落ち込んでいた腹心は、
頭を下げて、出て行きました。
静かになった部屋の中で、
レアンは一人でお茶を飲みながら
大賢者が来るのが、
あまり遅くならないように願うと
呟きました。
◇兄弟喧嘩◇
どうやらヒュアツィンテは、
古代語の専門家を
なかなか見つけられないようで、
ゲスターはカリセンに
行ったり来たりしながら
ヒュアツィンテを見守りましたが
全く音沙汰がありませんでした。
そんなある日、
いつものように、ゲスターが
ヒュアツィンテの執務室が見える庭に
行った時、木々の間から
クラインが姿を現し、
誰かを探すように
きょろきょろしていました。
そうしているうちに2人の目が合うと
先に、クラインが
つかつか近づいて来ました。
どうやら彼はランスター伯爵を
探していたようでした。
しかも、近づいて来たクラインは
ひどく怒ったような顔を
していました。
ランスター伯爵は笑いながら、
どうしたのかと尋ねました。
クラインはその質問に、
さらに怒った表情をすると、
自分が宰相に確認したところ
あなたのようなハンサムな秘書は
置いたことがないと言っていたと
主張しました。
その言葉にゲスターは
眉を片方だけ上げました。
やはり、この皇子はイライラする。
バカならバカ、
頭が良いなら頭が良いと
どちらか一方だけにしておけばいいのに
中途半端に二股かけていると
思いました。
ランスター伯爵が沈黙すると、
クラインは、
何も言えないのか。
侵入者として通報される前に
言い訳でもしてみたらどうかと
高慢な声で皮肉を言いました。
すると、ランスター伯爵は、
宰相には、がっかりしたと
呟いたので、クラインは、
どこまで自分を騙すつもりなのかと
抗議し、ランスター伯爵の
胸ぐらをつかみました。
そうでなくても
気分がずっと憂鬱だったので、
この男を引き渡せば
少しは気分が良くなりそうでした。
しかし、ランスター伯爵は、
今、タリウムで
一番ホットなニュースは何か
知っているかと尋ねました。
クラインは、
話題を変えれば、
自分が騙されると思っているのかと
抗議すると、ランスターは、
皇帝が2番目の子を妊娠したと
告げました。
それを聞いたクラインは、
気分が落ち込みました。
彼はショックのあまり、
しばらく静止したまま
息もできませんでした。
しばらくして、クラインは
ランスター伯爵が、
また嘘をついていると、
沈んだ声で抗議しましたが、
ランスター伯爵はへらへら笑いながら
皇子が席を外すと、他の男たちが
いい機会だと思って暴れていると
言いました。
不審な侵入者を
追及しに来ただけなのに、
とても過酷なニュースを知らされ
クラインの瞳が大きく揺れました。
ランスター伯爵は、
まだ国と愛の間で悩んでいるくらいなら
そのまま帰ったらどうかと提案すると、
クラインは目を伏せました。
クラインはランスター伯爵に、
あなたは何者で、
なぜ、何度も言うことが変わるのかと
尋ねました。
ランスター伯爵は、
考えてみれば、
皇子が家族を選んだからといって、
カリセンを捨てるわけではない。
カリセンが危険な時に
助けに来ればいいではないかと
答えました。
クラインは、
最初から正体を欺いて接近した
この見慣れない詐欺師の言うことを
どうやって信じろというのかと
思いましたが、
ラティルの妊娠のニュースは、
なぜか嘘ではない気がしました。
クラインの手から力が抜けました。
首が自由になると、
ランスターは、もう少し言葉を残し
かろやかに立ち去りました。
一人残ったクラインは、
すぐにヒュアツィンテの元へ
駆けつけました。
彼は「兄上!」と叫びながら
扉を開けて入ると、ヒュアツィンテは
大臣たちと討論中でした。
彼は眉をしかめながら、
勝手に扉を開けて入って来るなと
言ったはずだと、
クラインを叱りましたが、彼は、
本当に妊娠したのかと尋ねました。
ヒュアツィンテにつられて
眉をひそめていた大臣たちは、
目を見開いて皇帝を見つめました。
ヒュアツィンテは
大臣たちに向かって
「いいえ」と、きっぱり否定すると
クラインに、
何の戯言を言っているのかと
イライラしながら尋ねました。
しかし、クラインは、
「陛下のことだ、 私の妻!」
と叫ぶと、今度はヒュアツィンテは
叱りませんでした。
彼が沈黙すると、
あの詐欺師の話は、
今度も嘘であることを願っていた
クラインは虚しくなりました。
クラインは、
本当なら、なぜ自分に
話してくれなかったのかと
尋ねました。
ヒュアツィンテは大臣たちに
退室するよう指示すると
彼らは兄弟間の戦いを
努めて見なかったふりをして
急いで廊下に出ました。
2人だけになると、クラインは、
さらに表情を歪めました。
彼も、それなりに
感情を調節しているところでした。
クラインは、
自分をここに残させるために、
わざと言ってくれなかったのかと
泣きそうになりながら叫びました。
ヒュアツィンテは、
クラインの子供ではないのに、
クラインが行って
何をするつもりなのかと
冷静に答えました。
クラインは荒い息を吐き出しました。
もちろん、今皇帝が妊娠した子供が
彼の子供である確率は0でした。
しかし、彼の子供でなくても、
おそらく、彼にできることは
たくさんありました。
ヒュアツィンテは、
宰相に、クラインを説得してくれと
頼まれたと、
努めて落ち着いた声で話しました。
クラインは
結婚生活を終えて帰って来いと
説得するつもりだったのかと
鼻で笑って尋ねました。
ヒュアツィンテは、
どうせクラインは臨時の側室なので、
タリウムで気苦労することなく
こちらで気楽に過ごそうと
言いました。
しかし、クラインは、
自分がここに来れば気が楽になるなんて
誰が言ったのか。
宰相が気が楽になるのではないかと
冷ややかに皮肉を言いました。
我慢ができなくなったヒュアツィンテは
クラインも
いい加減、大人になったのだから
喧嘩をしに来たわけではないだろうと
遠回しに警告しましたが、
クラインは、
それでも自分は皇帝の夫で、
皇帝と自分の間には
絶対に切れない盟約がある。
それなのに、
なぜ、自分の結婚について
他の人たちが、しきりに、
あれこれ口を出すのかと抗議すると
ヒュアツィンテは、
盟約も守らなければ
軽い約束と変わらないと
返事をしました。
それを聞いたクラインは
「兄上がしたように?」と
皮肉を言いました。
ライバルたちと一緒に
過ごして来たせいなのか、
クラインの口喧嘩の脳力は
上がっていました。
ヒュアツィンテは、
一発殴られた気分で
クラインを見つめましたが、
苛立ちを抑えながら、彼に、
理性的に考えるように、
クラインがタリウムで
良い待遇を受けて
幸せに暮らしていたら、
こんな提案はしなかったと言うと、
クラインは、
ヒュアツィンテは理性的だから
皇帝を捨てたのかと尋ねました。
ヒュアツィンテは
言葉に気をつけろと、
クラインを叱りましたが、
彼は、自分はそんなことをしない。
自分は皇帝のそばにいると、
続けてヒュアツィンテの傷口に触れると
彼も、結局、我慢できずに
彼女のそばにいてくれる男は、
クラインの他に
数え切れないほどいると、
クラインを傷つける言葉を吐きました。
しかし、クラインは、
その中に、兄上はいないと
主張しました。
クラインの防御力は、
攻撃力と同じくらい
上がっていました。
呆然としているヒュアツィンテに、
クラインは胸を叩いて見せると、
皇帝のそばにいる男の中で、
自分が一番いい。
だから自分がいなければならないと
断言しました。
ヒュアツィンテは、
その自信は何なのか。
ラティルは強いし、
自分と同じくらい理性的なので、
十分にクラインの事情を
理解してくれるだろうと
説得しましたが、クラインは、
皇帝が泣くのを、
兄上は見たことがない。
兄上が結婚する時、
皇帝がどれだけ大変だったか
知らないくせにと非難しました。
ヒュアツィンテの瞳が揺れました。
クラインは
自分が兄を傷つけたことに
気づきましたが、
彼は視線を避けるだけでした。
それから、クラインは、
自分と皇帝の間には信頼がある。
自分は理由があってタリウムを出て
期限内に帰ると約束した。
自分と皇帝の間には、
兄上との間になかった信頼があると
早口で言いました。
クラインの言葉に
ヒュアツィンテが
さらに言おうとした瞬間、
秘書が許可なく中に入って来ました。
それは急な要件という意味だったので
ヒュアツィンテとクラインの両方が
口をつぐみました。
秘書は、タリウム皇帝が
プロポーズ使節団を送って来たと
報告するや否や、
クラインは憤慨し、
まさか、また側室を
寄越せと言っているのか。
本当に、信じられない好色だ。
今度は誰を寄越せと言っているのかと
騒ぎ立てました。
呆れたヒュアツィンテは
クラインとラティルの間には
信頼があると言っていたのにと
皮肉を言いましたが、
クラインは数秒で
目じりが真っ赤になっていました。
しかし、秘書は、
クラインの怒りの火の粉が
自分に飛んで来ないようにするため
今度は皇帝の夫ではなく、
レアン皇子のプロポーズ使節団だと、
すぐに彼らの誤解を訂正しました。
レアン皇子の結婚相手を
ここで探すと聞いた
ヒュアツィンテとクラインは
互いに見つめ合いました。
◇噂の出所◇
ラティルは、サーナット卿が
2番目の子供の父親だという噂が
一体どこから流れたのか
分かりませんでした。
ラナムンは
ランスター伯爵から聞いたけれど
彼も誰かから聞いたはず。
それを知ることができないまま
噂が急速に広がると
ラティルは気まずい思いがしました。
団長の噂は本当なのだろうか。
団長は、今度こそ、
本当にハーレムに入ると思う?
分からないけれど、
皇帝妊娠が伝えられた日に
団長が本当に変なことをした。
顔を変える仮面をかぶって
草むらに横たわって
休憩していたラティルは、
近衛騎士まで、
ひそひそ話している声を聞くと、
これは駄目だと思いました。
サーナット卿は
側室になるつもりが全くない。
子供のことで混乱しているけれど
彼は、絶対に側室にならないと
思っている。
それなのに、あんな噂が流れれば
彼も困るだろう。
それに、ゲスターは泣いていたし、
ラナムンは冷たかった。
ラティルは国務会議の時、
第2子の父親が
自分の近衛騎士だという噂は
デマなので、
余計なことを言わないようにと
心を鬼にして、
大臣たちに警告しました。
こうしておけば
宮廷人たちの間にも、
すぐにこの話が広まるだろうと
ラティルは、考えました。
自分は、このような状況でも
サーナット卿に弱い。
彼が困っている姿を見たくないなんてと
サーナット卿のために
前に出た自分を叱責しました。
もしかしてサーナット卿は
自分の意図を、和解の合図だと思って
受け入れるのではないかと
心配しましたが、
休憩時間にサーナット卿を
チラッとと見たところ、
意外にもサーナット卿は
感動するどころか、
魂が抜ける直前のように見えました。
これを見たラティルが、
ついサーナット卿に
声をかけようとした時、
カリセンに行った
プロポーズ使節団が戻って来たと
秘書が駆け込んで来て
知らせました。
ところが、その表情が
尋常ではなかったので、
ラティルは、外へ出ました。
クライン様、
よくぞ、そこまで
ヒュアツィンテに言ってくれたと、
拍手を送りたいです。
ラティルのことを
クラインよりも知っていると
思っていたであろう
ヒュアツィンテの自信を
見事に打ち砕いてくれました。
昔も今も、ヒュアツィンテは
事情さえ話せば
ラティルは分かってくれると
思っているのでしょうけれど、
ラティルの感情は
一切無視しています。
アイニとの結婚式の時も、
ヒュアツィンテの前では、
ラティルは怒るだけだったので
彼女が悲しんでいたことを
想像していなかったかもしれません。
彼女を迎えに行くという約束も
自分が皇帝になるためには、
一時、破ってもいいくらいの
気持ちだったのかもしれません。
けれども、クラインは、
ヒュアツィンテから見たら
些細に思われる約束ですら
絶対に守ろうとしている。
乱暴者で口が悪くて
怒りっぽいクラインですが、
ヒュアツィンテよりも
ラティルに対して誠実だと思います。
mommy様
なぜ、サーナット卿に子供が持てて
カルレインとギルゴールがダメなのか
どこにも、はっきりと
書かれていなかったように思います。
それなので、サーナット卿は
現世で吸血鬼になったから、
子供が持てるのかな・・・と
思っています。
このお話は、
謎が解き明かされないままのことが
多いように思います。