834話 ラティルが全く予想もできなかった皇配候補とは??
◇同じ意見ばかり◇
ギルゴールが皇配に
最も適していると思うという意見に
ラティルは、自分が何か
聞き間違えたかと思いました。
このような意見を聞く時は
客観的で公正でなければ
ならないということを知りながら、
誰?
と、ラティルは
聞き返してしまいました。
大臣は目をつぶって、
ギルゴールが一番適していると
再び言いました。
ラティルは開いた口が
塞がらなかったので、
手で隠しました。
これは一体どういうことなのか。
彼はアトラクシ一派では
なかったっけ?
喧嘩したのだろうか?
ラティルはチラッと
アトラクシー公爵を見ました。
彼は目を閉じて世事に超然とした
表情をしていました。
本当に喧嘩したのだろうか?
ラティルは頭を傾げながら、
次の番の大臣に尋ねましたが、
彼も、ギルゴールを推しました。
ラティルは、
今、夢でも見ているのかと思い
ぼんやりと、その大臣を見ました。
彼は、レアンを
支持するほどではないけれど、
かなり好意的に見ていた大臣でした。
最後は、
すごくがっかりしたようでしたが。
まあ、 レアンのように
頭がいいタイプに失望して、
極端に逆なのが
良くなることもあるだろうと
思ったラティルは、隣に立っている
次の順番の大臣に尋ねました。
彼も、ギルゴールが皇配になってこそ
国が安定すると言いました。
ラティルは手の甲を
軽くつねってみました。
ここはタリウムに見えるけれど
もしかして、タリウムではない
他の国に来ているのかと
疑うほどでした。
その隣の人も、その隣の人も
ギルゴールの名前を告げました。
ロルド宰相の親友であることが
確実な大臣も、
ギルゴールを皇配候補に指名しました。
ラティルは頭に手を乗せて
大臣たちを見回しました。
ここまで来ると、
何か変だと言うことを
認めなければなりませんでした。
アトラクシー公爵が発表する番になると
彼がギルゴール以外の人を指名するのが
もっと変だと思われるほどでした。
皇配は当然、ラナムンが
ならなければならない。
理由は、皆知っているはず。
皇配は、皇帝の隣にいるだけでなく、
国を代表する人でもあるということを
皆、覚えておくべきだと
いつもより悲壮な表情で話しました。
堂々と当然の話をするのではなく、
大きな力の前で、
一人で危険に立ち向かう意志を
示しているようでした。
近くに立っている他の大臣たちは
アトラクシー公爵を
感嘆の目で見つめていました。
さらに、ロルド宰相の一派も、
アトラクシー公爵を
尊敬の目で見つめました。
ラティルは唇を噛み締めました。
どういうことか
ぼんやりと見当がつきました。
ギルゴールが手を使ったんだ。
どおりで、最近、彼は
特に静かだと思ったと
心の中で叫びました。
◇ギルゴールの理屈◇
ゲスターとラナムンが、
それぞれの父親たちから
一票ずつ得た以外、残り全員が
ギルゴールを選びました。
ラティルは、
少し考えてみるので、
大臣たちも休むようにと言うと、
1時間後に、また集まるよう
指示しました。
そして、すぐに、
ギルゴールの温室を訪ねました。
温室のドアを
大きな音を立てながら開けて入ると
近くに植えておいた木々が
小さく振動しました。
春になり、外もだんだん
暖かくなって来ていましたが、
温室の中は、
ずっと蒸し暑いままでした。
ラティルは上着を脱いで腕にかけると
人の気配を探しました。
広々とした温室は
動き回るのも大変でしたが、
ついにラティルは茂みの向こうに
人影を見つけたので、
すぐにそこへ走って行き、
長い葉を退けながら
ギルゴールの名を叫びました。
ジョーロを持って立っていた
ザイオールは、
自分はギルゴールではないと言うと
驚いて後ろに下がりました。
彼は沼でワニと出くわしたように
怯えた表情をしていました。
ラティルは茂みを抜けると
空地を見回しました。
新しい花を植えようとしたのか、
土が耕されていました。
あちこちに、
多くの園芸道具が置かれていたけれど
ギルゴールはいませんでした。
ラティルは、
ギルゴールはどこにいるのかと
落ち着いて尋ねると、
私はここにいるよ、お嬢さん。
と、後ろから声が聞こえて来ました。
ラティルが、さっと振り向くと、
ギルゴールが
白い薄手のコートのポケットに
手を入れて、
ラティルを見下ろしていました。
彼が現れると、
つられて周囲の温度が下がりました。
ギルゴールは、
自分を探していたのか。
声があの中まで聞こえて来たと
優しい声で尋ねて、
ラティルに微笑みかけました。
ザイオールは2人の怪物の戦いに
巻き込まれたくなかったので、
ジョーロを抱きしめて
その場から逃げました。
それに気づいたラティルは
ザイオールが完全に去るまで
待ちました。
ついに二人きりになると、
ラティルは無理やり笑いながら
もしかしてギルゴールは
大臣たちを訪ね回りながら
何かしたのかと尋ねました。
ギルゴールは、さらに微笑むと
相談をしたと答えました。
ラティルは、
彼がいつでも精神的に
傷つく吸血鬼であることを
無理矢理、頭に入れながら
相談内容について尋ねました。
運命から抜け出しても、
彼が正気を取り戻したわけでは
ありませんでした。
ギルゴールは、
自分を支持しなければ、温室に植えて
水を飲ませながら育てると言ったと
ラティルの背中に胸をつけながら
囁きました。
そして、
たまには肥料を飲ませるとも言った。
そうすれば、その人間たちも
成長というものをするだろうから。
お嬢さんも知っている通り、
自分は自然を愛していると言うと
ラティルの耳元を
痛くないように噛みました。
彼の冷たい唇が耳に触れると、
首筋に鳥肌が立ちました。
くすぐったい感じがして
自然に首をすくめました。
ラティルが
ゆっくり彼の名前を呼ぶと、
ギルゴールは
ラティルの首に沿って
唇を下げました。
肩に唇が触れると、
もう少し力が入りました。
彼の手がボタンに届きました。
ギルゴールは
ボタンを外すかどうか悩んだ末、
結局、外しませんでした。
その状態でギルゴールは
ラティルの心臓付近を
片手で撫でました。
ラティルは、
彼の肩に頭をもたれました。
彼の唇が届くところは
どこでも熱くなりました。
足の力が抜けました。
このまま彼を抱きしめて
土の山に横になりたかったけれど
ラティルは
大きく体を横に向けながら
肩で彼を押しのけました。
ギルゴールは半歩後ろに下がると
なぜ怒るのかと尋ねました。
ラティルは、
自分にとって皇配を決めることは
真剣で、とても重要な問題だ。
自分は、
とてもタリウムを愛しているし、
タリウムは自分の故郷で、
自分の母国で
自分の国の人々の拠り所だと
大声で叫びました。
しかし、ギルゴールの瞳孔が
狩りを控えた禽獣のように変わると、
わざと口元だけを上に上げました。
もちろん、自分はギルゴールに
怒っているわけではないと
弁解しましたが、
もしかしたら、ギルゴールが以前、
警察部と白魔術師協会、
レアンの住居を全て壊したのは、
このための準備では
なかったのだろうかと
疑いさえしました。
大臣たちは、
その状況を目の当たりにして
皆、驚愕しました。
温室の中の草花のように
軟弱な貴族たちは、ギルゴールが
このことをちらつかせながら
脅迫すれば、
無視できないはずでした。
お嬢さん、一体何が問題なの?
ギルゴールは、太い幹に
背中をもたせかけながら
尋ねました。
彼はラティルを
からかっているのではなく
本気で、あのロードが
怒っている理由を
理解できませんでした。
ラティルは呆れて首の後ろをつかみ
ため息をつきました。
ギルゴールは、
対抗者一番は
自分の正統性をアピールしているし
狐野郎は、
自分が金持ちで頭がいいことを
アピールしている。
皆、自分の長所をアピールしているので
自分も長所をアピールしただけだと
説明しました。
ラティルは
強いところをアピールしたのかと
尋ねると、ギルゴールは
自然を愛することだと答えました。
ラティルは何も答えられず
口の端を下げて、彼を見上げました。
ギルゴールは、
偏見を持たずに
考えてみて欲しいけれど、
もしも対抗者一番や狐野郎、あるいは
カリセンの子馬のような人間たちが
皇配になったとする。
そして、自分みたいな敵が現れて
お嬢さんの部下たちの命を
奪ってしまったらどうするのか。
解決する方法があるのか。
これは、自分の長所だけれど、
自分は正統性のある皇配や
頭の良い皇配が
自分の前にはだかっても
何でもできると言って、
口の端を月のように上げました。
ラティルは何も言うことが
ありませんでした。
彼は詭弁を弄していました。
そのように考えるなら、
皇后や皇配は、武術大会を開いて
選ばなければなりませんでした。
皇配は、地位を守る人が
なるものではなく
国のために役に立つ人が
ならなければならないと、
ラティルは教科書のような言葉を
呟きました。
しかし、その一方で、
ギルゴールの言葉に
ある程度は耳を傾けました。
怪物がどっと押し寄せてくるなら、
ギルゴールのような皇配が最高だ。
一人で怪物を処理して来るからと
思いました。
ギルゴールは、
自分の言うことが正しいと
思うでしょ、お嬢さん?
と、後ろから
ラティルの腰を抱きながら尋ねました。
彼女は彼の腕をポンポン叩きました。
彼の強引さに腹を立てながらも、
一方で、ギルゴールの
このようなやり方が可愛く思えて
困りました。
さて、ギルゴールは、
うちの赤ちゃんが生まれたら
何て名前を付けようかな?
と話題を変えました。
ラティルは、
話を変えるな。
なぜ赤ちゃんの名前を
ギルゴールと付けなければ
ならないのか。
付けるなら
タッシールと付けると返事をすると
ギルゴールは
ラティルの両側のこめかみに
キスをして退きました。
そして、
もうすぐ、うちの子供たちの
誕生日だけれど、
知っているかと尋ねました。
その言葉に、
ラティルが驚いていると、
ギルゴールは、
自分の子供はどこにいるのか
分からないと言って
周囲をきょろきょろ見回した後、
土を掘り始めました。
土を手で何度か取り出すと、
春の土の匂いがしてきました。
ラティルは言葉に詰まってしまい
これ以上怒ることが
できませんでした。
最近、シピサが
ほとんど姿を見せないことも
気になりました。
シピサは、
昔のギルゴールのように
時折、現れて安否を伝えると、
また消えました。
ラティルは唇を噛むと、
踵を返しました。
◇候補者の発表◇
休憩時間が終わる時間に合わせて
再び会議室に戻ってみると、
大臣たちは、
すでに皆、集まっていました。
ラティルが横の扉から入ってくると、
大臣たちは口を閉じて
皆ラティルに注目しました。
彼らの沈黙と不安そうな瞳が
すべての状況を説明してくれました。
ギルゴールに脅迫されたために
皆、彼の名前を挙げましたが
ギルゴールが選ばれることを
恐れていました。
ラティルは壇上の前で
しばらく物思いに耽っていましたが
ついに、
これは非公式な事案だから、
記録しておく必要はないと、
口を開きました。
本当は、
非公式にも言わないでおき、
一人で秘密裏に候補を選び、
最終決定を下しても良いと
思っていました。
しかし、側室たちの誰かが
皇配になれば、
一時、同じ側室だった彼らの中には
認めようとしない人もいるはずでした。
ラティルは、皇配候補たちが
そのような雰囲気に
どのように対応するのか
見たいと思いました。
ラティルは、
皇配候補を選んだけれど、
人のことは分からない。
大きな変化が生じれば、
変えたり
脱落させたりするかもしれないと
話しました。
しかし、ここまで話しながらも、
今の決定が正しいのだろうかと
ラティルは混乱していました。
それでも、ラティルは、
大臣たちの意見をまとめて
自分が選んだ皇配候補3人について
発表しました。
ラナムンと告げると
アトラクシー公爵とその一派が
安堵のため息をつきました。
タッシールと告げると、
目に見えて喜ぶ大臣はいませんでしたが
皆、認めるかのように頷きました。
タッシールは、
彼らが支持する側室では
ありませんでしたが、
彼らが選んだ側室が
皇配にならなければ、
むしろタッシールになってもらう方が
良いと思っているようでした。
そして最後は・・・
と、口にしたラティルの頭の中に
2人の顔が素早く
交互に現れては消えるのを
繰り返しました。
ギルゴールが大臣たちを脅した理由が
ラナムンやタッシールのように
自分の長所を
アピールするためというのが
案外、理に適っているのではないかと
思います。
ギルゴールは、
なかなか、やりますね。
ギルゴールは
家族を全員失って
正気を失ってしまったけれど
元々、とても優しい人。
シピサとセルをとても
可愛がっていたので、
ラティルのお腹の子供の
実の父親ではないけれど、
自分の子供のように
思えるのかもしれません。
シピサと喧嘩別れをした後、
おそらくギルゴールは彼と一度も
会っていないのでしょうけれど
自分の子供がどこにいるのか
分からないと言いながら
土を掘り始めるギルゴールに
泣けました。
シピサはギルゴールと
何千年も離れていた間、
彼をずっと憎んでいたので、
なかなか、
その思いを払拭することは
できないかもしれませんが、
少しずつ、二人が
元の関係を取り戻せるように
なって欲しいです。