824話 ロルド宰相は、どんな策略を考え出したのでしょうか?
◇皇配を巡っての神経戦◇
ゲスターは、
何か良い方法を思いついたのかと
あまり嬉しそうに見えない様子で
尋ねました。
ロルド宰相は、すぐに答えず、
今、皇帝が
皇女に夢中になっている理由は
何だと思うかと聞き返しました。
ゲスターは間違った答えをして
自分の性格がバレることを恐れ、
首を横に振って、
よく分からないと答えました。
ロルド宰相は、
それでも一つだけ選ぶとしたら
なんだと思うかと催促すると、
ゲスターは
皇女が可愛いからではないかと
慎重に答えました。
するとロルド宰相は、
子供が皇女一人だけだからだと
答えました。
ゲスターは、
ロルド宰相の言葉を
すぐに納得できず、
「そうでしょうか?」と
聞き返しました。
しかし、ロルド宰相は
すでに確信に満ちていました。
彼は、
だから、ゲスターは、
訳もなく他のことを
気にする必要はないし、
子供と競争する必要もない。
ゲスターは、
ただ二番目の赤ちゃんの面倒を
よく見ればいい。
皇帝は、赤ちゃんが
一人だけではないということを
自ら悟ることになるだろう。
そうすれば、今のように
ラナムンの部屋に
頻繁に行かなくなるだろうと
言いました。
ロルド宰相は
ラティルの2番目の子を
孫だとは認めませんでしたが
その子の世話をするふりをして
悪いことはないと思いました。
ロルド最初は、
さらにいくつか話をして帰った後、
ゲスターは宰相の助言どおり、
二番目の赤ちゃんへのプレゼントを
用意し始めました。
赤ちゃんが生まれたら
プレゼントする服を買い、
赤ちゃんの物も自分で用意しました。
日差しの良い日には、
わざとこれ見よがしに
ベンチに座って、赤ちゃんの服に
刺繍をしたりもしました。
きらびやかな装身具を身にまとった
商人たちが、
頻繁に宝石箱を持ってくると、
噂はあっという間に広がりました。
ゲスターは適度に準備が終わると、
ラティルが訪ねてきた時、
直接これらを渡しました。
ラティルは目を丸くして
ゲスターを見ると、
これは何なのかと尋ねました。
ゲスターは、
あと何ヶ月かすれば子供が生まれる。
プレラ皇女の時は、
皇帝の意識がなかったので
きちんと準備をするのが
大変だったと答えました。
そして、ラティルが
アニャドミスを忘れないように
ご丁寧に、
アニャドミスのこともあったしと、
わざわざ、その名前を
付け加えたりもしました。
ラティルは、
ぼんやりと話を聞いていましが、
その名前が出るとギクッしました。
ゲスターは、
見ているだけで可愛くて
悲鳴が出そうなベビーシューズを
さっと取り出して見せながら、
今回は、きちんと準備したかった。
これを見て欲しい。
本当に可愛いと言って
靴を手のひらに乗せて差し出すと、
ラティルは、
まだ一番目も歩けないのに、
もう二番目の靴を準備したのかと
言って、笑いを爆発させました。
ゲスターは、
よくしてあげたくて・・・と
返事をすると、
首筋をこすりながら
恥ずかしそうに笑いました。
中央に宝石が付いていて、
光を受ける度に輝きが変わる靴を
感嘆しながら見ていたラティルは
二番目の子は、まだ生まれていないので
皇女にあげたらどうかと提案しました。
しかし、ゲスターが、
非常に当惑したように口を開けたまま
閉じられずにいるのを見て
口をつぐみました。
ラティルの提案に
非常に呆れているけれど、
これを断る方法が思い浮かばなくて
困惑しているといった表情でした。
ラティルは、
「あっ、ちょっとあれだよね。」と
呟きながら、
靴をベルベットの布の上に
そっと置きました。
ゲスターは、
皇女にあげてもいいけれど
二番目の子にあげたくて
準備したので・・・と
消え入りそうな声で話して
目を伏せました。
ラティルは、
自分があまりにも軽率だった。
皇女には、
自分が別に用意してあげればいいと
言いました。
そして、雰囲気が気まずくなると、
ラティルは、
わざとウキウキした声で、
あれは何なのか。
あれも見ても大丈夫かと尋ねました。
ゲスターは「はい・・・」と
返事をしました。
ゲスターの努力の甲斐があり、
ハーレムの人々は、
皇帝の二番目の子を
はっきりと認識するようになりました。
宮廷関係者らは、
もしかしてゲスターが
二番目の子の父親ではないかと
囁くほどでした。
赤ちゃんの本当の父親候補である
サーナット卿は、その話を聞く度に
腑に落ちなくて、ひがみました。
それに、彼は、ゲスターが
二番目の子の面倒をみようとするのを
ありがたいというよりは、
赤ちゃんのプレゼントに
害を与えたのではないかと心配で、
一つ一つ検査してみたい衝動に
駆られました。
やはり、ラナムンも
サーナット卿とは違う理由で
ゲスターの「二番目の子の面倒」が
不快でした。
赤ちゃんの離乳食を持って来た
カルドンは、
まだ生まれてもいない赤ちゃんに
そんなに大げさにするなんて、
皇女はどうなるのかと息巻きました。
皇女と
いないいないばあ遊びをしていた
ラナムンは、
手を伸ばして器を受け取りました。
カルドンは、
皇女が自分の足の指を噛もうとすると
素早く手を伸ばして阻止しました。
ラナムンは、
あんなに表と裏が違う者の助けは
必要ないと言いました。
カルドンも、
助けは必要ないと言いましたが、
それでも気分が悪い。
これ見よがしに
二番目の面倒を見る理由は
何だと思うかと尋ねました。
ラナムンは、
自分たちがもっと気をつければいい。
それでも不快なのは仕方ないと
答えました。
カルドンは、心の中で
ブツブツ呟きましたが、
皇女が座るのを手伝いました。
◇気になる◇
アニャは、普段のように
対怪物部隊小隊訓練が終わった後、
一人で見慣れぬ場所を訪ねてみました。
彼女は、
レアン皇子が閉じ込められている
高い塔を囲んでいる塀を
乗り越えました。
警備兵がいることはいましたが、
出入り口が一つしかないので、
警備兵の数は多くありませんでした。
アニャは、
やすやす彼らの視線を避けると
人気のない裏庭まで入りました。
そして、木の根元に座り、
塔の頂上を見上げました。
自分は、なぜここに来たのか。
アニャは止めどもなく
塔のてっぺんを見上げながら
考えましたが、
自分がなぜここに来ているのか
分かりませんでした。
彼女は、
長い間塔を見上げていましたが
警備兵たちが交代する頃、
立ち去りました。
そして次の日、
訓練が終わったアニャは、
再びその場へ行って、
塔を見上げました。
彼女は、レアンと交わした言葉を
頭の中で一つ一つ思い出しました。
翌日、再びアニャは、
同じ場所に現れました。
これではいけないと思って
ラティルを訪ねてみましたが、
かつて、
彼女に一番頼っていたドミスは、
今では、いつも味方になってくれる
多くの夫ができて
忙しそうに見えました。
アニャは翌日、再び塔を訪れました。
ここにずっと来たらダメだ。
ドミスが知ったら
気分を悪くするだろう。
そう思ったアニャは、ある日、
明日は絶対に来ないようにしようと
誓い、一人で最後の別れを
告げようとしましたが、
塔の上から、
微かな呻き声が聞こえて来ました。
「どういうこと?」と
アニャは警備兵たちを見ました。
人間たちの耳には、
あの声が聞こえないのか、
彼らは、
前を眺めているだけでした。
アニャは
警備兵たちと塔を交互に見ながら、
素早く壁を登って行きました。
窓は小さくありませんでしたが、
鉄格子がはめられていて、
中に入るのが難しそうでした。
アニャは鉄格子越しに
一つしかない部屋を見ました。
彼女は目を見開きました。
レアンがカーペットに
倒れ込んでいたからでした。
アニャは、レアンが馬に乗って
少し移動しただけでも
疲れて息を切らしていたことを
思い出しました。
実際、彼は体の弱い人でした。
廊下側の窓を見ると、
そこにも警備兵が三人いましたが
警備兵たちは
内側を確認することも
考えていませんでした。
アニャは躊躇った後、
格子を曲げて中に入りました。
レアンは倒れるように横になっていて
アニャが見えると
焦点の合わない目で彼女を見ました。
「大丈夫ですか?」
アニャは慎重に彼に声をかけました。
レアンの首筋は汗で湿っていました。
絶対に仮病ではありませんでした。
「アニャ卿」
レアンは呟くと微かに笑いました。
彼は目の前に現れた人が
幻だと思いました。
アニャが彼の額に手を当てると、
熱で熱くなった肌が冷たくなりました。
レアンは、
やはりアニャが幻想だと思いました。
そうでなければ、
この塔の中に、彼女が現れるはずが
ありませんでした。
アニャは熱を下げるために
布を探しましたが、
適当な布がありませんでした。
彼女は部屋の中を
あちこし探しましたが、
結局、彼の額に
手を当てざるを得ませんでした。
冷たいのか、
レアンの口元が上がりました。
気持ちがいいと、
彼は目を閉じて呟きました。
アニャは、
手首に彼の息が触れると
固まって動けなくなりました。
しばらくして
彼の息づかいが落ち着きました。
ようやくアニャは手を退けると
薄い布団を、もう少し上に
かけてやりました。
春が来ているけれど、この塔の中は、
とても冷え冷えとしていました。
◇去り行く人々◇
ラティルは、
全く答えが出ない皇配問題を巡って
一人で、くよくよしていましたが、
アニャを見つけると手を振り、
そこで何をしているのかと
尋ねました。
遠くからラティルを見つけたアニャは
その場をうろうろしていましたが
ラティルが呼ぶと、
もじもじしながら近づいて来ました。
来るなら来ればいいのに、
なぜ、そこにいるのかと、
ラティルが笑いながら尋ねても、
アニャは少し良心が咎めた顔で
首を横に振りました。
このような時ほど、
より空気が読めるラティルは
目を細めてアニャを探り、
何かあったようだと尋ねました。
アニャは、レアンの具合が悪いことを
言おうかどうか迷いましたが、
首を横に振りました。
ドミスはレアンを見に行っただけで
嫌がるだろうと考えたからでした。
ラティルは、
アニャが口を開かなかったため、
さらに問い詰める代わりに、
後で話したくなった時に
話して欲しいと言うと、話題を変え、
アニャの目から見て、
どの側室が皇配に相応しいと思うかと
尋ねました。
アニャは、
カルレインと答えました。
ラティルは、その理由を尋ねると
彼女は、
他の側室たちのことは全員
まともに知らないし、
カルレインは誠実なので、
何をやっても
上手く行くのではないかと
うわの空で答えました。
それに気づいたラティルは
彼女にこれ以上
尋ねることはしませんでした。
アニャもレアンについて
話すことができないまま。
別れの挨拶をしました。
ラティルは、
遠ざかるアニャの後ろ姿を見て、
小さくため息をつきました。
大きな敵が消えてから、
周囲が早く変化していました。
母親はタリウムを離れ、
レアンは塔に幽閉されました。
2日前にはアイニが訪ねて来て
ここを立ち去ると言いましたが、
昨日は意外にもトゥーラが訪ねて来て
旅行に出るかもしれないと
話してくれました。
彼は、何も言わないで消えたら、
ラティルが疑うかもしれないから
伝えに来たとも言っていました。
なぜか、トゥーラが
その話をしている間、アナッチャは
あれほど大切にしていた息子を
不満そうに見つめていました。
トゥーラは、
ヘウンも一緒に出発する。
二人で旅行に行くことにしたと
告げると、アナッチャは
「三人でしょう?」と
冷たく付け加えました。
ラティルはその三人が
アナッチャを含めて三人だと
思いましたが、アナッチャは
歩き回るのは疲れるので、
ここに留まると言いました。
今日、
アニャがあのような姿を見せると
ラティルは
彼女も出て行くのではないかという
予感のような考えが
突然、浮かび上がりました。
ラティルは、
アニャを呼び止めると、
もし出て行くつもりなら
挨拶だけはして行ってくれと
頼みました。
アニャは、
振り返って頷きました。
彼女がまた歩き始めると、
ラティルは、
なぜか今が春ではなく
秋のように感じました。
ラティルは、
一人二人と去って行くと考えながら
時々、身をくねらせて、
自分の存在を知らせる
二人目の子を見下ろしました。
今は眠っているのか、
とても静かでした。
ラティルは手をお腹の上に置くと、
早く生まれて欲しいと囁きました。
◇タッシールへの怒り◇
グリフィンは遠くから
ラティルのその姿を見ると、
すぐにゲスターの所へ飛んで行き、
彼に向かって、
きちんとした情報を手に入れて来たと
叫びました。
その時、ゲスターは、
殺伐とした目で
編み物をしていました。
ロルド宰相の計略が功を奏し、
ラティルがラナムンを訪れる回数が
減りましたが、
それを認識するや否や
タッシールが帰って来たからでした。
彼はお土産を持って来たと
騒々しく戻って来て、
買って来た特産物を
あちこちに配りました。
タッシールは、ゲスターのために、
特に疲労回復に良く効くお茶を
持って来た。
仕事で忙しそうだからと
言いながら、茶の箱を渡しました。
ゲスターは、本当にタッシールを
一発殴りたい顔をしていました。
グリフィンは、
「あぁ、あの目を見ろ!」と
叫びましたが、
ゲスターが自分の方を向くと
キャッという叫び声をあげながら
下へ降りて来ました。
ゲスターは、
どんな情報なのかと尋ねました。
グリフィンは、今、ロードが
とても寂しがって泣いている。
どれだけ、寂しいのか。
自分のそばには
二番目しかいないと叫んでいる。
今、行ってロードを慰めれば、
確実に点数を取ることができると
叫びました。
ゲスターは、グリフィンの言葉を
適当に聞きながらも
編み物を投げ捨て、
急いで皇帝の所へ向かいました。
しかし、皇帝は一人ではなかったので
グリフィンは、
あいつは、いつ来たんだと呟きました。
タッシールが
皇帝とベンチに並んで座って、
彼女の手を握り、
狐のような笑みを浮かべて、
何か囁いているところでした。
皇帝が彼の肩に
頭をもたれる姿を見て、
ゲスターは拳をギュッと握り、
もう我慢できないと呟きました。
グリフィンは、
我慢したことがあるのかと
突っ込みましたが、ゲスターは無視して
あいつを片付けてしまわなければと
呟きました。
まさか、アニャはレアンを連れて
どこかへ行こうなどと
考えていないですよね。
もし、そんなことをするなら、
レアンを吸血鬼にしてから、
連れて行って欲しいです。
アニャがレアンを吸血鬼にすれば、
太陽の下には出られませんが、
少なくとも、自分が吸血鬼になれば、
おそらくレアンは、もうラティルを
攻撃することはないのではないかと
思います。
ラティルが、どのように平和な世界を
作り上げて行くのか、アニャと二人で
見守っていくのであれば、
アニャがレアンを連れて行っても
許します(笑)
アイニとトゥーラとヘウンは
三人で出発するのでしょうね。
三角関係にならないか心配ですが
元々、
アイニとヘウンは恋人同士なので
トゥーラはアイニのことが好きでも
自重するのかもしれません。
またゲスターが
良からぬことを考えています。
ライバルを蹴落とすことしか考えず
自分が皇配としての資質を
高めようとしないゲスターは
最低だと思います。
ラティルは強い女性ですが、
仕事や人間関係に疲れた時、
癒してくれる存在が必要だと思います。
ゲスターとクラインは
ラティルに甘えてばかりいるので
二人の顔で癒されることはあっても
彼女がほっとするような言葉を
かけてはくれないと思います。
クラインは、
地が甘えん坊なので仕方がないけれど
わざと、か弱そうな態度を
取っているゲスターは、
完全にラティルの攻略方法を
間違えたと思います。
花色いぬ様
コメントをありがとうございます。
皇配になるのは
カルレインではなく、
花色いぬ様が相応しいと
おっしゃられた方です。
誤解させてしまっていたら
申し訳ありません。
このお話は登場人物が多いせいか
側室たちの登場回数に
バラつきがありますし、
いつのまにか
登場しなくなった人がいたり、
少し前のお話では
クラインが白魔術師に拉致され
その後、カルレインとゲスターに
救出された経緯が
書かれていなかったりと、
少し、欲求不満気味です。