866話 ラナムンはカルレインとの約束を守ることにしました。
◇変な人◇
ある日、ラティルは秘書から、
対怪物部隊小隊の隊員が
また行方不明になったことを
知らされました。
秘書は、深刻な表情で、
隊員たちが失踪する前に
何をしていたのか、
どこに向かっていたのかなどを
いくつか、説明しました。
ラティルは眉を顰め、
物思いに耽りながら
卓上カレンダーを取り出しました。
日付を確認してみると、
ほぼ7ヵ月ぶりに起きたことでした。
ラティルは、
今回、行方不明になった隊員たちは
前に行方不明になった後に
補充した人員かと尋ねました。
秘書は、
既存の隊員たちだと答えました。
ラティルは、
経験のある人たちが消えているので
困ってしまいました。
秘書は、
どうすればいいか尋ねました。
ラティルは、百花とアニャについて
尋ねました。
秘書は、
2人が事件の起きた場所を
偵察しに行ったことを伝えました。
ラティルは、
今回も、前回のように行ったのかと
尋ねました。
秘書は、
前回と状況が同じだったそうだと
答えました。
ラティルはじっくり考えた後、
カルレインを呼び出すと、
黒死神団の傭兵のうち
5人だけ呼んでくれないかと
頼みました。
カルレインは、
10人だって呼べると返事をすると、
ラティルは、呼べるだけ全員
呼んでくれないかと頼みました。
2日後。 ラティルは、
カルレインの部下の傭兵たちに
会うために、
久しぶりに宮殿の外に出ました。
カルレインは、
あまり浮かれたそぶりを見せないように
努めましたが、
ラティルと足を合わせて歩きながら、
思わず横にくっつきました。
ラティルは、「あそこです」と
カルレインが指した
黒死神団本部の建物に入りましたが
入るや否や、また出て来ました。
カルレインはラティルに付いて
入ろうとしましたが、
後ろに押し出されながら、
どうしたのかと尋ねました。
ラティルは建物の扉を指差しながら
中に変な人がいると囁きました。
カルレインは眉をつり上げながら
扉を開けました。
すると、ラティルが見て驚いた
色とりどりの動物の服を着た
図体のいい人たちの姿が
再び現れました。
もう一度見ても、仰天する姿に
ラティルが固まっていると、
カルレインは扉を大きく開きながら
赤ちゃんの情緒に良くないと思って、
自分が着替えろと言った。
陰気な雰囲気を漂わせたせいで、
ラナムンに似た子が出てきたら
いけないからと説明しました。
ラティルは口をポカンと開けて
カルレインを見ましたが、
彼は何が問題なのか
全く分からないような
表情をしていました。
彼は、
気に入らなかったのか。
もう少し華やかな服の方が
良かったかと尋ねました。
ラティルは呆れて首を回すと、
柱の後ろに隠れて、
最大限、身をすくめている
デーモンを発見しました。
彼は、オットセイのような
格好をしていました。
ラティルは何も言わずに
負担を感じる建物の中に入りました。
◇傭兵たちへの依頼◇
吸血鬼の傭兵たちの服が
衝撃的ではありましたが、
幸いにも、一旦、慣れてしまえば
話をするのに
大きな問題はありませんでした。
まず、ラティルは彼らに、数か月前、
最初の行方不明者が出た時に
分かったことを話しました。
ラティルは、
吸血鬼のアニャや
聖騎士団長の百花の実力が、
圧倒的に優れていることを
知っているかと尋ねました。
傭兵たちは、
知らないはずがないと答えると、
ラティルは、
敵はそれを知っているかのように、
前回も今回も、
その2人がいない時、小隊員だけが
任務をしている時を狙ったと
話しました。傭兵たちは、
最も弱い状態の時に襲撃するのは
当然だと返事をしました。
15分ほど会話が似たような場所を
ウロウロしていると、カルレインは
どのような任務をしに行って
消えたのかと、話に割り込みました。
ラティルは、
怪物の処理。対怪物部隊小隊は
怪物処理の任務だけを遂行していると
返事をしました。
その言葉に、
オットセイの服を隠そうとして
腰をテーブルの下に下げていた
デーモンが、
それでは犯人は怪物なのかと
尋ねました。
ラティルは首を横に振って、
それが分からない。
小隊員全員が、
大神官が自ら作ってくれた
大神官の印があるお守りと
聖水まで持っていた。
だからカルレインに、
傭兵たちを集めてくれと頼んだと
説明しました。
ラティルの意味深長な言葉に
傭兵たちは話すのを止め、
皆が一斉に同じ方を向きました。
ラティルは、
何カ月も調査を続けている。
しかし、この前の行方不明者は
見つからなかった。
今回の行方不明者たちも、
ずっと探してはいるけど、
見つけられないかもしれない。
行方不明者だけでなく、
犯人が誰なのかも、まだ分からないと
説明しました。
それから、オットセイと虎と
アナグマとオウムの服を見回しながら
それでも消えた人数だけは
補充しなければならない。
そこで、 傭兵たちが一般人に偽装して
小隊に入ってくれればと思う。
傭兵たちなら、
あらかじめ怪しい兆候が現れていないか
もしかして、小隊員の中に
敵が隠れていないかなどを見て、
再び襲撃されそうになったら、
他の小隊員を
守ることができるだろうからと
提案しました。
これは、どういう意味なのかと、
傭兵たちの目が丸くなりました。
ラティルは、彼らが必要以上に
驚いた表情であることを見回しながら
人として志願したい吸血鬼はいないかと
尋ねました。
◇何も起こらないうちに◇
傭兵たちが同時に手を上げたため
ラティルは、
最も吸血鬼らしくない顔をしている
5人を選びました。
その後、彼らは、偽の身分証を持って
各地の民家に、
それぞれ散らばりました。
2ヵ月後の小隊員募集に
自然に応募するためでした。
2ヶ月以内に、
行方不明になった小隊員や犯人が
見つかれば、
カルレインが連絡して、全員、
帰って来るという約束もしました。
しかし小隊員たちは
今回も見つけられず、やはり犯人も
依然として分からないままでした。
2ヵ月後、
傭兵たちは小隊員募集に志願し
当然優れた実力を見せて
新入小隊員に選ばれました。
しかし、
最初の失踪と2番目の失踪の間が、
約7ヶ月間、空いたように、
傭兵たちが
対怪物部隊小隊に入った後も
大したことは起きませんでした。
ラティルが兆候を待っている間に
時間があっという間に過ぎ、
いつの間にかラティルは
第3子の出産を迎えました。
◇3番目の顔◇
宮医と助手たち、皇帝だけが
寝室にいる間、側室たちは廊下で
3度目の待機となりました。
前の2回の経験を通じて、
皇帝は普通の人とは、
身体の回復力が全く違うことを知った
侍女たちは、3回目は比較的穏やかに
待つことができるようなりました。
皇帝が健康で出産できることを
皆、信じるようになったおかげでした。
しかし、側室たちは、
3度目でありながらも、依然として
不安で落ち着かない表情をして、
行ったり来たり、ウロウロしたり、
壁にくっ付いて、
離れることができませんでした。
その中でも、
表情が一番固まっているのは、
やはりラナムンとカルレインで、
彫刻のような姿で立っている
クラインは、
微動だにしないカルレインを
チラチラ見ながら、
心の中で悪口を言っていました。
ラナムンとカルレインの間の
約束については、
すでに宮殿の誰もが知っていました。
クラインは、
カルレインは弱虫で、
ラナムンはバカだと思いました。
彼は、自分の子供のことで
そんな約束をしないし、
他人の子供を、自分の子供にしたくて
ラナムンなんかを、
守ろうとすることもないはずでした。
クラインは、
アイギネス伯爵夫人が宮医に呼ばれて
寝室の中に入ったことで、
少し雰囲気が変わると、
我慢ができなくなって、
前の2人の皇女を見れば分かるように
3番目もきっと
ラナムンにそっくりだ。
どうやって、その顔を愛して、
育てることができるのか。
バカみたいだと、
バニルにひそひそ話しました。
バニルは同感しましたが、
クラインの声を聞いた
ラナムンもカルレインも皆
こちらを見たので、
じっとしていました。
しかし、クラインは、
皆、自分を見ているということは
自分の言うことが正しいと
思っているようだと解釈しました。
バニルは、
クラインと親しくない人のふりをして
急いで他の方に首を回すと、
メラディムが壁を見ながら立ち、
卵が一つあったけれど、
どこに置いたっけ?
どこかに置いたけれど、
どこに置いたっけ?
と一人で呟いているのを発見しました。
あの人魚は、
一体何を言っているのか。
バニルは首を軽く横に振ると、
タッシールが後ろで手を組んで
立っているのを見ました。
皇帝が出産前の半月間、
休暇を取っていたため、
一人で業務を引き受けていた彼は
普段より目のクマが3倍は
ひどくなっていました。
その時、宮医が外に出て来て
陛下。
もうお入りになっても結構です。
と言いました。
この前は、侍女たちを
先に入れたけれど、
皇配が決まったためか、
今回は順番が変わっていました。
タッシールが一番先に入ると、
側室たちは、
その通りだと思いながら、
彼の後に続いて列をなして入りました。
クラインは最後尾を歩きながら、
ラナムンの顔が一つ追加されたので
ラナムンが3人になったと
心の中で思いました。
カルレインが赤ちゃんの顔を確認して
表情が固まる姿を見ると、
もう一度、クラインは
ラナムンの顔が3人で確定だ。
あの顔はありふれているから、
もう自分が一番ハンサムな顔だと
思いました。
わあ!なんと!ついに。
陛下。 子供が・・・
側室たちが一言ずつ
言葉をかけるのを見ながら、
クラインはゆったりと
ベッドに近づきました。
その時、赤ちゃんは、
皇配であるタッシールの胸に
抱かれていました。
またラナムン顔?
とクラインはくすくす笑いながら
タッシールのそばに近づきました。
しかし、赤ちゃんの顔を見るや否や、
彼の口元から笑みが消えました。
何だ、陛下ではないかと
クラインは、ぼんやり呟くと
ベッドに横になっている皇帝と
タッシールが抱いている
3人目の子供を交互に見つめました。
3度目にして、ようやく
皇帝に似た赤ちゃんができたと
タッシールは、
赤ちゃんの顔をじっと見つめ、
ラティルを振り返りながら
感嘆しました。
疲れ果てて、
ベッドに横になっていたラティルは
満足そうに笑いました。
そうでなくても、乳母に
赤ちゃんの顔を見せた時、
一度、涙を流したところでした。
ラティルは、
自分に似ているけれど、
今回は皇子だと付け加えると、
側室たちは珍しがり、しきりに、
ラティルと3番目の赤ちゃんを
交互に見ました。
そして、側室たちは
同時にカルレインを見ながら
運のいい奴だと思いました。
ラナムンは唇を噛みました。
皇帝にそっくりな顔で、
スースー息をする赤ちゃんが
愛らしいと思えば思うほど
耐え難い苦痛が押し寄せて来ました。
ああ、かわいい。
本当にかわいいですね。
とタッシールが
赤ちゃんを大切に抱いて囁く姿さえ
ラナムンには苦痛に思われました。
あの赤ちゃんを抱いているべき人は
他の誰でもなく、
自分だと思いました。
しかしタッシールは、
ここにカルレイン様の
赤ちゃんがいます。
と言って、赤ちゃんを、
ラナムンではなく
カルレインに渡しました。
ラナムンは、タッシールでさえ
一発殴りたくなりました。
逆にカルレインは
涙が出そうになりました。
彼も、宮廷人たちと側室たちが
赤ちゃんが
ラナムンの顔になるだろうと
あざ笑っていたことを知っていました。
皇帝の第一子と第二子が、
実父と同じ顔で生まれたからでした。
カルレインも、やはり
それを覚悟していました。
しかし、カルレインは
それでも大丈夫でしたた。
ラナムンの顔で、
ラナムンの性格をしていても、
その子が彼女の赤ちゃんであることを
知っているからでした。
しかし、こんなに完璧に
彼女の姿をした赤ちゃんを得るとは
想像もできませんでした。
もしかして、傭兵王様は
泣いているのかと
タッシールが首を傾げながら尋ねると
カルレインは赤ちゃんを抱いたまま
横を向きました。
ラティルは上半身を起こして
本当に泣いてるのかと
カルレインに尋ねましたが、
ギルゴールはラティルに、
休むように。
お嬢さんは分身の術を使ったからと
言うと、彼女の肩を掴んで
横になるように押しました。
ラティルがくすくす笑うと、
ギルゴールは、
ラティルの手を握りながら、
赤1、赤2、赤3の中では
3番が一番気に入った。
後で赤3には、槍の使い方を
教えてあげようかと提案すると、
カルレインは、
教えるなら自分が教えると
荒々しく警告しましたが、
ギルゴールは、
でもカルレインは弱いと
言い返しました。
この場で最も理性的なのは
ゲスターだけでした。
彼は、自分の子供でなければ
興味がありませんでした。
ラトラシルの顔を持って、
彼女の血を少し受け継いだ子供は、
彼にとっては、ただの人に過ぎず、
ラトラシルではありませんでした。
彼は、束の間の物珍しさが消えると、
興が冷めて窓だけを見ました。
そうするうちに、ゲスターは
窓に映ったラナムンを見つけて
眉をつり上げました。
ラナムンは、今まで彼が会って以来、
最も悲しい表情をしていました。
クラインが着ているような
派手な服を着せた方が、
着ぐるみを着せるより、
まだ、マシなのではないかと
思いました。
アニャドミスやレアンとの戦いなど
大きな出来事が
起きないせいなのでしょうけれど。
時間が流れるのが、とても速いです。
タッシールは皇配なので、
陛下と呼ばれるように
なったのですよね。
今まで、
そのシーンが出て来なかったので
宮医が陛下と呼んで、
ドキドキしてしまいました。
カルレインが泣いているのを見て
野暮なことを言うラティルに
小言を言うのでなく、
寝るようにと言うギルゴール。
時々、頭がおかしくなったり、
凶暴になることはあっても、
根はやさしい人だと思います。
タッシールが
赤ちゃんを抱いている姿を
思い浮かべながら、
彼に、本当の彼の子を抱いて欲しいと
思いました。