931話 外伝40話 ラティルは父親のお使い先に到着しました。
◇手紙の内容◇
皇女ラティルは
父親が準備した旅行団は
1人も連れて来られなかったけれど
皇帝の印章が押された
直筆の手紙を持っていました。
領主の城の管理人は、
皇女ラティルが
皇帝の印章が押された手紙を差し出すと
すぐに彼女を中に案内しました。
そうでなくても伝書鳩が来て、
皇女がここへ来ることを
聞いていたけれど、
予定日を過ぎても来なかったので
心配していたところだったと
管理人は皇女ラティルを
城の奥へ連れて行きながら話しました。
皇女ラティルは表情を曇らせて
少し事件があったと呟きました。
管理人は、
皇女ラティルの身なりを
チラッと横目で見ながら、
一行が1人もいないようだけれど
もしかして、これと
関連したことなのかと尋ねました。
彼が疑問に思うのも当然でした。
皇女ラティルは、
傭兵を雇った残りの金で
新しい服を買って着たものの、
宮殿から持ってきた服とは
違うからでした。
皇女ラティルは「そう」と
曖昧に答えました。
父親自ら準備してくれた旅行団に
襲撃者が含まれていたという話は
他の人に簡単にできる話では
ありませんでした。
帰ったらすぐに、父親と
話さなければなりませんでした。
ところが、
ある大きな門の前に到着した時、
ずっと礼儀正しく
皇女ラティルを案内して来た管理人は
彼女の後をついてきた傭兵を
チラッと見ながら、
彼を置いて中へ入ってもいいかと
尋ねました。
皇女ラティルは、
彼は自分の護衛だ。
自分は怪我をしていて、
1人では動きにくいので、
護衛を置いて中に入ることはできないと
断固として拒否しました。
もし、ここへ来るまでの間、
何もなかったら、
皇女ラティルは傭兵を置いて
1人で入っていました。
黒死神団の傭兵たちは、
強靭ではあるけれど、
青白く危険な印象だからでした。
しかも、彼らの武器は
とても大きく鋭くて、
見る人に脅威を与えました。
何度も急襲を受けた皇女ラティルは
辛うじて信頼できる護衛を
手に入れた今、傭兵を置いて
歩き回りたくありませんでした。
しかし、管理人は、
彼は別に雇った護衛のようだけれど
あまりにも・・・と言ったところで
傭兵と目が合うと、
管理人は言葉を濁しました。
皇女ラティルは、
「あまりにも?」と聞き返すと
管理人は努めて笑いながら、
あんなに大きな武器を持って入ると、
領主が怖がるだろうと答えました。
皇女ラティルは、
領主のそばにも護衛を置けばいいと
提案しました。
管理人は、
言葉に詰まってしまいましたが
躊躇しながら、
彼の武器を置いて入ったらどうかと
提案しました。
ここまで言われて
全ての提案を断ったら
むしろ皇女ラティルが
変な魂胆を持ったように
思われそうでした。
皇女ラティルは「大丈夫?」と
傭兵に直接尋ねました。
傭兵は何も言わずに
背中に背負っていた大きな斧を
取り出すと、
管理人に渡しました。
管理人は、
両手で斧を受け取るや否や
フラフラと倒れました。
斧を床に置いて
ようやく立ち上がった管理人は
表情が良くありませんでした。
しかし、彼はすぐに表情を管理し、
扉の向こうに向かって
皇女殿下がいらっしゃったと
叫びました。
すぐに扉が開きました。
皇女ラティルは、
皇帝から預かった封筒を持って
部屋の中に入りました。
領主は、すぐに
皇女ラティルのそばに近づくと
無事に到着しましたねと
声をかけました。
領主の後ろには、顔が同じ青年2人が
並んで立っていました。
領主は、2人を見ながら、
自分の双子の息子たちだと紹介すると
両手を恭しく差し出しました。
皇女ラティルは
手紙を領主に差し出しました。
そして、領主が手紙を読んでいる間
彼の表情を注意深く見ていました。
皇女ラティルは
何が書かれているのが
手紙の内容を知りませんでした。
ただ、重要な内容なので、用心し、
直接届けなければならないと
父親に頼まれただけでした。
父親は、見たければ
手紙を読んでみてもいいと言いましたが
皇女ラティルは、
手紙を読んでいませんでした。
「・・・うーん、そうですか。」
と領主は表情に何の変化もないまま
呟きました。
しかし、領主の後ろに立っている
双子の息子たちの
手紙の内容を見た時の表情が
微妙に歪んだのが不思議でした。
どんな内容だったのか。
それを見ると、皇女ラティルも
ふと手紙の内容が気になり、
何て書いてあるのかと
我慢できなくなって尋ねました。
しかし、領主は、素早く手紙をたたみ
封筒に入れながら、
申し訳ないけれど、機密事項なので、
殿下にも話すことができないと
断りました。
皇女ラティルは、
機密事項にしては、
領主の息子たちが一緒に見ていたと
指摘しました。
領主はビクッとし、後ろを振り向くと
彼らが手紙を盗み見たことを
叱責しました。
領主の息子たちは謝ると退きました。
彼らがいなくなると、
領主は皇女ラティルに、
彼女の一行は皆どこへ行き、
なぜ傭兵だけを連れて来たのかと
丁寧に尋ねました。
皇女ラティルは、
馬車の事故があったと答えました。
「そうですか」と領主は
悲しそうに嘆き、
馬車の事故で他の人たちは皆
怪我をしたのかと尋ねました。
皇女ラティルが「死んだ」と
答えると、領主は
驚いた表情をしましたが、
急いで表情を整えると
「そうなんですね。」と呟き、
しばらく気まずい沈黙が漂いました。
どれくらい経ったのか、
皇女ラティルは後ろを振り向きながら
自分はもう行くと告げました。
領主は、
馬車の事故に遭いながら
苦労してここまで来た殿下を
このまま帰してしまったら
本当に申し訳ないと思うと言って
慌てて彼女を引き留めました。
しかし、皇女ラティルは、
早く父親の所へ帰りたいからと
断りました。
それでも領主は、
皇女ラティルが来た途端に
帰ってしまったら、自分が殿下を
きちんと、もてなさなかったと、
人々が陰口を叩くだろう。
だから、何日でも
ゆっくり休んでいって欲しい。
宮殿に伝書鳩を送り、
馬車の事故の話も伝えると訴えました。
皇女ラティルは傭兵を見ました。
傭兵は、皇女ラティルの意思に
従うと言わんばかりに、
無表情で黙々と立っていました。
何日間もまともに休めずに
馬車に乗っていたので、
疲れてはいる。
それでも自分はまだマシ。
傭兵は御者もしていたので
自分よりもっと疲れているだろう。
傭兵が自分の力を発揮できなければ
自分にとっても良くない・・・
考えを終えた皇女ラティルが
分かったと承諾すると、
領主の口元に、どこか曖昧な笑みが
浮かび上がりました。
彼は皇女ラティルを
最高の客室へ案内すると告げました。
◇怪しいことだらけ◇
皇女ラティルが案内された客室は
城のとても高いところにありました。
窓の外を確認した皇女ラティルは、
ここが良い位置なのかどうか
見当がつきませんでした。
とても高い所にあるので、侵入者が
窓から入ることはできないけれど、
侵入者が扉から入ってきた場合、
侵入者を避けるために、
窓の外へ逃げることができないように
見えました。
部屋を案内してくれた下女が退くと、
皇女ラティルは傭兵に
何日あれば疲れが取れるかと
尋ねました。
傭兵は、今も疲れていないと
いつものように答えました。
ラティルは、
そんなはずがないと反論しました。
人は何日も旅をすれば
疲れないはずがないと
思ったからでした。
彼女はじっくり考えてから
2日ほど、ここに
留まることにしました。
そうすれば、あの傭兵も
疲れが取れるだろうと思いました。
ところが、
皇女ラティルが案内された部屋は
最高の客室なので、
傭兵が案内された一般客の部屋と
遠く離れていました。
それを知った皇女ラティルは
自分の部屋の位置を変えるか、
傭兵の部屋の位置を変えるよう
要求しました。
しかし、領主夫人は、
殿下の部屋の近くにある他の客室には
殿下ほど高貴な客ではないけれど
すでに他の高貴な客が泊まっている。
傭兵と部屋を変えてくれと言ったら
皆、侮辱されたと思うと
困った様子で返事をしました。
結局、部屋は変えられませんでしたが
警戒心が、かなり高まっていた
皇女ラティルは疑問を抱きました。
部屋を変えてくれないのは
別に変な行動ではない。
でも、何か気になる。
領主は手紙が機密事項だと言ったけれど
自分が手紙を見てもいいと
父親が言ったのも変。
領主の息子たちが手紙を読んで
表情が歪んだのも変。
本当に機密事項なら、
自分の息子たちが後ろに立っているのに
すぐに領主は、そこで
手紙を見たりしないだろう。
皇女ラティルは夕食が出されると、
持ち歩いている銀針で刺して、
毒の有無を確認しましたが、
毒は入っていませんでした。
彼女は、自分があまりにも
警戒し過ぎているのかと考えました。
しかし、食事を終えた後も、
皇女ラティルは
緊張を緩めることが
できませんでした。
彼女は傭兵に、
昼間に寝て、夜は自分の部屋の前を
守ってほしいと頼みました。
傭兵は快く承諾しました。
それでも安心できなかった
皇女ラティルは、
ベッドに横にならず、
クローゼットの中に毛布を敷いた後、
剣を抱いて眠りにつきました。
ところが、うとうとしていると、
クローゼットの隙間から
変な光がチラチラするのが
見えました。
皇女ラティルは
クローゼットの隙間に目を当てました。
光は窓の向こうから
入って来ていました。
何だろうと思った皇女ラティルは
窓際に歩いて行きました。
窓の外を見下ろすと、
誰かがこちらに向かって
ランプと鏡を使い
光を放っていました。
光が顔に当たると、
皇女ラティルは眩しくて、
目をギュッと閉じました。
光が消えた後に目を開けると、
意外にも、ランプを持って
立っていたのはタッシールでした。
驚いて眺めていると、タッシールは
皇女ラティルに
何か合図を送りました。
しかし、何を言ってるのか
全く、理解できませんでした。
皇女ラティルはタッシールに向かって
首を横に振り続けていた時、
傭兵が許可も得ずに中へ入って来て
こちらに怪しい者が来ていると
いつもより早口で告げました。
ラティルが驚くと、傭兵は
扉を閉めて中にいるようにと告げて
また1人で外に出ました。
皇女ラティルは剣を取り、
扉の横の壁にもたれかかりました。
すぐに廊下から。
剣と剣がぶつかる音、
誰かが短く悲鳴を上げる声などが
聞こえて来ましたが、
間もなく、音は完全に消えました。
すぐに扉が開き、
傭兵が再び入って来ました。
「敵は?」と
皇女ラティルが尋ねると、
傭兵は目で廊下を差しました。
皇女ラティルは急いで廊下に出ると
覆面をした7人が床に倒れていました。
皇女ラティルは
彼らの顔を確かめました。
6人は知らない人でしたが、
1人は父親が準備してくれた
旅行団の1人でした。
皇女ラティルは
再び覆面をかぶせてから
立ち上がると、傭兵は、
どうするのかと尋ねました。
皇女ラティルは、
この人たちはどこから来たのかと
尋ねました。
傭兵は、隣の部屋から現れたと
答えました。
「えっ?」と聞き返した
皇女ラティルは、ぼんやりと
傭兵を見つめていましたが、
すぐ隣の部屋の扉を開けました。
部屋の中には
誰もいませんでした。
あの覆面たちは
元々いた客を追い払って
隠れていたのではなく、
最初から領主の助けを借りて
ここに隠れていたのでした。
「一体、これは・・・」と
皇女ラティルは、
ぼんやり呟きましたが、
驚いて後退りしました。
タッシールが彼女の部屋の窓から
入って来たからでした。
皇女ラティルは、一瞬、自分が
何かを見間違えたと思いました。
しかし、唸りながら
窓を越えて来たのは
明らかにタッシールでした。
傭兵が、窓の外に
押し出そうとするかのように
タッシールに近づくと、
皇女ラティルは
急いで傭兵を捕まえて、タッシールに
なぜここにいるのか。
ここへはどうやって
上がって来たのかと尋ねました。
タッシールは、
ロープで上がって来た。
片手で上がってくるのは
大変だったと答えました。
落ちたら、
そのまま死んでしまうほどの高さを
ロープで上って来たなんて、
皇女ラティルは慌てて
何も言えませんでした。
そして、遅ればせながら彼女は
これは重要ではないことに
気づきました。
タッシールがここに現れたのも
襲撃者が現れたのと同じくらい
怪しいと思いました。
皇女ラティルは
すぐ後ろに下がると、
剣に手をかけました。
すぐにタッシールは、
降参するように両腕を上げ、
自分たちの間で
剣を振り回してはいけないと
訴えましたが、皇女ラティルは
それでも剣を抜きました。
タッシールは傭兵を盾にして
その後ろに隠れながら、
馬車に乗って行く間、
ずっと自分に会いたくて
探し続けていたのに、
なぜ現れた途端、
剣を振り回すのかと尋ねました。
皇女ラティルは驚き、
それを見たのかと尋ねました。
タッシールはハハハと笑うと
数字も数えていたではないかと
指摘しました。
皇女ラティルは、
タッシールはどうかしている。
いつ、自分が
そんなことをしたのかと
抗議しました。
傭兵はタッシールを
振り払おうとしましたが、
タッシールは
傭兵が動く方向と同じ方向に動き、
絶対に後ろから
出て来ませんでした。
傭兵の顔に、初めて困惑の色が
浮かび上がりました。
タッシールは屈することなく、
傭兵を盾にしながら、
とにかく大事な話があるので、
苦労して上がって来た。
剣は引っ込めて欲しい。
そうやって怖い顔をしていると、
このタッシールは怖くて
口が開けないと訴えました。
皇女ラティルが雇った傭兵は
カルレインではないけれど、
私の頭の中では、
カルレインを盾にしている
タッシールの姿が
しきりに思い浮かんでしまいました。
武器を取られても
7人の敵をやっつけた傭兵。
さすが
カルレインの部下だけあります。