自分時間を楽しく過ごす 再婚承認を要求しますの先読みネタバレ付き

子供の頃からマンガが大好き。マンガを読むことで自分時間を楽しく過ごしています。再婚承認を要求します、ハーレムの男たちを初めとして、マンガのネタバレを書いています。

泣いてみろ、乞うてもいい 90話 ネタバレ 原作 あらすじ 不思議な一日

 

90話 レイラはマティアスに、洋装店へ連れて行かれました。

 

見る人を混乱させる二人の客の姿に

戸惑ったのもつかの間。

洋装店の主人は、

すぐに華やかな笑みを取り戻しました。

地位が高くて裕福そうな男は、

自分のコートに包まれた小さな女性を

エスコートして店の中に入りました。

 

そのコートが消えて現れた女性の姿に

主人は目を細めました。

どう見ても、

貴族の御曹司の同伴者というには、

あまりにも、

みすぼらしい姿でした。

しかし、主人とメイドというには、

女性に対する男性の態度が

親密過ぎました。

 

それなら愛人だろうか?

主人は丁重に、しかし注意深く

女性を観察しました。

かなりの美人なので、

権勢を持った男の女といっても

無理はなさそうでした。

 

しかし、そんな男たちにとって

愛人とは

トロフィーのような存在なのに、

あんな格好で、

それも自らここまで連れて来るのは、

どうもおかしいのではないか。

 

考えれば考えるほど、

疑問だらけの二人は

しばらく、静かに揉めていました。

女は断固として拒み、

男は無理強いする。

この仕事をしながら、

数多く見てきた光景でしたが、

雰囲気は全く違っていました。

あの女性は、心から

全てが嫌なように見えました。

ある程度は男性を恐れて

嫌がっているようでした。

 

あんなに優れている男を、なぜ?

自分の年の二倍以上の男に

媚びを売ってでも何かを得ようと

血眼になっていた女性たちを

数えきれないほど見てきた彼女にとって

理解しがたい光景でした。

質問したくて、むずむずしている唇に

力を入れたまま、

彼女は辛抱強く待ちました。

 

繊細な顔立ちとは違って、

女性はかなり頑固でした。

結局、男性は、

女性に合うコートと靴を選ぶ線で

妥協しました。

お金の匂いがする客に会って

浮かれていた彼女としては、

多少気が抜ける結果でした。

 

こうなった以上、

高価な物を売ることで

満足しなければならない。

そう決意を固めた主人は、

急いで高価なコートと靴を

選び始めました。

 

ところで本当にあの二人は

どういう関係なのだろうか。

彼女は、

わけが分からないという表情で

チラッと振り返りました。

多くの女性が顔を赤らめるほど

美しい男は、

人形のようにじっと、

ただ下を向いている

自分のそばにいる女性だけを

依然として、見つめていました。

 

二人の関係は分からないけれど、

男性があの女性に夢中なのは

確かなように見えました。

彼女の懐を潤すのに

良い客という意味でした。

洋装店の主人が着せてくれた

ターコイズのコートは、

レイラによく似合っていました。

あと数着のコートが

用意されていましたが、

マティアスは、

最初のコートを選びました。

どうせレイラは何も望まないので

選択は彼の役目でした。

 

陳腐な賛辞の言葉をいくつか並べた

主人は、レイラを

靴の陳列棚の前に連れて行き、

椅子に座らせました。

彼女が手で合図をすると、

靴を持った店員たちが

近づいて来ました。

レイラは、まだそわそわしながら、

ただ床を見下ろしていました。

 

とにかく、ひどい頑固だ。

失笑したマティアスは、ゆっくりと

靴を持っている店員たちの方に

近づくと、店主は、

用意している靴の中で

この女性の足に合うものは

これくらいしかないと謝罪しました。

 

主人は心から残念そうに

ため息をつきました。

時間さえ十分あれば、

あらゆる高価な材料を使った

服や靴を仕立てて、

大儲けができたのにと思いました。

 

少し頷くことで、

代わりに返事をしたマティアスは、

薄い茶色の山羊革の靴を選んで、

振り向きました。

手のひらの上に置くこともできる

小さな靴が、まるでおもちゃのようで

笑いが漏れました。

 

この靴。

レイラの前で止まった彼は、

赤いシミがついた靴を見下ろしました。

マティアスは、

まさか、

あの日履いていた靴だったのかと

尋ねました。

 

レイラにインクをこぼした日のことが

靴の上に浮かび上がりました。 

あの日、マティアスが選んだインクは

赤色でした。

 

しばらく彼を見上げたレイラは

返事の代わりに唇を噛みました。

この女の沈黙は、

概して肯定であることを

知っているマティアスの目に、

当惑の色が浮かびました。

確かに、あの日

新しい靴を買ってあげたのに、

あえて、これを捨てずに持ち帰り、

今まで履いている理由が

彼には見当もつきませんでした。

 

レイラは、

ぴったり合わせた両足を

見下ろし、もじもじしながら、

これは新しい靴だった。

シミは付いたけれど、

そのまま捨てるのは

もったいなかった。

仕事の時に履くには何の問題もないと

答えました。

 

靴の中のつま先が

しきりに縮こまりました。

少なくとも靴は

履き替えてくればよかった。

そう考えられなかったことを

今になって後悔しました。

 

適度に見て見ぬふりを

してくれればいいのに。

この男に、何度も恥をかかされるのが

レイラは耐えられないほど嫌でした。

このようなやり方で、

公爵が善を施すのも同じでした。

 

レイラは、

ビルおじさんへの善処と引き換えに、

愛人の役割を果たすという

取引をしました。

それだけだと思えば耐えられました。

だから、それ以上の何かが生じるのは

レイラは嫌でした。

特に、このような高価な品物は。

 

公爵が、取引の条件以上のものを

与えても、

レイラが彼に与えることができるのは

依然として自分の体一つが全てでした。

この男は、その恥ずかしいことが

大好きなようでしたが、

レイラは、さらに惨めになりました。

取引以上のものをもらって

この男を受け入れれば、

まるで花代を受け取る女に

転落したような気がしました。

 

恥辱のせいで頬が熱くなると、

レイラは再び頭を下げました。

両手で膝を押さえ、

罰を受けるようなこの時間が

早く過ぎ去ることだけを待ちました。

 

その時、公爵が一歩近づきました。

続いて、周囲の人々の

低い嘆き声が聞こえて来ました。

 

怪訝に思ったレイラは、

そっと顔を上げると

目を丸くしました。

跪いた公爵が、

レイラの目の前にいたからでした。

目が合ったけれど、彼の表情は

何の変化もありませんでした。

 

何が起こったのか判断する前に、

彼は落ち着いてレイラの靴を脱がせ

持って来た新しい靴を履かせました。

慌てたレイラは

片足を隠すように後ろに下げましたが、

マティアスは足首をつかんで

自分の方へ引き寄せました。

 

マティアスは、

今度は、もう少し優しく、

自分が汚した靴を脱がせました。

ビクッとした小さな足が

可愛いと思いました。

 

静かに笑ったマティアスは、

新しい靴を履かせ、

靴紐も、しっかり結びました。

ストッキングの上に

厚い靴下まで履いているのに、

靴はレイラに少し大きいものでした。

 

何事もなかったように、

マティアスは平然と立ち上がり、

レイラの前に立ちました。

彼を見上げるレイラの目は

呆然としていました。

息を殺して、

彼らを見守っていた店員と客の表情も

それほど変わりませんでした。

 

何も気にしない人のように、

マティアスはレイラに向かって

手を差し出しました。

 

きっとまた傷つけられるだろう。

レイラは本能的な警戒心に

身をすくめました。

もしかしてと思う度に、

彼はこれ見よがしに

レイラを踏みにじって来ました。

今回は何が違うというのか。

 

しかし、マティアスは、

レイラが手を差し出すまで

永遠にそのまま耐えて

立っているように見えました。

 

人々の視線が気まずくなったレイラは

躊躇いながらその手を握りました。

冷たくて柔らかい体温が

震える手を包み込みました。

手をつないで向かい合った二人を

眺めていた洋装店の主人は、

彼らは恋人同士だと、

ようやく分かったように頷きました。

風は冷たいけれど、日差しが暖かくて

あまり寒くない天気でした。

マティアスは、コートを着せ、

新しい靴を履かせたレイラを連れて

街に出て、

数多くの人々が行き交う繁華街を、

レイラと共に歩きました。

そして、公園に入る頃には、

レイラに腕を差し出しました。

 

彼女は、訳が分からないように

じっと見つめるだけで、

びくともしませんでした。

そうしているうちに、

一瞬、頬を赤くして真顔になり、

首を横に振りました。

 

こうしても嫌だし、ああしても嫌だ。

多分に苛立たしい態度でしたが、

それほど気に障ることは

ありませんでした。

 

その意思を尊重することにした

マティアスは、

レイラの手をギュッと握って

再び歩き出しました。

レイラは捕まった手を抜こうとして

うんうん唸りながら

とんでもない努力をしていましたが

彼が指までしっかり絡めたところで

諦めました。

 

ゆっくりと散歩を終えた二人は、

公園の出入口の向かい側にある

カフェの窓際に向かい合って

座りました。

 

マティアスは首を斜めに傾げて

レイラを見ました。

ビル・レマーや

他の人々に接するのを見れば、

絶対に口数が少なくない女だけれど

彼といる時、レイラは

なかなか口を開きませんでした。

 

マティアスは思わず窓の外を見ると、

木の上に止まっている鳥を

目で指しながら、

あの鳥は何だと尋ねました。

茶碗をいじっていたレイラは

さっとそちらを向いて鳥を確認すると

「カラスです」と空しく答えました。

 

カラスを知らないなんて、

全く信じられませんでした。

幼い子供たちも

知っている鳥だと思うし、

アルビスの森にも

数えきれないほど多くいる鳥でした。

カラスを知らないカラス紳士を、

レイラは訝し気に見つめました。

 

彼が何を考えているのか

表情から読み取れず、ますます、

レイラがモヤモヤして来た頃、

彼は、

飛んで来て木に止まった鳥を指差して、

「あれは?」と、

もう一度軽い口調で尋ねました。

 

シジュウカラツグミと、

レイラは質問される度に

鳥の名前を答えました。

滑らかな発音のおかげか、

その全ての名前が、

まるで聞きやすい歌のようでした。

 

マティアスは、その声が

自分の名前を呼ぶ瞬間を

描いてみました。

静かな息遣いに少し熱が加わりました。

 

マティアスは、

それを全部覚えているのかと

尋ねました。

自分は森に住んでいるからと

レイラは答えました。

 

マティアスはレイラに

一番好きな鳥について尋ねました。

滞りなく答えていたレイラが

突然、深刻になりました。

 

悩んでも、結局、

答えを見つけられなかったレイラは

一つだけ選ぶのはとても難しいと

不機嫌そうに答えました。

そして、また口を

ギュッと閉じると思ったら、

意外にもレイラは、彼にも、

好きな鳥がいるかと尋ねました。

獲物ではないと、

心配そうに付け加えた言葉が

マティアスを笑わせました。

 

彼は、笑いの余韻が残っている声で、

カナリアと、すかさず答えました。

レイラは、かなり驚いた様子でした。

 

彼女は、

歌が上手な、あのカナリアかと

聞き返しました。

マティアスは、

「そう、あの鳥」と答えました。

 

レイラは、

普通、男たちは、鷹や鷲のように

大きくて見事な鳥が好きなのに、

なぜ、カナリアなのかと尋ねました。

 

気まずい沈黙が負担になって

形式的な質問をしたけれど、

彼の返事を聞いたレイラは、

あの美しい鳥たちの虐殺者と

全く不釣り合いな鳥が好きな理由が

もう心から気になりました。

 

背もたれに体を預けて座った

マティアスは、落ち着いた眼差しで

レイラを凝視しました。

沈黙が続く間、彼の視線は

好奇心に満ちて輝く女の顔の上を

離れませんでした。

 

答えなければ、永遠にそんな目で

自分を見つめてくれるのだろうか。

 

マティアスは、

情けない考えをため息で流すと、

あの鳥が、

この世で一番美しいからだと、

淡々と答えました。

予想外の答えに、

レイラは少し驚きました。

深い静けさに包まれた目は、

ひたすらレイラだけに

向けられていました。

 

「・・・はい」と

返事をしたレイラは、慌てて、

すでにぬるくなったコーヒーに

砂糖をもう一さじ入れて

かき混ぜ始めました。

伏せた目が震えました。

 

レイラが、

溶けない砂糖との争いを諦めると、

静寂が訪れました。

固まった手で、

ティースプーンを下ろしたレイラは

慎重に視線を上げて

向かいの席を窺いました。

公爵は依然として、その姿のまま

彼女だけを見つめていました。

 

どうも、それが息が詰まるので、

レイラは窓の外をチラッと見ました。

折しも、

一羽の鳥が飛んできてくれました。

レイラは、

話をそらしたい気持ちだけが先走り、

あの鳥は鳩だと、

間抜けで馬鹿げたことを

口にしてしまいました。

レイラがそれに気づいたのは、

すでに、マティアスが

クスッと笑ってしまった後でした。

 

眉を少し上げて窓の外を見た

マティアスは、

分かっていると答えると、

すぐに視線をレイラに戻しました。

 

カラスはともかく

鳩は知っている男のおかげで

困ったレイラは、

再びティースプーンを握りました。

 

「そうなんですね」と

小さく呟きながら、

再び茶碗の中をかき混ぜる

レイラを見ていたマティアスは

大笑いしました。

レイラは肩を震わせながらも

それを止めませんでした。


思わず新しい靴を履いた両足を

ピタッと、くっ付けました。

しきりに縮こまる足先が

痒くなりました。

本当に不思議な一日でした。

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レイラは、

自分からの代償が何もないのに

マティアスに何か買ってもらうことが

辛くて仕方がないけれど、

マティアスは、

自分が買ってあげたものを

レイラが来ているのを見て自己満足し

喜ぶという対価を得ているので

それでいいのだと思います。

レイラは知る由もありませんが。

 

そして今回は、マティアスが

鳥のことを話題にしたおかげで

レイラが気軽に話しかけてくれた。

それだけで、マティアスは、

レイラを出張先に連れて来て

本当に良かったと思っているに

違いありません。

人々から恐れられている

マティアスを虜にし、

跪かせて靴を履かせてもらうなんて、

ある意味、レイラも

魔性の女なのかもしれません。

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