839話 カルレインがラナムンに持ち掛けた取引とは?
◇カルレインの提案◇
取引って?
ラナムンは怪訝な目で
カルレインを見ました。
彼は、
簡単なこと。
自分がラナムンを守ってやると
答えましたが、ラナムンは
もっと怪しみました。
彼が、
何と引き換えにするのかと尋ねると、
カルレインは、
ラナムンの子供を自分に渡すことと
答えました。
ラナムンは、
しばらく何も言えませんでした。
彼はカルレインをじっと見つめながら
彼が本気なのか把握しようとしました。
ラナムンは、
とんでもない。
自分がそんな言うことを聞くと
思うのか。なぜ、皇女を?
アニャドミスの転生だから
命を奪うつもりなのかと抗議しました。
カルレインが
冗談を言っているようには
見えなかったので、
ラナムンは、すぐに
扉へ歩いて行きました。
しかし、カルレインは、
皇女ではなくて次の子だと
後ろから淡々と反論しました。
アニャドミスの生まれ変わりである
皇女は、彼も嫌でした。
ラナムンは扉の取っ手に
手を掛けようとして立ち止まりました。
彼は、
次の子とは、今、皇帝のお腹にいる
赤ちゃんのことかと尋ねました。
カルレインは、それを否定し、
次に、ラナムンとご主人様の間に
生まれる子供のことだと答えました。
ラナムンは、ひとまず取っ手から
手を下ろしました。
しかし、カルレインの言うことが
理解できませんでした。
ラナムンは、
どういう意味かわからないけれど
次に子供が生まれるかどうか
どうやって分かるのかと尋ねました。
カルレインは、
分からないけれど、
もし次にラナムンとご主人様の間に
子供が生まれたら、
その子供の実父に自分がなる。
ラナムンが実の父で、
自分が養父になるのではなく、
自分が実の父になると答えました。
やはり戯言だと言うと、
ラナムンは扉を開けて出て行きました。
カルレインと真剣に話したことが
時間の無駄に感じられました。
カルレインは彼についていく代わりに
主のいない机に
平然と腰を下ろしました。
ラナムンが、まもなく
子供部屋に戻ってくると、
カルドンは赤ちゃんの手を取り、
よちよち歩きの練習を手伝いながら
どうしたのか。
彼が何か変なことを言ったのかと
尋ねました。
ラナムンは、
変なことだったと答えると
カルレインの驚くべき提案について
話そうと眉を顰めました。
ところが、後から考えてみると、
別に変な提案でもありませんでした。
ハーレム内で、ある側室の子供が
別の側室の子供になることは
珍しくもありませんでした。
それに皇帝は、確かに好色だけれど、
ハーレムを訪ねる日より
一人で執務室に閉じこもって
仕事をする日の方が倍以上多く、
頻繁に側室に会いに来ませんでした。
ラナムンは今後、
皇帝がさらに何人の子供を
持つことができるかを
計算してみました。
ラナムンは
そうしよう。
と呟いて、突然、
また出て行ってしまうと、
残されたカルドンは戸惑って
赤ちゃんを抱き上げました。
お坊ちゃまは
どうしたのだろうと思いました。
ラナムンは
隣の部屋の扉を開けて入ると
カルレインに
気が変わったと言いました。
彼はその場にそのまま座って
自分の手を見ていましたが。
ラナムンが突然扉を開けて入ってくると
手を下げました。
カルレインは、
気が変わるのが早い、 実に柔軟だと
言いました。
ラナムンは、
次に自分の子が生まれたら
カルレインを実父にすることを
約束すると伝えました。
ラナムンは、自分と皇帝の間に
二番目の子供が生まれる可能性が
非常に低いと考えたので、
このような約束をしても良いと
思いました。
良し。
と返事をすると、
カルレインは口の端を上げました。
決して冗談で提案したとは思えない
顔をしていました。
その微笑を見たラナムンは、
なぜ、あえて自分に
このような取引を提案するのかと
尋ねました。
ハーレムには他の側室も多く、
必ず自分でなければならない理由が
あるのだろうかと、
ふと疑問を感じたからでした。
カルレインは、
今のラナムンには自分が必要だからと
答えました。
ラナムンは、それを否定しましたが
カルレインは、
タッシールが出て行ったので、
残りの皇配候補は
ラナムンとギルゴールだけ。
しかし、
ギルゴールも子供ができないし
自分の助けを必要としない。
それにタッシールを追い出した者は
ギルゴールまで
追い出そうとはしないだろう。
彼が皇配になる可能性は
ほとんどないから。
そのため、次の攻撃相手は
ラナムンだけで、
自分がこのような取引をする相手も
ラナムンだけだ。分かったかと
説明しました。
ラナムンはカルレインの言葉に
完全に説得されましたが
心の中では
依然として疑問が残っていました。
カルレインは
ラナムンの不審感に気づいていましたが
知らないふりをしました。
◇悪いことはない◇
ゲスターは自分の部屋に閉じこもり
木刀で小さな木を彫っていました。
そうしているうちに、
ゲスターは足音を聞いて
視線を上げました。
窓越しにカルレインとラナムンが
並んで歩いていました。
ゲスターは怒るよりも、
むしろ会心の笑みを浮かべました。
あの二人が警戒して、
あのようにくっついていれば、
むしろ、互いの動きが制限されるので
彼にとって悪いことは
一つもありませんでした。
トゥーリは、ゲスターの
のんびりとした動きに
不屈の精神が湧き起こり、
胸を拳でパタパタ叩きました。
◇本当に優しい◇
ゲスターは、何日も懸命に木を彫って
ついにそれを作ることに成功しました。
トゥーリは、
それが何なのか分かりませんでしたが
本当にきれいだと過度に褒めました。
しかし、ゲスターが、
なせ、捻じれたレタスのようなものを
作ったのか理解できませんでした。
滑らかで、不思議なほど
よく削られていましたが
あまり役に立たないように見えました。
子供にあげるのかと思いましたが、
おもちゃでもなさそうでした。
トゥーリは、
それを、どうするのかと尋ねると、
ゲスターは、
ザイシンにあげようと思うと
答えました。
キラキラしている包装紙で
彫刻をきれいに包装していたトゥーリは
口を大きく開いて
えっ?
と聞き返しました。
なぜ、これを筋肉大神官にあげるのか
理解できませんでした。
しかし、ザイシンは
あまりにも優しい人なので、
トゥーリも彼に対しては
悪口を言えませんでした。
トゥーリはゲスターに
大神官と親しくなりたいのかと
尋ねました。
ゲスターは、
誕生日だったからと答えました。
他の行事と重なって、
ザイシンの誕生日が
そのまま過ぎてしまったことを
思い出したトゥーリは
ああ、そうだったと納得しました。
ライバルの誕生日まで
祝ってあげるなんて、
うちの坊ちゃんは本当に優しいと
トゥーリが言うと、
ゲスターは照れくさそうに笑って
化粧台の前へ歩いて行きました。
そして、トゥーリに
支度を手伝って欲しいと指示しました。
◇誕生日プレゼント◇
ザイシンは祈りを終えて、
身なりを整えている途中、
ザイシン、忙しい?
と皇帝の声が近くから聞こえたので
驚いて、さっと振り返りました。
皇帝が扉をほんの少しだけ開け、
そこから顔だけ出していました。
ザイシンが、
何をしているのかと尋ねると
ラティルは、もう一度
忙しいかと尋ねました、
ザイシンは
忙しくない。
お祈りは済ませたと答えた後、
訳もなく空中で腕を鳴らすと、
皇帝は、
ようやく中に入って来ました。
皇帝が
手に何かを持っていることに
気づいたザイシンは
それは何なのかと尋ねました。
ラティルはザイシンへの
誕生日プレゼントと答えて、
それを差し出しました。
ザイシンは、
それが何なのかも知らずに
感動しました。
ラティルは、
誕生日を祝うのが遅くなったのに
寂しそうな気配もない
ザイシンを見ると、
訳もなく気まずくなったので、
何日か過ぎてしまったけれどと
付け加えました。
しかし、ザイシンは、
気にかけてくれたので大丈夫。
とても嬉しいと、お礼を言いました。
それからザイシンは
明るい笑顔を浮かべながら
包み紙を破りました。
プレゼントは
ダイヤモンドとサファイアで作った
神殿の象徴の模様のブローチでした。
ラティルは、
ザイシンが気に入ってくれるかどうか
確信が持てなかったので、
どう?
と慎重に尋ねました。
実はダンベルをあげたかったけれど
侍従長が嫌がったため、
無難なアクセサリーに変えたのでした。
訳もなく心がくすぐられたザイシンは
いいですね!
と叫びました。
ブローチが
気に入ったかどうかなんて
考えもしませんでした。
プレゼントをもらった人が
とても喜んであげれば、
あげる方も嬉しいと思いました。
彼が喜んでいる姿を見たラティルは
私が付けてあげる。
と言って、ブローチを手に取りました。
そして、ラティルは、
どこに付けようかな?
ここに付けようか?
と、ザイシンの心臓の近くの
服の上にブローチを付けながら
鼻歌を口ずさみました。
ザイシンは気をつけの姿勢で
皇帝の頭が、彼の胸の前で
あちこち動く姿を
ぼんやりと眺めました。
彼は、彼女が自分に
プレゼントをくれたことが
好きでした。
ブローチがうまく付けられないのか
彼の服を、一度ずつ引っ張る手さえ
良いと思いました。
それで急にザイシンは怖くなりました。
相手はロードで、
世俗の頂点に立っていました。
大神官である彼が、
こんなに物質的で世俗的なことに
ウキウキしても
いいのだろうかと思いました。
しかし、混乱した気持ちは、
皇帝がブローチを付けてくれて
よく似合うと叫ぶと、
強風に流された砂粒のように
消えました。 ザイシンは、
皇帝がくれたからだと思うと伝えると
演武場を10周ほど走りたくなりました。
足に強い力が出て、
体は軽くなった感じでした。
心がウキウキすると、
筋肉が薄れて消える感じがしました。
ザイシンは、
自分の体が変だと訴えました。
ラティルは、
デートをしないかと尋ねました。
ザイシンは、
一緒に運動するのはどうかと
提案しました。
ラティルはザイシンに
何か食べたか。
自分はお腹が空いていると言いました。
ザイシンは、
皇帝が来る30分前に
食事をしたことを忘れて、
何も、食べていない。
昨日から飢えていたと叫びました。
ラティルはクーベルを呼び、
ザイシンがお腹が空いたので、
彼が好きな食べ物を
たくさん持ってくるように
指示しました。
クーベルは、30分前に
たくさんの皿を空にしたことを
思い出しましたが、
知らんぷりをして
分かったと答えました。
ところがクーベルが去ってから
5分も経たないうちに、
誰かが扉を叩きました。
ラティルは
クーベルが戻って来たと思い
入って。
と叫びました。
ところが扉を開けて入って来たのは
包装紙に包まれた
ギフトボックスを持っている
ゲスターでした。
ラティルを見て驚いたゲスターは
謝ると、扉を閉めて出て行きました。
ラティルは、すぐに後に付いて行き
ドアを開け、ゲスターに
ザイシンの所へ来たのではないのかと
尋ねました。
廊下に出る扉を開けていたゲスターは
ビクッとしました。
彼は困った表情で目を伏せました。
ザイシンも様子がおかしいのを見て
ラティルのそばに近づきました。
ザイシンはゲスターに
自分を訪ねて来たのかと尋ねました。
ゲスターは、
大神官に誕生日プレゼントを
あげようと思って来たけれど、
皇帝と一緒にいることを知らなかった。
申し訳ないと、
しどろもどろで答えると、
プレゼントの箱を
ザイシンに差し出しました。
彼は贈り物を受け取りながら、
チラッと皇帝を見ましたが、
角度のせいで
皇帝の表情は見えませんでした。
ザイシンは、
ラティルがゲスターといるのが
好きだと思い、
せっかく来たので、
一緒に食事をしないかと
明るい声でゲスターを誘いました。
ラティルは、ザイシンが
ゲスターと親しいのかと思って
じっとしていました。
ゲスターは丸い目で
ザイシンとラティルを交互に見て
もじもじしていましたが、
そうしてもいいですか・・・?
と尋ねました。
そのウサギのような表情を見て
断るのは難しかったので
ザイシンは、
もちろんです。皆で一緒に食べれば
もっと楽しいです!
と豪快に叫びました。
ザイシンは、ゲスターが
気まずいのではないかと思い
彼の腕を握って
中へ連れて行きました。
クーベルは、指示通りに
食べ物をいっぱい持って
戻って来ました。
彼は、ゲスターが
いきなり挟まっている姿を見て
少し驚きましたが、聖職者らしく
何も考えませんでした。
百花がいれば、
何か言い訳をしてでも、ゲスターを
引きずり出しただろうけれど
クーベルは、
ゲスターの前にも食べ物を置いて
出て行きました。
皇帝がここにいることを
知っていたら、
もう少し気を遣ってきたのにと
ゲスターは
フォークをつまみながら呟きました。
ラティルは、
ゲスターは今でも素敵だと言いました。
ザイシンは、
一本一本丁寧に整えた
ゲスターの髪の毛を
ぼんやりと眺めた後、
ゲスターがくれた
プレゼントの包装を破りました。
箱の中に入った
正体不明の木片を見たザイシンは
これは何なのかと思い、
しばらく混乱に陥りました。
何かを彫刻したような
気がするけれど、
あまりに抽象的で
正体が分かりにくいものでした。
しかし、ゲスターが、適当に
木を削ってくれたわけではないと
思いました。
どうせお腹が空いていなかった
ザイシンは、
これが何かを調べるために
しばらく木片だけを見つめました。
そうしているうちに
テーブルの上で笑い声が聞こえたので
頭を上げてみると、
ゲスターが皇帝と楽しそうに
戯れていました。
ゲスターは顔を真っ赤にして
可愛いらしく照れていて、
皇帝はゲスターの鼻の上などに
クリームを乗せて笑っていました。
ザイシンは口を開けて
ぼんやりとその姿を見て、
再び正体不明の木片に
視線を下ろしました。
顔に熱が上がって
心臓がドキドキしました。
しかし、今度は、
気持ちの良いドキドキでは
ありませんでした。
ゲスターがザイシンに贈った
木の彫刻は、
黒魔術の小道具か何かなのでしょうね。
善良、純真が服を着て
歩いているようなザイシンにまで
ゲスターは手を出すなんて、
彼の独占欲は、どこまで続くのか。
ザイシンの善意を踏みにじるような
ゲスターの行為に腹が立ちます。
自分に被害が及ばないように
ゲスターの名前を出さないカルレイン。
周りが腫物を触るように
ゲスターと接しているのに
彼と楽しそうに
じゃれ合っているラティルが
情けないです。
ゲスターが、どんな手を使おうと
彼が皇配にならないのは
分かっているので、
それだけが救いです。