806話 レアンは、どこにダークリーチャーを準備しているのでしょうか?
◇頭脳明晰なタッシール◇
雑誌が発行されるのは4日後でした。
3日以内にダークリーチャーを
すべて処理しなければならないので
ラティルは困って唇を噛みました。
時間があまりにも迫っていました。
それでも、ラティルはアイニに
ダークリーチャーは
どこにいると思うかと尋ねました。
しかし、アイニは首を横に振り、
分からない。彼は慎重だ。
色々な情報を
たくさん知らせてくれるけれど、
最も核心的な情報は
誰にも知らせないと答えました。
その時、
「私の考えでは・・・」と
タッシールが呟く声がしました。
ラティルは右を見ました。
彼は腕を組み、
一方の手で唇を撫でながら
目を伏せていました。
ラティルは、
話を続けるよう促しました。
タッシールは、
レアン皇子が怪物を
国民に解き放つつもりなら、
おそらく彼が所有する別荘あたりに
怪物を置いているだろうと話しました。
その言葉に、
近くに立っていた大臣が、
別荘に置いておけば
すぐ外に飛び出すのではないかと
慎重に反論しました。
タッシールは「いいえ」と言う代わりに
アイニを見ました。
怪物を別荘に置くことが可能かどうか
尋ねる視線でした。
アイニは、一瞬、眉を顰めた後、
できると思うと答えました。
その言葉に、別の大臣は、
ダークリーチャーは操れないと
アイニが言っていなかったかと
尋ねました。
ラティルは、
これは良い兆候だと思いました。
積極的に質問をするということは
恐怖や忌まわしさを乗り越えようと
努力しているということだからでした。
アイニは、
操ることはできないけれど、
完成したばかりの
ダークリーチャーたちは
まだ動いている状態ではない。
レアンはダークリーチャーを
操れないし、
黒魔術師を連れていないので
まだ、その状態のまま
集めているだけだと思う。
動かない怪物なら、
別荘のどこかに隠しておくことも
できるだろうと答えました。
話を聞いていたラナムンは
狩場の可能性も指摘すると
タッシールは、すぐに納得しました。
アトラクシー公爵は、ラナムンが
ものすごい考えを思いついたように
感心した表情をしました。
それを見たロルド宰相は
急いで周りを見回しました。
しかし、
ゲスターの姿が見えなかったので
宰相は呆然とした表情をしましたが
アトラクシー公爵と目が合うと、
ロルド宰相は真顔になり、
今、レアン皇子が
怪物を国民に放つ場合を
話していたけれど、
放たない場合も考えているのかと
真剣に尋ねました。
タッシールは、
すぐに「はい」と答えて、
微笑みを浮かべながら、
レアン皇子が怪物のいる所に
皇帝だけを引き込む場合を
考えている。
おそらく、その場合は、
キセラにある神殿の地下に
怪物を集めておいたはずだと
答えました。
かなり具体的な位置が登場すると、
大臣たちとロードの仲間たちは
戸惑いながら、彼の方を見ました。
ラティルも驚きながら、
どうしてそこだと思うのかと
尋ねました。
レアンの別荘に
置いたかもしれないという考えは、
他の人にもできそうでした。
しかし、キセラ神殿が登場したのは
あまりにも突然でした。
アイニも眉を顰めながら、
自分もタッシールが
なぜキセラ神殿を挙げたのか
分からない。
レアンと手を組んでいた時に
一度も聞いたことのない名前だと
話しました。
タッシールは、
先帝の遺骨がすり替えられた時に
棺に入っていた偽の遺骨の持ち主が
自分はキセラで働く、ただの農夫だと
話していたと答えました。
「そうだったっけ?」
ラティルは、
覚えてもいませんでした。
当時、ラティルは農夫の話を聞いて
「父ではなく農夫の遺骨だったんだ」
としか、考えませんでした。
ラティルは
「そうだったの?」と聞き返すと
タッシールは、
当時も不思議に思ったけれど
あの時は、
先皇后が裏切らなかったので
そのまま見過ごしたと答えました。
隣にいたメラディムは、
なぜ、そこに
先皇后が出て来るのかと尋ねると
サーナット卿が
「あっ!」と声を上げました。
そして、同様に理解したラティルは、
母親が退いていた神殿が
キセラ神殿だと叫びました。
大臣たちは仰天した目で
タッシールを見つめました。
彼が非常に賢いことは
誰もが知っていましたが、
実際に彼が頭を働かす姿を
すぐそばで見守っていると
驚きを通り越して呆れるほどでした。
アトラクシー公爵とロルド宰相は
彼をチラチラ見ながら眉を顰めました。
ラティルは安堵して
ゲスターを探しました。
ゲスターに別荘と隣接する狩場、
そしてキセラ神殿を
見てきて欲しいと頼むつもりでした。
ゲスターなら
1時間も経たないうちに
仕事を終えることができるからでした。
しかし、依然として
ゲスターはいませんでした。
ラティルは、
この場にいない人たちのことを
尋ねました。
◇ランスター伯爵の誓い◇
ゲスターは飛んで来る閃光に
ダークリーチャー一匹を壊され
歯ぎしりしました。
「クライン・・・このバカ野郎。」
一歩踏み出すと、
彼が足を踏み入れた所に
再び、閃光が飛んで来ました。
半歩下がって避けると、
その場所にもまた
閃光が降り注ぎました。
地面全体に、白魔術の罠が
敷かれていました。
彼は仕方なく
別のダークリーチャーを召喚し、
閃光もろとも破壊しました。
この罠を作った白魔術師は
執拗で気難しい上に慎重でした。
5月が目標だと言っていたので、
まだ罠は完成しておらず、
ある地点まで到達すれば
罠が消えるはず。
2人程度が辛うじて通れる
石の通路を通り過ぎながら、
ランスター伯爵は、
一応探してはいるけれど
見つけたら、
クラインの命を奪ってやると
誓いました。
◇4日後までに◇
レアンの支持者は、
雑誌が発行されるのを
止めようとするかもしれないし、
あらかじめ、国民の間に
彼らが望むような雰囲気を
作っておこうとするだろうから、
それを防いで欲しいと、
ラティルは、
自分がロードであることを知った後も
引き続き支持者として
残ろうとする人たちに頼みました。
ロルド宰相は、
ゲスターのことが心配なのか、
他の人たちが退いても、近くに残って
うろうろしていましたが、
アトラクシー公爵が腕を引っ張ると、
渋々、退きました。
支持者たちが去り、
ロードの仲間たちだけが残ると、
ラティルは彼らと一緒に
ハーレムの会議室に移動しました。
その間に話が広まったのか
宮廷人たちが遠くから、
彼ら一行を注意深く見ているのが
感じられましたが、ラティルは
姿勢を正せ。
さりげなく、行動しろ。
たまに笑うといいと
臆することなく指示しました。
そう言うラティルこそ、
案山子のように、
ぎくしゃく歩いていました。
側室たちは、
自分たちだけで視線を交わすと、
ラティルを丸く囲んで立ちました。
ラティルは、
自分を隠してくれる理由を
尋ねると、側室の1人は
陛下が大事だからと答えました。
ラティルは、
側室たちの本当の意図を知らずに
照れくさそうに笑いました。
そうするうちにラティルは
遠くない所で、
こちらを眺める先皇后を発見しました。
彼女は、ラティルと
話したがっている様子でした。
しかし、ラティルはわざと前だけを見て
先皇后の近くを通り過ぎました。
途中で温室に立ち寄り、
ザイオールを連れて行ったラティルは
会議室に入るや否や、
別荘と神殿のどちらに
ダークリーチャーがいるのか
確認しなければならないけれど、
ゲスターがいないので、
グリフィンと
ランブリーとクリーミーの3匹で
レアンの別荘と狩場を
確認してきて欲しいと指示しました。
別荘はどこかという質問に、ラティルは
タッシールの言う条件に合う別荘なら
グリティの別荘だ。
ワインを作るために
地下室がとても広いし、
近くには狩場もあると答えました。
レアンが所有している他の別荘は
ダークリーチャーを隠しておくほどの
巨大な敷地がありませんでした。
これを思い出したラティルは、
今度はヘイレンとザイオールに
ザイシンと一緒に
キセラ神殿の地下へ行って来て欲しいと
頼みました。
ヘイレンとザイオールは
目を見開きました。
メラディムも意外だと思ったのか
あの2人を? 本当に?
と、ヘイレンとザイオールを
指差しながら問い返しました。
サーナット卿も、
自分が行ってきた方が
良いのではないかと提案しました。
人々が自分を信じていないようで
気分が悪くなりましたが、
ヘイレンもこの指示が
全く意外ではあったので、
いっそのこと、
自分1人で行って来るか
大神官と2人で行ってくる方が
いいのではないか。
自分とザイオールは、2人とも
初心者吸血鬼ということを除けば
何の共通点もないと言ったところで、
その頼みの意味を理解し、
だから自分たち2人を
行かせようとしているのか。
カルレインとゲスターが
一緒に席を外しているからと
話しました。
ラティルは「そうだ」と返事をすると
普通はカルレインに任せるけれど、
今日はカルレインが
席を外しているからと返事をしました。
それから、ラティルは
落ち込んでいるサーナット卿の
背中を叩くと、
彼は、レアンの支持者たちに
完全に注目されているので、
サーナット卿が動くと
あまりにも目を引くと話しました。
サーナット卿は不満でしたが、
ラティルが何を話しているのか
理解できたので口をつぐみました。
ラティルは周りを見回しながら
もう一度計画を点検した後、
毛むくじゃらたちと
吸血鬼の侍従たちは、
何かを見つけたら、
それ以上探索しようとせず、
喧嘩もしないで、
すぐに、戻って来なけれならないと
言い聞かせました。
それから、ザイシンに、
もし吸血鬼たちを連れて歩いていて
何かあったら、ザイシンが
前に出るようにと頼みました。
ラティルは、
今日は会議の途中で事件が起きて、
会議のような形になったけれど
4日後は、そうはならない。
必ず、それまでに
レアンが準備したダークリーチャーを
処理しなければならない。
それまでに自分が呼んだ人たちが
来てくれればいいのにと思いました。
彼らがもっと話を交わして散らばる頃
メラディムはザイオールに近づき、
ふくらはぎを蹴りました。
どうしたのかと尋ねるザイオールに
メラディムは、
ギルゴールはどこへ行ったのか。
この渦中に、髪の毛一本も見えないと
文句を言いました。
◇行列◇
ギルゴールの居場所は、
ザイオールも知りませんでした。
ラティルが呼び出した
シウォラン伯爵は、
日程が変わったことを知らずに
ゆっくり馬車で移動していた時、
突然、広い平地で馬車が止まり、
御者は慌ただしく
伯爵を呼びました。
彼は窓のカーテンを開け、
外を見ると、
あれは何なのかと尋ねました。
人々が長蛇の列をなして
ずらりと並んでいて、
伯爵の乗った馬車が最後尾でした。
しかも、道の幅は、
並んでいる人を避けられるほど
広くありませんでした。
御者は、
行列が切れていないのを見ると、
城門からずっと続いているようだと
答えました。
城門とここまで、
ある程度の距離があるのに、
そこから並んでいると聞いて
驚いた伯爵は、馬車から降りると
一番最後に並んでいる人に
近づきました。
立っている人は
「失礼だ」と言って首を横に振ると
伯爵を上から下まで、
ジロジロ見回しました。
伯爵は、
これは何の列なのかと尋ねました。
その人が検問の列だと答えると、
伯爵は面食らい、
検問をこれほど強化するほど
深刻な事件があったのだろうか。
たとえ検問を強化したとしても、
これほど人が滞っているのは
やはり変だと思いました。
一体、この人たちは何なのかと
思った伯爵は、
何の検問をしているのか尋ねました。
その人は、
自分たちも分からないけれど、
旅行目的や、
他の都市に移動する人は
訪問の目的などを入念に
点検されている。
最初は大丈夫だったけれども
首都に近づくほど
厳しくなってきたと答えました。
そして、説明してくれた人は、
さらに話すのが面倒なのか
ため息をついて前を見ました。
その間に、列がもう少し減りました。
シウォラン伯爵は当惑して、
長い列、御者、馬車を交互に見ました。
皇帝は、
まもなく他の人々にも
自分の正体を知らせると
シウォラン伯爵に連絡をして来て
彼に助けを求めました。
あまりにも突然の話に
シウォラン伯爵は驚きましたが、
皇帝を止めようが助けまいが、
とりあえず皇帝に会って
話さなければならないと思い
馬車に乗って出発したのでした。
ふと、それを思い出した
シウォラン伯爵は、
もしかして、今集まっている人たちも
皇帝が呼んだ人たちだろうか?
それで誰かが検問所で、
彼らの出入りを
防ごうとしているのだろうかと
考えましたが、
まさか。 そんなことはないだろう。
いくらなんでも、
こんなにたくさんの人を
皇帝が秘密裏に呼んだはずがないと
思いました。
◇奇妙な人物◇
ロルド宰相は、側室関連雑誌が
最も活発に発行される
雑誌社を訪ねました。
皇帝の他の側室たちは
それぞれ異なる役割をするために
忙しくしているので、
ゲスターだけ姿が見えないけれど、
彼も何かをしているに違いないと
思いました。
そして、
今回のことがうまく解決した時、
皇配の席は・・・と考えていた時、
タッシールは賢過ぎるので
危険だと思いました。
ロルド宰相は
雑誌社の向かいにあるカフェに入り、
2階の窓際に席を取りました。
ここにいれば、
不審な人物が出入りするのを
直接見ることができるだろうと
思ったからでした。
ところが、コーヒーを5杯飲んだ頃、
宰相は、彼の予想の範疇を超えた
奇妙な人物を発見し、
首を傾げました。
タッシール様の大活躍 ♪
まさか
先帝の代わりに呼び出された
農夫の魂の出身地が
こんなに需要な局面で
大きな意味を持つなんて!
ラティルが
気にも留めなかったことを
タッシール様は、
すでに先皇后が退いていた
キセラ神殿と、
農夫の出身地がキセラだと
知った時から、
絶対に、これは何か関係があると
睨んでいたのでしょうね。
タッシール様の賢さを
アピールするための
作者様の伏線回収に脱帽しました。
ところでギルゴールは
どこに行ったのでしょうか?
今回も、
陰ながらラティルを助けるために
一人で何かをしているのではないかと
期待しています。