863話 ラティルはラナムンとの第2子を妊娠しましたが・・・
◇何とも言い難い表情◇
ラナムンは、
全然、嬉しそうな顔を
していませんでした。
だからといって、
嫌がっている表情でもなく、
何とも言い難い表情でした。
ラティルは、
「うれしくないの?」と
渋い顔で尋ねました。
ラナムンが、
グリフィンと同じくらい
派手に喜んでくれることを
期待してはいないけれど、
あの微妙な表情は
一体何なのかと怪しみました。
ラティルの質問にラナムンは
「嬉しいです」と答えて
口元に笑みを浮かべました。
彼は、もう一度、
とても嬉しいと言うと、
ラティルのお腹を
大事そうに撫でました。
しかし、その瞬間、
彼の額にしわが寄ったかと思うと
消えました。
ラティルは、これを見逃さず、
はっきりと見ました。
ラティルは、
そんなに嬉しそうに見えない。
子供を育てるのが大変だから?
助けてくれる人を
もっと増やそうかと、
沈んだ声で尋ねると、
ラナムンは首を横に振り
本当に嬉しいと答えました。
しかし、ラティルは、
ラナムンの顔に「嬉しい」ではなく
「当惑」と書いてあると
反論すると、ラナムンは、
自分は元々こういう表情だと
言いました。
しかし、ラティルは、それを否定し
ラナムンだって、
嬉しい時は、とても表情が良くなる。
自分が2人でデートしようと言った時
もっと嬉しそうな表情だったと
反論しました。
ラティルは、話せば話すほど
腹が立ってきました。
むしろクラインの子供だったら
はるかに反応が良かったと
思いました。
クラインは、2人の間に
子供ができたという話を聞けば、
派手な服装で
ダンスも踊ってくれただろうと
思いました。
ラティルは、
今度、生まれる子は
誰かの生まれ変わりではなく、
ラナムンと自分たち2人の
完全な赤ちゃんだ。
ところが、ラナムンの反応が
こんなに煮え切られないなんてと
がっかりして呟きましたが、
彼の手がビクッとしたのを
見つけました。
頭を上げると、彼は
ショックを受けた表情で
ラティルを見ていました。
目が合うと、彼はかすれた声で
うちのプレラは、
皇帝の本当の子供ではないのかと
尋ねました。
ラティルは、あっと思い
そういう意味で言ったわけではない。
自分たちが作った子供なので、
当然、本当の子供だと
すぐに否定しました。
しかし、ラナムンは、
今、皇帝は、
自分たちの完全な子供ではないと
言ったと反論しました、
ラティルは、
完全な子供だ。
つまり、魂のことだと
言い訳をしました。
ラナムンは、
クレリス皇女も前世では
他の誰かだったはず。
これから生まれる子も、自分も、
皇帝もと主張しました。
ラティルは眉を顰めました。
なぜ、話がここに集中するのかと
思いました。
ラティルは、
なぜ、こんな話をするのか。
自分はラナムンに、
自分たちの2人目の子供ができたことが
嬉しくないのかと尋ねていたのにと
抗議すると、ラナムンの表情が
再び、何とも言い難い
変な表情に変わりました。
彼は一日中、悪夢に苛まれ、
辛うじて目を覚まし、
自分が見たのが夢だということに
気づいた人のように見えました。
ラナムンは、本当に嬉しいと
疲れた声で呟きました。
本当でした。
彼は本当に嬉しかったし、
ラティルの言葉のように、
2番目が
「完全な2人だけの子供」とは
思ってはおらず、
ただ嬉しいだけでした。
しかし、むやみに喜ぼうとしたら、
カルレインとの約束が
思い浮かびました。
彼は子供を狙っていました。
その約束を守るべきなのか。
悩んだラナムンはラティルに、
妊娠の発表を
しばらく遅らせることができるかと
尋ねました。
きっとカルレインは、自分の子供を
育てようとするだろうけれど、
ラナムンはカルレインに
自分の子供を譲る気が
ありませんでした。
彼がカルレインに子供を渡すと
約束をしたのは、
自分に2度目の奇跡が
訪れることはないと
考えたからでした。
ラティルは、
発表を先送りにする理由を尋ねました。
ラナムンは、
考えてみることがあると答えると
苛立たし気に
ラティルの手を握りました。
カルレインに子供を奪われない方法を
考えなければならないようでした。
その態度に、ラティルは、
さらに訝しく思いましたが。
ラナムンは、とても、
イライラしているようでした。
ラティルは、渋々、
一週間ほど時間をあげると
一歩、譲りました。
しかし、
ラナムンの曖昧な態度のせいで、
2人だけの誕生日デートは
うやむやに終わりました。
しかも、ラティルは、よりによって
カルレインに会いに行くと言って
立ち上がりました。
自分の部屋に行こうとしたラナムンは
ラティルの話を聞くと
急いで戻って来て、
最近、大神官が、気が滅入って
物悲しがっていると話しました。
ラティルは、その理由を尋ねると
体はともかく、
精神が堕落しつつあると話していた。
皇帝のスケジュールを確認しては
落ち込んでいるのを見ると、
皇帝に会いたがっているようだと
答えました。
ラティルは、
ザイシンの所へ行かなければと
言って、彼の住居へ向かうと、
ラナムンは安堵しましたが、
それも一瞬の間だけで、
ラティルが、
カルレインの所へ行くのを防ぐために
自ら、他の男の所へ行かせたことで
彼の心の奥深くから、
苦しい嫉妬心が湧き出て来ました。
ラナムンは唇を噛みながら
明かりが灯る中に入る
皇帝の後ろ姿を見つめ、
無理やり背を向けました。
◇ラナムンの苦悩◇
ラナムンが思ったより早く
1人で現れたので、驚いたカルドンは
もう帰って来たのかと、尋ねました。
今日は、
皇帝とラナムンの誕生日なので
2人で楽しい時間を過ごしてから
ゆっくり帰って来ると
思っていたからでした。
カルドンは、
床に散らばったおもちゃを拾って、
さっと籠の中に入れました。
ラナムンは、
まっすぐソファーへ歩いて行くと
すぐに風呂に入ることなく
額を押さえました。
心配になったカルドンは、
すぐにラナムンのそばにやって来て
パーティーで何かあったのかと
尋ねました。
ラナムンは、常に冷たい表情を
維持しているので、
喜びだけでなく、悲しみや苦しみも
あまり表に出しませんでした。
ところが今、ラナムンの表情は
否定的な感情に
完全に覆われているように
見えました。
ラナムンは、
皇帝と自分との間に
2人目の子供ができたと
打ち明けました。
ラナムンの言葉に
カルドンは明るい顔で、
それは良かった。他の側室たちは
子供が1人もいない人が多いのに、
坊ちゃんだけが
子供が2人になるのですねと叫び、
嬉しさのあまり、
ダンスまで踊りました。
しかし、ラナムンが
浮かない表情をしていたので、
カルドンは何か尋常でない気配に
気づきました。
カルドンは、
どうしたのか。 嬉しくないのかと
尋ねました。
ラナムンは両手で顔を覆いました。
彼が自慢の顔を隠すのは
本当に珍しいことでした。
カルドンは、
何か問題でもあるのかと尋ねました。
ラナムンは、
カルレインと約束をしたと答えました。
驚いたカルドンは、
どんな約束をしたせいで、
そんなに苦しんでいるのか。
まさか、子供をあげるという
約束ではないでしょう?と尋ねると
返事がないので、
カルドンはビクッとしました。
いくら待っても、
ラナムンが何も言わないので、
すぐにカルドンの目が
大きくなりました。
彼は、まさか本当に
そんな約束をしたのかと尋ねました。
ラナムンが、約束したと答えると
驚いたカルドンは、
気でも狂ったのかと叫ぶと
急いで口を叩き、
ラナムンに謝りました。
しかし、もう一度、
本当に気がおかしくなったのかと
尋ねた後、唇を噛んで、
後に続く言葉を飲み込みました。
ラナムンは、
皇帝と自分の間に、
2人目の子供ができるとは
思わなかったと言い訳をしました。
カルドンは、
ここ数ヶ月間、皇帝は、
一番多く、坊ちゃんを訪ねて来た。
仲がそんなに良くなったのに
子供ができるとは思わなかったのかと
尋ねました。
ラナムンは、
皇配が選ばれる前、皇帝が、
ほとんど側室たちを
訪ねて来なかった時代にした
約束だったと答えました。
カルドンは、
あの時の皇帝は、仕事の時だけ
側室たちを呼んだと呟くと、
落ち込んでしまい、
両手で顔を覆いました。
ラナムンが、
なぜ、あんなに心を痛めているのか
分かる気がしました。
カルドンは、
なぜ、そんな約束をしたのか。
カルレインの何がきれいなのか。
彼は顔だけ見ても怖いと
言いました。
ラナムンは、
タッシールが行方不明になった時、
彼が自分を
守って助けてくれるという
約束をしたと答えました。
カルドンは、
タッシールが行方不明に
なったことがあるのかと
聞き返しました。
カルドンが落ち込んでいる間、
ラナムンは、
息もまともにできませんでした。
彼の頭の中には、
たった一つの考えしか
ありませんでした。
しばらくして、カルドンは、
その約束を
守らなくてはならないのか。
お坊ちゃまの子である前に
皇帝の子なのだから、自分たちが、
あれこれ言ってもいいのかと
尋ねました。
ラナムンは、
一般家庭ならダメだけれど、
皇帝たちが、側室の子供を
実母以外の側室や
皇后に育てさせることは
珍しくないと答えました。
カルドンは、
そうだけれど、それは皇帝が
直接決定したことであり、
側室が自分たち同士で
取引して決めたのではないと
主張しました。
ラナムンは手を下ろすと、
自分の侍従を、
天才を見るように見つめました。
今、彼は、
カルドンが何を言っているのか
理解しました。
ラナムンは、
皇帝の子供を、自分とカルレインが
勝手にするわけにはいかないと言うと
時計を見ました。
先程も夜だったけれど
あれから随分時間が経っているし
その上、皇帝は
大神官の所へ行ったはずなので、
今、彼がそちらに訪ねて行くことも
困難でした。
ラナムンは、明日の朝早く
皇帝を訪ねることにしました。
◇怒って欲しい◇
翌日、ラティルは、
ベッドの上でゴロゴロ転がりながら
少し怠けていました。
昨日のパーティーのせいか、
それとも妊娠初期のせいか、
今日に限って
特に体が疲れていました。
ラティルは、
仕事に行きたくなかったので
布団に潜り込みましたが、
扉の外で「陛下」と呼ばれたので、
どうしたのかと、
渋々、返事をしました。
ラナムンが会いに来たと告げられると
ラティルは、
昨日、2人目の子ができたと聞いて、
表情が固まった
ラナムンのことを思い出し、
眉を顰めました。
昨日のことを謝りに来たのだろうかと
考えたラティルは、
渋々、彼の入室を許可して
立ち上がりました。
彼の反応に失望したけれど、
ラナムンの訪問を断るほど
腹を立ててはいませんでした。
ラナムンは、プレラが
アニャドミスの転生のせいで
多くの気苦労をしたから、
色々な理由で心苦しいのだろう。
ラナムンが自分の気持ちを
すべて理解できないように、
自分もラナムンの気持ちを
すべて理解することは
できないだろうと思いました。
すぐに扉が開くと、ラナムンが
部屋の中に入って来ました。
彼はラティルを探すために
部屋中を
キョロキョロ見回すと、
布団にもぐって、
頭を突き出したラティルを
一歩遅れて発見し、
口角を上げました。
反射的に出たその笑顔に
ラティルは緊張感が緩みました。
しかし、ラナムン本人は
自分がラティルを見て
笑ったことも知らずに、
再び真剣な表情をして
近づいて来ました 。
ラティルはラナムンに
気分は少し良くなったかと
ぶっきらぼうに尋ねると、
ラナムンはベッドの端に座り、
ラティルの髪の中に手を入れました。
彼の手が、軽く頭皮を撫でると
ラティルは目を半分閉じました。
そうでなくても眠かったのに、
軽く触れられたせいで
さらに眠くなりました。
ラナムンは、
実は、以前、カルレインと
約束したことがあり、
それが思い浮かんだために、
昨日は、敏感に反応してしまったと
打ち明けました。
ラティルは、
まだ半分寝ている状態で
「カルレインと約束?」と
聞き返しました。
どんな約束をしたせいで、
自分の子供ができても、
思う存分、喜ばなかったのか。
カルレインが先に
父親になれなかったら
ラナムンの命を奪ってしまうとでも
脅迫したのか。
でも、カルレインは父親になれないしと
ぼんやり考えていると、
ラティルと一緒に育てることになった
枯れた木の枝に、キスをしていた
カルレインが浮び上がりました。
ラナムンは、
色々なことでカルレインが
自分を保護してくれる代わりに、
自分と皇帝の間に
2番目の子供ができたら、
カルレインが、
その子供の父親になると言ったと
話すと、ラティルの眠けが覚め、
目を丸くしました。
ラティルは、
いつ約束したのかと尋ねると
ラナムンは、
皇配が選ばれる前の
競争が激しい時だと答えました。
ラティルは口を開けて
ラナムンを見ました。
ラナムンは、ラティルが
不愉快になるのではないかと
心配しながら話を続けました。
ラナムンは、
当時、皇帝と自分の間に、
また別の奇跡が訪れるはずがないと
思ったので、 そんな約束をした。
しかし、昨日の皇帝の話を聞いて
あえて、そのような約束を
自分がすべきではなかったと思った。
申し訳ないと謝りました。
ラナムンは、皇帝が
自分とカルレインに
怒ってくれることを願って
彼女を見ました。
ラナムンは、ラティルが怒って
自分たちの約束を
覆すことを望んでいました。
クラインの子だったらと
思ったのは、
彼の子供である可能性も
あったということでしょうか。
それにしても、ラナムンがプレラを、
とても可愛がっているのを
知りながら、
完全な自分たちの子供発言は
プレラをないがしろにしているようで
プレラが可哀想だと思いました。
ラナムンとカルレインの約束が
どれだけ効力のあるのものかは
分かりませんが、
一度、約束したからには
守った方が良いのではないかと
思います。