947話 外伝56話 ラティルと一緒に見た偽の未来をカルレインは気に入らなかったようです。
◇幸せな今が好き◇
ラティルは、心底、
カルレインが変だと思いました。
彼との未来なのに、
クラインと絡み合うような
雰囲気だったので、
カルレインの立場では
本当に今一つだっただろうと
思いました。
しかし、それは時間を先送りして
調節すれば良く、いきなり今一つだと
すぐに判断することでは
ありませんでした。
ラティルはカルレインに
どこへ行くのかと尋ねました。
しかし彼の決意は固いのか、
すでに、先を歩いていました。
ラティルは当惑し、カルレインに
どうしたのかと尋ねましたが、
ふと、偽の未来は
偽の未来の中の自分の視点で
見ていることに気づきました。
カルレインとラティルが
結ばれる未来だとしても、
2人が互いに
同じ時間に同じ場所にいてこそ、
2人とも、その状況を
見ることができました。
ところが、クラインと絡んだその時、
カルレインは、
その場にいませんでした。
だから怪物が複雑だと言ったんだ。
それでは、
自分がクラインと揉めていた時、
そこにカルレインも
隠れていたのだろうか。
それともカルレインと自分が見たのは
違う時間帯なのだろうか。
ラティルは、
いくつかの仮定を立て、
それを話した後に
カルレインの腕を振りながら、
とりあえず、あの怪物に、
少し時間が経った後を
見せてもらおう。 そうすれば、
カルレインも満足する未来が
見えるはずだと言いましたが、
カルレインは
断固として拒否しました。
甘い声で偽の未来を一緒に見ようと
先に提案した人のようでは
ありませんでした。
ラティルは、
自分とクラインが絡む姿を見て
カルレインが
拗ねたわけではないよねと
思いました。
しかし、それを口にすれば
まるで喧嘩を売っているように
聞こえそうでした。
いつの間にか
ハーレムの近くに到着すると、
突然、カルレインが振り返り
ラティルを呼びました。
彼女は夢中で歩いていて、
自分がここまで付いて来たことも
知りませんでした。
カルレインは、
自分が説明を省略したせいで
ご主人様を当惑させたようだと
言うと、大きな手で
しっかりラティルの手を握りました。
先程、ラティルが当惑するほど、
いきなり背を向けた姿は
もう見えませんでした
ラティルは、
少し当惑したと返事をすると、
カルレインは、
偽の未来を見ているうちに、
何がもっと重要なのかが分かった。
自分はご主人様が幸せな今が好き。
だから、これ以上、
見る必要はないということだと
説明すると、
誠実そうな目でラティルを凝視し、
ラティルの寝室に続く
回廊を振り返りながら、
帰って休むように。
とても遅い時間なので、
送って行くと言いました。
◇1人で見る◇
自分が幸せな今の方がいいというのは
どういう意味なのか。
それでは、自分とカルレインの
2人だけの未来では
自分があまり幸せではないと
いうことなのか。
カルレインの目には、
自分があまり幸せそうに
見えなかったのか。
ラティルは偽の未来で起きた
騒動を思い浮かべました。
皇女ラティルは
クラインと酒に酔って抱き合って眠り
その姿をカリセン人と貴賓たちに
見られてしまいました。
ラティルが見た部分まででは
確実に幸せになる状況では
ありませんでした。
確かに、あの姿だけ見れば
現実の方が良いと思いました。
しかし、カルレインが
あのように話すほど、
皇女ラティルは、大きな窮地に
陥ったわけではありませんでした。
今のラティルが
大きな困難をすべて経験し、
ある程度、平穏に過ごしているのは
事実でした。
しかし、クラインと絡んだ
あの時期以降、ラティルは
家族の裏切りや皇位争いなど、
あらゆる苦難を、
相次いで経験しました。
カルレインの視点から見ると
事情が違うのだろうか。
それともカルレインは、
最初から別の時間帯を見て、
そこでは、自分の事情が
もっと悪かったのだろうか。
ラティルは、
どうにも気になって仕方がないので
偽の未来を見せる怪物の所へ行って
聞いてみようかと考えました。
しかし、あの怪物は、
偽の未来を見せてくれるけれど、
彼が自分に何を見せているのか
知らなさそうでした。
ラティルはしばらく悩みましたが、
結局、衝動を抑えて
ベッドの中に入りました。
自分1人で見てくればいい。
カルレインが見なければ、
自分が1人で、続けて見ればいい。
そうすれば、カルレインが
なぜ、ああなのかも分かるだろうと
思いました。
◇反応がない◇
翌日の昼頃、クラインは
怪物のいる監獄付近を
見張らせていた部下から、
皇帝がカルレインと共に、昨夜、
監獄の中に出入りしたという話を
伝えられました。
クラインは喜び、
「行って来たんだ」と叫びました。
アクシアンから、クラインが
怪物と取り引きしたという話を
聞いていたバニルは怖くなり、
皇帝が怒って、
ここへ駆けつけて来るのではないかと
心配しました。
クラインは、
そんなはずはない。
自分と愛し合う未来を見て、
なぜ、怒るのだろうかと
自信満々に否定しました。
しかし
偽の未来で皇帝と皇子が
戦ったかもしれないという
アクシアンの空気の読めない突っ込みに
クラインは不快感を覚えました。
しかし、今、バニルは、
あまりにも怯えていたため、
アクシアンを追い払うことが
できませんでした。
実際、バニルも、
同じことを考えていて、
怪物が見せる偽の未来が、
全て良いことだけなのだろうかと
疑問を抱いていました。
クラインは、
監獄付近を見張らせていた部下に
カルレインはどうしているのかと
尋ねました。
部下は、
ずっと監獄の周りにだけいたので、
よくわからないと答えました。
クラインは納得すると、
厚い毛皮のコートを着て
廊下に出ました。
アクシアンはクラインに
どこへ行くのかと尋ねると、
彼の突然の外出に驚いて
後を追いました。
クラインは、
カルレインの所へ行く。
怪物が皇帝に、
自分との未来を見せてくれたのか、
奴を見れば分かるだろう。
皇帝が偽の未来を見た後、
カルレインと話したはずだからと
答えました。
クラインは、2人が同時に
未来を見ることができるとは
考えもしませんでした。
バニルとアクシアンは、
訪ねて行かない方が良さそうだと
思いましたが、
楽しそうに出かけていくクラインを
防ぐことができませんでした。
外に出ると雪が舞っていました。
クラインは、
良い兆候だと思いました。
彼は軽い足取りで
カルレインを訪ねました。
ところが実際に
カルレインを訪ねてみると、
彼の表情が
尋常ではありませんでした。
クラインを見るどころか、
声をかけることさえ容易でないほど
雰囲気が険悪でした。
カルレインは立ち上がりもせずに、
何の用事で来たのかと尋ねました
クラインは唇をパクパクさせながら、
何で奴はああしているのか。
普段も暗いけれど、
今日は特にひどいではないか。
怪物の監獄に行って
皇帝と喧嘩したのか。
それとも怪物が皇帝に、
自分との未来を見せたことを知って
あんなに怒っているのかと
慌ただしく考えを巡らせました。
カルレインは。
来たからには話をしろと
ぶっきらぼうに言うと
クラインの方へ顔を向けました。
クラインは普段より優しい声で
何か嫌なことでもあったのかと
尋ねながら近づきました。
しかし、カルレインは、
そんな話をしに来たのなら帰れと
断固たる態度で言いました。
クラインは、そうすると答え
さっと外に出ました。
クラインが
カルレインの部屋に入るや否や
戻って来るとバニルは心配になり
カルレインが何か気づいて
追い出されたのかと尋ねました。
ラナムンは、
じっとしていても冷たく冷静に
見える一方、カルレインは
じっとしていても恐ろしく
威圧的でした。
バニルは、カルレインが
好きではありませんでしたが、
彼とトラブルになるのは嫌でした。
クラインは、
怒っているように見えた。
でも、自分のせいで
怒っているわけではなかった。
ただ自分のことが面倒だと
思っていただけだと返事をしました。
しかし、アクシアンは、
皇子に怒っていたのに、
皇子が気づかなかったのではないかと
再び、空気を読まずに質問すると
バニルは彼の脇腹を突いて
首を横に振りました。
クラインは、
確かにそうではなかったと
きっぱりと答えると、
外へ出て来たついでに
庭を散歩しました。
しかし、依然として疑問は
解けませんでした。
あの怪物は、自分との約束を
守ったのだろうか。
皇帝からは何の反応もないし、
カルレインがあのようにしていると
知る術があるのかと考えました。
◇結婚して復讐する◇
その日の夕方まで、クラインは
周囲の状況を徹底的に調べながら
皇帝かカルレインが
反応するのを待ちました。
しかし、カルレインは、
自分の部屋に閉じこもって
出て来ないし、皇帝は
クラインを呼ぶことも
彼の所へ来ることも
ありませんでした。
ラティルは自分が見たのが
クラインとの未来であることを
まだ知らないからでした。
カルレインは偽の未来を見た後、
変な反応をしながら口を閉ざし、
偽の未来には
サーナットとクラインの2人が
登場しました。
そのため、ラティルは、
偽の未来よりは、
むしろカルレインの反応に
関心が行きました。
一日の日課が終わり、日が暮れると、
ラティルは怪物の監獄を訪れました。
怪物はラティルの顔色を窺いながら
今日も、昨日見た偽の未来の続きを
見に来たのかと、
曖昧な表現で尋ねました。
ラティルは、それに気づかずに
「うん」と返事をすると、
少し、時間を先送りして見せてと
要求しました。
怪物は、昨日見た所から?
と聞き返すと、ラティルは
「そう」と答えました。
怪物は、ラティルの表情を
詳しく観察しながら
手を差し出しました。
まもなくラティルの目の前に
怪物と監獄ではない
他の光景が広がりました。
今回は、
ラティルの見慣れない場所で
貴族の邸宅や領主の城にある
客間のようでした。
しかし、皇女ラティルは
そんな場所なのに、
不安を感じることなく
静かに本を読んでいました。
その時、扉を叩く音がして、
サーナットが中に入って来ました。
彼は真剣な表情をしていました。
皇女ラティルは今回も驚くことなく
本を閉じながら「何?」と尋ねました。
サーナットは机の椅子を引き
ラティルと距離を空けて座りながら
大丈夫かと尋ねました。
皇女ラティルは、
自分が大丈夫でないことが
何かあるのかと、鼻で笑いながら
顎を上げました。
サーナットは押し潰したような声で
クライン皇子と皇女が酒に酔って
少し問題を起こしたりはしたけれど
だからといって2人が、
必ず結婚する必要はないと
躊躇いがちに言いました。
クラインと結婚すると聞いて
ラティルは1人で驚きました。
それでは、
カルレインはどうなるのか。
クラインと結婚して
カルレインと浮気するのか。
それともクラインと結婚した後に
離婚して、
カルレインに会うのか。
一体、何がどうなっているのかと
ラティルは混乱しました。
皇女ラティルは
本の表紙を軽く叩きながら
しばらく黙っていましたが
必ずしも、そうする必要はない。
しかし、自分の体面が
完全に潰れてしまったので
後で離婚したとしても
一度、結婚した方が良い。
すでに心を決めたと、
断固として話すと、サーナットも
これ以上説得することができず
出て行かなければなりませんでした。
皇女ラティルは扉が閉まっても
再び本を開きませんでした。
彼女は窓に近づいて、
外の風景を見下ろしました。
結婚の使節団と思われる人たちが
下の階で
忙しく動き回っていました。
皇女ラティルは、窓枠を
しっかりと握り締めました。
1人で覚悟を決めたのか、
ラティルの頭の中に、
彼女の計画が流れて来ました。
サーナットの言う通り
クライン皇子と結婚する必要はない。
しかし、
自分と皇子の体面を守るには
結婚した方がもっといい。
そうでなければ、彼は、
兄が結婚する時に問題を起こした
腹違いの弟になり、
自分は新郎の弟と問題を起こした
客になるから、
元々付き合っていたと言い張って
結婚した方がましだ。
そして・・・
こうすることで、
ヒュアツィンテにも復讐できる。
弟が自分に夢中になるようにし、
あの口の軽い奴が、
自分のことを愛していると言って
すがり付いて来た時に、
奴の兄と付き合っていたことを
知らせて離婚する。
ラティルは皇女ラティルの考えに
慌てましたが、
彼女は覚悟を決めると
再びベッドに座って本を開きました。
ラティルは魂が抜けたまま
混乱に陥りました。
いや、これは
一体どういうことなのか。
ヒュアツィンテへの怒りを晴らすために
クラインを利用して
復讐するというのか。
それにカルレインとの未来なのに、
なぜ彼の名前すら出て来ないだろうか?
カルレインの機嫌が悪いのは
ラティルとクラインが
抱き合っているのを
見たからでしょうか?
偽の未来とはいえ、
自分の愛する人が他の男と
抱き合っているのを見たら
あまりいい気持ちはしないと
思います。
ヒュアツィンテに復讐するために
皇女ラティルがクラインと
結婚することに、
ラティルは驚いているけれど
彼女だって、
ヒュアツィンテの当てつけのために
たくさんの側室を迎えたのだから
やっていることに
大して差はないと思います。