自分時間を楽しく過ごす 再婚承認を要求しますの先読みネタバレ付き

子供の頃からマンガが大好き。マンガを読むことで自分時間を楽しく過ごしています。再婚承認を要求します、ハーレムの男たちを初めとして、マンガのネタバレを書いています。

泣いてみろ、乞うてもいい 85話 ネタバレ 原作 あらすじ 本当に良かった

 

85話 マティアスはレイラが帰って来るのを待っています。

 

マーク・エバースは少し困惑しながら

主人の後を追いました。

侍従から随行人になるまで

長い間、

アルビスで働いて来ましたが、

とても重要な、

皇太子夫妻を迎える晩餐会を

控えているのに、

まるで心を別の場所に

置いている人のように、

なかなか集中できない

ヘルハルト公爵の様子は

確かに見慣れないものでした。

 

先を歩いていたマティアスが

止まったため、マークも思わず

その場に立ち止まりました。

公爵は廊下の窓から、

日が沈みかけている庭と

邸宅の裏の森をつなぐ道を

見下ろしていました。

 

何かを胸に抱いた小柄な女が

道の端を歩いていました。

レイラ。

その名前が閃いたマークは、

催促せずに静かに待機しました。

その静寂の中で、マティアスは、

長い間、窓の外の風景を眺めました。

 

レイラが帰って来た。

買い物の帰りなのか、

大きな茶色の封筒一つを

胸に抱いていました。

かなり重そうに見えましたが、

いつもと変わらず、

首と腰をまっすぐに伸ばし、

軽やかで逞しい足どりでした。

 

レイラが帰って来た。

そのつまらない事実を

噛み締めている間に、

マティアスの固まっていた肩が

するすると緩みました。

ただの一度も振り返らず、

レイラは道を進みました。

一つに編んだ髪が、

足のリズムに乗って揺れました。

 

風になびくコートとスカートの裾を

通り過ぎ、

鳥のように細い両足に触れた

マティアスの視線は、

再び背後で揺れる髪の毛の上に

止まりました。

 

じっくり見てみると

レイラは肩をすくめていました。

今日はかなり寒いということが

思い浮かびました。

村の入り口まで運行するバスが

あるけれど、

レイラは自転車に乗らない時は、

大体歩く方を選びました。

だから、愚かにも、

あの重いものを抱きしめて、

氷のような風の中を

歩いて来たのだろうと

思いました。

 

遠ざかっていくレイラから

目を逸らしたマティアスは、

再び彼の世界へ向かって

歩き始めました。 

しかし、一人で夕暮れの冬の道を

歩いていた彼女の後ろ姿が

なかなか頭から離れませんでした。

屋敷を照らす灯りが輝くほど

脳裏に残った記憶も

鮮明になりました。

その記憶が呼び起こした

正体不明の感情は、

喉につかえている

非常に細いとげのような

異物感を伴いました。

 

晩餐会に出席する客が集まっている

応接室に入ると、

「いらっしゃいましたね」と言って

クロディーヌが嬉しそうに

近づいて来ました。

 

マティアスは、

自然に隣に立ったクロディーヌに

淡々と腕を差し出しました。

談笑していた客たちの視線が

二人に集中し始めました。

 

腕を組んだクロディーヌは、

元々、マティアスは、

こんなに遅い人ではないので

もしかして何かあったのではないかと

心配になり、

見に行こうとしていたところだったと

心配そうな目つきで言いました。

 

マティアスは、

支度が少し遅れただけだと

答えました。

クロディーヌはニッコリ笑って

それなら良かったと言うと

自分を見つめている人々にも

ゆったりと微笑みかけました。

 

再び応接室の雰囲気に

自然に溶け込むクロディーヌの姿は

非の打ち所一つなく完璧でした。

彼女が誰よりも優れた

公爵家の女主人になることは

疑いの余地がなさそうで、

マティアスは喜んで

その事実を認めました。

 

しかし、その瞬間、

どうしてその顔が

思い浮かんだのだろうか。

 

祖母と母、そして皇太子妃と

談笑しているクロディーヌの顔を

ゆっくりと見ていた

マティアスの視線は

暖炉の明かりの上で止まりました。

 

マティアスは依然として、

完璧な結婚とは何かを

よく知っていました。

不必要な感情を消耗する必要がなく

ヘルハルトの世界を

さらに堅固にしてくれる

踏み台としての結婚。

それが彼が知っていて、学んで来て、

当然、彼がしなければならない

結婚でした。

 

クロディーヌ・ブラントは

彼に最もふさわしい相手で、

彼も、それをよく知っていました。

しかし、それで十分なのかと

見知らぬ疑問が、ふっと訪れました。

 

ヘッセン

晩餐の始まりを伝えに来ると

席を立った客たちは、慣例どおり

ペアを組んで晩餐室に向かいました。

マティアスは

クロディーヌをエスコートして

階段を降りました。

 

発電機の修理を急いだおかげで、

このアルビスの誇りの一つである

晩餐室のシャンデリアは、

その威容を存分に

誇ることができるようになりました。

銀食器とカトラリー、

華やかな燭台とセンターピースが

飾られた晩餐テーブルが、

その華やかな光の下で

客を待っていました。

 

マティアスは高い天井を飾った壁画、

シャンデリア、

壁を埋め尽くした肖像画

次々と見ていきました。

彼はこのアルビスの主人なので

このすべてが彼のものでした。

しかし、そんなヘルハルト公爵の女は

細い肩を小さく丸めたまま、

冷たい道を歩いて

森の中の古い小屋に向かいました。

一人でみすぼらしい食卓の前に

座っている、その女の姿が

煌びやかな晩餐会のテーブルの上に

浮び上がる頃、クロディーヌが

小さく彼を呼びました。

 

マティアスと目が合うと、

クロディーヌは目で、

自分の前に置かれた椅子を

指しました。

その意味に気づいたけれど、

マティアスは、

しばらくじっと立ち止まって

婚約者を見下ろしました。

幼い頃から見て来て、

まもなく妻になるクロディーヌが

突然見知らぬ他人のように

感じられるなんて滑稽なことでした。

 

クロディーヌは眉を顰めて

再び彼を呼びました。

マティアスは、顎を軽く動かして

謝罪の意を表すと、

何事もなかったかのように

彼女が座る椅子を引きました。

 

普段の彼と変わらない

優雅な動作と態度に

安堵したクロディーヌは、

笑みを取り戻して、

その場に着席しました。

盛大な晩餐会の始まりでした。

皇太子一行は五日間滞在した後、

出発しました。

彼らを見送る日にも、

アルビスの全ての使用人が

邸宅の前に並びました。

レイラは、歓迎式の日のように

グループの最後尾に立ちました。

 

警備が厳しくなり、

屋敷を出入りするのが

少し不便ではありましたが、

この騒々しい訪問が終わると思うと

少し残念でもありました。

 

皇太子夫妻が滞在している間、

そんな名前は、

頭の中できれいに消した人のように

公爵は一度も

レイラを訪れませんでした。

おかげでレイラは、

まるで何事もなかったかのように、

いつものように、

レマーさんちのレイラとして

以前のように、

平穏な日々を送ることができました。 

 

もしかすると、

本当に飽きたかもしれない。

ふと思い浮かんだ微かな期待に

レイラの胸がドキドキし始めました。

 

考えてみれば、

最初からあり得ない執着でした。

ただ手に入れることができないから。

この世に、自分が持てないものが

あるということを

受け入れることができず、

どうしても手に入れたかったに

違いないと、レイラは

もう確信していました。

 

思う存分遊んでみたのだから、

もう興味がなくなっても

おかしくない。

自分をひたすら嫌っている女を

あの孤高な男が

いつまでも我慢するはずがない。

 

レイラは本当によかったと

小さく安堵しました。

その時、突然公爵が、

顔を向けました。

レイラは避ける暇もなく、

彼と目が合いました。

それほど長い時間ではなかったけれど

レイラもマティアスも、

互いに相手を見つめていることを

明確に認知することができました。

 

変な気分になって

レイラは震える視線を下げました。

再び目を上げた時、

公爵は本来の姿に戻り、

クロディーヌと一緒に、

皇太子に別れを告げていました。

 

皇太子の行列がアルビスを離れると、

公爵はクロディーヌをエスコートして

邸宅に入りました。

緊張が解けた使用人たちのため息が

あちこちから漏れました。

 

彼らの後ろ姿を見守っていた

メイドの一人が、

結婚を先延ばしにしたのは、

やはり間違っていた。

ブラントの令嬢は、

もう公爵夫人だと囁きました。

 

皆がその言葉に同意して

一言ずつ加えている間に、レイラは

その場を離れました。

小屋につながる森の中の小道に入ると

心臓の鼓動がさらに速くなりました。

あの男から、

逃れられるかもしれないと考えただけで

足かせをはめられたように重かった

足取りが軽くなりました。

 

レイラ・ルウェリンの存在を消した

公爵が結婚すれば、

ビルおじさんと一緒に

ここを離れよう。

彼の記憶が届かない、

とても遠い所へ行って

再び始めればいい。

以前と同じ人生に

戻ることはできないとしても

もっと頑張ればいいので

大丈夫そうでした。

そうしているうちに、いつか、

あの男が与えた悪夢も

薄れるだろうと思いました。

 

希望に浮かれたレイラは、

普段より、勤勉に動きました。

洗濯と掃除をし、久しぶりに

ジャムクッキーも焼きました。

こんがりとよく焼けた

クッキーを見ると、たった一日だけ

安売りするという小麦粉を、

うんうん唸りながら買って来た

あの寒い日の苦労が

きれいに忘れられました。

 

騒々しい雰囲気が落ち着いても

森の中で過ごしたレイラの一日は

相変わらず平穏でした。

皿いっぱいに盛ったクッキーを食べ

本を読んで、

安否を尋ねる友達の手紙にも

返事も書きました。

最後の手紙に封をすると、

豪快な声の持ち主で、

おしゃべりだけれど優しいモナ夫人が

突然、訪ねて来ました。

 

大きなパーティーが終わった後は

いつもそうだったように

モナ夫人は、今日も

食べ物がいっぱい入った

大きな籠を持っていました。

 

甘いクッキーの匂いが漂う台所に

入ったモナ夫人は、

口元に笑みを浮かべると、

一人なので、きちんと食事も

取っていないのではないかと

心配していたけれど、

随分、立派なお嬢さんになったと

レイラを褒めました。

 

彼女は、全部おばさんのおかげだと

笑顔で答えると、受け取った籠を

テーブルの端に置きました。

そして、レイラが当然のように

茶を用意している間、

モナ夫人はテーブルに座って

ゆっくりと周囲を見回しました。

 

レイラに料理の仕方を教えたのは

モナ夫人でした。

もみじのように小さな手でも

上手に真似するようになり、

まもなく、とてもしっかりした

主婦になりました。

この小屋の台所に、

温もりが漂い始めたのは

その時からでした。

 

甘いおやつとお茶を挟んで

向かい合って座った二人は

いつものように談笑しました。

主にモナ夫人が話して、

レイラは笑って頷く程度でしたが。

 

レイラが焼いたクッキーを

一口食べてみたモナ夫人は、

本当に上手に焼けている。

もう本当にお嫁に行っても

いいだろうと、

少し大げさに感嘆しました。

そして、

ちょうどそんな話が出たので、

モナ夫人は、カイルの名を口にし、

本格的に彼について

話し始めようとしましたが、

レイラは、

最近、よくケーキも作るので、

今度一度食べてみて、

足りないものが何か教えて欲しいと

突然、とんでもない話を

切り出しました。

ケーキの上手な焼き方が

この世で一番重要だというように、

無邪気で真剣な表情でした。

 

モナ夫人は残念に思いましたが、

話をそらす子供の気持ちが

ぼんやりと分かるような気がしたので

いつかレイラが作ったケーキを

食べに来なければと返事をし、

この辺で退くことにしました。

 

カイルが帰って来たのに、

なぜ二人の子供の間に

とりたてて進展がないのか、

皆、気になって、

やきもきしていましたが、

だからといって、レイラの傷を

突きたくありませんでした。

 

モナ夫人は、

大変な客をもてなすために、

一瞬も火が消えることのなかった

邸宅の台所と、

気難しい貴族たちの食の好みについて

愚痴をこぼし始めました。

積もり積もった怒りのように

口調は熱を帯びていました。

 

モナ夫人は、

やっと一息つけると思ったのに、

まだブラントの令嬢が残っている。

主人もいないのに、

なぜわざわざアルビスに留まるのかと

ぼやきました。

 

レイラは、公爵が留守なのかと

慎重に聞き返しました。

続けて二個のクッキーを

平らげたモナ夫人は何気なく頷くと

仕事だか何かで忙しく、

何日か隣の都市に行かれるそうだ。

午前中に皇太子が帰ると、

公爵も、簡単に昼食を済ませて

すぐに出発したと答えました。

 

公爵が領地を離れたことの

何がそんなに楽しいのか。

レイラの顔が

ほんのりと赤く染まりました。

 

ブラントの令嬢は

嫁入り道具について

奥方たちと相談するために

残っているそうだけれど、

それは口実で、

二人の奥方たちが、ブラントの令嬢を

とても可愛がっているので

そばに置いておきたいそうだ。

そのおかげでとても大変だ。

あんなに味にうるさいお嬢さんは

初めてだと、

機嫌を取るのが難しい公爵夫人に

仕えるようになった悲しみを

一つ一つ吐露した後、

モナ夫人は小屋を出ました。

 

戸締まりをしたレイラは

再びテーブルの前に戻り、

ぽつねんと座りました。

モナ夫人が残したクッキーが一枚

皿の上にぽつんと残っていました。

 

レイラはそのクッキーを手に取り

一口かじりました。 

穏やかな日々が続くという安堵感が

甘い風味とともに広がりました。

レイラは良かったと思いました。

 

そして、

口元に付いたクッキーのかすを

手の甲で拭いながら、レイラは

良かった。

本当に良かったと思いました。

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レイラが帰って来ないのを心配して

窓の外ばかり見ているマティアス。

彼が他に気を取られていることに

気づき、彼の異変を感じ始めた

マーク・エバース。

クロディーヌが完璧な

ヘルハルト公爵夫人になると

分かっていても、

それを疑問視し始めたマティアス。

リエットが恐れていたように

マティアスは、ようやく

愛が愛であることに

気づき始めたのではないかと

思います。

一方、レイラは、

マティアスに飽きられたと思って

心の自由を取り戻したような

様子なのですが、

何度も良かったと考えているのは

無理に言い聞かせているようにも

思えました。

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