899話 外伝8話 ラティルは怪物に、二人は同一人物だと言われました。
◇もう一度確認◇
二人が同一人物って、
ランスター伯爵とゲスターが
同一人物だということなのか。
二人がすでに一体だから?
ゲスターとだけ愛し合う未来を見ても
ランスター伯爵は
出続けるしかないの?
もしかしたら、
ランスター伯爵と口喧嘩したのも
ゲスターと二人だけで愛し合う
未来だからなのかもしれない。
ラティルは
しばらく首を傾げましたが、
答えが出て来ないので
そのまま寝室に戻りました。
しかし、部屋に戻っても、
微妙にモヤモヤする気持ちが残り
なかなか眠れませんでした。
結局、翌日の昼頃。
ラティルはゲスターを訪ねました。
ゲスターは編み物をしていましたが
ラティルが入ってくると、
編み針を下ろし、嬉しそうな顔で
立ち上がりました。
しばらくしてトゥーリが
料理を置いて出て行くと、
ラティルとゲスターはテーブルを挟んで
向かい合って座りました。
しかし、ラティルは、自分の質問が
彼を追及する形になることを
望まなかったので、
日常的な話だけを交わしながら、
ゲスターが先に、
その怪物に関する話を持ち出すのを
待ちました。
そして、ついにゲスターは、
その怪物を自分にくれる件について
考えてみてくれたかと尋ねました。
ラティルは、
すでにゲスターに、
連れて行っていいと言ったはずだと
答えると、ゲスターは、百花が、
まだ確認することがあると言って
連れて行いけないようにしたと
説明しました。
ラティルは、
ゆっくり連れて行くように。
怪物に逃げられないように
百花が、確実に手を打っておいたと
話していたからと話すと、
ゲスターは頷きました。
ゲスターの質問のおかげで、
ラティルは、
その怪物を通じて
ゲスターと自分の二人だけが
愛し合うようになった場合の
偽の未来を少し見ることができたと
自然に話すことができました。
ザリガニ料理を
取ろうとしていたゲスターは
目を丸くして手を止めました。
ゲスターは、自分と皇帝が
二人だけで愛し合う未来を見たのかと
目に見えて困惑した様子で
聞き返しました。
彼が何度もフォークを
落としそうになるのを見て、
ラティルは心が折れました。
しばらくしてゲスターは
むしろフォークを握らない方がいいと
決めたのか、
テーブルにフォークを置くと
偽の未来の感想を聞きました。
ラティルは、
ほんの少し見たと答えると、
ゲスターは、
変だったのか。
皇帝と二人だけで愛し合う
世界だったら、いいと思うのにと
呟きました。
ラティルは、
自分もそうだと思っていたと
返事をすると、
モグラの穴のような場所と、
倒れていた乳母と侍女たちを
思い浮かべながら、
ぎこちなく口角を上げました。
ゲスターは、
その微妙な気配を察知して、
変だったようですね・・・
と呟きました。
ラティルは、
変なところがあったと話しました。
ゲスターは、
どんなものだったのかと尋ねると
息を殺して
ラティルの返事を待ちました。
彼女は、
すでに5回以上落とした
ゲスターのフォークを
じっと見つめながら時間を稼ぎました。
ゲスターは、話して欲しいと
ラティルを急かすと、彼女は
ゲスターとの未来が見たかったのに
ランスター伯爵としか会えなかった。
それで怪物に変だと聞いたら、
怪物は、
ゲスターとランスター伯爵が
同一人物だからだと答えたと
話しました。
ゲスターは表情管理をするために
わざと鐘を鳴らしてトゥーリを呼び
フォークの交換を頼みました。
トゥーリがそうしている間に、
ゲスターは素早く表情を整えました。
トゥーリが出て行った時、
ゲスターの表情は、いつものように
臆病な子犬のようでした。
扉が閉まる音がすると、彼は
それが変だと思うのかと、
むしろ自分が傷ついたように
尋ねました。
ラティルは、
ゲスターとの未来が見たいのに
ランスター伯爵が出てくるなんて変だ。
それに、出て来た彼の雰囲気が
良くなかった。
今よりも仲が悪かったと説明しました。
ゲスターは、
皇帝が驚いた理由が分かった。
しかし、 自分とランスター伯爵は
もう一心同体だし、
皇帝と自分が一緒になった時期には
すでにランスター伯爵と自分は
一心同体になっていたので、
そのせいではないかと説明しました。
ラティルは、
ああ、そうかな?
と言って首を傾げると、
ゲスターは口元を隠しながら
逆にランスター伯爵と皇帝だけ
一緒になることもないだろう。
その時期に、まだ皇帝は
生まれていなかったからと説明すると
ラティルは、
ゲスターの言葉に頷きました。
ラティル自身も、チラッと
そのような考えをしたことが
あったからでした。
ラティルは、
言われてみれば、
ゲスターの言う通りだと言って
頷きました。
そして食事を終えると
執務室に戻りました。
しかし机の前で、領主3人の
複雑な契約と喧嘩の報告書を
見ているうちに、
それでも少しおかしくないかと
遅ればせながら疑問が湧いて来ました。
ランスター伯爵とゲスターが
一心同体なら、
あの偽未来の中のゲスターは
なぜランスター伯爵が
モグラの穴のような所に
ラティルを捕えて喧嘩していた時に
出てこなかったのだろうかと
訝しみました。
ラティルは
物思いに耽っている間に
何度も目を細めました。
陛下、目を開けてください。
とサーナットが後ろで囁いてから
咳払いをすると、
ラティルは再び書類に集中しました。
しかし、心の中では、もう一度、
怪物の所へ行って確認してみようと
決意していました。
◇ゲスターの命令◇
その時刻、ゲスターは
上の空でやっていた編み物を下ろすと
正式に連れて来たかった。
あの怪物を処理しなければと呟くと、
クローゼットから
無地のマントを取り出して
かぶりました。
彼はすぐに怪物を閉じ込めた
監獄に移動しました。
とりあえず、あの怪物を
狐の穴に移すつもりでした。
移動能力が明らかになったため
何も言わずに怪物を連れ去れば
自分が疑われやすいだろうけれど
ラトラシルに、
本性がばれるよりはマシでした。
しかし、怪物の監獄の中に
入ろうとした体は、
一瞬、稲妻のようなものに阻まれて
跳ね返りました。
何だ?
ゲスターは仕方なく自分の足で歩いて
監獄に移動しました。
監獄の前に立ったゲスターは、
狐の穴の移動を阻止した正体に
気づきました。
クソイタチ!
その怪物を閉じ込めた鉄格子の中に
白魔術師が作ったに違いない
魔法の模様が
あちこちに描かれていました。
その絵から流れる力が
ゲスターの出入りを阻んでいました。
ゲスターは額を押さえると
素早く深呼吸しました。
怒りのために
表情を管理するのが困難でした。
そうしているうちにゲスターは
隅に体を丸めたまま
こちらを眺める怪物と
目が合いました。
怪物は急いで目を逸らしましたが
ゲスターは
怪物が座っている付近まで近づくと
鉄格子の中に手を伸ばしました。
怪物は、
なんで、どうして。
と呟きました。
ゲスターは怪物の胸ぐらを
掴もうとしましたが、
怪物は服を着ていなかったので、
ゲスターは仕方なく怪物の首をつかみ
鉄格子まで引き寄せました。
そして、皇帝が訪ねて来て、
自分との未来について
見せてほしいと頼んだら、
最大限ロマンチックな姿を
見せるようにと命令しました。
悔しくなった怪物は、
偽未来といっても未来なので
自分が内容を決めるのではないと
抗議しました。
ゲスターは怪物の首を離しながら
知っていると返事をして笑いました。
怪物は、
知っているのに、どうしてと
聞き返しましたが、ゲスターは
それでも、努力してみろと命令し、
首を放してやりましたが
依然として腕の片方を
鉄格子の中に入れていました。
怪物はゲスターの目を避けて
渋々、頷きました。
◇質が悪い◇
その日の夕方、食事を終えたラティルは
再び一人で怪物を訪ねました。
カルレインとサーナットに
一緒に来てもらいたかったけれど
二人は、それぞれの子供たちを
引き取って面倒を見ていました。
怪物は、いつものように
牢屋の隅にしゃがんでいましたが
気のせいか、瞼が
少し腫れているように見えました。
怪物も目が腫れるのだろうかと
不思議に思いながら、
今日も短い時間、ゲスターとの未来を
見せてもらえないかと頼みました。
怪物は、
ロードのために、
心から一言伝えさせてもらうけれど
あの黒魔術師は質が良くないと
告げました。
人々を苦しめていたせいで
連れて来られた怪物が
何を言っているのかと、
ラティルは呆れて
えっ?
と問い返すと、怪物は首を横に振り
鉄格子の前に近づいて、
昨日のように手を差し出しました。
ラティルは怪物の手を握り
大きなハエのような目を見ました。
◇味方である理由◇
再び、モグラの穴のような部屋が現れ、
偽ラティルはベッドに座っていました。
狐の仮面は、偽ラティルから
かなり離れた反対側の壁際に座り、
編み棒を持って
何かを熱心に編んでいました。
偽ラティルは、
その姿をじっと見つめながら
詳しく教えてと要求しました。
狐の仮面が「何を?」と聞き返すと
偽ラティルは、
自分の味方が狐の仮面だけで
乳母と侍女たちが死んでいて、
父親の兵士たちが
自分を捕まえようとしている理由だと
答えました。
偽ラティルは
話しているうちに興奮してきたのか
目元に涙がたまってきました。
彼女はスカートの裾をつかみながら
自分は、ただ変な者たちに拉致されて
帰って来ただけなのに、
なぜ、急にこんなことになったのかを
あなたは何も知らないのかと
息巻きました。
偽ラティルが、頭の中で
これまでのことを思い出すと、
ラティルの頭の中にも
彼女の素早い回想が
そのまま入って来ました。
この偽ラティルは、まだ皇女として
過ごしているようでした。
ヒュアツィンテはヘウンのせいで
自分の国に戻り、皇帝になると
アイニと結婚しましたが、
皇太子は依然としてレアンでした。
トゥーラは生きていましたが、
どこをうろついているのか
宮殿に寄り付かず、
皇帝である父親から
ひどく怒りを買っている状況でした。
皇女である、ここのラティルは、
忘れられない
ヒュアツィンテとの思い出を
払拭するために、
長旅に行って拉致されましたが
どこかへ連れて行かれる途中
狐の仮面に助けられて
逃げ出すのに成功しました。
しかし、狐の仮面は
皇女ラティルを救った後、
彼女を拉致した犯人が
宮殿の中にいるかも知れないので
逃げなければならないと
変なことを言いました。
当然、皇女ラティルは
その言葉を信じず、
自分を家まで送ってくれと
頼みました。
狐の仮面は、
後悔するなと言いながら、彼女を
部屋に連れて行ってくれました。
ところが、部屋に戻ったら
乳母と侍女たちは倒れていて、
恐ろしいことに、兵士たちは、
皇女ラティルを追いかけて来ました。
ラティルは、
自分が皇太女ではないので
まだ一回しか、
裏切られていない頃だ。
いずれにせよ、
このような状況を見ると、
こちらの人生でも、ひとしきり
茨の道が開かれているようだと
思いました。
平和にゲスターと繋がって
生きていくのかと思ったのに、
偽の未来の中にも
平和な時期は全くないのかと
ラティルは、しばらく
魂が抜けたようになりましたが、
狐の仮面が近づいて来るのを見て
すぐに我に返りました。
そして、自分は
平和な生活を見物するために
ここに来たのではなく、
ゲスターとランスター伯爵に対して
疑わしい部分があるから来たんだと
思い直している間、狐の仮面は
偽ラティルの近くまで
近づいて来ました。
偽ラティルは、狐の仮面に
不信感を抱いているためか、
体を後ろに反らして枕を手に取ると
武器のように握りました。
狐の仮面は、
枕を握っても剣を握っても
気にしない様子で
一歩ほど離れた所に立ち止まると、
もう皇女様の味方は自分一人だと
言ったではないかと告げました。
偽ラティルは、
なぜ、急にこうなったのか
理由が知りたい。
むやみに、あなたが
自分の味方だと言っても、
信じられないと主張しました。
狐の仮面は、
あなたの父親の部下たちが
あなたを捕まえようとして、
自分はあなたを救った。
これで十分ではないかと言いました。
しかし、偽ラティルは、
それだけでは十分でない。
父が自分の敵だということは、
あなたが自分の味方だという
証拠ではないと、きっぱりと言うと
ある瞬間、突然剣を取り出し、
狐の仮面の首に当てました。
そして、
あなたは誰で、今、何をしていて
自分の味方なら、
なぜ自分の味方なのかはっきり言えと
問い詰めると、狐の仮面は鼻で笑って
その場から姿を消しました。
剣を当てていた人がいなくなると
皇女ラティルは
ふらついて倒れるところでした。
しかし、
すぐ後ろで人の気配がしたので、
皇女ラティルが振り返ると、
彼女が座っていたベッドに、
狐の仮面が足を組んで座っていました。
そして、彼は、自分が誰だか、
よく思い出せ、ラトラシルと
言いました。
自分の名前を勝手に呼ばれたことに
皇女ラティルは腹を立てましたが、
狐の仮面は、
あなたは自分にプロポーズした。
あなたは自分の妻だから、
あなたを助けると言いました。
皇女ラティルは
どうかしていると言いましたが
ベッドから立ち上がった狐の仮面は
皇女ラティルを見下ろして
片方だけ口角を上げました。
そして、
あなたに話してあげても
覚えていないのに、 何度も何度も
教えてくれとせがんでくると
ぼやきました。
皇女ラティルは呆れて
息もまともにできませんでした。
これを見ていたラティルも、
やはりおかしい。
ランスター伯爵が、
これだけ勝手なことを言っているのに
まだゲスターが現れていないと、
疑念を深めました。
一体、監獄は、
どのくらいの大きさなのか。
ゲスターの手が届くくらいなら
そんなに広くないと思いますが
もしかして、
そこそこの大きさがあり、
ゲスターの手が伸びて
怪物を捕まえたのではないかと
疑っています。
ラティルは、狐の仮面を
ランスター伯爵だと思っているけれど
おそらく彼は、編み物をするような
キャラではないと思います。
現実の世界で、ラティルは
ゲスターが編み物をしているのを
見ているので、
偽の未来の狐の仮面が
ゲスターであることに
気づければいいのにと思いました。