941話 外伝50話 果たしてアトラクシー公爵の狙いは?
◇少しでも寵愛がなくなれば
気づいたようだねと言うと
アトラクシー公爵は
満足そうに笑いました。
ロルド宰相は呆れながら
アトラクシー公爵が
少し頭を使ったねと呟くと
首を横に振りました。
アトラクシー公爵の策略が
失敗しようが成功しようが
自分とは関係ないと思い
彼の提案を断りましたが、
ロルド宰相は
当然アトラクシー公爵の策略が
皇配に通じないと思っていました。
アトラクシー公爵は、
すでにアンジェス商団は、
派手に4番目の皇子を前に出して
商売をしたのだから、皇帝が、
いくらアンジェス商団を
私的なものではないと否定しても、
何の役にも立たないと言いました。
アトラクシー公爵は
考えるだけで面白いのか
笑い出しました。
そして、皇帝が何を言っても、
国民は皇帝の言葉を聞かないし
聞いても信じないだろうと
言いました。
人々は、
しばらくアンジェス商団と
4番目の皇子、そして皇配を
切り離して考えることが
できないはずでした。
皇帝は、自分がアンジェス商団に
特別な恩恵を与えているという
イメージを持たれたくなければ
しばらく皇配と4番目の皇子を
今のように偏愛することは
できないだろう。
しかし、他人に何を言われようと
皇帝が気にしなければ
意味のないことでしたが。
ロルド宰相は、
皇帝がこのことで、
以前のように、4番目の皇子の
世話をしなくなったとしても、
何の役にも立たない。
もしかしたら、
4番目の皇子のことが気の毒になり
心の中では、
さらに気にかけるかもしれないと
言うと、アトラクシー公爵は
自分もそこまでは期待していない。
皇帝が4番目の皇子や皇配、
そしてアンジェス商団に与える
無限の寵愛が少しでもなくなれば、
今度はそれで十分だと返事をしました。
◇話しづらいこと◇
執務室に戻ったラティルは、
砂糖菓子を食べながら侍従長に
先程の話を、
どう思うかと尋ねました。
ラティルは、
東大陸の予言者の問題が
こちらにまで波及するとは
思ってもいませんでした。
ラティルがその予言者について
気にしていたのは、
彼が子供たちについて語った
不吉な話だけでした。
ところが、いきなり
アンジェス商団の方に
飛び火するとは思いませんでした。
侍従長は、
心配するのも当然だ。
アンジェス商団は、
最近4番目の皇子のために
自分たちだけの祭りを開いている。
問題はアンジェス商団が
全国的にまたがる
タリウムの指折りの商団なので、
その自分たちだけの祭りが
国家規模の祭りになってしまったと
答えました。
ラティルはこの点も
タイミングが良すぎると思いました。
数カ月前に、アンジェス商団が
派手に4番目の皇子を前に出さなければ
今ほど堅固に4番目の皇子と結び付けて
扱われなかったはずだからでした。
侍従長は、
実際はどうであれ、すでに人々は、
アンジェス商団と皇配、
4番目の皇子を切り離して
考えることはできないだろうと
言いました。
侍従長は
アトラクシー公爵と親交が深く、
ラナムンを最も大切にしていましたが
理由もなく、
言葉を発する人ではありませんでした。
ラティルは頭が痛くて
お菓子まで置くと、
あの予言者は、話をした時から
気に入らなかったと呟きました。
侍従長が「え?」と聞き返すと
ラティルは何でもないと答えました。
その後、ラティルは秘書を呼ぶと、
皇帝が、東大陸の侮辱を甘受しながら
予言者を捕まえないのは
皇配が所有している
アンジェス商団のためだと、
本当に人々が考えているかどうか
調べて来いと指示しました。
念のため、送りだした官吏たちは、
わざとアトラクシー公爵一派を
好まない人物だけを選びました。
そして数日後、戻って来た官吏たちは
予言者について
話題になっていない所には、
まだそのような話が出ていないけれど
首都付近で、予言者について
話題になっている所には、
確かに、関連した話が広まっていると
報告しました。
アトラクシー公爵と
話を合わせることのない人たちが
このような報告したので、
仕方がありませんでした。
官吏たちが退くと、ラティルは
タッシールの執務室を訪れました。
彼は3つの書類を同時に開き、
目と手を行ったり来たりさせながら
仕事をしていました。
それでも彼は、
ラティルが近づくや否やすぐに気づき
ペンを下ろして立ち上がりました。
ラティルは、
自分が来たことを、
わざと知らせるなと言ったのに
どうして分かったのかと
不思議に思って尋ねると、
タッシールは、
ラティルの腰を抱きながら、
全部教えてしまうと、
皇帝に自分が神秘的に見えないと
答えました。
周囲に立っていた秘書たちは、
顔色を窺いながら
自分の書類を手に取ると
外に出ました。
その姿を見たラティルは、
忙しいのに、自分のせいで
皆に申し訳ないことをしたと言って
舌打ちすると、
タッシールは、ニッコリ笑いながら
でも皇帝は出て行かないんですよねと
からかいました。
ラティルは否定する代わりに
彼の机の椅子に楽に座って
目を閉じました。
良い椅子だと褒めると、タッシールは
自分の方がもっといいでしょう?
と尋ねました。
ラティルは、当然だと答えると
椅子に座ったまま、
体をグルグル回しました。
楽しいからではなく、
来ては見たものの、何と言えばいいのか
分からなかったでした。
ラティルは椅子を回し続けながら
タッシールの狐のような笑顔を
チラッと見ました。
じれったくなりました。
見かねたタッシールが近づいて来て
椅子の両側の肘掛に
それぞれ腕を下ろすと、
「自分が回しましょうか?」
と提案しました。
ラティルは、
ようやく椅子を回すのを止めました。
しかし、どういうわけか、
自分がタッシーの胸の中に
椅子ごと閉じ込められた姿に
なっていたので、今度は頭の中が
煩雑になっていました。
ラティルは、
それを断って、彼の腕を軽く押すと
タッシールは口角を上げながら
手を引きました。
そして、どんな用事のせいで、
このように、
なかなか話せないでいるのかと
尋ねました。
ラティルは、
少し困った話をしに来たと答えました。
タッシールは机に腰掛け、
ラティルに話すよう促しました。
ところが、その目つきが、まるで、
何かを知っている人のように見え、
彼と目が合うと喉が渇きました。
ラティルは、
彼が飲んでいたコーヒーカップを
思わず持ち上げて飲みました。
ラティルは、
数日前の国務会議の時に、自分が、
タッシールと四番目の皇子のために
東大陸を無視していると、
人々が誤解するだろうという話が
出たのを覚えているかと尋ねました。
タッシールは、
皇帝は、そんなことはないと
すぐに否定したと答えました。
ラティルは、
人を送って調べてみたところ、
実際に、
そんな話が出回っているそうだと
話しました。
タッシールは、
「おやおや。そうですか。
陛下はお困りでしょう」と
返事をしました。
ラティルは、タッシールが自分の話を
推測しているに違いないと
確信しました。
しかし、彼と目を合わせるのは
困難でした。
ラティルは靴を見るふりをしながら
目を伏せると、
それで当分は、以前のように
タッシールと4番目を
大切にすることはできなさそうだと
告げました。
タッシールは、
「そうですか」と返事をしました。
ラティルは、
全く大切にしないわけではない。
最近、特に4番目の子を
大切にしていたので、
それと同じくらいは無理だけれど
他の子供たちの面倒を見る分は、
引き続き面倒を
見ることができるだろうと言うと
両手を合わせて、もぞもぞしながら
タッシールの表情を見ました。
彼は何事もなかったかのように
笑っていました。
タッシールは、
皇帝の言っていることが分かるので
そうしよう。
幸いなことに、うちの赤ちゃんは、
まだ赤ちゃんなので、
寂しい思いをすることはないと
言いました。
この言葉にラティルが安堵する瞬間、
このタッシールは大人なので、
残念がっているけれど、
付け加えました。
これを聞いたラティルは
心臓がドキッとしました。
彼女は、
寂しいのかと尋ねると、タッシールは
大丈夫だと言ったら嘘になると
答えました。
ラティルは、
タッシールに申し訳ないと言うと、
彼はニッコリ笑って、
大丈夫だと返事をすると、
ラティルの手を握りながら、
両親が、今後4番目の皇子関連で
全国的規模でセールをしたいと思っても
当分は少し我慢しろと話しておくと
言いました。
これも、ラティルが
話さなければならないと
思っていたけれど、
先程、話したことよりも
話しにくい部分だったので、
タッシールが先に話してくれると、
ラティルは安堵して
彼の腕に額をもたせかけました。
ラティルはタッシールに
お礼を言うとともに謝罪すると、
タッシールは、
大丈夫。 変にこじれたからと
返事をすると、
ラティルは「そうなの」と
ブツブツ言いました。
それを聞いていたタッシールの目尻が
細く曲がりました。
ラティルが見ていたら、
何か妙だと
気づいたような表情でした。
◇傷心のヘイレン◇
深夜、 長い業務を終えたタッシールが
化粧台の前に座ると、ヘイレンは
念入りに彼の髪の毛を梳かした後
思い出したように、
昼間、皇帝が尋ねて来た理由を
尋ねました。
タッシールは
大したことではなかったと
答えましたが、ヘイレンは
大したことではなかったのに
何も話してくれないのかと
聞き返しました。
タッシールは、この話を
ヘイレンにしても良いか
考えていたのですが、
話しても良いと判断すると、彼は、
皇帝が東大陸の挑発を無視して
予言者を放置しているのは、
アンジェス商団のためだという誤解を
招く恐れがあるので、
しばらくの間、少し距離を置くという
内容だったと答えました。
それを聞いたヘイレンは、
自分が悲しくなって
泣くところでした。
彼は、
本当にひどい。
それが若頭と何の関係があるのかと
抗議すると、タッシールは、
関係ないけれど、
人々は関係があると思っていると
返事をしました。
ヘイレンは、
関係があったとしてもひどい。
アトラクシー公爵や
ロルド宰相はもちろん、血人魚だって、
自分が推す側室のために
堂々と前に出て来るのに、
なぜ、若頭だけ
そうしてはいけないのかと
抗議すると、櫛を下ろして
袖で目元を拭きました。
タッシールはヘイレンに
泣かないでと言うと、
立ち上がって彼を抱きしめ、
背中を叩きました。
これはあまりにも負担なので、
ヘイレンは、
すぐにタッシールの懐から
抜け出しました。
ヘイレンは、
泣いていないし、泣くことでもない。
ただ腹が立つだけ。
皆が自分の背後に誰がいるかを
明らかにして
そこから助けを受けているのに、
なぜ、若頭の背後にいる人だけが
押さえつけられなければならないのかと
抗議しました。
タッシールは
「どうしようもない」と呟きました。
ヘイレンはタッシールが
諦めの言葉を吐いたと思い、
さらに怒りながら、
大臣たちのことは気にしないように。
どうせ、その大臣たちは、
若頭が、どんなに優秀でも、
ただ仕事ができる人としか
思っていないのだからと言いました。
しかし、タッシールは
諦めて言った言葉ではなかったので
首を横に振った後に、
大臣たちの問題なら、
当然、簡単に解決できたけれど
そうではないので、
自分も受け入れたと説明しました。
ヘイレンが「えっ?」と驚くと
タッシールは、
自分たちも知っているように
国民は、貴族が
自分たちだけで殴り合い、
喧嘩をしても
ゴシップとしか思わない。
自分たちとは、
まったく別の人生を生きていると思って
真摯に受け止めない。
だから、アトラクシー公爵一派や
ロルド宰相一派、血人魚が
宮殿の中で何をしても、
人々にとっては、ただのゴシップだ。
ロルド宰相が
アトラクシー公爵に勝とうが
負けようが、人々にとっては
何の違いもないと説明しました。
ヘイレンは、
それはそうだけれど、それが、今、
何の関係があるのかと尋ねました。
タッシールは、
アンジェス商団はそうではない。
繁華街に行くと、
すぐにアンジェス商団が運営する
商店が見える。
アンジェス商団は貴族たちではなく
一般の人々と競争している。
そのような状況で、
皇帝が自分たちの家門の商団を
私的に支持したら、
自分たちのライバルは
どう思うだろうか。
一歩離れて見守るゴシップでは
済まなくなり、
人々は悪く見るしかない。
今回、アトラクシー公爵は
それを、うまく利用したと
説明しました。
賢いヘイレンは、説明を聞くや否や
すぐに理解しました。
しかし、頭で理解しただけで、
わだかまりが解けたわけでは
ありませんでした。
ヘイレンは、なぜ皇帝が、若頭を
遠ざけなければならないのか
分かったけれど、
気分が悪いと言うと、
タッシールの髪を乾かして、
手を離しました。
どうせ、しばらく皇帝は
タッシールに会いに来ることが
できないのに、
頭を念入りに梳かす必要があるのか?
今、タッシールに必要なのは
髪の毛ではなく睡眠でした。
ヘイレンが
「お休みなさい」と言うと、
タッシールは、彼の変わりように
呆然としながらも、
ベッドに向かって歩きました。
そうでなくても、全精神を
そこに注いでいたために
非常に疲れていました。
それに、ぐっすり眠ることで、
落ちくぼんで生気がない目の周りを
少しでも
癒さなければなりませんでした。
近いうちに、
あらゆる貴族が集まる
年末の祭りが開かれるからでした。
しかし、
タッシールが寝ようとしたところ、
ヘイレンはすっかり傷心して
吸血鬼ではなく、
ゾンビのように歩いていました。
その様子を見たタッシールは、
あまり気を落とさないで。
間もなくアトラクシー公爵が
泣くことになるからと
仕方なく、事前に知らせました。
タッシールに起きたことを
自分に起こったことのように
喜んだり、心配したり
怒ったり、気遣ってくれるヘイレンは
タッシールにとって
なくてはならない人だし
家族のような存在なのだと思います
吸血鬼になっても
タッシールのそばにいてくれて
本当に良かったと思います。
束の間の勝利に酔いしれている
アトラクシー公爵。
まもなく、タッシールに
反撃されるかと思うと
哀れに思えてきました。