874話 木はプレラに、妹を消してあげようかと提案しました。
◇木との奇妙な会話◇
プレラは
消してやるって、
どうやって消えるのかと尋ねました。
プレラは「消える」という言葉は
分かりました。
しかし、いるのが当然な妹を
消すというのは
理解できませんでした。
木は、
命を奪うんだよ。
と答えました。
プレラは、
ぼんやりと木を見つめていましたが
首を横に振り、
それは嫌だ。
クレは私の妹だから。
と返事をしました。
木は、
人間は誰でも死ぬと言いました。
プレラは、
それでも嫌だ。
クレは私より
長生きしなければならない。
クレが死ねば、みんな悲しむ。
と言いました。
プレラは木の薄情な言葉を
じっくり考えた後、
クレが君の弟の命を奪ったの?
と尋ねました。
木の弟なら、
細い草や花だろうから、
クレリスが誤って
折ってしまったかもしれない。
クレリスは草の類なら何でも
手当たり次第に
摘んでしまう癖があったので、
木がクレリスのことを
恨んでいるかもしれないと
考えたのでした。
木は大笑いすると、
返事をする代わりに
妹が死ぬのがどうして嫌なのか。
妹が憎たらしくないのか。
妹は、プレラより後に生まれたのに
母親の愛と父親の愛を
全部奪ったと煽ると、プレラは、
クレのお父様と私のお父様は
違う人です。
と言いました。
プレラは木を慰めるために、
うんうんと喉を整えると、
時々、母陛下が歌ってくれる子守唄を
聞かせてやりました。
木は、プレラが歌っている間は
静かにしていました。
しかし、歌い終わると、木は、
父親は違っても母親は同じだ。
妹のせいで母親もカルレインも
プレラのことが嫌いなのに、
寂しくないのかと再び尋ねました。
プレラは、
お母様は、私のことを
嫌いじゃない。
カルレインは私のことを嫌いだけど。
と答えました。
木は、
妹がいなくなったら
カルレインも母親も
プレラのことを
好きになってくれると言いました。
プレラは、
母陛下は自分のことを嫌いじゃないと
言い返しました。
しかし、木は、
母親はプレラのことが嫌いだ。
たまにプレラの母親がここへ来て
プレラが生まれたことを
後悔していると話して行くと
言いました。
プレラは、
ぼんやりと木を見上げると
手で耳を塞ぎました。
風が吹いてないのに
木がまた揺れました。
一人で笑っているようでした。
プレラが手を離すと、すぐに木は、
分かった。
プレラはいい子だ。
妹を片付けるなんて言わないから
自分のことを悪く思わないで。
プレラを見ていたら
可哀想で助けたかったと
言いました。
私は可哀想。
とプレラは呟くと、木は、
プレラの母親が、
なぜ妹たちだけを可愛がるのか
教えてあげようかと提案しました。
プレラは、
そんなことないと反論しましたが、
木は、
本当にそう思うのか。
もし、プレラと妹の
どちらか1人だけしか
助けられないとしたら、
プレラのお母さんは、
どちらを助けると思うかと
尋ねました。
プレラが黙っていると、木は、
君も妹だと思うよね?
と尋ねました。
アリシャは、そこへ
飛び込むこともできず、
その場を離れることもできず、
木の後ろに身を隠して
ブルブル震えるばかりでした。
彼女は、小さな皇女が
一体何をしているのか
理解できませんでした。
幼い皇女が
木とやりとりする言葉が
とても恐しく感じました。
その瞬間、すぐ後ろでカサカサと
木の葉を踏む音がしました。
あっ!
アリシャは悲鳴を上げて
座り込みました。
ブルブル震えながら
頭を上げてみると、
皇帝の側室の1人であるギルゴールが
彼女を見下ろしていました。
彼が、
大丈夫ですか?
と尋ねると、アリシャは反射的に
プレラ皇女がいる場所を指差し、
皇女が、皇女が・・・
と答えようとしました。
しかし、言い終える前に、
シピ!
と、プレラが嬉しそうに叫びながら
走って来ました。
アリシャは口を閉じて
手を下ろしました。
プレラの叫び声を聞いて初めて、
アリシャは、この青年が
ギルゴールではなく
シピサだということに気づきました。
ギルゴールとそっくりな上、
皇帝が親しく接し、
議長とも縁が深い青年だと
聞いていました。
行きましょう、殿下。
アリシャは、
プレラに言いました。
しかし、プレラはシピサを見ると
嬉しくて、すでに
ピョンピョン飛び跳ねていました。
そして、シピサと遊ぶと
言い張りました。
しかし、アリシャはプレラに、
もう帰って、
シャワーして寝なければならない。
いい子は早く寝るものだと
いい聞かせました。
それでも、プレラは
シピと遊ぶ!
と言い張ると、
アリシャは、しばらく躊躇った後、
シピサに、
皇女と遊んでから、
部屋へ連れて来てもらえるかと
頼みました。
彼は、そうすると答えました。
アリシャは、先程、プレラが
木と話していたことを思い出し、
その場から急いで逃げました。
シピサは逃げるように遠ざかる
アリシャの後ろ姿をチラッと見た後
さっきは誰といたのかと
プレラに尋ねました。
シピサがここへ来たのは、
うっすらと馴染みのある気を
感じたからでした。
しかし、実際に来てみると、
人間の女とプレラだけで、
他に誰の気配もありませんでした。
プレラは
遊んでいたよ。
と返事をすると、
ピョンピョン飛び跳ねて
シピサの手を取り、
一緒に遊ぼう!
と叫びました。
◇怪しい木◇
奥様? 大丈夫ですか?
アリシャがプレラ皇女の部屋に入ると
布団を整えていた下女が
目を丸くして尋ねました。
アリシャは額に溜まった冷や汗を
ハンカチで素早く拭きました。
アリシャは、
大丈夫。
足を踏み外して少し驚いただけだと
答えると下女は、
気をつけるようにと注意した後、
皇女のことを尋ねました。
アリシャは、
シピサといるので、
もうすぐ来るだろうと答えました。
下女は、再び布団を整え始めました。
アリシャは椅子に腰かけると、
扇でパタパタと顔を扇ぎました。
心臓がドキドキしました。
翌朝、アイギネス伯爵夫人が
用事を済ませて帰って来ると、
アリシャは、すぐに彼女と交代して
クレリスの部屋へ行きました。
そして、直接、彼女の面倒を見ながら
サーナットが皇女に会いに来るのを
待ちました。
サーナットは、昼休みになる頃に
ようやく到着しました。
アリシャは下女に、
皇女の食事の支度を全て頼むと、
サーナットに近づき、
少し話があると申し出ました。
隣の部屋に移動するや否や、
アリシャは、昨日の夕方、
自分が見たことを、
サーナットに話し始めました。
彼女は、
もしかしたら、言葉が
誤って伝わるのではないかと思い、
このことについて話すべきかどうか
何度も悩んだ。
自分がプレラ皇女の乳母なら、
おそらく話さない。
けれども、自分は、
クレリス皇女の乳母なので話すと
前置きをすると、サーナットは、
アリシャがしようとする話が、
かなり深刻で
真剣な話だということに気づき、
表情を強張らせました。
アリシャは、
昨日の夜、プレラ皇女を連れて
庭園に行った。
フェンスのようにロープで囲い
中の石を全て片付けておいた所だと
話すとサーナットは、
知っていると答えました。
アリシャは、
そこの中央に大きな木があるけれど
皇女が自分を遠くに行かせると
皇女は、その木と話をしていた。
ところが、その話が
本当に変だったと話しました、
木が話をしたという時点で、
すでに変だったので、
サーナットは眉を顰めました。
彼は、
悪い話だったのかと尋ねました。
アリシャは、
木がクレリス皇女を
とても嫌っているようだったと
答えました。
サーナットは、
その理由を尋ねました。
アリシャは、
それは自分も分からないけれど、
木はプレラ皇女に
クレリス皇女の悪口を言った。
プレラ皇女は騙されなかったけれど
後で、2人を仲違いさせようと
しているのだろうかと話しました。
サーナットの表情が
さらに凍りつきました。
彼は、
他の話はしなかったかと尋ねました。
アリシャは、
他の話もしていたけれど、
怖すぎて全部は覚えていない。
木から、すぐにでも怪物が
飛び出してきそうで
ずっと震えていたと答えました。
サーナットは、
アリシャがそれについて
教えてくれたことに感謝し、
他の者には話さないよう
口止めしました。
アリシャは、
一晩中一睡もできなかったと言って
出て行きました。
サーナットは部屋の中を
1人で歩き回りました。
木?白魔術師か黒魔術師が
変身したのだろうか?
それとも新しい怪物?
ゲスターが呪いをかけた?
彼はアリシャが教えてくれた
その場所に、直接行ってみました。
しかし、木は、ただの木でした。
大神官を呼んで、
木を点検してもらったけれど、
彼は木を見て「ただの木です」と
平然と話すだけでした。
サーナットは、
悪いオーラを感じないかと
尋ねましたが、大神官は
はい、ただの木です。
どうしてですか?
と尋ねました。
サーナットは、
木が変なのではなく、
プレラが何らかの力を
覚醒させたのではないかと
疑いました。
大神官はサーナットに、
木が変な行動でもしたのかと
尋ねました。
サーナットは、
この話が間違って伝えられて
子供が誤解されることを恐れ、
首を横に振って
「いいえ」と答えました。
そうでなくても、プレラ皇女は
彼女の正体を知っている
ロードの仲間たちの間で
微妙な位置にいました。
サーナットは、
日程を終えて帰ってきた皇帝に
後で話をすることにし、
とりあえず、今は
普段のように過ごしながら
子供が木の近くに行かないように
防ぐことにしました。
しかし、お昼頃。
プレラがクレリスに会いに来た時、
彼は覚悟したように振る舞うのが
困難でした。
サーナット、サーナット!
クレはいますか?
普段からプレラとクレリスは、
昼食時に
2人でよく遊んでいました。
しかし今日、サーナットは
2人を一緒に遊ばせることに
気が進みませんでした。
2人の子供が遊んでいる時に、
再びその木が、プレラに
クレリスの悪口を言ったら
どうすればいいのかと心配でした、
大人でさえ、悪口と仲違いに
簡単に振り回されるのに、
幼いプレラが、それに振り回されて
クレリスを傷つけたらどうしようかと
不安になりました。
プレラはサーナットに
何を考えているのかと尋ねました。
サーナットは悩んだ末、
今日、クレリスは具合が悪いので
乳母に遊んでもらってと、
プレラに嘘をつきました。
プレラは、
自分がクレを看病してあげると
言いました、サーナットは、
移るといけないからダメだと、
返事をすると、子供の頭を撫で、
子供を連れてきた担当下女に、
皇女をアイギネス伯爵夫人の所へ
連れて行ってと指示しました。
下女の手を握って帰る間、
プレラは何度も部屋の扉を
振り返りました。
サーナットは罪悪感で
さっと扉を閉めました。
◇何かが変◇
しばらく書類を見ていたタッシールは
小さな足が窓を蹴る音を聞き、
そちらへ首を回しました。
グリフィンが窓枠に立ち、
乱暴を働いていました。
タッシールが窓を開けると、
グリフィンはすぐに入って来て
水を持って来い!
と怒鳴りつけました。
ヘイレンが小さな器に
水を汲んでくると、
グリフィンは喉が渇いているのか、
ごくごくと、せわしそうに
水を飲みました。
その姿は可愛かったけれど、
タッシールは、
皇帝について行ったグリフィンが
激しい喉の渇きに苦しむ姿を見ると
尋常でない予感がしました。
それでも屈することなく
グリフィンが
水を飲み終えるまで待つと、
タッシールは嘴を拭いてやりながら
皇帝は無事に現場に着いたかと
尋ねました。
グリフィンは、
きちんと送って来たと答えました。
タッシールは良かったと言いました。
ヘイレンも少し緊張していましたが
ほっとして笑いました。
しかし、少し変だったという
グリフィンが付け加えた言葉に、
ヘイレンの口元がまた下がりました。
変だった?
タッシールが尋ねると、
グリフィンは、
確かに自分はきちんと教えてやった。
けれども、何が何だか分からないけれど
地形が変わっていたと答えました。
ヘイレンは驚いて
口を大きく開けました。
しかし、タッシールは、
非常に驚くことではないと考えました。
タッシールは、
全般的に平らな場所であれば
わずかな土地を、
一時的に消すことができるし、
うまく応用すれば、平地内で
地形を少しずつ変えることが
できるだろうと説明しました。
グリフィンは、
皇帝も、そう話していて、
それで自分に、
もう帰ってもいいと言ったと
説明しました。
それでは陛下に、
何か変わったことはありませんね?
安堵したタッシールは、グリフィンに
いくつかの質問をした後、
送り返しました。
後になって、ヘイレンも、
この程度なら、
皇帝とゲスターとラナムンの
3人がいれば、
十分に解決して来ますよね?
と尋ねました。
タッシールは、
「そうだね」と返事をして笑うと
再び、仕事を続けました。
ずば抜けた実力者たちが
行ったのだから、
そちらはうまく解決して来るはずだ。
彼にとって、
今すぐ急を要することは
絶対に減らない書類でした。
しかし、15分ほど経った時。
タッシールは眉を顰め、
突然ペンを下ろしながら
少し変だと呟きました。
ヘイレンが「何が?」と聞き返すと
タッシールは、
何か変だけれど、 それを確実に
特定するのが難しいと答えました。
ヘイレンは
ペンを新たにインクに浸すと
そういえば皇帝も、
2番目の皇女が階段から転げ落ちた後に
何か変だと話していたのですよねと
尋ねました。
タッシールは書類を脇に押しやると
額にしわを寄せました。
10分ほどそうしていると、
サーナットがやって来ました。
彼は、
メロシー領地の方に
怪物たちが現れたそうだが、
小隊員たちが
すでに散らばっている状態なので、
すぐにそこへ行く人材がいない。
自分がカルレインの傭兵たちを連れて
そこへ行っても良いか。
1日あれば大丈夫だと願い出ました。
タッシールは快諾しましたが、
サーナットは用事が終わったのに
出て行きませんでした。
タッシールはきょとんとして
サーナットを見つめていると
彼は、ようやく口を開きました。
サーナットは、
皇帝陛下が戻って来たら、
話をするつもりだったけれど、
状況がこうなったので、
前もって陛下にも話しておくと
前置きをした後、
プレラが木と話しているのを見たと
アリシャが言っていると話しました。
タッシールは「木が?」と
聞き返しました。
ヘイレンは、サーナットの言葉を
聞き流しながら
仕事を続けていましたが
頭を上げました。
タッシールは、
木が喋ったのかと尋ねました。
サーナットは、
しかも、悪口を言っていたと
答えました。
タッシールは
ニコニコ笑いながら、
酒を飲んでいなかったかと
尋ねました。
木が、どうやって酒を飲むのかと
サーナットが抗議すると
タッシールは、
アリシャは飲めると言いました。
サーナットは眉を顰めて、
酒の匂いはしなかった。
とにかく、木がプレラに
クレリスの悪口を
言っていたそうなので、
陛下は2人の子供の面倒を
よく見て欲しいと頼みました。
サーナットが去ると、
ヘイレンは首を軽く横に振り、
鳥に、レッサーパンダに、イタチに、
今度は木も話をするなんて、
このままでは、机と椅子まで
話をするようになると言うと、
タッシールは
あっ!
と、突然、立ち上がりました。
もう、話をしているのかと
驚いて尋ねるヘイレンに、
タッシールは、
何が変なのか分かった。
今すぐサーナット卿、
いや、レッサーパンダたちを
呼んで来て。 早く!と叫びました。
ザイシンにも育てられたおかげなのか
プレラは、とても優しくて
思いやりがあり、
良い子に育ったと思います。
それに木がクレリスの悪口を言っても
全く動じないプレラは
賢い面もあると思います。
プレラはアニャドミスの
生まれ変わりだけれど、
ラティルとドミスの性格が違うように
プレラがアニャドミスのような性格に
なるとは限りません。
アニャドミスは、
まだアニャだった時代に、
自分を守ってくれていた
カルレインのミスのせいで、
あっさり捨てられ
アニャドミスになった後は
500年間、
棺の中に閉じ込められていたことで
かなり性格が歪んだように思います。
周りの人たちは
プレラに微妙な空気を感じさせず、
変なことを吹き込まなければ
プレラは、
健やかに育っていくと思います。
どんな目的があるか分かりませんが
純真無垢な幼い子供を
不安にさせるようなことばかり
言うなんて、
木は恥知らずだと思います。