850話 クラインはヒュアツィンテに国政運営を学べと言われました。
◇皇配より英雄に◇
本当に自分にそう言ったのかと
クラインはあわてて問い返しました。
ヒュアツィンテは
「うん」と答えました、
クラインは、さらに当惑し、
その理由を尋ねました。
ヒュアツィンテは、
自分には同母弟はいないし
すぐに結婚する気もない。
しかし、後継者の席が空席なのは、
国にとって良くない。
だからクラインに、
臨時後継者の役割をして欲しいと
頼みました。
クラインは、
本当に自分に言っているんだよねと
確認しました。
ヒュアツィンテは、
嫌なのかと尋ねました。
クラインは、
唐突過ぎると返事をしました。
臨時後継者ではあるけれど
ヒュアツィンテの子供が生まれるまで
皇位継承順位が一気に2位に上がるので
クラインは混乱しました。
クラインは、
自分がなりたいのは皇配で
皇帝ではないと言いました。
ヒュアツィンテはクラインに
野望があるのか、ないのか
尋ねました。
クラインは「ある」と答えました。
ヒュアツィンテは、
皇家の血筋でない人なら
皇配が一番高い目標だろう。
しかし、クラインは
皇帝になれるかもしれないのに、
その機会を逃すのかと尋ねました。
クラインは、
言葉では、そう言えるけれど
事実上1%にも満たない可能性だ。
兄と自分は何歳違うのか。
それに兄は、
自分と同じくらい元気だと言うと、
クラインはヒュアツィンテの
しっかりした体を
上から下まで見下ろしました。
ヒュアツィンテは皇帝なので、
剣を堂々と使うことがないだけで
秀でた腕前を持っていました。
ヒュアツィンテは、
その1%の可能性でも、
ある方がいいのではないか。
クラインが皇配になる可能性は
0%だからと言うと、クラインは
ヒュアツィンテの言葉に衝撃を受けて
口をあんぐりと開けました。
そして、ヒュアツィンテに
抗議しましたが、彼は、
クラインに皇配の資質がないことを
知っているではないかと
指摘しました。
クラインは、
自分がバカだと言うのか。
それなのに、
なぜ国政を学べと言うのかと
抗議しました。
ヒュアツィンテは、
バカとは言ってない。
それに皇帝は、
血筋の力で半分は食べていける。
しかし、皇配はそうではない。
皇帝は統治さえうまくやればいい。
他の短所は、国民が勝手に
見逃してくれる。
しかし、皇配や皇后は、
一つでも欠点が見える瞬間、
すぐに噛みつかれると話しました。
クラインは、
自分は大丈夫。
一緒に噛みつくと反論しましたが
ヒュアツィンテは、
だからダメなんだ。
皇配は皇帝と国民、大臣の間で
バランスを取らなければならないと
説明しました。
クラインは、
やればいいんだよ!
何が難しいんだ?
と堂々と叫びました。
クラインは、
うまくやり遂げる自信がありました。
バランスは、
突き出た部分をギュッと押せば、
合わせられるのではないかと
思いました。
ヒュアツィンテは、
皇配は皇室の運営を
担当しなければならないと言いました。
クラインは、
やればいい。自分は数学が得意だと
言い返しました。
ヒュアツィンテは、
ラトラシル皇帝の多くの側室も
気にしなければならないと
言いました。
私がなぜ?!
とクラインは反射的に叫びましたが
あっという間に
膨れっ面になりました。
彼は、嘘でも「わかった」と
答えることができませんでした。
彼は皇配になるや否や、
他の側室をすべて追い払う
自信があったからでした。
ヒュアツィンテが
ほらね。
と言うと、クラインは、
もう一度、聞いてと
しっかり覚悟を決めて提案しました。
しかし、ヒュアツィンテは
首を軽く横に振りました。
クラインが覚悟して嘘をついても、
いきなり、彼が妻の男たちを
懐に抱える能力はありませんでした。
ヒュアツィンテは、
ここでは皇帝になれなくても
英雄として崇められて
生きることができる。
その良い機会を断って、他国に行き
側室の一人として暮したいのかと
尋ねました。
◇皇帝なら栄光を選択する◇
アクシアンは、
クラインが部屋の中に入るや否や
彼に付いて来て、
自分も皇帝と同意見だと言いました。
クラインはアクシアンを睨みました。
この人間は自分の気に入ることを
言ったことがないと思いました。
クラインは、
アクシアンは兄の側の人間だから
いつも兄の言うことが正しいと
言うだろう。
私の側の人間はバニルだけだと
皮肉を言いました。
しかし、バニルは
クラインに見つめられると、
慌てふためいて、たじたじとなり、
消え入りそうな声で、
自分もカリセンに残る方が
良いと思うと進言しました。
信じていたバニルにまで裏切られると
クラインは、
何だって?!
と怒鳴りつけました。
しかし、バニルは、
その方が皇子のためだ。
ここでの栄光を捨てて、
あえて、あの戦いに
入る必要があるのだろうか。
絶対に皇子が役不足なわけではない。
ただ、あそこの側室たちは
皆、少し能力があるからと
答えました。
クラインはショックを受けました。
四方から皆同じことを言うと、
自分が間違っているのではないかと
不安な気持ちが湧き上がって来ました。
そして、アクシアンは
一つ確かなことがある。
皇帝が同じ状況なら
栄光を選択すると釘を刺しました。
クラインが、
どちらの皇帝かと尋ねると、
アクシアンは、
二人ともと答えました。
◇三角関係?◇
一方、ラナムンに従って
月楼に来たラティルの秘書は、
彼女に手紙を書くかどうか
悩んでいました。
今の状況は、
彼の立場では解決できず、
皇帝の決断が必要でした。
最初、月楼に到着した時、
王と王妃は、ラナムンとカルレインを
大歓迎しました。
王は彼らを歓迎するために
パーティーまで開いてくれました。
しかし、アペラを崇拝する貴族たちは、
ラナムンを、
ほとんど透明人間扱いしました。
カルレインのことは怖いのか、
目も合わせようとしませんでした。
秘書は
この姿を見て心配しましたが、
カルレインとラナムンの二人とも
月楼と社交界に
関心がないように見えました。
時間が経つと、彼らの淡々とした姿に
むしろ現実的な貴族たちが
その雰囲気を破って
先に近づくほどでした。
しかし、秘書は、
この問題で悩んでいたのでは
ありませんでした。
それ以後、怪物を退治する時も、
二人は意外と気がよく合い、
効率的に活動しました。
荒々しい傭兵たちの間で
神話のような存在のカルレインと
骨の髄まで傲慢な貴族である
ラナムンが、よく気が合う姿は
不思議なほどでした。
しかし、仕事がほぼ終わる頃、
アペラと二人が
対面する事件が発生しました。
秘書は、彼らが何のために
対面したのか知りませんでしたが
その後、問題が起こりました。
親しくはなくても、
かなり良い味方だった
カルレインとラナムンが、
ちょうどその時点をきっかけに
顔を合わせただけで
耐えられなくなりました。
後に、二人は
一緒に仕事もしなくなりました。
そのため、仕事の終盤になると、
自然と怪物の処理が遅くなりました。
これが不自然でなことでなければ
皇帝に報告するほどではないけれど
それ以後、アペラが
次第に生き生きとするようになり
家族旅行に行ってしまったのが
気になりました。
秘書は、
もしかしてラナムンとカルレインが
アペラに恋して三角関係になり、
そのことで
仲が悪くなったのではないかと
妙に気になりました。
◇復讐◇
しかし、秘書の予想とは違い、アペラは
カルレインともラナムンとも
深い関係にありませんでした。
秘書は知らないけれど、
昔、アペラは狐の仮面と
取引をしたことがありました。
狐の仮面は、
アペラの復讐をする代わりに、
彼女の愛憎を受け取りました。
そして狐の仮面は、
そこから愛情だけ抜いてしまった後、
憎悪を粉にして保管し、
今回、封筒に入れて
アペラに渡しました。
その時、狐の仮面は、
アペラは頭がいい。
これを一番適切な時に撒いて
仕事を台無しにしてと提案しました。
アペラは、
カルレインとラナムンが
2人でいる時を待って、
その粉を撒きました。
その後、アペラが家に帰ってみると、
家族が、客としてやって来た
狐の仮面をもてなしていました。
狐の仮面は、
アペラの家の客用の部屋で
堂々とお茶を飲んでいて、
アペラを見ると
久しぶりだと挨拶をして
手を振りました。
アペラは家族に、
しばらく席を外して欲しいと
頼みました。
彼女と二人きりになると、
アペラの額の前で手を軽く弾きました。
そして、
これで取引は終了だ。
あえて偽の下女の仕事をしに
戻ってこなくてもいい。
自由に暮らしてと言いました。
それを聞いたアペラは
狐の仮面と取引した後、
半分消えたような感情が
戻ってくるのを感じました。
四方に躍動感が感じられ、
アペラは胸いっぱいの気持ちで
涙を流しました。
◇皇配の能力だから◇
月楼に行った秘書は、悩んだ末、
皇帝に手紙を
送らないことにしました。
このようなトラブルを調整することも
皇配候補の能力だと
判断したからでした。
秘書はため息をつきながら、
すでにタリウムに到着した
ゲスターとタッシールは
とても楽しく過ごしているだろうと
考えました。
◇静かなゲスター◇
秘書の予想は半分当たっていて
半分間違っていました。
ゲスターは
一生懸命、遊んではいました。
しかし、いつも熱心に計画を立てて
準備をしていたゲスターは
皇帝とひとしきり戦った後、
極度に静かになりました。
彼はもう外出もせず、
古書を読んだり雑誌を読んだりして
ぶらぶらしていました。
その他のことには
何の関心もなくなったかのように
話もしませんでした。
最初、ランブリーは、
ゲスターが自分たちに
八つ当たりをしないようなので
ほっとしていました。
しかし、時間が経つにつれて、
だんだん焦り始めました。
ランブリーはグリフィンを呼び、
あいつは大丈夫なのかと、
ゲスターを指差して囁きました。
グリフィンは飴を食べながら
首を横に振り、
自分に奴の気持ちが
分かるわけがないと答えました。
ゲスターは、
二匹の毛むくじゃらの話を
聞きながらも、知らないふりをして
行きたい旅行先だけを
チェックしていました。
◇パズルのピース◇
ゲスターのこのような行動を
伝え聞いたラティルも、やはり、
彼のことが気になりました。
何か魂胆があるのか、それとも、
ただ元気がないだけなのかと、
ラティルは、
サーナット卿が持ってきた
パズルをしながら尋ねました。
サーナット卿は、
気になるのか。
皇帝は優しいと答えました。
ラティルは、
狐の穴を隠そうと、
あれだけ努力したのに、
よりによって自分のせいで
ばれたからと返事をすると
イライラしながら、
ため息をつきました。
しかし、サーナット卿は、
それは彼の選択なので、
皇帝が罪悪感を抱く必要はない。
そもそも皇帝を山に連れて行ったのも
ゲスターだと、断固として
線を引きました。
それはそうだけれど・・・
ラティルは、パズルを
あちこちに置いてみましたが
気が散り始めたので、
パズル板をサーナット卿に渡し
続きは彼にお願いしました。
ラティルは
出産予定日が間近になり、
最近はベッドに横になって
過ごすことが多くなりました。
しかし、
終始、あちこち歩き回りながら
仕事をしていたのに慣れているせいか
時間の経つのが遅く感じられました。
サーナット卿はラティルが
何気にゲスターのことを
気にしていると指摘しました。
ラティルは、
他の人のことも気にしている。
ゲスターとタッシールは
あまりにも早く戻って来たので
驚いたけれど、他の側室たちは
思ったより戻ってくるのが遅いからと
答えると、
目立つようになったお腹を撫でました。
もしかしたら、他の側室たちは
子供が生まれた後に
帰ってくるかもしれないと思いました。
ゲスターとタッシールは
仕事の処理が早すぎて
やる気がなくなったようだと
サーナット卿が推測すると、
ラティルは、そうかもしれないと
思いました。
クラインは分からないけれど、
カルレインやギルゴールなら、
その程度の情報は
すぐに得られるだろうと思いました。
結局、ラティルは我慢ができなくなり
グリフィンを呼ぶと、
ラナムン、カルレイン、
ギルゴールとクラインが、
一体どの辺で何をしているのか
見て来てと指示しました、
グリフィンは、静かになった
ゲスターのそばにいるのが
退屈だったので、
ご心配なく!
と叫ぶと、今日は快く
空に飛んで行きました。
ラティルは再びお腹を撫でると
サーナット卿に手を差し出し、
パズルを返してと言いました。
サーナット卿は、ラティルが
膝の上に乗せたパズルを
慎重に一つ一つ合わせている間、
彼女の横顔を、
より慎重に見ました。
ベッドに横になって
ゴロゴロしているせいか、
いつも、
きちんと結んでいた髪の毛は
乱れていて、
その髪の間から見える
少し浮腫んだ頬には
枕の模様の跡が残っていて、
サーナット卿は
胸がいっぱいになりました。
自分が皇帝にとって
運命的な存在で、
自分たちが本当にペアなら・・・
ラティルは、
パズルのピースが一つないので
キョロキョロしました。
しかし、布団の上にも、布団の下にも
パズル板の下を見ても、
ピースは見当たりませんでした。
サーナット卿はラティルの手に
最後のピースを握らせ、
これを探しているのかと尋ねました。
ラティルは、なぜ、これを
サーナット卿が持っているのかと
ブツブツ文句を言いながら
手を伸ばしましたが、
彼が温かく笑うと
慌てて視線を下ろしました。
どうしてパズルのピース一つで
あのような雰囲気を
出しているのだろうか。
ラティルは、
訳もなく、ぎこちなくなり、
ピースをまともに見ることもせず
すぐに残っている隙間に
それを押し込みました。
しかし、絵が合いませんでした。
ラティルは無理に隙間に
ピースを入れようと努力しましたが、
後になって、それが
パズルのピースではないことに
気づきました。
ラティルは、
彼に渡されたピースを
ぼんやりと見つめながら、
再びサーナット卿を見上げました。
これはサーナット卿が燃やした
礼服に付いていた宝石の飾りでした。
ラティルが
これ・・・
と呟くと、サーナット卿は
入りますか?
と尋ねました。
ヒュアツィンテの言うことは
筋が通っていて、
間違っていないし、
クラインに皇帝になる野望がなく
彼とは仲が良かったから
このような提案ができるのだと
思います。
私も、クラインはカリセンに戻る方が
いいと思いますが、
ラティルのために魂まで捧げた
クラインが、
ラティルと別れられるのかどうか。
ヒュアツィンテがずっと独身で
彼に子供が生まれなければ
ラティルとクラインの間の子供を
養子にするという手もありますが
ヒュアツィンテは
しっかり国のことを考えている
皇帝なので、
いずれは皇后を迎えそうです。
ラナムンとカルレインを
決裂させるために
ゲスター(ランスター伯爵?)は
卑怯な手を使ったけれど、
お金欲しさのためとはいえ、
月楼の王子の提案に乗ったせいで
タリウムで、
惨めな生活を送って来たアペラには
良いことをしたと思います。
サーナット卿は
ゲスターに感化されたのでしょうけれど
何を今さらと思いました。
運命で定められた相手でも
皇配になれるとは限りません。
mommy様
次回、ギルゴールが
彼らしく登場します。