18話 いよいよパーティー当日です。
目を丸くして
箱を覗き込んでいたレイラは、
これは、やり過ぎだ。
一体、いくら使ったのかと
震える声で問い詰め、
叱るようにビルを見つめました。
ビルは、適切な反論の言葉が
見つかりませんでしたが、
ようやく気を取り直すと、
使う分だけ、使ったと答え、
レイラは何でもかんでも気にすると
非難しました。
モナ夫人が用意してくれた
レイラのドレスは、
パーティーの日に合わせて
小屋に到着しましたが、
郵便配達員ではなく、
洋装店の従業員のような若い男が
直接、配達してくれました。
あんなに着飾った従業員がいる
洋装店だなんて、モナ夫人が
かなり気を使ったのかと思いましたが
箱の中身は、それ以上で
女性の服や装身具について
何も知らないビルの目にも、
かなり高級で美しく見えました。
一体、モナ夫人に
いくらあげたんだっけ?
彼女は、ネックレス代も
持っていったのだろうかと
疑問に思っているうちに、
レイラは箱の蓋を閉めました。
ビルは、
気に入らないのかと尋ねました。
レイラは、
そんなわけないと答えました。
ビルは、
それなら、どうしてなのかと
尋ねると、レイラは
返品して欲しい。たった一日、
それも少し顔だけ出すパーティーに
こんなに大金を
使わせることはできないと
心配そうな顔で答えました。
しかし、ビルは冷たい顔で、
これを着てパーティーに行かなければ
自分は二度とレイラに会わない。
レイラの、
人の世話になりたくないという気持ちが
分からないわけではないけれど、
人と人の間に、
それほど明確な線を引いてはいけないと
言うと、ゆっくりと立ち上がりました。
そして、
それっぽく見えるだけで、
全部模造品で安物だ。
レイラが受け取らないなら、
全部、焚き付けにでも使う。
そして、もう二度と
レイラと会わないと言うと
逃げるように玄関の外に出ました。
しかし、
子供にひどいことを言ってしまった。
いくらなんでも、
二度と会わないなんて
言うべきではなかったと、
遅れて後悔が押し寄せて来ました。
中へ入るべきかどうか悩んでいるうちに
燕尾服を着たカイルが
道の向こうからやって来ました。
大人の真似をする
ちびっ子だと思いましたが、
もう男になったのかとも
思いました。
カイルはニコニコしながら
レイラのことを聞きました。
ビルは、分からないと答えました。
カイルは、
もうすぐパーティーが始まるのに
レイラはいないのかと聞き返すと
ビルは、この状況を
何と説明すればいいのか分からず
躊躇っていると、
玄関の扉が開きました。
思わず、そちらへ顔を向けた男たちは
見知らぬレイラを見ると
同じ表情で息を吐きました。
レイラは、しかめっ面で
変ではないか。
このような服は、極まりが悪いと
カイルに尋ねると、
ようやく声を出せるようになった
カイルは、確信を込めて
「きれいだよ」と答えました。
子どものような笑顔が消えた彼の顔が
ほんのりと赤く染まりました。
カイルは、ビルおじさんが
レイラのためのプレゼントを
準備したということは
知っていたけれど、
ダサい麦わら帽子を選ぶ
おじさんの目が、
結構、心配だったので、
まさか、これほどとは
想像していませんでした。
ビルはかなり真剣な目でカイルを見て
背中を激しく叩くと、
今日は自分の代わりに、責任を持って
レイラを守らなければならないと
念を押しました。
カイルは、真剣に、力強く
必ず守ると、
赤くなった顔で誓いました。
深呼吸を繰り返して
心を落ち着かせたカイルは、
慎重な足取りで
カイルに近づいたレイラに
堂々とした態度で
手を差し出しました。
その意味が分からなかった彼女に、
カイルは、
今日はパーティーで、
自分たちはパートナーだと告げると
勇気を振り絞って
レイラの手を自分の腕の上に置き、
パーティーのパートナーとは
元々、こういうものだと説明しました。
緊張し過ぎて、
危うくどもるところでした。
しばらく考え込んでいたレイラは、
納得するように頷いた後、
軽く彼と腕を組みました。
「行きましょう」と言って
明るくレイラが笑った瞬間、
カイルは、一生この瞬間を
忘れられないと思いました。
客を迎えていたマティアスが
ふと視線をそらした時、レイラは
医者の息子のエスコートを受けて
ホールに現れました。
レイラは大して着飾っていなくて、
中途半端にプレゼントを
着ているだけなのに、
彼が与えたもので飾った
レイラ・ルウェリンが美しいのは
確かでした。
下から上へと
ゆっくり遡ったマティアスの視線が
白くて細い首にかけられている
真珠とエメラルドを組み合わせた
美しいネックレスの上で
止まりました。
他の全てはヘッセンが用意しましたが
そのネックレスは、
マティアスが選びました。
人と会う約束をしていたホテルに
向かっている途中、マティアスは、
街角のショーウインドーで、
エメラルドの透き通るような緑色が
印象的な、あのネックレスを
見かけました。
その日、彼は、領地に戻る車の中で
あのネックレスを購入するよう
ヘッセンに指示しました。
視線を感じたのか、
突然、レイラが顔を向けました。
眼鏡を外しているレイラは、
目を細めた後、
ようやく彼に気付いたようでした。
レイラはギョッとして
視線を逸らすと、
そばに立っている少年の腕を
しっかり握り、隠れるように
その少年の後ろに身を隠しました。
見慣れた顔が、
笑いながら近づいて来て
挨拶をしたので、
マティアスは背を向けました。
五感がすべて他の所に集中していても
適当な笑みを浮かべた顔で
客を歓待する仕事を、
完璧にやり遂げることができました。
再び視線を向けると、
レイラと少年は、ホールの向こうに
遠ざかっていました。
全身、マティアスのものに
包まれた女を、カイル・エトマンは
まるで自分のもののように、
意気揚々と導いていました。
クローディーヌは
女性の一団がいる所へ
レイラを連れて行き、
彼女を紹介しました。
レイラは人形のような態度で、
今回も丁寧に自己紹介しました。
クロディーヌは、
さらに華やかな笑みを浮かべながら、
レイラがどれだけ可哀想なのか。
でも、どんなに優しくて賢くて
誠実なのか。
そして、教師になる準備をしている
レイラは、本当に立派だと
誠心誠意、彼女を紹介しました。
女性たちは、
使用人が引き取って育てた
可哀想な孤児を
友人だと思ってくれている
ブラント家の令嬢に賛辞を送りました。
もっとも、二人が
本当の友人ではないということを
皆、知っていたので、
クロディーヌの品位を
傷つけることはできませんでした。
ある淑女が、
クロディーヌの婚約について
話題を変えると、皆の関心事は、
そちらに集中しました。
まだ婚約が、正式に
公表されたわけではないのに、
すでにアルビスの女主人に
なったかのように振舞うのは
浅はかなので、クロディーヌは、
内気で謙虚な態度を取りました。
そこへ、
ちょうどマティアスが
やって来ました。
クロディーヌに振り回されている間、
形式的な笑みを浮かべていたレイラも
目を丸くして彼を見ました。
マティアスは、
自然にクロディーヌのそばに立ち、
彼女は当然のように
彼と腕を組みました。
チラッと見たレイラの顔色は、
先程より青ざめていました。
クロディーヌが友達を紹介すると、
マティアスは優雅な態度で
彼らと挨拶を交わしました。
そして、最後に、
一番端に立っているレイラを見ると
クロディーヌは、もう少し力を入れて
マティアスの腕をつかみ、
レイラだけれど、
普段とあまりにも違うので、
自分も危うく気づかなったところだと
冗談を装って言いました。
いつもは、どんな侮辱を与えても
静かに眠っているようなレイラが
たかが、マティアスが
前にいるというだけで、当惑して
頬を赤らめました。
その時、クロディーヌが
レイラを連れて行った瞬間から
不満そうな表情で
周りをうろついていたカイルが
話の途中で申し訳ないけれど、
もうパートナーを
連れて行ってもいいかと尋ねて
レイラの手を握りました。
レイラは、
少し驚いたようでしたが、
その手を拒否せず、
むしろ安堵する表情でした。
自分の友達も、レイラを
紹介してもらいたがっていると言う
カイルは、
物悲しそうな態度とは裏腹に
クロディーヌを冷たい目で見ました。
彼女は、
それなら譲らなければならない。
レイラを
独り占めするわけにはいかないと言って
喜んで頷きながら
マティアスを見ました。
彼は感情のない目で
レイラとカイルを見ていました。
カイルは、礼儀正しく
クロディーヌにお礼を言うと
レイラに「行こう」と言いました。
彼女と顔を合わせて初めて、
明るくて爽やかで、
優しい笑顔を見せました。
それを、見ただけでクロディーヌは
あの少年が
レイラを愛していることが
分かるような気がしました。
マティアスほど背の高い
カイルのそばに立ったレイラは、
さらに小さくて、
か弱そうに見えました。
そんなレイラを、少年は
まるで宝物のように大事にしました。
レイラも
カイルを見て笑っていましたが
今のように安らかで
明るく笑う顔を見たのは
初めてでした。
恋に落ちた少女といっても
無理はなさそうでした。
ヘルハルト公爵ではなく
医者の息子だったの?
クロディーヌが
不可解な気分に包まれている間に
レイラとカイルは背を向けました。
それでは、
レイラを王女にしてあげたのも
あの子だったのだろうか?
疑問に思ったクロディーヌは、
衝動的にレイラを呼びました。
そして、振り向いたレイラに
今日は本当にきれいだ。
特に、そのネックレスがと
褒めました。
レイラは当惑しながらお礼を言うと
自分の首筋を撫でました。
胸の上に長く垂らしたネックレスは
レイラに、
とてもよく似合っていました。
彼女の瞳と同じ色のエメラルドを
花びらのように飾った宝石は
間違いなく
ダイヤモンドのようでした。
そして、ほのかな乳白色の真珠も
模造品だと見なすには
あまりにも繊細で美しいものでした。
いくら裕福とはいえ、
たかが医者の息子が、
あのネックレスを、
レイラにかけてやれるだろうか?
クロディーヌは、ニッコリ笑って
マティアスに向き合うと
ネックレスの美しさについて
同意を求めました。
マティアスは平然とした顔で
「そうですね」と、
悩むことなく答えました。
レイラをエスコートしているのは
お前だけれど、
彼女を美しくしたのは私だぞと
マティアスのプレゼントに
身を包んでいるレイラを見て
悦に入っているマティアス。
ビルおじさんとモナ夫人の
善意を無駄にして、
二人の手柄を横取りしたくせに
偉そうにするなと言いたいです。
それから、善人ぶりながら
自分の優位性をひけらかすために
レイラを馬鹿にして
惨めにさせるクロディーヌ。
彼女はマティアスに愛人がいても
大丈夫だと思っているけれど
それがレイラとなると
話は別なのかもしれません。
クロディーヌに対して
よく思われようとしないレイラに
クロディーヌは、
心のどこかで敗北感のようなものを
覚えていて、
何としてでもレイラを
自分の前に跪かせたいし、
マティアスの気持ちが
レイラに向くことを
恐れているような気がします。
さて、今回の
エメラルドのネックレスの画像は
AIで生成しました。
マンガで描かれている物とは
違いますが、
雰囲気だけでもと思い、
アップさせていただきました。
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いつも、たくさんのコメントを
ありがとうございます。
とうとう、正月休みも終わり。
あっという間の9日間でしたが
この間に、目標としていた
LINEマンガで掲載されている分まで
記事を進めることができて
良かったです。
韓国版では有料分も含めて
35話まで公開されていますので、
そろそろLINEマンガでも
連載が再開されるのではないかと
期待しています。
次回は13日に更新予定です。